熱海の土石流 上流開発現場
盛り土含む斜面が崩落

今回の土石流について、静岡県が土石流の上流側を調査した結果、伊豆山地区の中心部から1キロほどの山の中で開発のために土が盛られていた一帯を含む斜面が大きく崩れていたことがわかりました。

県では崩れた土砂の全体の量は盛り土も含めて10万立方メートルにのぼる可能性があるとしていて、今後、専門家とともに崩落の原因を詳しく調べる方針です。

静岡県は4日午後、県庁で対策本部会議を開き、このなかで今回の土石流についての初期の調査結果を明らかにしました。

調査では土石流が流れ下った逢初川の上流方向でドローンを飛行させ映像を撮影した結果、伊豆山地区にある伊豆山小学校から北西に1キロほど離れた山の斜面が幅およそ100メートルにわたって大きく崩れていることがわかったということです。

県によりますと、崩れた斜面には開発のために山の谷間に土を盛ってできた一帯が含まれ、開発前の2010年ごろと、開発後の2020年の現場周辺の地形のデータ、それに現在の斜面を比較した結果、盛り土の大部分が崩れた可能性があるということです。

またこの分析から崩落した盛り土の量は少なくとも5万立方メートルに上り、これを含めて崩れた土砂の全体の量は10万立方メートルにのぼる可能性があるとしています。

一方、崩落現場の南西にはメガソーラーと呼ばれる大規模な太陽光の発電設備が作られていますが、今回の調査ではこの周辺では斜面の崩落は確認されなかったということです。

これについて全国知事会のあと取材に応じた静岡県の川勝知事は「盛り土のところから崩落が起こったという一時的な報告が来ている」と述べ、開発現場付近で土砂が崩れ始めた可能性があるという見方を明らかにしました。

そのうえで「近くにはメガソーラーもあるが、直接の関係はいまのところみられないと聞いている。しかし上流で開発行為がなされているのは事実であり、調整ができしだい私自身も現地に赴いて専門家とともに現場を見て何が原因だったのか判断をしたい」と述べ、今後専門家とともに崩落の原因を詳しく調べる方針を示しました。

県では現場の周辺に職員を派遣し、崩落して露出した部分から流れ出る水の量が増えたり斜面がさらに崩落したりする兆候がないか、監視を継続するとしています。

上空からの現場の様子は

静岡県が3日夕方に土石流が発生したとみられる上流付近をドローンで撮影した映像では、山肌が細長く崩落している様子がわかります。

山の斜面は深くえぐられて内部の土砂が露出し、水が流れ出しているところもあります。

また周辺の木々を巻き込んで崩れている様子も見てとれます。

専門家「谷のいちばん上のあたりで崩壊始まったか」

静岡県が土石流が発生したとみられる上流付近をドローンで撮影した映像について、この映像を土砂災害のメカニズムに詳しい政策研究大学院大学の小山内信智教授に分析してもらいました。

それによりますと茶色の部分は主に土、灰色の部分が主に岩で地下水の通り道とみられる跡が幾筋も確認できるということです。

小山内教授は「映像を見る限り、谷のいちばん上のあたりで、崩壊が始まったとみられる。ほかと比べて茶色くなっていてところは地下水を多く含む土壌でもともと水を多く含む崩れやすい場所だったとみられる。そこに今回、大量の雨が降ったことで規模の大きな崩壊の発生につながったのではないか」と指摘しました。

また「下流部では表層の土がより深く削り取られて、土の下にあった岩がむき出しになっているのが確認できる。これは表層の土砂と樹木を根こそぎ削り取りながら流れ下ったためだと考えられ、最初に規模の大きな崩壊が発生した後、土砂と樹木を削り取っていくうちに土石流のボリュームそのものが増大し、被害の拡大につながったと考えられる」と指摘しました。

