海洋放出 風評被害対策の
関係閣僚会議を新設

東京電力福島第一原子力発電所で増え続けるトリチウムなど放射性物質を含む処理水を、国の基準を下回る濃度に薄めて海に放出する方針を決めたことを受けて、政府は、風評被害対策を着実に実行に移すため、関係閣僚会議を新たに設けました。16日の初会合では、対策の進捗状況を随時、把握し、年内をめどに中長期的な行動計画を策定することを確認しました。

政府は、処理水の処分方法を決定したことを受けて、関係閣僚などでつくる会議を新たに設け、16日、総理大臣官邸で初会合を開きました。

会議では、風評被害対策を着実に実行するため、▽安全を最優先とした処分方法、▽客観性・透明性の高いモニタリング、それに▽正確な情報発信などについて、進捗状況や新たな課題を随時、把握していくことを確認しました。

そのために、関係省庁でつくるワーキンググループを設置して、自治体や各業界からヒアリングを重ねるとしています。

そのうえで、処理水の放出を始めるとされるまでの2年間だけでなくその後の中長期的な対策を盛り込んだ「行動計画」を年内をめどに策定することを確認しました。

小泉環境相「客観性・透明性を高めたモニタリングを実施」

小泉環境大臣は閣議のあとの記者会見で、「専門家などからなる新たな会議を立ち上げ、客観性、透明性を最大限高めたモニタリングを実施していく。あす、福島県にうかがって内堀知事や大熊町、双葉町の町長と面会する予定で、モニタリングのスケジュール感やイメージをしっかりと説明し、どのようなものが必要か話をうかがって、今後の対応にいかしたい」と述べました。

内堀知事「万全な対策を強く求める」

関係閣僚会議に出席した福島県の内堀知事は会議の中で、「この10年、福島県民が必死に復興に向け一丸となって取り組んできた努力、積み上げてきた成果が水の泡になってしまうことが懸念される。国が前面に立ち、関係省庁が一体となって万全な対策を講じるよう強く求める」と述べました。

東電社長「安心していただける状況をつくりたい」

関係閣僚会議のあと、東京電力の小早川智明社長は記者団の取材に対し、「10年間、私どもの事故で風評被害とたたかってこられた皆様に対して、処理水の処分で、さらに被害を大きくすることがないようにしっかりと正確な情報発信を心がけ、仮に風評被害が起こった場合、賠償についても対応し、さまざまなご意見を伺いながら、安心していただける状況をつくっていきたい」と述べました。また、福島第一原発で地震計の故障を放置した問題や柏崎刈羽原発の侵入対策に不備があった問題など、不祥事が相次いだことについては「さまざまな事案を発生させてしまい、県民、国民の皆様から信頼を失う状況になっている。私たちが主体性を持って、組織を立て直し、さまざまな関係者の皆様に向き合い、しっかりと対策の徹底に努めていかないといけない」と述べました。

専門家 販路失わない方策を

風評問題に詳しい筑波大学の五十嵐泰正准教授は、漁協の全国団体の全漁連が海洋放出に反対したうえで、「安心して子々孫々まで漁業を継続できる方策」を求めていることに触れ、「賠償を継続している漁業に後を継ぐ世代が未来を見いだし、子や孫につがせようと思うかどうかは難しい。賠償を支払うだけでなく、後継者の育成や他業種からの新規参入の促進など漁業を中核とした魅力的な地域をどう作っていくかというビジョンをしっかりと示していく必要がある」と述べ、対策を進めるにあたり、次の世代が事業を継続できるよう対応することが重要だと指摘しています。さらに、「風評対策には科学的な理解の醸成が非常に重要だが、二の矢の対策として、流通の販路を決して失わない方策を示し、しっかりと売られているから大丈夫だという状況を作り続けていくことが大事だ。また、販路拡大のために漁獲量を増やし、魚を安定して市場に供給していくことも重要になる」として、生産、流通への丁寧な支援も欠かせないと話しています。

風評被害の賠償 関係者が納得のいく基準提示を

トリチウムなどの放射性物質を含む処理水を薄めて海に放出するにあたって、政府は、風評対策に万全を期すとしたうえで、対策を取っても、なお生じる被害には東京電力が賠償を行うよう求めています。

具体的には、
▽期間や地域、業種を限定せず、被害に見合った賠償を行うこと
▽放出までの間に関係者に賠償の方針を説明し、理解を得ること
▽データで影響を推定するなど、損害を立証する負担を被害者に一方的に負わせないようにすること、などを求めています。

原発事故のあと、東京電力は国の審査会が定めた指針に基づいて賠償を行っていて、解決できない場合は和解の手続き「ADR」が進められます。

ADRで、東京電力は国の「原子力損害賠償紛争解決センター」が示す和解案を「尊重する」としていますが、これまで実際に示された和解案を東京電力が拒否するケースも相次いでいます。

紛争解決センターによりますと、平成26年から去年までに手続きが終わった1万9163件のうち、東京電力が和解案を拒否したケースは、東京電力の社員や家族による申し立てを除いて55件あったということです。

原発事故の賠償に詳しい、大阪市立大学の除本理史教授は「原発事故との因果関係の精査が厳しくなり、なかなか賠償が認めてもらえない状況になっていることを考えると、心もとないと不安に思う人もいると思う。漁業だけでなく、広い業種に影響が及ぶ可能性があるので、まずは被害実態を広く調査して関係者が納得のいく基準を提示することが必要だ」と指摘しています。