新型コロナ感染の士死亡
28歳 20代以下は初めて

日本相撲協会は、先月、新型コロナウイルスに感染し入院していた大相撲の高田川部屋に所属する三段目の勝武士が13日新型コロナウイルス性肺炎による多臓器不全のため東京都内の病院で亡くなったことを発表しました。28歳でした。大相撲で新型コロナウイルスに感染した力士が亡くなったのは初めてです。

亡くなったのは、高田川部屋に所属する三段目の勝武士、28歳です。

日本相撲協会によりますと、勝武士は、発熱やけん怠感のほか息苦しさなどの症状を訴え、先月8日から都内の病院に入院し、その後、新型コロナウイルスに感染していることが確認されていました。

その後、症状が悪化して、先月19日から集中治療室で治療を続けていました。

日本相撲協会によりますと、13日午前0時半に新型コロナウイルス性肺炎による多臓器不全のため東京都内の病院で亡くなったということです。

大相撲で新型コロナウイルスに感染した力士が亡くなったのは初めてです。

勝武士は、去年2月に行われたNHK福祉大相撲で相撲の所作や禁じ手などを力士2人がユーモアを交えて実演する「しょっきり」を披露し、会場を沸かせていました。

厚生労働省 20代以下の死亡は初

厚生労働省によりますと、11日の時点で国内で新型コロナウイルスに感染して死亡した人のうち、最も若い人は30代でした。

厚生労働省が把握しているかぎり、20代以下の人が死亡したのは初めてだということです。

支援者「しっかり食べる食欲旺盛な人」

勝武士は、同郷で同部屋の竜電の中学時代の1つ後輩で、角界入り後も付き人を務めてきました。

竜電山梨後援会の会長で、勝武士も支援していた飯室元邦さんは、「まだ28歳で全く信じられない。礼儀正しく、しっかり食べる食欲旺盛な人で、新型コロナウイルスで亡くなるとは思わなかった。次の場所で姿を見られるのを夢みていたので残念です。粘り強さがあり、相撲に一生懸命だった。竜電関の付き人として黒子に徹してサポートしてくれたので、竜電関は少しでもいい結果を出して、勝武士さんに感謝を伝えてほしい」と話していました。

八角理事長「粘り強く耐えた」

日本相撲協会の八角理事長は「このたびの訃報に接し、協会員一同、心より哀悼の意を表します。ご遺族の皆様方の傷心を察しますと、慰めのことばも見つかりません。1か月以上の闘病生活、ただただ苦しかったかと思いますが、力士らしく粘り強く耐え、最後まで病気と闘ってくれました。今はただ、安らかに眠ってほしいと思います。懸命の措置をしてくださいました医療機関の皆様には、故人に代わり深く感謝申し上げます」と追悼のコメントを発表しました。

芝田山広報部長「なんとか回復をと」

大相撲の高田川部屋に所属する三段目の勝武士が亡くなったことを受けて、日本相撲協会の広報部長を務める芝田山親方は「なかなか状況をお知らせできなかったが、私としてもなんとか心の中で回復してくれという思いでいっぱいだった。うちの部屋にも同期の弟子がいるが、非常に残念な思いだ」と話していました。

医療機関ひっ迫で速やかな検査や治療できず

日本相撲協会の発表によりますと、亡くなった勝武士が感染した時期は、東京都内の保健所や医療機関がひっ迫した時期と重なり、速やかな検査や治療ができなかったということです。

勝武士は先月4日から38度以上の発熱があり、師匠の高田川親方などが保健所に電話をかけたもののつながらず、7日の時点で医療機関も見つからなかったということです。

その後、先月8日になって、たんに血が混じる症状が見られたため救急車を呼んで入院先を探したものの、すぐには受け入れ先が見つからず、その日の夜に都内の大学病院への入院が決まりました。

