大学生内定率69%
2015年以来70%下回る

来年春に卒業する予定の大学生の就職内定率は、10月の時点で69.8%となり、新型コロナウイルスの影響で去年の同じ時期より7ポイント低くなったことがわかりました。10月時点の内定率が70%を下回るのは2015年以来で、厚生労働省などは就職活動を続ける学生の支援を強化しています。

厚生労働省と文部科学省は、来年春に卒業する予定の大学生の就職活動の状況について全国62の大学、合わせて4770人を抽出して調査しました。

それによりますと、就職内定率は10月1日現在で69.8%となり、新型コロナウイルスの影響で、去年の同じ時期より7ポイント低くなりました。

1996年の調査開始以降、10月のデータで比較すると前年からの減少幅は、リーマンショックの影響を受けた2009年の7.4ポイントにつぎ過去2番目に大きくなっています。

10月時点の就職内定率は
▽2010年は57.6%と過去最低となりましたが、景気の回復や人手不足を背景に
▽2012年は63.1%
▽2014年は68.4%と改善傾向が続き
▽2018年は77%と過去最高となりました。

しかしことしは69.8%となり70%を下回るのは2015年の66.5%以来となります。

内定率を男女別でみると
▽男子大学生は68.8%と去年より7.3ポイント
▽女子大学生は70.9%と去年より6.7ポイントいずれも低くなりました。

地域別でみると
▽「関東」が最も高く74.4%
▽「近畿」が71.5%
▽「中部」が67.9%
▽「九州」が64.4%
▽「北海道・東北」が64.2%
▽「中国・四国」が59.7%となっています。

また、短大生の内定率は27.1%と去年の同じ時期より13.5ポイント低下しました。

厚生労働省は「新型コロナウイルスの感染拡大による採用の中止や減少で内定を得ることができなかったり、就職活動が長期化したりする学生が出ていて、就職内定率の低下につながっている。大学などと連携し就職活動を続ける学生の支援を強化したい」としています。

内定後も懸念 支援の大学も

コロナ禍で先行きが見通せない中、ことしは内定後も懸念が続くとみている大学もあります。

都内にある東京都市大学では、10月下旬の内定率が去年の同じ時期に比べ6ポイント余り下回っていて、大学では9月から再開した対面による学生向けの相談などで支援を続け、内定率を上げようと取り組んでいます。

17日も、大学のキャリア支援センターには、内定がまだ出ていない学生が、オンラインでの採用面接を前に訪れ、面接の受け方などを相談していました。

4年生の男子学生は、「ことし2月から就職活動を始めましたが、コロナの影響もあり内定も出ず、心が折れてしまった時期もありました。対面で直接相談できた方が話しやすいので助かります」と話していました。

一方、例年であれば内定が出ると就職活動を終了する学生が多い中、ことしは継続している学生が少なくないということで、大学では学生の間に内定取り消しに対する不安が広がっていると考えています。

実際、内々定を得ていた学生から「6月に正式に内定の話を受ける約束をしていたが、急きょ採用の見直しをするため待ってほしいと言われ不安だ」と相談があったということです。

大学が確認したところ、採用を取り消されたのは一部の学生だったことや、企業側が内々定通知を出したうえで、学生と読み合わせまで行っていたことが分かり、大学が企業に対し抗議したところ、この学生には無事に内定が出たということです。

大学では、新型コロナウイルスで先行きが見通せない中、同様のケースが増えるのではないかと懸念しています。

キャリア支援センターの住田曉弘部長は、「内定が出たあとも何かあれば相談をするように学生に周知することが改めて必要だと感じた。例年であれば学生に内定が出ればわれわれのサポートもそこで終わりだったが、ことしは卒業するまでサポートを続けなければならないと思っている」と話していました。

学生「卒業して就職先がないままなのは寂しいし怖い」

コロナ禍で就職活動にも影響が広がる中、今後の進路を見直さざるを得なくなっている学生もいます。

首都圏の大学に通う4年生の女子学生は、当初は以前から希望していた、建築や不動産業界、アクセサリーなど宝飾品を扱う業界を中心に就職活動をしていましたが、内定を得られず、秋以降は業界を広げて活動していると言います。

女子学生は、「自分の好きなものに関わりたいと思って関心のある業界で探していましたが、新型コロナウイルスの影響か、選考基準が厳しくなっていると感じることもあり、夏休みが終わった9月ごろから焦りが出始めたので、自分の好きなことは二の次で何か自分ができそうなことを探そうと思っています」と話しています。

また、就職活動を続けていく中でほかの進路も考えるようになったと話し、「関東での就職を希望していて、年内にどうにか就職先を決めたいと思っていますが、それでも決まらなかったら地元の東北に戻ってもう1年、フリーターか何かをしながら正社員での就職を目指そうかなとか、専門学校に通おうかなとか、いろいろな進路を考えるようになりました」と話していました。

そして、厚生労働省などが経済団体に対して卒業後少なくとも3年以内は新卒扱いとするよう要請していることについて、「採用人数の減少に関しては自分たちの努力ではどうしようもできないですし、自分のやりたいことをできないのは悲しいです。3年間は新卒扱いと言われていますが、卒業して就職先がないまま、何者でもない人になるのは寂しいし怖いという思いがあります。本当に、新卒と同じように扱ってもらいたいと思っています」と訴えました。

観光学部では27ポイント余下回るところも

都内の玉川大学では、学生からの報告をもとに内定率をまとめていますが、観光業界や航空業界を目指す学生が多い観光学部では、10月時点で51.0%と去年同時期の78.8%を27ポイント余り下回りました。

