RCEP 15か国が協定に
署名 巨大自由貿易圏に

RCEP=東アジア地域包括的経済連携は、日本や中国、韓国、それに、ASEAN各国など15か国が首脳会議で正式に合意し、協定に署名しました。アジア太平洋地域で、世界の人口やGDPのおよそ3割を占める巨大な自由貿易圏が生まれることになります。

アジア太平洋地域での自由貿易圏の構築を目指す、RCEP=東アジア地域包括的経済連携をめぐり、日本や中国、韓国、それに、ASEAN各国など15か国は、15日、オンライン形式で、首脳会議を開きました。

この中で、菅総理大臣は、「日本は一貫して、自由で公正な経済圏を広げ、多角的自由貿易体制を維持し、強化するために率先して行動してきた。RCEPは、市場アクセスを改善するのみならず、知的財産や電子商取引のルールを整備し、地域の貿易や投資を促進し、サプライチェーンの効率化を促すものだ」と述べました。

その上で、「コロナ禍で世界経済が低迷し、内向き思考も見られる中でも、自由貿易を推進していくことがよりいっそう重要だ」と強調しました。

また、今回署名を見送ったインドについて、「地域の経済枠組みに不可欠なプレーヤーであり、協定への将来の復帰に向けて、引き続き、主導的な役割を果たす決意だ」と述べました。

そして、会議では、15か国が協定の内容に正式に合意し、署名式が行われました。

一方、インドについては、協定の発効後、参加を受け入れるとし、要請がありしだい、速やかに交渉を始めるなどとする担当閣僚の宣言をまとめました。

今回の協定で、アジア太平洋地域で、世界の人口やGDPのおよそ3割を占める、巨大な自由貿易圏が生まれることになり、TPP=環太平洋パートナーシップ協定を上回ります。

また、日本にとっては、最大の貿易相手国である中国と3番目の韓国と結ぶ初めてのEPA=経済連携協定となります。

政府は、今後、早期の発効に向けて、必要な国内手続きを進めることにしています。

梶山経済産業相「早期発効に向け取り組む」

RCEPの署名式に菅総理大臣とともに出席した梶山経済産業大臣は、終了後、総理大臣官邸で記者団の取材に対し、「8年にわたる交渉を締めくくる共同首脳声明が発出され、協定に署名した。早期の発効に向けてしっかり取り組んでいきたい」と述べ、インドを除く15か国で協定に署名したことを明らかにしました。

その上で、「日本の工業製品や農林水産品のアジア圏への輸出拡大に大きく寄与し、アジアにおける自由で公正な経済ルールの構築に資するものと確信している」と述べ、その意義を強調しました。

一方、署名を見送ったインドについて梶山大臣は「インド側の事情で今回の参加を見合わせた。地政学的にも経済全体の規模感を考えてもインドに入って欲しい。できるだけ早くインドが入れるよう日本としても最大限の努力をしたい」と述べました。

RCEP交渉の経緯

RCEP=東アジア地域包括的経済連携は、日本と中国、韓国、インド、それにASEAN=東南アジア諸国連合の加盟国などアジア太平洋地域の16か国が参加する世界最大の経済連携協定として2012年から交渉が始まりました。

▽工業製品や農産物の関税の撤廃について話し合う「物品貿易」、▽海賊版の取締りなどについての「知的財産」、▽インターネット上の取り引きなどのルールについて検討する「電子商取引」など、交渉は20の分野にわたりました。

しかし、国内産業への影響を懸念するインドは、去年11月以降、あらゆるレベルの交渉への出席を見送り続け、各国がRCEPの署名に向けた作業を進める中、インドが交渉にとどまるかが焦点となっていました。

これまでのEPA=経済連携協定など

日本は、近年、RCEPのような大型のEPA=経済連携協定によって、貿易や投資の拡大を目指してきました。

日本にとって初めてのEPAはシンガポールやインドネシアなどASEAN=東アジア諸国連合との協定で2010年までにすべての国との間で発効しました。

また、TPP=環太平洋パートナーシップ協定は、アメリカが離脱したもののオーストラリアやカナダなど11か国の間で2年前に発効し、去年は、EU=ヨーロッパ連合とのEPAも始まりました。

