染者情報のデータベース
一部データ把握できず

新型コロナウイルスの感染者の情報を集約する国のデータベースで、システムを変更したあと、国が「発症日」や「職業」などのデータを把握できなくなっていることが、厚生労働省への取材でわかりました。専門家は「感染の動向を見極めて対策を打つために不可欠なデータで、早急に改善すべきだ」と指摘しています。

問題になっているのは、国がことし5月以降、全国の自治体で導入を進めてきた情報システム「HER-SYS」です。

医療機関や保健所などに感染者のさまざまな情報を入力してもらい、国が一括して管理するシステムで、保健所を運営するほぼすべての自治体が使用しています。

ところが、厚生労働省によりますと、システムがいまだに整備中で集計機能が使えないことなどから、国がデータを把握できなくなっていることが分かりました。

把握できなくなっているのは「発症日」や「職業」などのデータで、これまでは感染の広がりなどを分析する際に活用されてきました。

感染症の分析に詳しい国立病院機構三重病院の谷口清州臨床研究部長は「感染がいつどこで、誰に広がったかを知る上で重要なデータで、感染の動向を把握するには不可欠なものだ。分析できなければ対策につなげることもできず、早急に改善すべきだ」と指摘しています。

厚生労働省は「問題は認識しているが、自治体のホームページなどから感染者の情報は収集していて、流行の状況はおおまかに把握できている。感染対策の遅れにはつながっていない」としています。

詳細な分析できず

国は感染症法に基づいて、「感染症発生動向調査」と呼ばれる調査を実施しています。

感染症の発生状況を正確に把握して分析し、対策につなげることが目的です。

国立感染症研究所に設置された「中央感染症情報センター」が中心となって分析作業にあたり、結果は毎週、「感染症週報」として研究所のホームページで公開されています。

ところが、厚生労働省によりますと、国内の感染者の情報を集計する新しい情報システム、「HER-SYS」のデータは現在も分析に使用できていません。

理由について厚生労働省は、「集計機能を整理中」と説明しています。

このため、従来のデータベースで分析を続けてきましたが、HER-SYSへの移行に伴い、入力されるデータの減少が進み、特に先月以降は感染状況について詳細な分析ができていないということです。

先週発表された最新の週報には、「HER-SYSが導入されて以降、調査が過小評価になっている。今後、従来のシステムを使った国内の新型コロナウイルス感染症の詳細な分析は不可能になったと考えられ、法に基づくサーベイランス=発生動向調査からの情報還元が困難な状況になった」などと記載されています。

専門家「感染症対策に必要な情報なければ極めて問題」

感染症の調査が専門で、国立病院機構三重病院の谷口清州臨床研究部長は、「感染症対策を進めるためには、今、何が起こっているかを迅速かつ統一的に把握することが必要不可欠で、時間と場所、人の情報は疫学の3要素だ。発症日別の感染状況など対策に必要な情報がほとんど出てこない状態になっているのだとすれば極めて問題だと思う」と話しています。

また、「HER-SYS」について、「報告を求める項目が非常に多岐にわたっていて、保健所や医療機関などの大きな負担になっている。入力した情報すべてが本当に必要なのかが疑問で、分析されていないのであればむだな作業になってしまう。分析しないデータを要求してはいけないというのはサーベイランスの大原則で、適切な状況ではない。感染症対策には国だけでなく保健所や医療機関、国民が関わっているのに、必要な情報を提供できていないことが1番の問題だ」と指摘しています。

国立感染症研究所「情報分析に影響の懸念」

国立感染症研究所で感染状況の調査を担当している砂川富正室長は、「HER-SYS」が分析に使えなくなっていることについて「必要な項目の情報が十分に得られなかったり、正確性が判別できない問題が起きている。各地の自治体では『HER-SYS』への移行が進んでいるが、そのことによって、全国の情報を分析して還元できなくなっている」と話しています。

研究所では、感染状況の詳しい分析は、以前から使ってきたシステムで集めたデータを使って行っていますが、現在、「HER-SYS」でしか得られないデータもあり、実際より感染者数が少ないデータを使って分析する結果になっているとしています。

砂川室長は「全国統一の届け出基準に基づく正確な情報を元に、新型コロナウイルスの感染の広がりや、重症者の動向を継続的に見ることが必要だが、今後、情報分析に影響が出てくることが懸念される」と指摘しています。

さらに、砂川室長は、「HER-SYS」について、感染状況の分析に欠かせない項目が医療機関や保健所が必ず入力しないといけない項目として示されていないとして「入力されたデータの正確性を担保する仕組みを作るとともに、保健所と医療機関の負担にならない形で入力する項目を整理することなどが必要だ」と、システムを改善する必要性を強調しました。