巨大IT企業の不公正な
取り引きを規制 新法施行

巨大IT企業への規制を新たに設ける法律が1日、施行されました。立場の違いを背景にした不公正な取り引きを防ぐため、通販サイトを運営するIT企業などに対しわかりやすい形で契約条件を取引先に開示することなどを義務づけます。

この法律は、巨大IT企業が取引先より強い立場にあることを背景に、自社に有利な契約をしたり一方的に手数料を引き上げたりすることを規制するものです。

対象となるのは、国内での売り上げが▽3000億円以上の通販サイトや、▽2000億円以上のスマートフォンの「アプリストア」などを運営する事業者です。

楽天やヤフー、アマゾン、グーグル、アップルなどが想定されていて、
▽わかりやすい形で契約条件を取引先に開示することや、
▽契約内容を変更する際には事前に通知することなどが義務づけられます。

従わない場合は、経済産業省が勧告や措置命令を出せるほか、独占禁止法に違反する疑いがある場合には、公正取引委員会に対処を要請することができます。

さらに、IT企業側に対し、情報開示の状況などの自己評価を行い、毎年、報告書を経済産業大臣に提出するよう求めています。

巨大IT企業をめぐっては、影響力の高まりを背景にEUなどで規制を設ける動きが進んでいて、日本も今回の法律をきっかけに監視を強めることにしています。

欧米では厳しい規制や訴訟

GAFAなどの影響力の高まりを背景に、巨大なIT企業に規制をかける動きは海外でも進んでいます。

なかでも最も厳しい規制を進めているのがEU=ヨーロッパ連合です。

EUは、去年7月、「プラットフォーム取引透明化法」を施行し、通販サイトを運営するIT企業などが出店している事業者のアカウントを停止する場合の理由やサイト内で商品のランキングを表示する場合のルールなどを事前に開示し、取り引きを透明化することを義務づけました。

さらに去年12月に公表された新たな法案には、
▽自社の商品を優遇して有利な販売をすることや
▽出店している事業者の販売データを自社の消費者向けのサービスに使うことを禁じることなどが盛り込まれ、法制化に向けた検討が進められています。

また、アメリカでも司法省やFTC=連邦取引委員会などが独占的な地位を利用して公正な競争を妨げているとして、グーグルやフェイスブックを提訴する動きが相次いでいるほか、議会下院が事業分割も視野に規制を強化するよう求める報告書をまとめるなど巨大IT企業に対する視線は厳しさを増しています。

公正取引委員会がたびたび調査

巨大IT企業と取り引きする事業者が不利益を受けたとされる問題はたびたび表面化し、公正取引委員会の調査の対象にもなってきました。

アマゾンジャパンは
▽平成28年8月には他の通販サイトよりも商品の価格を高くしないよう取り引き業者に求めたなどとして、
▽平成30年3月には、利用者に販売した商品の値引き分を補填(ほてん)させたなどとして、公正取引委員会の立ち入り検査を受けました。

いずれもアマゾンジャパンは違反とされた行為をやめ、平成30年のケースでは取り引き業者に対しおよそ20億円を返金することになりました。

また、楽天は去年2月、通販サイトの送料を一律で無料にするサービスをめぐって、公正取引委員会の立ち入り検査を受けました。

現在も、出店者に対する不当な要求がなかったか調査が続いています。

取り引き事業者から「不利益」の声

経済産業省が3年前に行った調査によりますと、巨大IT企業などと取り引きする企業2000社のうち8割が「個別交渉が困難」、「規約などが一方的に変更され不利益を被った」と回答したということです。

こうした状況について、楽天が運営する通販サイト「楽天市場」の出店者などでつくる団体、「楽天ユニオン」の代表の勝又勇輝さんは「出店者にとって不利益な規約変更が多く、対等な立場となる仕組みづくりが必要だ」と話しています。

この団体では去年1月と8月、公正取引委員会に対し、排除措置命令を求める文書を出しました。

これに対し、楽天は「当社が実施する各施策についてはさまざまな観点から検討を行い、法令順守に努めています。規約の変更には相当の告知期間を設け、各種手段により説明しています。今後とも店舗様と真摯(しんし)に対話を重ね、相互理解に努めてまいります」とコメントしています。

楽天とヤフー 自主的対応を始める

巨大IT企業に対する法規制が始まるのを前に、楽天やヤフーは自主的な取り組みを始めています。

このうち楽天は、取り引きの条件や出品を禁止する商品について、すでに事業者との規約やガイドラインに明記しているほか、日本消費者協会などとの意見交換会を開いているということです。

そのうえで、出品事業者で作る団体、「楽天市場出店者 友の会」と対話や意見交換を行う場をことし3月に作るとしています。

また、ヤフーは通販サイトへ出店を希望する事業者に対する審査基準を明確化して公開し、ネット通販での検索結果の表示順位の決め方も詳しく示すようにしたということです。

また、アマゾンジャパンは、NHKの取材に対し具体的な対応は示しませんでしたが「これまでも政府とさまざまな事案についてコミュニケーションを取っています。施行される法令の内容を踏まえ、適切に対応を行っていきます」とコメントしています。

今後は消費者保護や規制対象拡大も

1日、施行された「デジタルプラットフォーム透明化法」の立案に関わった安平武彦弁護士は、「デジタルプラットフォーマー」と呼ばれる巨大IT企業について「国民経済、国民生活の中で大きな存在となっているが、取り引きの面で透明性が欠けていた。今回の法律は透明性を高める競争を促し、環境の改善を図ることをねらっている」と指摘しています。

また、この法律の規制の対象は柔軟に拡大できることになっていて、検索結果の表示される順番が不透明だという指摘があるレストランやホテルの予約サイトなどが、将来的に対象となる可能性があるということです。

一方、今回の法律は、巨大IT企業が運営する規模の大きな通販サイトやアプリストアで取り引きする事業者の保護が主な目的となっていて、こうしたサイトで買い物をする一般の消費者を保護するための法律は、現在、消費者庁が規制の内容について検討を進めています。

安平弁護士は「巨大IT企業の規制で先行するEUは、対事業者と対消費者という両輪で法律の策定を進めている。日本でも消費者庁の法案が具体化すれば両輪としての法制度ができあがることになる」としています。