「思いやり予算」日米会談の
議題回避へ30年前官僚奔走

在日アメリカ軍の駐留経費の日本側負担、いわゆる「思いやり予算」をめぐって、30年余り前、外務省の幹部が海部総理大臣の政権運営への影響を懸念し、日米首脳会談の議題としないようアメリカ側の説得にあたっていたことが、公開された外交文書で明らかになりました。

在日アメリカ軍の駐留経費の日本側負担、いわゆる「思いやり予算」は、日本政府がアメリカ軍基地で働く従業員の給与や光熱費の一部などを負担しているものです。

23日、公開された外交文書では、1989年、当時の海部総理大臣がアメリカを初めて訪問し、ブッシュ大統領との首脳会談を行うのを前に、日米の高官が駐留経費の交渉を議題とするかどうか、ぎりぎりのやり取りを続けていた様子が記されています。

アメリカ側は、議会で日本の負担増を求める圧力が強まっていることを踏まえ、首脳会談でブッシュ大統領が議会の動向に言及したうえで、外相どうしで協議するよう指示する内容にしたいと提案しています。

これに対し、外務省の有馬龍夫北米局長は「事務レベルからの積み上げを前提とした静かな対話にすべきだ」と指摘したうえで「アメリカから日本に圧力が加えられたと日本国内で受け取られれば、強い批判をじゃっ起し、海部政権は苦境に立つ」と述べ、この問題を首脳会談では取り上げないよう求めました。

「大統領の発言は保証できない」などとするアメリカ側に対し、有馬局長は「日本は日米安保体制のもと、なすべきことを実施する決意だが、首脳会談で本件が提起されれば日本政府は苦しい立場に立たされ、できることもできなくなるおそれが極めて大きい」などと説得を続け、結果的にブッシュ大統領が会談で駐留経費について直接的な言及をすることはありませんでした。

日米外交史が専門の日本大学の信夫隆司教授は「30年前の文書だが、結局、いまも同じ議論、同じ交渉を続けている。アメリカ軍が日本に駐留するかぎりは駐留経費の問題はずっと続くのだろう」と話しています。

親子2代で厳しい交渉に

当時、北米局長として交渉にあたった有馬龍夫氏(87)は外務省きってのアメリカ通として知られ、ハーバード大学大学院の博士課程を修了したあと、1962年に外務省に入省しました。

今の国際法局にあたる条約局で沖縄の返還交渉に携わり、北米局長時代には在日アメリカ軍の駐留経費をめぐる交渉のほか、航空自衛隊の支援戦闘機の共同開発をめぐる日米協議などにも携わりました。

有馬氏の次男の裕氏(53)も1991年に入省した外交官で、北米局の参事官を務めています。

現在、在日アメリカ軍の駐留経費の日本側の負担をめぐって進められている交渉には、日本政府の首席交渉官として臨んでいます。

交渉は、アメリカが政権の移行期にあることなどが影響して具体的な負担額で折り合いがつかず、来年に持ち越される極めて異例の展開となっていて、親子2代で厳しい交渉に携わることになります。