小山内教授は、同じような地形と地質は全国どこにでもあり、注意が必要だとしています。

現場付近の雨の降り方は「長雨蓄積型」

今回、土石流が発生した熱海市の現場付近の雨の降り方は短時間に集中して降る雨ではなく、長い時間降り続き、土の中に水分が蓄積される「長雨蓄積型」だったことが特徴です。

気象庁によりますと熱海市の網代のアメダスでは雨が降り始めたのは6月30日の午後6時でした。

その後、雨は強まったり弱まったりを繰り返しながら降り続きましたが、1時間に30ミリ以上のいわゆる「激しい雨」は観測されていません。

雨が長時間、降り続いたことで降り始めから土石流が発生する前の3日午前10時までの総雨量は389ミリと平年の7月・1か月の雨量の、1.5倍以上と記録的な大雨になっていました。

長い時間降り続き、土の中に水分が蓄積される「長雨蓄積型」だったことが特徴です。

“10回以上、土石流のようなものが”

熱海市伊豆山にある寺院の住職は「10回以上、土石流のようなものが襲ってきた。外に出るとすでに土砂が道路を覆っていて、消防が付近の人に避難を促している最中にすごい音がして土石流が流れてくるのが見えたので、走って高台に避難しました。戻ってみると、寺院の前にあった家も車も流されていました。大きな木や壊れた家のものとみられるものががれきになって流れていました」と話しています。

また土砂崩れのあった静岡県熱海市伊豆山地区で釣り具店を営む70歳の男性は、「昨夜から大雨だったが、昼前になって土砂によってすごい勢いで住宅5棟くらいが流されていくのを見た。ゴーゴーという大きな音がして住宅を飲み込み、真っ黒な土砂であっというまに住宅がバラバラになった。こんなことが起きるとは思っておらず驚いている」と話していました。

また伊豆山神社にいる男性は「神社の西側で土砂崩れが起き、けたたましい音がしていた。家も電柱も多くが流されているのが見えた。町内の公民館に多くの人が避難し、いっぱいで中に入れない状況になっていた。土石流が家を直撃したという人も避難していた。あたり一帯では断水と停電が起きている」と話していました。

土石流を目撃したという近所に住む70代の男性は「熱海ではきのうからかなりの雨が降っていたが、そんなにすごい雨だとは思わなかった」と話しました。

土石流の状況については「土石流が起きたのは雨が落ち着いたあとだった。川から異常な音が聞こえて外に出てみるとものすごいスピードで流れる土砂を見た。波の上に建物が乗っているようだった」と振り返りました。

そして男性は「自宅から100メートルほどの場所まで土砂が流れてきて恐怖を感じた。生まれたときから70年以上この土地に住んでいるが大きな災害は今まで一度もなかったのでびっくりしている」と話していました。

土石流発生時「避難指示」は出しておらず

静岡県熱海市は土石流が発生した時点で、市内全域に警戒レベル3で、高齢者や体の不自由な人などに避難を始めるよう呼びかける「高齢者等避難」の情報を出していましたが、警戒レベル4の情報で危険な場所から全員避難するよう呼びかける「避難指示」は出していませんでした。

熱海市「結果的に災害の発生が先になってしまった」

これについて熱海市は、「避難指示の発令は雨量や今後の見通しなどをもとに判断することになっているが、今回は結果的に災害の発生が先になってしまった。現時点で判断に問題がなかったか言及することは難しいが、いまは人命救助を最優先に活動し、今後、検証を進めていきたい」と話しています。

23人救出 3人死亡 安否未確認113人

静岡県などによりますと、熱海市の伊豆山地区で3日発生した土石流では、少なくともおよそ130棟の建物が流されました。

熱海市は、5日朝開いた災害対策本部のあとの記者会見でこれまでに救出した23人のうちけがをしていた女性1人の死亡を確認したと発表しました。

今回の土石流により、亡くなった人は合わせて3人となりました。

対策本部の会合で斉藤市長は、住民基本台帳をもとに確認作業を行い、被害を受けた地域に住んでいたとみられる215人のうち102人の所在が判明したと説明しました。

市は、引き続き基本台帳に登録されている残りの113人の所在の確認を進める方針です。

熱海市 斉藤市長「安否不明者 正確な把握難しい」

斉藤市長は4日夜の記者会見で、これまで安否がわかっていない人をおよそ20人としてきたことについて、初期の段階で市に「連絡がとれない」などして寄せられた人数だとしたうえで「正確な人数の把握が難しく、予断を持って答えることができない」と述べました。

