18・19歳 起訴で実名
報道も可能に 少年法改正

改正少年法が21日、国会で成立しました。新たな法律では成人年齢の引き下げにあわせ、18歳と19歳を「特定少年」と位置づけ、事件を起こして起訴されれば実名報道も可能になります。「特定少年」とは、実名報道の是非は、今後の課題は?整理してみます。

<特定少年とは?>

来年4月から成人年齢が18歳に引き下げられることにあわせて新たに成人となる18歳と19歳を、引き続き保護の対象とする一方で、17歳以下とは異なる立場として、「特定少年」と位置づけ特例規定を設ける少年法などの改正案は、21日の参議院本会議で採決が行われ、自民・公明両党と国民民主党などの賛成多数で可決・成立しました。

これにより、18歳と19歳は、新たに「成人」となる一方で、引き続き少年法が適用され「特定少年」として保護されることになります。

子どもと大人の間のような立場に位置づけられたことで、20歳以上や17歳以下とは異なる新たな処分や手続きが設けられ、これまでよりも扱いが厳しくなります。

ポイント1:「特定少年」は刑事裁判にする対象拡大

「少年」の健全な育成を目的とする少年法は、刑罰を与えることよりも立ち直りを重視していて、家庭裁判所が事件の背景や家庭環境を調査するなど「成人」とは異なった特別な手続きを定めています。

改正少年法では、新たに成人となる18歳と19歳を、引き続き保護の対象とする一方、17歳以下とは異なる立場として、「特定少年」と位置づけ、特例規定が設けられました。

この中では、事件を起こした場合は、すべて家庭裁判所に送致する仕組みを維持したまま、家庭裁判所から検察官に原則「逆送致」する事件の対象を拡大しています。

具体的には、殺人や傷害致死など、故意に人を死亡させた罪に加え、新たに、強盗や強制性交、放火など、法定刑の下限が1年以上の罪が追加されています。

家庭裁判所から検察官に原則、逆送致する事件の対象が拡大されることで、これまでのように、少年院に送られたり、保護観察を受けたりするケースが減ってしまうと、立ち直りに向けた教育の機会が失われるという課題もあります。

ポイント2: 起訴後の実名報道可能に

また、現在は、少年の実名や本人と推定できる情報の報道は禁止されていますが、来年4月からは、18歳と19歳の「特定少年」による事件が起訴された場合は、実名や本人と推定できる情報の報道が可能となります。

<過去の事件では>

実名報道を禁止する規定には今回の改正後も罰則が設けられていません。

少年による残虐な事件では、たびたび週刊誌などが逮捕された少年の実名や顔写真を報じ、実名報道の是非が議論されてきました。

平成9年に神戸市で起きた児童連続殺傷事件では、新潮社の写真週刊誌が逮捕された当時14歳の元少年の顔写真を掲載し、書店での販売や図書館での閲覧を中止する動きが各地で広がりました。

また、平成11年に山口県光市で起きた母子殺害事件では、当時18歳の元少年の実名や顔写真が掲載された本が出版されました。

元少年が著者に対して出版の中止や賠償を求める裁判を起こしましたが、「実名や顔写真の掲載は、社会的な関心の高さなどを考えると、少年法を考慮しても違法とはいえない」として、本の出版を認め、賠償責任もないとした判決が確定しています。

<ネット上で半永久的に残る?>

今回の改正で、起訴されると実名などの報道が可能となることから、インターネット上に掲載された記事などが半永久的に残り続けて、進学や就職など、社会復帰の妨げになるという指摘があります。

法改正に合わせて参議院の本会議では、◇罪を犯した若者の社会復帰を促進するため、資格制限のあり方について必要な措置を講じることや、◇実名などの報道を可能にすることで、更生の妨げにならないよう十分に配慮することを求める付帯決議も報告されました。

被害者団体「『厳罰化』というより『適正化』」

今回の法改正については、様々な意見が表明されています。

平成8年に少年による傷害致死事件で16歳の長男を亡くし、「少年犯罪被害当事者の会」の代表を務める武るり子さんは、18歳と19歳が起訴された場合、実名報道が可能になることについて「たしかに名前や顔写真が出ると少年の立ち直りに影響はあるかもしれないが、犯罪を起こした事実がある以上、実名報道はついてくるものだという自覚を持たせることが大事だと思う。名前が出たから社会で仕事がしにくいなどは理由にならない」と話しています。

また、「適用年齢の引き下げはかなわなかったが、家庭裁判所から検察に原則逆送致する事件の対象が広がったことは犯罪の抑止力になると思う」と話しています。

その上で「少年法が改正されるたびに『厳罰化』と言われるが、私たち被害者家族としては、ようやく『適正化』してきたと思っている。しかし、改正されても法律が適切に運用されなければ変わらない。少年院も少年刑務所も被害者の視点を入れた教育をしていただきたい」と話しています。

立ち直り支援団体「少年が精神的心理的に追い込まれる」

一方、愛知県で非行少年の立ち直りを支える活動をしているNPO法人「再非行防止サポートセンター愛知」の理事長で、自身も少年院に入った経験のある高坂朝人さんは法改正に反対していました。

高坂さんは「法改正によって犯罪が増えてしまうのではないかと懸念している。ネット社会の現代では、実名が報道されることによって家族へのひぼう中傷が増えて少年が精神的心理的に追い込まれてしまう。仕事に就いて日常生活を送ることも難しくなり、立ち直りの妨げになってしまう」と話しています。

また、家庭裁判所から検察に原則逆送致する事件の対象が広がることについて、「少年の未来を変えるためには少年院の先生や保護司など、信頼できる大人との出会いが必要だ。私も少年時代にお世話になった方々と関係を続けさせてもらい、再び犯罪を犯すこともない。少年法が改正されると、こうした機会が減ってしまう」と話しています。

その上で「謝罪や償いの気持ちをもって事件の被害者の方々と向き合っていくためには、少年自身の生活を安定させていくことが何よりも大事だ」と話しています。

日弁連「報道の公共性 慎重に検討するべき」

日本弁護士連合会の荒中会長は声明を発表しました。

声明では「18歳と19歳を『特定少年』とし、家庭裁判所から検察官に逆送致する事件の対象を拡大するとされたことや、起訴された場合に実名報道が可能とされたことは、現行の少年法の内容を大きく後退させた」としています。

逆送致の対象事件の扱いについては、「家庭裁判所は保護が必要か十分、調査した上で慎重に判断すべきだ」としています。

また、起訴後の実名報道については「インターネット上での掲載によって、少年についての情報が半永久的に閲覧可能となることや、起訴されたとしても、裁判所の判断によって再び家庭裁判所に移され保護処分となる可能性があることも踏まえ、少年の健全育成や更生の妨げにならないように十分に配慮し、事案の内容や報道の公共性について、慎重に検討するべきだ」としています。

効果的な支援方法は?5年後には見直しも

今後は、罪を犯した18歳と19歳に対し、社会復帰や立ち直りに向けた効果的な支援を、どのように図っていくのか、すみやかな検討が求められます。

一方、改正法の付則には、施行から5年後に、社会情勢などの変化を踏まえて、18歳と19歳に関する制度のあり方を見直すことが盛り込まれています。

このことから、今回新たに設けられた手続きや処分に加え、更生に向けた支援の仕組みが十分に機能しているのかなど、法律の実効性も厳しく検証されることになります。

改正少年法は、来年4月1日に施行されます。