クマ被害 過去最悪のペース
4月以降全国で138人

全国でツキノワグマに襲われてけがをするなど人への被害が相次ぐ中、ことし4月以降被害にあった人の数は、国が統計を取り始めて以降最も多くなった昨年度の154人に迫る、138人に上ることがわかりました。これは去年の同じ時期を上回る過去最悪のペースで、今月に入っても被害が相次いでいることから、専門家などが注意と対策の徹底を呼びかけています。

NHKがツキノワグマの出没が確認されている全国33都府県に取材したところ、ことし4月以降クマに襲われてけがをするなどの被害にあった人は21府県の138人に上り、このうち2人が死亡しました。

昨年度は154人と環境省が統計を取り始めて以降最も多くなりましたが、今年度は先月末の時点で去年の同じ時期をすでに9人上回っていて、過去最悪のペースで被害が相次いでいることになります。

県別では岩手が28人と最も多く、新潟が16人(1人死亡)、石川が14人、福井が12人、長野が10人、秋田が9人(1人死亡)、福島も9人などとなっています。

被害は8月は28人、9月は25人でしたが、先月は44人と急増していて今月に入っても7府県で10人と被害が相次いでいます。

クマの生態に詳しい石川県立大学の大井徹教授は「ことしは去年より深刻な山のえさ不足に陥っている可能性があると考えられる。クマの異常な出没は今月下旬までは続くとみられ、クマが冬眠する来月までは住宅近くの柿の実の除去や、やぶの草刈りなど対策の徹底を続ける必要がある」としています。

市街地中心部でも出没相次ぐ

ことしは各地で市街地中心部などへの出没が相次いでいます。

先月19日には石川県加賀市のショッピングセンターにクマが侵入したほか、福井市でも先月、商業地区にクマが現れ、発見の6時間後に捕獲されました。

山から離れた場所になぜクマが現れるのか。
大井教授は「多くの場合、クマが身を隠しやすく、クマのえさも実っている河川や用水路を通って来ていると考えられる」と指摘しています。

「川」に着目し対策

こうした中、中心部への出没を防ぐため、川に着目した対策も始まっています。

福井県大野市では、山から市内へ流れる2つの川で目撃情報が入ると、市の職員と猟友会のメンバーが現場に直行し、おりを仕掛けてクマを捕らえます。

去年、市内で捕獲したクマ50頭のうち半数以上が河川敷で捕獲したもので、その先の中心部へクマが進むのを食い止めた形です。

大野市の担当者は「クマは川や用水路を通って、いきなり町なかにぽこっと出てくる場合もあるので、やはり人身被害を起こさないためには川から市街地に入らないよう取り組んでいます」と話しています。

最新技術でいち早く見つける取り組み

市街地にやって来るクマを、最新技術を使っていち早く見つけ、人的被害の抑止につなげようという取り組みも始まっています。

石川県でクマへの対策に活用されているのが、小型無人機のドローンです。

加賀市の観光地、山代温泉では今シーズン、人がクマに襲われてけが人が相次いだほか、ショッピングセンターにクマが侵入して店が営業できなくなるなど被害が続いています。

こうした中、今月8日、ドローンを活用した上空からのパトロールが始まりました。

毎朝の通勤通学の時間帯、山あいと市街地の間のエリアの上空80メートルの高さからリアルタイムで映像を確認できます。

ドローンには通常のカメラに加えて赤外線カメラも搭載され、温度変化を感知して木の陰などに潜むクマも発見できるということです。

加賀市経済環境部の山田圭一部長は「上空からふかんすることで広範囲を短時間でパトロールできます。地上での警戒も強化して住民の安全を守りたい」と話しています。

石川県内では金沢市でもドローンを使ったパトロールが行われているほか、小松市ではクマの出没が続く地区に、動物の動きを熱で感知し自治体の担当者に自動で通報するカメラが設置されるなど、クマ対策の現場で最新テクノロジーの活用が進んでいます。

出没対策「ゾーニング」が重要 課題も

一方、出没を根本的に防ぐためには、クマの生息域と人間の生活圏を分ける「ゾーニング」と呼ばれる対策をとることが重要ですが、地域住民の協力や負担が必要なことから、取り組みは地域によって差があるのが実情です。

福井県鯖江市の河和田町では、ことし、クマの出没が増えたことから先月31日、急きょ山際の600メートル余りに出没を防ぐための電気柵の設置を行いました。

設置作業には地区の住民16人が参加し、平日は仕事を抱える人も多いことから週末に行われましたが、山の斜面に3時間半かかって柵を張る体力的に厳しい作業に、参加者からは「なかなか大変です」「足がちょっとつらいです」といった声があがっていました。

しかしこれで終わりではなく、設置後は柵が倒れたり草が伸びたりしていないか、住民が協力して定期的に点検していく必要があります。

住民の家を1軒ずつ回って電気柵の設置を呼びかけた地元の区長の能村和弘さんは、「皆さんが安全安心でいるために、点検作業についてもどういうふうに分担していくかが今後の課題です」と話していました。

33都府県へ調査 対策に地域差 被害大きくなることも

ツキノワグマの出没が確認されている33都府県への取材でも、高齢化と人口減少が進む中で、地域住民がクマの出没を防ぐ対策を進める難しさが浮き彫りになっています。

出没を防ぐための対策に「取り組んでいる」と回答した31都府県のうち、クマを引き寄せる柿の木の伐採や、やぶの草刈りに補助金を出すなど、具体的な支援策を進めているのは19の都県でした。

この19都県に対策の実施状況について聞いたところ、68%にあたる13の都県が「地域によって差がある」や「進んでいない地域が多い」と回答しました。

理由としては、6つの県が「住民の意識に差がある」、5つの県が「少子高齢化などで地域の協力を得ることが難しい」と回答しました。

大井教授は「クマが出没する地域の間で対策の差があると、対策をしていない地域のほうにクマが集中し、被害が大きくなることも考えられる。今回の結果を見ると、その認識が広がっていないようなので、対策を進めるために行政が経済的、技術的な支援や実態についての周知に取り組むべきだ」と話していました。