斉藤市長「避難所対応 救助活動支援などに全力を」

熱海市は4日午前7時から伊豆山地区で発生した土石流の対策を協議する会議を開きました。

このなかで斉藤栄市長は「2次災害を防がなければいけないが、72時間が人命救助のいちばん大事な時間となる。情報収集や避難所の対応など救助活動を支援するために持ち場の仕事に全力をあげてください」と述べました。

市によりますと逢初川の上流の家屋が大きな被害を受けている可能性があるとして、上流周辺の地域により多くの人員を投入して救助活動を行うとしています。

また現地では断続的に雨が降っていて、2次被害を防ぐために静岡県の土木事務所が土砂の状況を確認し、異常があった場合には緊急速報用のメールで知らせる態勢をとっているということです。

市では安否の確認も進めていて、避難所で作成した住民の名簿と連絡のつかない人を照合する作業も急いでいます。

市では15の避難所を開設しており、4日午前6時時点で合わせて387人が避難しているということです。

菅首相 救命救助や捜索 被災者支援に全力を尽くすよう指示

静岡県熱海市で発生した土石流について、菅総理大臣は、4日の関係閣僚会議で、人命を最優先に、自治体とも緊密に連携し、救命救助や安否不明者の捜索、被災者の支援に全力を尽くすよう指示しました。

今回の大雨被害を受けて、政府は、3日に続いて、午前11時すぎから、総理大臣官邸で関係閣僚会議を開き、菅総理大臣や棚橋防災担当大臣らが出席しました。

この中で、菅総理大臣は、静岡県熱海市で発生した土石流について「これまでに死者2名、負傷者2名が確認されているほか、安否不明の方も複数いる。現時点で19名を救助したと報告を受けている。建物被害はおよそ130棟に及ぶ可能性がある。亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被害に遭われた方に心からお見舞いを申し上げる」と述べました。

そのうえで、関係閣僚に対し、人命を最優先に、自治体とも緊密に連携し、2次災害にも注意しながら、救命救助や安否不明者の捜索、被災者の支援に全力を尽くすよう指示しました。

そして菅総理大臣は「今回の梅雨前線は、引き続き、各地で大雨を降らす可能性があり、雨が収まってからも土砂災害が発生するおそれがある。国民の皆さんは、地域のハザードマップを改めて確認し、危険な場所に近づくことがないよう、気象情報や避難情報などに十分注意し、早め早めに命を守る行動をとっていただきたい」と呼びかけました。

全国知事会 “被災地域から応援要請あれば速やかに対応”

今回の大雨により各地で被害が出ていることを受けて、全国知事会は緊急の対策会議を開き、被災地域からの応援要請があれば速やかに対応することを確認しました。

全国知事会が4日午後、オンラインで開いた緊急広域災害対策本部では、被災地域の知事から被害の状況などが報告されました。
この中で、土石流による被害が出ている静岡県の川勝知事は「現在、人命最優先で懸命な救助活動と情報収集をしている段階だ。被災者の生活再建は国に対しても最大限の支援をお願いしていきたい」と述べました。

また、神奈川県の黒岩知事は「雨が続くと地盤も緩んでくるので警戒レベルを緩めるわけにはいかない。ハザードマップは洪水だけでなく土石流についても用意しているので県民への啓発を重点的に行うべきだ」と述べました。

そして対策本部では、今後、被災地域からの要請があれば、速やかに応援職員の派遣や物資の支援などを行うことを確認しました。