業の長時間労働防ぐ
新ガイドライン9月導入へ

新型コロナウイルスの感染拡大を背景に本業以外にも仕事をする副業や兼業は今後、さらに増えるとみられています。厚生労働省は企業が働く人からの自己申告で副業などの時間を把握し、長時間労働を防ぐとした新たなガイドラインを9月から導入することになりました。

27日開かれた厚生労働省の審議会には労働組合や経済団体の代表などの委員が出席し、副業や兼業に関するガイドラインの見直し案が示されました。

それによりますと長時間労働や健康被害を防ぐために企業は働く人からの自己申告で副業で働いた時間を把握し本業と副業の労働時間を通算して労務管理を行うとしています。

ただし、企業と労働者が話し合い、本業と副業の労働時間を合わせても、法律で定められた残業時間の上限である、1か月平均80時間を超えない範囲で、残業時間の上限を事前に設けた場合は企業が副業の労働時間を把握する必要はないとしています。

また企業には副業をする社員と定期的に面談を行うなど健康管理を徹底するよう求めています。

27日の審議会では労働組合の委員から「働く人は立場が弱いので労働時間などをきちんと申告できるのか懸念がある」などという意見も出されましたが、話し合いの結果、ガイドラインの案は了承されました。

総務省の調査によりますと、3年前複数の職場で雇用されていた人はおよそ128万8000人と10年前と比べて25%増加しています。新型コロナウイルスの感染拡大を背景に休業などで収入が減ったり、在宅勤務で通勤の時間がなくなったりする人も少なくなく新たな収入などを求めて副業や兼業をする人は今後、さらに増えるとみられています。

厚生労働省は副業や兼業に関する新たなガイドラインを9月から導入することにしています。

ヤフー 副業として働く人およそ100人募集

副業を認める企業が増える中、逆に副業として働く人を大規模に募る動きも出ています。

IT大手のヤフーは7月、ほかの会社やフリーランスで働く人を対象として、事業戦略のアドバイザーやエンジニアなどを務めてもらうため、およそ100人を募集しました。

週に1回から数回、ヤフーの仕事をしてもらうことを想定していて、報酬は仕事の内容などに応じて月に5万円から15万円ほどになるということです。

新型コロナウイルスを受けた「新しい日常」に対応した事業やサービスを開発するため、外部から多様な人材を確保するねらいがあり、これまでに4000人以上から応募があったということです。

応募してきた人は、年代としては30歳前後が最も多く、本業の勤め先は大企業からベンチャー企業までさまざまで、なかには経営者や海外に住む人もいるということです。

ヤフーでは、早ければ9月下旬にも採用する人を決めたいとしています。

企業の労務担当者「働いた時間の把握は難しい」

新たなガイドラインについて企業からは「副業を認めやすくなる」という意見が聞かれる一方で「自己申告で副業の時間をきちんと把握できるのか」という懸念も出ています。

東京・港区の電気設備工事会社では社員のキャリアアップを図ろうと3年前に社員の副業を認める制度をつくりました。

副業を行うためには、副業先の場所や、見込まれる毎月の勤務日数や労働時間などを記した申請書を会社に事前に提出することが必要です。

現在、3人の社員が副業を行っていてこのうち経理部の濱田拓麿さん(32)は、ことし1月から美容院で1か月に2日ほど副業をしています。

濱田さんは本業では、パソコンを使って名刺や会社のロゴのデザインの作成を担当していて、この技術を生かして副業先の美容院でも広告のデザインを行ってます。

濱田さんは「副業を始めてみて、本業にはない経験もでき、本業の業務の習熟度もあがったと感じています。計画的に休みを取るようにしていますが、それぞれの職場の協力がないと働く時間や健康の管理は難しいと思います」と話しています。

この会社では社内で副業のルールを設けていて、1か月の時間外労働が40時間を超える場合には副業を認めていないほか負担の大きい深夜勤務の副業を行うことや副業の労働時間についてうその報告を行うことなどを禁じています。

また副業を行っている社員と定期的に面談を行い、健康状態などをチェックしています。

来月から新たなガイドラインが導入されることを受けてこの会社では社内の副業のルールを見直すことを検討しているということです。

電気設備工事会社「HEXEL Works」で労務管理を担当している人事部の稲富光平さんは「新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに多くの企業で在宅勤務などを導入していて今後、副業の可能性は広がっていくと思いますし、ガイドラインができたことで企業が副業を認めやすくなると思います。ただ、副業で働いた時間の把握は難しいので結果的に長時間労働になってしまう可能性もあります。社員が疲れていないかなど社内でのコミュニケーションも大切だと思います」と話しています。

弁護士「実効性を担保する必要ある まだ課題多い」

日本労働弁護団の笠置裕亮弁護士は「残業すると上司から文句を言われるとして労働者が残業時間を申告しづらい状況が以前からあったことに加えて自己申告がなければ責任を負わなくてもいいのではと考えあえて副業で働いた時間を把握しようとしない企業が出てくる恐れもある。生活のために副業せざるを得ない人が今後、増えるとみられるなか、長時間労働を防ぐためにも、ガイドラインの実効性を担保する必要があるが、その点でまだ課題は多い」と指摘しています。

そのうえで「今回のガイドラインは副業で、個人で仕事を請け負うフリーランスとして働く場合は労務管理の対象となっていないがこうした場合の長時間労働を防ぐ対策も必要だ」と話しています。