海自潜水艦と民間商船が衝突
潜水艦隊員3人けが 高知沖

加藤官房長官は、高知県の足摺岬沖の海上で海上自衛隊の潜水艦と民間の商船が衝突する事故があったことを明らかにしました。民間の商船の船体にダメージはないとみられるということです。防衛省によりますと、この事故で民間の商船の乗組員に、けが人は確認されておらず、海上自衛隊の潜水艦の隊員3人が軽いけがをしましたが、病院に搬送する必要はない程度だということです。

加藤官房長官は、午後の記者会見で、8日午前10時58分ごろ、高知県の足摺岬沖の海上で海上自衛隊の潜水艦「そうりゅう」と民間の商船が衝突する事故があり、総理大臣官邸の危機管理センターに情報連絡室を設置し、状況の把握にあたっていることを明らかにしました。
そして「菅総理大臣から、情報収集に万全を尽くすこと、民間商船の安全確認と必要な場合は迅速な救助活動を徹底すること、国民への情報提供を行うことの指示があった」と述べました。
そのうえで加藤官房長官は「潜水艦が衝突したと思われる船舶に対し、海上保安庁から連絡したところ『衝突した振動はなく、船体ダメージはないと思われる』との回答があった。政府として、菅総理大臣からの指示を踏まえ関係機関と連携を図りながら、一体となって、全力を挙げて対応していく」と述べました。
潜水艦の隊員3人が軽いけが

防衛省によりますと、この事故で民間の商船の乗組員に、けが人は確認されておらず、海上自衛隊の潜水艦の隊員3人が軽いけがをしましたが、病院に搬送する必要はない程度だということです。
衝突した潜水艦「そうりゅう」は定期検査が終了したあとの訓練の途中で、海中から浮上する途中で衝突したと見られるということです。
衝突した潜水艦は、現在、近くの港に向けて航行中だということです。
岸防衛相「衝突事故で通信手段すべて損傷」

防衛省によりますと、民間の商船の船体にダメージはないと見られ、潜水艦は、潜望鏡や通信アンテナなどを納めた「アンテナマスト」と呼ばれる部分などが破損しました。
潜水艦は、定期検査が終了したあとの訓練中で、海中から浮上する途中で衝突したと見られるということです。
これについて、岸防衛大臣は今夜、記者団に対し「潜水艦の浮上時の事故であり、当然ながら、安全確認は最大限努めた上での作業だったが、民間商船と衝突をしてしまったことは誠に残念なことだ。事故の原因、状況等を把握した上で、安全を担保するように努めたい」と述べました。
また、事故の1報は、発生から3時間半近くたった午後2時20分ごろに潜水艦が所属する広島県呉市にある第1潜水隊群の司令部に携帯電話で連絡があったということで、岸大臣は「衝突事故で通信手段がすべて損傷してしまったということだ。携帯電話しか使えず、電波が入るところまで移動し、1報を入れた」と説明しました。
潜水艦と衝突した船は香港船籍

海上保安庁の関係者によりますと、海上自衛隊の潜水艦と衝突した船は香港船籍の「オーシャン アルテミス」(およそ5万トン)だということです。
積み荷は9万トンあまりの鉄鉱石で、中国人21人が乗っていたということです。
船の位置情報を公開しているウェブサイト「IHIジェットサービス」によりますと、この船は岡山県に向かって今月5日の午後、中国の山東省の青島を出港したということです。
そして8日午前0時ごろに鹿児島県沖を通過したあと、事故現場を航行していました。
潜水艦「そうりゅう」とは

防衛省によりますと、潜水艦「そうりゅう」は、全長84メートル、排水量は2950トンで、平成21年に就役し、海上自衛隊呉基地を拠点とする「第1潜水隊群」に所属しています。
魚雷発射管を6基搭載し定員は65人です。
高い操作性を保つため船体後部の「かじ」の形がアルファベットのエックス形になっていて、航行中の静かさが特徴だということです。
海上自衛隊は複数の潜水艦を運用し、高い隠密性を生かして東シナ海での警戒監視などの任務にあたっています。
国 運輸安全委員会 事故調査官3人指名
高知県足摺岬の沖合で、海上自衛隊の潜水艦と民間の商船が衝突した事故で、国の運輸安全委員会は事故調査官3人を指名し、原因を調査することにしています。
海自 元海将「こうした事故あってはならない」

海上自衛隊の元海将で、潜水艦の艦長も務めた経験もある金沢工業大学虎ノ門大学院の伊藤俊幸教授は「マストには潜望鏡があり、潜水艦は、潜望鏡を水面に出そうとする時に周囲の状況の確認が難しくなるため、最も事故が起きやすい。隊員は当然、そのことを認識しているので、ソナーなどで何度も周囲の安全を確保しながら、慎重に作業する。ソナーが故障したことも考えられるが、故障でないなら、隊員の練度やチームワークに問題がなかったのか、確認する必要がある」と指摘しています。
そのうえで「日本の潜水艦の性能や隊員の操縦技術は世界でも高く評価されており、ささいな事故も起こさないよう極めて慎重に運用してきた。こうした事故はあってはならない」と話していました。
海上自衛隊の艦艇 過去の事故は
海上自衛隊の艦艇と民間の船舶が衝突する事故はこれまでもたびたび起きています。
最近では去年3月、東シナ海の公海で警戒監視のために航行していた護衛艦「しまかぜ」と中国の漁船が衝突し、漁船の乗組員がけがをしました。
おととし6月には、広島県三原市の沖合で掃海艇「のとじま」と北九州市の海運会社が所有する貨物船が衝突し、けが人はいませんでしたが、掃海艇が一部浸水するなど双方に被害が出ました。
平成21年10月には関門海峡で護衛艦「くらま」と韓国籍のコンテナ船が衝突して護衛艦が炎上し、護衛艦の乗組員6人が軽いけがをしました。
平成20年2月にはイージス艦「あたご」が千葉県の房総半島の沖合で漁船と衝突し、漁船に乗り込んでいた親子2人が死亡しました。
そして昭和63年7月には潜水艦「なだしお」が神奈川県の横須賀市沖で遊漁船と衝突し、釣り客と遊漁船の乗組員合わせて30人が死亡する事故が起きています。