この時点で簡易検査の結果は陰性でしたが、翌日の9日、状態が悪化して別の大学病院に転院し、10日の検査で陽性であることがわかりました。

そして入院から11日後の先月19日に、さらに状態が悪化し集中治療室で治療を受けていましたが、13日午前0時半に亡くなったということです。

小池知事「対応を検証したい」

東京都の小池知事は、新型コロナウイルスに感染し入院していた大相撲の高田川部屋に所属する三段目の勝武士が都内の病院で亡くなったことについて、「わずか28歳の力士の方がコロナでお亡くなりになるというのは大変衝撃だ。このコロナの感染症というのは年齢を問わず襲いかかってくるということを改めて感じた。心からお悔やみ申し上げたいと思う」と述べました。

そのうえで、感染した時期が都内の保健所や医療機関がひっ迫した時期と重なり、速やかな検査や治療ができなかったとされる点については、「今回どのような形で対応がされていたのか、よく確認をしたいと思う。今は都立の病院など必ず病院を確保して受け入れ態勢も整備しているが、その当時はさまざまな課題があったと思う。その辺はよく検証していきたいと思っている」と述べました。

本場所開催目指しさまざまな対策も…

日本相撲協会は、ことし3月の春場所で観客を入れずに無事15日間開催するなど、新型コロナウイルスに対するさまざまな対策を取ってきましたが、感染した現役力士が亡くなるという事態を防ぐことはできませんでした。

相撲協会は、春場所を無観客で開催するにあたって、感染症の専門家から事細かにアドバイスを受けました。

そのうえで、消毒の徹底や体温測定のほか、公共交通機関を使わずに力士と周囲との接触を極力避けるなど感染防止策を徹底し、協会関係者に1人の感染者を出すことなく、無事に春場所の15日間を乗り切りました。

しかし、春場所が終わった直後の3月下旬から国内の感染状況が急速に悪化し、先月3日、相撲協会は、夏場所の開催を2週間延期することをいったん決定しました。

さらに力士に対して外出の原則禁止を求めるなど感染防止対策を強化したものの、先月10日、角界では初めて勝武士が新型コロナウイルスに感染したことが明らかになりました。

相撲協会は、先月7日に緊急事態宣言が出されたあと各部屋に対し体をぶつけ合う稽古を控えるよう求めましたが、勝武士のほかにも師匠の高田川親方や同じ部屋で十両の白鷹山ら合わせて6人の感染が明らかになるなど感染が広がりました。

さらに緊急事態宣言の今月末までの延長が決まった今月4日には、「ファンや協会員の安全を守るため」として夏場所の中止を決め、7月の名古屋場所についても会場を愛知県体育館から東京 両国の国技館に変更したうえで、観客を入れずに開催を目指す方針を示しました。

相撲協会は、本場所の開催を目指してさまざまな対策を取ってきたものの、感染した現役力士が亡くなるという事態を防ぐことはできませんでした。

感染症対策の専門家「選手らのウイルス検査徹底を」

新型コロナウイルスに感染した力士が亡くなったことについて、感染症対策に詳しい東北医科薬科大学の賀来満夫特任教授は、「なぜ亡くなったのか詳しい分析は難しいが、20代という若さを考えるとウイルスへの感染が引き金となって、免疫が異常に活性化する『サイトカインストーム』などが起きた可能性が考えられる。また、肥満の人は重症化のリスクが高いとされているため、相撲という競技の特殊性から体を大きくしなければという状況の中で、重症化しやすくなっていた可能性はある」としています。

さらに賀来特任教授は、「プロスポーツは、試合や練習で身体の接触を伴うことも多く、頻繁に体力を消耗することから一般の人よりも感染や重症化のリスクが高い仕事といえる。大相撲だけでなく、プロ野球やサッカーJリーグなども含めてプロスポーツを開催していくには、こうしたリスクを踏まえたうえで、選手やスタッフのウイルス検査や健康観察を徹底するなど、何らかの基準を考えていく必要がある」と話しています。