改憲めぐる改正国民投票法
提出から約3年経て成立

憲法改正の国民投票で商業施設に投票所を設けることなどを柱とした、改正国民投票法は、参議院本会議で、自民 公明両党と立憲民主党などの賛成多数で可決され、提出からおよそ3年を経て成立しました。

改正国民投票法は、公職選挙法に合わせて、憲法改正の国民投票についても、事前に決められた投票所以外でも投票可能な「共通投票所」を駅の構内やショッピングセンターなどに設置できるようにすることや、船の上での「洋上投票」の対象を遠洋航海中の水産高校などの実習生にも拡大することなどが盛り込まれています。

衆議院での審議で、立憲民主党の提案に沿って、投票の広告規制などについて「施行後3年をめどに法制上の措置を講じる」と付則に盛り込む修正が行われ、自民党と立憲民主党の幹事長は、今の国会の会期内に成立させることで合意していました。

先月11日に衆議院を通過して、9日、参議院憲法審査会で可決し、11日の参議院本会議で採決が行われた結果、改正法は自民 公明両党のほか立憲民主党、日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決され、平成30年6月の提出からおよそ3年を経て成立しました。

「最低投票率」「広告規制」専門家の見方は

憲法学の2人の専門家に、今回の法律成立についての受け止めや、審議の過程で議論された「最低投票率」や「広告規制」などの課題について聞きました。

九州大学 南野教授「必要な法整備と評価 課題残されている」

憲法学が専門で九州大学の南野森教授は「憲法改正に向けた一歩になると警戒する声があるのは理解できるが、改正と手続きの議論は分けて冷静に考える必要があり、法的な観点から見れば必要な法整備であると評価できる。一方で、今の段階では手付かずのテーマもあり、課題は残されている」と話しています。

また、広告規制などについて「施行後、3年をめどに法制上の措置を講じる」と付則に盛り込まれたことについて南野教授は「規制がなければ、資金のある人や団体が一方的に意見を広めることができてしまう。憲法改正の賛否について国民の判断がゆがめられてしまう危険性があり、ゆゆしき問題だ」と指摘しています。

一定の投票率を満たすことを条件とする「最低投票率」制度を設けるべきかどうかについては「憲法学者の間でも賛否両論があり、一概にどちらが正しいとは言えない難しい問題だ。それでも、あまりに低い投票率で国民投票が成立するのは非常に問題があり、最低投票率の導入は検討に値すると思う」と話しています。

そのうえで南野教授は「広告規制の問題は10年以上前から指摘されてきたにもかかわらず議論が進んでおらず、このまま憲法改正を国民投票で決めることは非常に危険だと懸念している。国会が必要な検討をきちんと行うのか、しっかり見ていく必要がある」と話していました。

関西学院大 井上教授「投票機会拡大 非常によい改正」

憲法学が専門で関西学院大学の井上武史教授は、「国会は、主権者である国民が直接、意思表明できる国民投票がいつ行われてもよいよう、法律を整理しておく責任を負っている。改正まで3年かかったことは問題だが、投票の機会を拡大するものであり、内容としては非常によい改正だ」と話しています。

また、広告規制などについて「施行後、3年をめどに法制上の措置を講じる」と付則に盛り込まれたことについて井上教授は「国民投票は候補者の競争である一般の選挙とは違うので、表現の自由はできるかぎり保障されなければならない。規制が国民の適切な意思表明に役立つかどうか、慎重に検討されるべきだ」と指摘しています。
最低投票率の導入「国民の意思表明の結果制約 慎重に議論を」
一定の投票率を満たすことを条件とする「最低投票率」制度を設けるべきかどうかについては、「低い投票率で改正の是非が決まるのは大きな問題だが、こうした制度の導入は国民による直接の意思表明の結果を制約することになり、相当慎重に議論する必要がある」と話しています。

そのうえで井上教授は「手続き法である国民投票法が障害になって憲法改正が制約されることはあってはならない。改正が必要なのであれば3年という期限にとらわれず、直ちに審議していつ国民投票が行われてもよいように準備しておくのが、憲法改正を発議する国会の責務だ」と話していました。

 

加藤官房長官 緊急事態条項の議論「絶好の契機」

加藤官房長官は、11日午後の記者会見で「総務省において周知するなど、政府として適切な対応を図っていきたい。憲法改正は国会が発議し、最終的には国民投票により国民が決めるものだが、国会の憲法審査会において、各党がそれぞれの考え方を示したうえで与野党の枠を超えた建設的な議論が行われることを期待している」と述べました。

そのうえで、憲法に「緊急事態条項」を新たに設けるべきかどうかについて「新型コロナによる未曽有の事態を全国民が経験し、緊急事態の備えに対する関心が高まっている。議論を提起し、進めることは絶好の契機だと考えている」と述べました。

自民 森山国対委員長「憲法改正の具体的内容の議論が大事」

自民党の森山国会対策委員長は、記者団に対し「国会対策委員長を務めて4年目になるが、ずっと継続審議になっていて何とか結論を出してもらいたいと思っていた。今回、多くの会派の理解をいただき、一つの結論を出せたということはいいことだ」と述べました。

そのうえで「自民党は憲法改正の4項目の改正案について具体的に説明してきたし、今後も説明していかなければならない。国会で憲法改正の具体的な内容の議論を充実させていくことが大事だ」と述べました。

自民 新藤元総務相「喜ばしく 大きな一歩」

衆議院憲法審査会の与党側の筆頭幹事を務める、自民党の新藤元総務大臣は記者団に対し「成立したことは喜ばしく、大きな一歩だ。国民投票法は世の中の状況に応じて随時、アップデートが必要であり、憲法改正をどのように行うのか、発議するための議論をさらに深めていかなければならない」と述べました。

自民 下村政調会長「緊急事態の活発な議論期待」

自民党の下村政務調査会長は、記者団に対し「3年も採決できなかったが、ここまで来たということで大きな1歩だ。1年半に及ぶコロナ禍で、緊急事態に対し、多くの人が憲法上の対応を求めている。感染症も含めた緊急事態条項の加憲など憲法改正に向けて、衆参両院の憲法審査会で活発な議論が展開されることを期待したい」と述べました。

立民 山花憲法調査会長「CM規制などの議論 優先に」

立憲民主党の山花憲法調査会長は、記者団に対し「多くの政党が賛同できたことは非常に意義がある。今後はルールの公正さに関わるCM規制などの議論に優先して取り組んでいきたい。議論にあたっては、学者や業界関係者などにもヒアリングを行って意見表明の機会を保障するなど、丁寧な積み重ねが必要だ」と述べました。

公明 山口代表「成立は一つの画期」

公明党の山口代表は、党の参議院議員総会で「与野党でほぼ合意ができていながら、なかなか進まなかった経過があったが、幅広い理解を得ながら成立することは一つの画期になる。憲法に対する本質的な議論を深め、国民の理解を得ていく作業がこれから重要になる。『まだ入り口に立ったばかり』という感じだが、国民とともに進んでいきたい」と述べました。

共産 田村政策委員長「今後も憲法審査会 開く必要ない」

共産党の田村政策委員長は、記者会見で「国民投票法の改正は、憲法改正の流れをつくろうと起こされた動きなので、反対を貫いた。『憲法を変えてほしい』という国民からの要求はなく、国民投票法が改正されたからといって、改憲を議論することにはならず、今後も憲法審査会を開く必要はないという立場だ」と述べました。