黒川元検事長を賭博罪で
略式起訴 賭けマージャン問題

去年の緊急事態宣言の中、賭けマージャンをしていたとして刑事告発され、起訴猶予になった東京高等検察庁の黒川弘務元検事長について、東京地方検察庁は検察審査会の「起訴すべきだ」という議決を受けて再捜査し、18日、一転して賭博の罪で略式起訴しました。

東京高等検察庁の黒川元検事長は去年の緊急事態宣言の中、産経新聞の記者2人と朝日新聞の記者だった社員1人とともに賭けマージャンをしていたとして賭博などの疑いで刑事告発され、東京地方検察庁は去年7月、「1日に動いた金額が多いとは言えない」などとして起訴猶予にしました。

しかし、東京第6検察審査会は去年12月、「違法行為を抑止する立場にあった元検事長が漫然と継続的に賭けマージャンを行っていたことが社会に与えた影響は大きい」と指摘し「起訴すべきだ」という議決をしていました。

これを受けて東京地検は再び捜査した結果、18日、一転して黒川元検事長を賭博の罪で略式起訴しました。

元検事長とともに起訴猶予となり、検察審査会が「不起訴は不当だ」とする議決をしていた新聞記者ら3人については改めて不起訴にしました。

略式起訴は検察が簡易裁判所に書面だけの審理で罰金などを求める手続きで、東京簡易裁判所が検察の請求が妥当だと判断して罰金の支払いを命じ、元検事長が納付すれば、正式な裁判は開かれず審理は終わることになります。

東京地検「同様事案との比較などを総合的に考慮」

東京地方検察庁の山元裕史次席検事は臨時の記者会見を開き「検察審査会の議決を真摯(しんし)に受け止め、黒川元検事長の立場やほかの新聞記者らとの関係性、過去の同様の事案との比較などを総合的に考慮し、元検事長は略式起訴、ほかの3人は起訴猶予が相当と判断した」と述べました。

黒川元検事長と新聞記者ら3人はいずれも事実関係を認めているということです。

「検察の判断が国民の感覚とずれているのではないか」という質問に対しては「検察審査会は検察の不起訴処分について国民の良識的な判断を反映させる制度で、ご指摘は重く受け止めなければならない。今回の経験を踏まえ、個々の事件の処分を判断する際は、さまざまな事情を適切に考慮していきたい」と述べました。

産経新聞社「信頼回復に努める」

黒川元検事長とともに賭けマージャンをしていた当時の記者2人が改めて起訴猶予になったことを受けて、産経新聞社広報部は「記者倫理や行動規範を徹底させ、引き続き信頼回復に努めてまいります」というコメントを出しました。

朝日新聞社「コンプライアンス意識の徹底図る」

また、元記者の社員が起訴猶予になった朝日新聞社は「検察当局が黒川氏を略式起訴したことを重く受け止め改めておわびします。『権力の癒着ではないか』といったご批判を受け、記者活動の延長で起きた報道倫理が問われる問題と受け止め、『記者行動基準』を改定し取材先との距離の置き方などを明記しました。その理念を全社員で共有し、コンプライアンス意識の徹底を図ります」というコメントを出しました。

賭けマージャン問題の経緯

東京高等検察庁の黒川元検事長は現職だった去年5月、都内にある新聞記者の自宅マンションを訪れて、賭けマージャンをしていたとして訓告処分を受け辞職しました。

元検事長が新聞記者の自宅を訪れていたのは緊急事態宣言が出され、政府が不要不急の外出自粛を呼びかけていた時期で、そのさなかに検察の最高幹部が賭けマージャンのために記者の自宅を訪れていたことが問題視されました。

法務省が公表した調査結果などによりますと、賭けマージャンには産経新聞の記者2人と朝日新聞の記者だった社員1人も参加し、いわゆる点ピンと呼ばれるレートで1万円から2万円程度の現金のやり取りがあったほか、同じメンバーで4年ほど前から月に1、2回程度、賭けマージャンをしていたということです。

さらに、賭けマージャンが行われていた時期は、内閣の判断で検察幹部らの定年延長を可能にする検察庁法の改正案が国会で審議され、みずからの定年延長の是非が野党側から厳しく問われていたさなかでもありました。

黒川元検事長をめぐっては政府が去年1月、従来の法解釈を変更して定年を延長したことについて、野党側からは「官邸に近い黒川氏を検事総長にするためではないか」などという批判が相次ぎ、検察庁法の改正案についても「黒川氏の違法・不当な定年延長を後付けで正当化するものだ」などと批判が出ていました。

こうした時期に問題の渦中にあった黒川元検事長本人が、賭けマージャンに興じていたことについて、検察内部からも「自覚に欠け、脇が甘い」「最悪のタイミングだ」などの声が出ました。

この問題をめぐっては市民団体などからの刑事告発が相次ぎ、東京地検は賭博などの疑いで捜査を進めましたが、去年7月、黒川元検事長のほか、一緒に賭けマージャンをしていた当時の産経新聞社会部の次長と記者、朝日新聞の記者だった社員1人を起訴猶予にしました。

この際、東京地検は黒川元検事長らが、いわゆる「点ピン」と呼ばれるレートで、去年の4月と5月合わせて4回、賭けマージャンをしていたことを認定したうえで「1日に動いていた金額が多いとは言えず、元検事長が訓告処分を受け、辞職したことなどを総合的に考慮した」と処分の理由を説明しました。

これに対し告発した市民団体などは「身内に甘い判断で納得できない」として、検察審査会に審査を申し立て去年12月、東京第6検察審査会は「違法行為を抑止する立場にあった元検事長が漫然と継続的に賭けマージャンを行っていたことが社会に与えていた影響は大きい」と指摘し、黒川元検事長について「起訴すべきだ」と議決しました。

再捜査で検察が仮に黒川元検事長を不起訴にしても、検察審査会が2回目の審査で「起訴すべきだ」と議決すれば、強制的に起訴されるため東京地検がどのような処分をするのか注目されていました。