首都圏で避難「散」の
支援システム導入の自治体も

台風10号では九州の各地の避難所で避難者の数が定員に達し、受け入れられないケースが相次ぎました。首都圏でも去年の台風19号で同様のケースが相次いだことから、スマホやAIを使って避難の「分散」を支援するシステムを導入する自治体が出てきています。

東京・多摩市では、避難所の混雑の状況をスマートフォンの地図で確認できるシステムを作り、先月から運用を始めています。

多摩市では去年の台風19号で10か所の避難所を開きましたが、避難者が3人の場所があった一方、1300人余りが集中したところもあり、別の避難所への移動を迫られる人も出ました。

このため多摩市は都内のIT企業と共同で、避難所の混雑の状況をスマホやパソコンの地図で可視化して市民が確認できるシステムを開発し、先月24日から運用を始めました。

システムでは、避難所内に「空」「やや混雑」「満員」の3段階のボタンがあり、避難所の職員が選択すると地図上にその状況が反映され、住民が避難所を選ぶ参考にすることができます。

多摩市防災安全課の城所学課長は、「スマホを使える若い方たちが、システムを使って空いている避難所に行ってもらえれば、スマホがない高齢の方には近くの避難所に入ってもらえ、避難所に入れないケースを減らせると期待している」と話していました。

一方、川崎市が導入しようとしているのが、AI=人工知能です。富士通と連携してシステムの実験を進めています。

このシステムでは、避難所の入り口などに設置したカメラの映像からAIが避難者の人数や避難者どうしの距離を分析し、避難所の混雑状況や新型コロナウイルスの感染リスクを判定します。

先月31日には台風19号のとき避難者で混雑した小学校で実証実験も行われ、人が密集して感染リスクが一定以上に高まっていると判定すると警報音が鳴り、市の職員が避難者役の人たちに対して互いに距離を取るよう指示していました。

また避難所が混雑しているという情報は、市の災害対策本部にもリアルタイムで送られ、本部の職員が避難所にいる職員に指示して、近隣のすいている避難所に移動してもらうよう伝えていました。

川崎市危機管理室の飯塚豊室長は、「去年の台風19号では大勢の避難者の対応に追われ、災害対策本部に情報が集約できなかった。コロナ禍での避難所の運営にAIによる見える化をどう生かすか検討を続けたい」と話していました。

去年の台風19号 避難所不足課題に

去年の台風19号では人口が集中する東京で、「避難所不足」が課題になりました。

NHKの取材で東京23区と氾濫した多摩川沿いの市、合わせて37の自治体のうち、3分の1を超える13の自治体で避難所やその駐車場に住民や車が入りきらず、別の避難所に移動させたことがわかっています。

避難所に避難した人の数は合わせて17万6500人余りにのぼり、専門家などによりますと都内の避難者の数としてはこの数十年で最も多かったとみられます。

当時は、多くの住民が避難したことで、自治体の中には追加で避難所を開設したり、避難所のスペースを急きょ拡大したりして対応したところも多くありました。

東京都 避難所確保へ支援進める

東京都は、災害が起きた場合、避難所に人が密集して新型コロナウイルスの感染が拡大するのを防ぎながら多くの避難所を確保できるよう区市町村を支援する取り組みを進めています。

このうち避難所での生活を改善し感染拡大を防ぐ対策として、都は先月、被災者の住環境の支援を行うNPO法人「ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク」と協定を結びました。

これにより大規模な災害が発生した際、▽段ボール製の柱とはりに布をかけて個室を設けることができる間仕切りと、▽段ボールの簡易ベッドをセットで提供してもらいます。

間仕切りは避難者のプライバシーを守るだけでなく、人と人との間隔を十分に確保して飛まつを防ぐことができます。ことし7月の記録的な豪雨で被害を受けた熊本県人吉市などでも活用されるなど、全国各地の被災地で使われています。

このほか都は、避難所が定員でいっぱいになるなどして不足した場合や、3密を避けるために、ことし6月にホテルや旅館の業界団体と部屋を提供してもらうための協定を結びました。

さらに感染症対策として車で逃げる人を想定し、店舗や駐車場を避難場所として活用できるようショッピングセンターやホームセンターの業界団体とも協定を結んでいます。

都防災計画課「安全な場所 あらかじめ確認を」

東京都防災計画課の佐藤義昭課長は「避難所が過密にならないようより多くの避難所を開設することが重要なので、公的な施設だけでなく民間企業にも協力を得て区市町村を支援していく。一方で、行政による避難先の確保は限られているため、避難=避難所ではなく知り合いの家など安全な場所をあらかじめ確認しておいてほしい」と話しています。