敵の射程圏外から攻撃できる
巡航ミサイル開発 閣議決定

政府は、ミサイル阻止に関する新たな方針をめぐり、相手領域内でも弾道ミサイルなどを阻止する能力の保有には直接触れない一方、敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」を開発することを閣議決定しました。閣議決定には、配備を断念した「イージス・アショア」の代替策として、新型のイージス艦2隻を建造することも盛り込んでいます。

政府は、ミサイル阻止に関する新たな方針を18日の閣議で決定しました。

閣議決定では「敵基地攻撃能力」と呼んでいた相手領域内でも弾道ミサイルなどを阻止する能力の保有には、直接、触れず「抑止力の強化について、引き続き政府において検討を行う」という表現にとどめました。

その一方で、陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」の射程を大幅にのばし、敵の射程圏外から攻撃できる長射程の巡航ミサイル「スタンド・オフ・ミサイル」として開発し、護衛艦や戦闘機などからも発射できるようにするとしています。

また、配備を断念した新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の代替策として「イージス・システム搭載艦」という名称で、新型のイージス艦2隻を建造することも盛り込んでいます。

新型イージス艦に搭載する機能などの詳細は、引き続き検討するとしています。

加藤官房長官「敵基地攻撃 目的でない」

加藤官房長官は、閣議のあとの記者会見で「12式地対艦誘導弾の能力向上は、現行の防衛計画の大綱、および中期防衛力整備計画に基づき、自衛隊の安全を確保しつつ、相手の脅威圏の外から対処を行う、わが国のスタンド・オフの防衛能力を強化するものであり、いわゆる『敵基地攻撃』を目的としたものではない」と述べました。

岸防衛相「ミサイル阻止 引き続き検討」

岸防衛大臣は閣議のあとの記者会見で「北朝鮮のミサイルによる、わが国に対する脅威が高まっている中で、しっかりとしたミサイル防衛体制を取っていかなければいけない。今後、状況を見ながら『イージス・システム搭載艦』にどういった装備を載せていくかや運用をどうするかなどについて、しっかり検討していく」と述べました。

また岸大臣は「隊員の安全をはかりながら相手を攻撃することのできる『スタンド・オフ・ミサイル』を持つことは、南西地域の島しょ防衛に必要な装備だ。『スタンド・オフ・ミサイル』とミサイル阻止の方策は区別して考える必要があり、ミサイル阻止は引き続き、政府内でしっかり検討を続けていく」と述べました。

立民 安住氏「使い方によっては専守防衛から逸脱」

立憲民主党の安住国会対策委員長は、記者団に対し「使い方によっては、専守防衛の考え方からは逸脱する。きちんと国会で議論せず『イージスアショア』をやめた尻拭いのためにやったものであり、安全保障政策の基本的な在り方がなっていない」と述べました。

海上自衛隊 元海将「国の防衛構想 明確化を」

18日に閣議決定された「イージス・アショア」の代替策について、海上自衛隊で長年、防衛力の整備に携わった池田徳宏元海将は「弾道ミサイルからどうやって日本を守るのかという防衛構想をまず先に考え、それに基づいて必要な装備品を決めるべきだがその構想が明確になっていない。そのため『イージス・システム搭載艦』をどのような船にし、どう運用するのかということがあいまいになっており、国としての防衛構想を決め、どのような船であるべきかを明確にするべきだ」と指摘しています。

そのうえで「常時持続的な弾道ミサイルからの防衛はとても2隻ではできず、既存のイージス艦も引き続き任務に充てることになるだろう。それによって、イージス艦のほかの任務に支障が出かねない。また、2隻を建造するなら少なくとも新たに500人から600人の乗組員が必要になり、人員確保の面でも非常に難しい状況になる。陸海空の自衛隊の間の人材の交流なども検討すべきだ」と話していました。

「イージス・アショア」めぐる経緯は

「イージス・アショア」は、北朝鮮の核・ミサイル開発が脅威となる中、弾道ミサイルに対する防衛能力を抜本的に高める必要があるとして3年前の12月に導入が閣議決定されました。

レーダーやミサイルの発射装置を地上に配備し、大気圏の外を飛ぶ弾道ミサイルを迎撃するもので、政府は2基で日本全域をカバーできるとして秋田市と山口県萩市の演習場を配備の候補地に選びました。

しかし去年6月、防衛省が秋田市で行った調査のデータに誤りがあったことが発覚し、その後の住民説明会で職員が居眠りをしたことに反発が広がるなどしたため、防衛省は候補地をゼロベースで検討することになりました。

さらに、迎撃ミサイルのブースターが、周辺の集落に落下するのではないかと地元が懸念する中、演習場内に落下させるためには当初の想定を超える大幅な改修が必要となることが判明。ことし6月、当時の河野防衛大臣が「コストと期間をかけるのは合理的ではない」として配備計画の停止を表明しました。

