可保育施設の1割余
非正規職員に休業補償せず

保育所やこども園では新型コロナウイルスの影響で多くの保育士が休まざるを得なくなりましたが、東京大学の大学院が行ったアンケート調査の結果、通常の賃金が支払われるはずの認可施設でも、1割余りが非正規の職員に休業中の賃金を全く支払っていないことが分かりました。調査を行った研究者は所得補償について改めて周知する必要があると指摘しています。

東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センターは、感染の拡大が保育の現場に及ぼした影響を調べるため、4月末から先月中旬にかけて、インターネットを通じて全国44の都道府県の保育所やこども園、幼稚園などの園長や保育士らにアンケートへの協力を呼びかけ、954人から回答を得ました。

このうち、認可の保育施設の園長や施設長200人余りを対象に、休園や登園自粛で仕事が減ったり、子どもの学校が休校になったりしたために園を休まざるを得なくなった職員に所得を補償したか尋ねたところ、「なし」という回答は、常勤の正規職員については8.1%、非常勤職員では10.2%、パートタイムの職員では14.7%にのぼりました。

認可保育所や認定こども園などは新型コロナウイルスの影響で預かる子どもが減っても、国や自治体から人件費なども含めてこれまでとほぼ同額の運営費用が給付されているため、国は、職員が休んだ場合でも正規か非正規かにかかわらず、通常の賃金を支払うなど適切に対応するよう通知しています。

アンケートでは、「10割払った」という回答は常勤の正規職員については78.7%、非常勤職員は64.6%、パートタイムの職員は50.4%にとどまりました。

調査にあたった東京大学大学院の野澤祥子准教授は「施設側には子どもたちとかかわるのが仕事だという意識があり、働いていない状況でも給与を払わなければならないという認識がなかったのではないか。通常どおり払うよう周知していく必要がある」と話しています。

また、アンケートでは、認可外の施設も含め、協力を得られた954人に、全国に緊急事態宣言が出てから5月の大型連休までの期間に自分が働く施設が休園したか尋ねたところ、全面的に休園したという回答は3.4%にとどまりました。

自由記述欄には、「密が避けられない」「子どもがマスクを着用するのは困難」「感染から職員や利用者を守るすべがない」など、感染予防と保育の両立が困難だという声が多く寄せられました。

野澤准教授は「ほとんどの園が緊急事態宣言下でも開園して医療や介護関係などエッセンシャルワーカーの子どもを保育していたことが分かり、保育者と保育施設の重要性が改めて見えた。一方で、密なかかわりこそが乳幼児期には非常に大事なのに、疑問や懸念を抱えながら保育をしなければならないことが現場では非常に負担になっており、感染予防と子どもの成長に必要な経験とのバランスについてさまざまな分野の専門家と現場が一緒に考えていくべきではないか」と話しています。

“補償”拒否され退職を決めた保育士は…
認可保育所で働く保育士の女性は、休んでいる間の補償を拒否され、近く、退職することを決めました。

この女性は自分の子どもが通っていた保育所の保育士に憧れ、子育てをしながら資格を取得し、企業が運営する首都圏の認可保育所で働き始めました。クラスの担任も任されていましたが、4月中旬以降、自分の子どもが通う保育所が休園するなどしたため、仕事を休まざるを得なくなりました。

勤務先の保育所も原則休園となり、医療従事者などの子どもを預かるために、何人かの保育士が出勤するだけになりました。休むことになった女性や同僚は、休みの多くは給与の出ない「欠勤扱い」とされたため、通常より収入が減った分の補償を保育所側に求めました。

こうしたケースでは国は通常の賃金を支払うよう通知していますが、保育所からは「働いている職員と不公平が生じてしまう」などと言われ、補償は一切ないと説明されたということです。女性や同僚は自治体などにも相談しながら保育所に補償を求めましたが、対応は変わらず、女性は近く、退職することを決めました。

女性は「補償がないため生活ができなくなってしまう1人暮らしの職員や入社したばかりで有給休暇がない職員は『出勤させてください』と上にお願いする形で出勤していたそうです。理不尽さしか感じません。保育の仕事はとても尊い仕事で、未来ある子どもたちを育てるお手伝いをするとてもすてきな仕事だと思っています。ただ、国家資格を取得して働く専門職なのに軽視されすぎているのではないでしょうか。今のところまた保育士として働くつもりはありません」と話していました。