さらにEUからの離脱に伴うイギリスとの新たなEPAも来年1月の発効に向けて、国会で審議が行われています。

こうした中、ASEANに日本の最大の貿易相手国の中国、3番目の韓国などを加えたRCEP=東アジア地域包括的経済連携は現在交渉中のものとしては最後の大型EPAでした。

今回の合意により日本の貿易額のうち、関税の撤廃や引き下げが適用される相手国・地域の占める割合は現状の5割からおよそ8割まで広がることになります。

インド離脱の影響

日本は、インドを含む自由貿易圏を構築することを提唱し、インドを含む形での合意を目指してきました。

人口13億の巨大市場を取り込むことで、日本企業の進出を促すとともに、民主主義や法の支配などの価値を共有する「自由で開かれたインド太平洋」構想を経済面からも支えるためです。

しかし、インドは貿易赤字となっている中国からの輸入がさらに増え、国内産業に影響が出ることを懸念して、去年11月以降、あらゆるレベルの交渉への出席を見送り続けました。

日本は交渉への復帰をぎりぎりまで呼びかけましたがインドの姿勢は変わらず、15か国での署名に合意することになりました。

インドが抜けたことにより、参加15か国の世界の人口に占める割合はおよそ50%から30%に減り、GDPに占める割合も3%あまり減ることになります。

域内だけでなくインドを経由地として他の国や地域にビジネスチャンスを広げようという当初の狙いも実現せず、巨大な市場を抱える中国の影響力が強まることも懸念されます。

各国は、RCEPの発効日以後、インドの参加を受け入れるとし、要請がありしだいただちに交渉を再開することを確認したとしています。

また、インドはRCEPの会合にオブザーバーとして、参加できるとしています。

一方、日本はRCEPを補完する枠組みとしてインドとオーストラリアのあわせて3か国で自動車部品などの供給網の強化で連携する取り組みを始めています。

日本としてはインドとの経済的に良好な関係を維持し、発展させていく中で、RCEPへの復帰を働きかけていく方針です。

日本にとって重要な意味

自由貿易を進める日本にとってRCEPは重要な意味を持ちます。

今回の合意によって、最大の貿易相手国である中国や3番目の相手国の韓国を含む初めての経済連携協定となり、アジア太平洋地域で世界の人口やGDPのおよそ30%をカバーする巨大な自由貿易圏が生まれることになります。

TPP=環太平洋パートナーシップ協定でカバーするのは世界のGDPの13%、人口で見ると7%でTPPよりも大きな自由貿易圏が誕生することになります。

また、関税の撤廃や削減がされたり、貿易に関するルールが統一されたりすることで、日本企業にとってはASEANの生産拠点から中国への輸出を拡大できる可能性が広がり、新型コロナウイルスの感染拡大でもろさを露呈した部品の供給網=サプライチェーンの強化を図ることもできます。

ただ、農林水産品や工業品にかけられていた関税の撤廃率は、全体で91%とTPP=環太平洋パートナーシップ協定や日本とEUのEPAに比べて低い水準に抑えられています。

さらにインドが署名を見送ったことで、RCEPの中で最も大きい市場を抱える中国の存在感がさらに高まることを懸念する声も出ています。

アメリカは、トランプ政権の誕生以降、自国第一主義を掲げ、保護主義的な動きを強めています。

今回の大統領選挙で勝利を宣言したバイデン前副大統領は、他の国に高い関税をかけるトランプ大統領の手法に対して批判的な立場を取っていて、こうした強硬な政策が見直されるのではないかという見方もあります。

多国間による自由貿易の推進が重要だとする日本が今後も主導的な役割を果たしていけるのか、そのリーダーシップが問われることになります。