石炭火力の閉鎖進める欧州
地域経済に課題 日本では

地球温暖化対策で温室効果ガスの排出量の大幅な削減が求められる中、主要な排出源となる石炭の利用をやめる「脱石炭」の動きがヨーロッパで加速しています。フランスは来年2022年、ギリシャは2028年と石炭火力発電所の全廃の期限を定めるなど閉鎖を進めていますが、地域経済への影響や失業対策をどう進めるのか課題にも直面しています。

石炭の利用をめぐっては温室効果ガスの主要な排出源だとして国連のグテーレス事務総長が先進国に対し2030年までに電力部門の石炭の利用を廃止するよう訴えるなど世界的に「脱石炭」を求める声が高まっています。

「脱石炭」を呼びかけている市民団体によりますと、このうちEU=ヨーロッパ連合では、2016年1月の時点でEU27か国で稼働していた266基の石炭火力発電所のうちすでに閉鎖されたか、2030年までに閉鎖が決まっている発電所は151基と全体の60%近くにのぼっています。

一方で、大きな課題となっているのが「脱石炭」によって仕事を失う人の雇用をどう確保し、地域経済への影響を軽減させていくかです。

EUは「公正な移行」という支援の枠組みを打ち出し、石炭火力発電所や炭鉱などが閉鎖された地域での新たな産業の育成や雇用の維持に向けて助成を行うほか、民間の投資を呼び込む方針を示しています。

しかし、各国では地元の自治体や労働組合などから閉鎖後に計画されているプロジェクトで雇用が維持されるか懸念する声や長年、地域の経済を支えてきた石炭産業を失うことを不安視する声も上がっています。

専門家からは「脱石炭」には十分な時間と準備が必要だという指摘が出ていて、地域の暮らしを守りながら気候変動対策を進められるかが問われています。

2028年までに閉鎖のギリシャは

ギリシャではおととし、ミツォタキス首相が2028年までに国内の石炭火力発電所をすべて閉鎖することを表明しました。

この結果、北西部の西マケドニア地方では総工費14億ユーロ、日本円にして1800億円をかけ建設中の石炭火力発電所が来年の完成後、わずか6年で閉鎖されることになり、地元の労働組合が「決定が急すぎる」と反発、抗議デモが相次ぐ、事態となりました。

ギリシャ政府は、この地域で、太陽光発電所の建設を進めるほか、医薬品産業の誘致や農業生産の強化などを通じて雇用を確保するという構想は打ち出していますが具体的には決まっていません。

労働組合のトップはこれまでに閉鎖されたほかの地域の石炭火力発電所では多くの失業者が出たとして、「政府の計画は見かけだけのあいまいなもので深刻な問題への答えはない」と反発していて、抗議を続ける考えを示しています。

地元の市長は閉鎖によって最大2万人が失業するおそれがあるとしたうえで「長年、国の経済を支えるために多くのエネルギーを供給してきた地域が排除され、過疎化と貧困に直面させられるのは理解できない」と話すなど、石炭産業で働いてきた人たちの暮らしを無視して「脱石炭」を進めるべきではないと訴えています。

来年までに全廃のフランスは

石炭火力発電所を来年までに全廃することを決めているフランスは次世代のクリーンエネルギーの水素の製造施設を建設するなどして雇用を維持し、「公正な移行」を進めようとしています。

国内に残る2つの石炭火力発電所のうち、東部のモゼル県の工業地帯にある石炭火力発電所は来年3月に閉鎖される予定です。

閉鎖後に仕事を失う人の雇用を維持し地域経済を支えるために計画されているのが、化石燃料に代わる燃料として鉄道や自動車などの乗り物や産業用に水素を製造するプロジェクトです。

発電所の敷地にある石炭の集積所に水素の製造施設を建設する予定で新たに設置する太陽光発電所を利用して水から水素を作ります。

温室効果ガスを排出せずに水素を製造でき、さらに工業地帯を通る天然ガスのパイプラインを利用して水素の供給を行うことを目指しています。

発電所の所長は「水素は将来の重要なエネルギー源で運輸や鉄鋼などの産業といった多くの分野で利用できる」と話し、期待を示していました。

水素の供給に使うパイプラインは総延長70キロで隣国のドイツやルクセンブルクともつながっているため国境を越えて水素の供給ネットワークを作るプロジェクトも進められています。

プロジェクトに参加する大手のガス供給企業の担当者は「水素で採算がとれるようにする方法は規模を拡大することだ。数年後にパイプラインでヨーロッパの国々がつながることで市場価格を生み出せる」と話しています。

ただプロジェクトが本格化するのは4年後の2025年以降です。
この間、閉鎖によって仕事を失う人の雇用をどう維持し、新たな仕事に就けるように職業訓練を行うのかなど石炭から水素への移行を順調に進められるかが課題となっています。

日本の現状と課題は

日本では石炭火力が発電量に占める割合はおよそ3割にのぼっています。

2030年に向けて温室効果ガスを2013年度に比べて46%削減するという政府の新たな目標の達成には、化石燃料の中でも二酸化炭素の排出量が多い石炭火力をどう減らしていくのかも課題の一つとなっています。

国際的に「脱炭素」の動きが加速する中、経済産業省は、去年7月から石炭火力の段階的な削減に向けて具体的な検討を進めてきました。

燃料となる石炭の価格が原油や天然ガスと比べて安く、世界各地で産出されるため安定して調達できる一方、化石燃料のなかでも二酸化炭素の排出量が多いという大きなデメリットがあるためです。

このため、経済産業省は、法律で定める石炭火力の発電効率の目標をこれまでの41%から43%に引き上げることを決め、効率の低い設備から高効率の設備への更新を促そうとしています。

ただ、国内に70基ある大手電力会社の石炭火力発電所のうち目標に達しているのはわずか2基しかなく、事業者の負担や地域への影響を考慮しながらいかに削減を進めていくかが課題です。

一方、電源開発は、今月、運転開始から40年がたつ長崎県の松島火力発電所2号機について5年後までに発電効率の高い最新鋭の設備に更新することや、山口県で計画していた石炭火力発電所の建設を断念することを発表していて、こうした動きが広がるかも注目されています。

また、石炭火力発電の輸出について、日本政府は、去年12月、相手国の脱炭素化に向けた方針を確認できない場合は、原則として輸出の支援を行わないと決めました。

そのうえで、輸出の支援を行う際の条件も厳格化し、脱炭素化への移行の一環として相手国から要請があることや、導入する設備が、日本の最先端技術を活用した環境性能がトップクラスのものに限定するなどとしています。