大学のキャリアセンターでは、学生が大学に来る機会が減り、内定の報告自体が遅れている可能性もあるとしつつ、コロナ禍で厳しい状況にある業界を中心に、影響が大きくなっているとみています。

センターに寄せられる学生からの相談では、「航空関係のグランドスタッフ志望だが採用が中止になった」とか、「ホテル業界で結果が出ず、どう活動したらいいのか」といった不安の声が相次いでいるといいます。

キャリアセンターの大槻利行センター長は、「ホテルや航空会社、旅行業界を志望する学生は、大学入学の段階から将来の夢をイメージし在学中も準備をしてきている。突然採用が止まり、気持ちの持って行き場がなく、どういう風に方向転換していいか分からないまま時間が過ぎてしまったのではないか」と話していました。

多くの授業がオンラインで行われる中、キャリアセンターを訪れる学生はほとんどいないということで、大学では、メールでエントリーシートを送ってもらって添削をしたり、求人のある企業と学生をマッチングさせようと、個別に採用情報を送ったりして支援を続けていますが、実態を把握できているのか、危機感を募らせています。

大槻センター長は、「サポートがあればうまくいく学生や、特別な支援が必要な学生を拾い切れていないのではないかという懸念がある。今まで対面だからできていた支援をどう補完できるのか、電話では相談しづらいという声もあるので、SNSなど学生にあった態勢を整えようと考えている。求人自体は業界を選ばなければあるので、励まし伴走しながら最後まで送り出していきたい」と話していました。

ハローワークに多くの学生訪れる

ハローワークには、就職活動を続ける学生が多く訪れています。

東京 新宿区にある「東京新卒応援ハローワーク」は、大学や専門学校などを卒業する予定の学生や、卒業から3年以内の人を対象に、企業説明会の紹介などを行っています。

訪れる学生などは新型コロナウイルスの影響で9月までは去年より大幅に減少していましたが、後期に入り対面の授業を再開する大学が増えるのに伴い利用者が増え始めているということです。

ハローワークによりますと、就職活動のイベント中止などの影響で一部の学生は活動が長期化しているほか、新型コロナウイルスの影響を大きく受けている観光業や航空業界などを希望していた学生が、業種の変更を余儀なくされるケースが出ているということです。

ハローワークの窓口には就職活動を続ける学生が多く訪れ、1時間近くにわたって職員から応募書類の書き方を教わったり模擬面接を受けたりしていました。

「東京新卒応援ハローワーク」の星野亜弓室長は、「内定が決まった学生と就職活動を続ける学生と二極化している状況があると思う。

学生一人一人の状況を把握し、きめ細かく支援をしてきたい」と話しています。

厚労省 学生の支援強化

厚生労働省は学生の支援などを強化しています。

就職活動を続ける学生などを対象に各都道府県に設置された「新卒応援ハローワーク」では、専門の相談員が応募書類の書き方や面接指導などの支援を個別で行っているほか、就職活動の長期化に悩む学生などに対し臨床心理士が精神面でのサポートを行っています。

また、大学生などの採用を計画している企業と連携してオンラインでも参加できる面接会や説明会を企画し、日程や場所などの情報を厚生労働省や各地の労働局のホームページで紹介しています。

また内定を取り消された大学生や高校生などを対象にした専用の窓口を全国56か所に設置して支援を行っています。

経済団体に対しては卒業後少なくとも3年以内は新卒扱いとするよう要請するとともに、企業にも最大限の経営努力をして内定取り消しを防ぐよう呼びかけています。

加藤官房長官「第2の就職氷河期世代作らないよう全力」

加藤官房長官は、午後の記者会見で、「来年の春に卒業予定の学生の就職活動については、経済団体に対し、卒業後3年以内は新卒扱いとするなど、中長期的な視点に立って採用を進めるよう要請するとともに、ハローワークなどで、大学などとも連携しながら、学生一人ひとりが置かれている状況に応じた、きめ細かな就職支援などを行っている。第2の就職氷河期世代を作らないよう、引き続き、政府一丸となって、前途ある学生の雇用を守るため全力をあげていく」と述べました。

識者「就職氷河期の過ち 繰り返さないよう」

大学生の就職活動に詳しい東京大学大学院教育学研究科の本田由紀教授は、「7ポイントはかなり大きな減少で、ここ数年間の『売手市場』がぱっと消えてしまった印象だ。観光産業や航空産業、接客など対人サービスを伴う多くの業界で難しい状況が続いていると言われ、積極的な採用をしにくい情勢にあることを反映している。また緊急事態宣言で4月から6月の内定が増える時期に企業の採用活動が滞ったので、その時期に活動を本格化させた学生には大変厳しい状況になっている」と見ています。

そのうえで、「感染状況が見通せない中、今後、内定辞退に追い込まれるケースが出てくるおそれがあり、企業に対し政府から強いメッセージを出してもらうとともに、労働関係の公的な機関が学生からの相談を受け付けるなど、若者を見守る必要がある」と話していました。

そして、「たまたま、ことし就職活動にあたってしまった学生たちがそれによって、一生苦しむことはないよう、これから数年かけて仕事を見つけてもらえるような環境を作っていくことが非常に重要だ。日本は1990年代の就職氷河期につらい若者を生み出してしまったが、採用の減少が大きな要因だったのに、若者の責任であるかのような対策が多かった。当時の過ちを繰り返さないよう企業にも学生にも力強い施策を講じていくことが必要だ」と指摘しています。