これを受けて代替策の検討が始まり、3か月後の9月、安倍前総理大臣が「年末までにあるべき方策を示す」という談話を発表します。

一時は、陸上への配備も検討されましたが適当な代替地がないと判断して海上に配備する案を軸に検討が進められました。

そして、海上に施設をつくり、そこにレーダーや迎撃ミサイルの発射装置を置く案なども検討されましたが、政府は、防御性能や機動性を考慮して「イージス・システム」を搭載した艦艇を新たに建造することを決めました。

「イージス・アショア」代替策 課題は山積

「イージス・アショア」の代替策として、政府は「イージス・システム」を搭載した艦艇2隻を建造する方針を決めましたが、課題は山積しています。その1つが「イージス・アショア」導入の目的だった「切れ目ない防護」をどう実現するかです。

政府は「イージス・アショア」を導入すれば、日本全域を24時間・365日、切れ目なく防護することが可能になると説明してきました。しかし代替策を艦艇としたことで、天候によっては洋上に長期間とどまれないというリスクを抱えることになります。

また、船の整備や隊員の訓練を行う必要があるため1隻の艦艇が実際にミサイル防衛の任務に当たれるのは年間120日程度にとどまると、防衛省自身が試算していたことも分かっています。

防衛省は「情勢に応じ、常時持続的に日本全域を防護しうる態勢の構築を目指す」としていて、より長く洋上で任務につけるようにするため艦艇の設計を工夫できないか検討するとしていますが、当初の目的だった「切れ目ない防護」をどこまで実現できるのかは現時点では不透明です。

もう1つの課題が、費用です。最新のイージス艦をベースにした場合、導入費用として1隻当たり2400億円から2500億円以上、2隻で4800億円から5000億円以上かかると試算されていて、「自衛隊の歴史上、最も高価な洋上装備になる」と指摘する関係者もいます。

ただ、これには、運用開始前に行う迎撃ミサイルの実射試験にかかるコストは含まれていないほか、他国の潜水艦などに対処する機能をどの程度、持たせるかなどが決まっていないためあくまで目安です。

さらに、導入後の維持や管理にかかる費用について防衛省は、搭載する装備品の仕様などさまざまな検討が必要になるため現時点で明らかにするのは難しいとしていて、全体の費用がどこまで膨らむのか見通しは立っていません。

また、乗組員の確保も課題になっています。地上配備が計画されていた「イージス・アショア」は陸上自衛隊が運用する予定でしたが、代替策が艦艇となったことで、海上自衛隊が保有することが決まりました。

「イージス・アショア」を導入する目的の1つとして、防衛省は長期間の洋上勤務を繰り返すイージス艦の乗組員の負担軽減を挙げていましたが、十分には達成できなくなった形です。

海上自衛隊は、現場自衛官の採用人数が昨年度まで5年連続で計画数を下回るなど人手不足が深刻で、そうした中で、新たに数百人規模の乗組員を確保しなければなりません。

防衛省は、定年の引き上げや再任用の拡大などによって要員を確保するほか、より少ない人員で運用できる艦艇の導入を進めるなど対策を検討するとしていますが、「イージス・システム」を扱う人材の育成には年単位の期間がかかると指摘する声もあり、必要な人員を安定的に確保するのは簡単ではありません。

「専守防衛 逸脱のおそれ」指摘の声も

防衛省は、抑止力を向上させるため、すでに海外製の「スタンド・オフ・ミサイル」の導入を決めています。

これまでに導入が決まっているのは、いずれも射程がおよそ900キロとされるアメリカ製の「JASSM」と「LRASM」それに、射程がおよそ500キロとされるノルウェー製の「JSM」の3種類です。

これらはいずれも戦闘機に搭載するタイプのミサイルですが、今回、防衛省は地上の発射装置や艦艇にも搭載できる「スタンド・オフ・ミサイル」を国産で開発することを決めました。

防衛省関係者によりますと、射程は「JASSM」や「LRASM」を上回る可能性があり、その場合、設計上は北朝鮮や中国の沿岸部に届くことになります。

防衛省は「相手の脅威の外から、隊員の安全を確保しつつ対処するためのもので、『敵基地攻撃』を目的としたものではない」と説明していますが、能力としては「敵基地攻撃」に使用することができることから「専守防衛を逸脱するおそれがある」と指摘する声もあります。

「敵基地攻撃」をめぐって、政府はこれまで、日米安全保障体制のもとでアメリカが「矛」、日本が「盾」の役割を担っており日本として相手の基地の攻撃を目的とした装備を持つことは考えていないと一貫して説明してきました。

装備品の能力が向上する中、専守防衛との整合性についてより丁寧な説明が求められます。