難場所“密集防止で教室
や廊下も活用”9割 神奈川

大雨が多くなる時期を前に、神奈川県内では9割近くの市町村が、避難者の密集を防ぐため、避難場所として学校の教室や廊下も活用する見込みであることが分かりました。一方で、避難所に配置する保健師が足りないなど、運営面の課題も残されています。

雨が多くなる出水期を前に、神奈川県の33の市町村のうち9割近くにあたる29の自治体が、新型コロナウイルスの対策として避難所での密集を防ぐため、学校の体育館だけでなく教室や廊下も活用する見込みであることがNHKの取材で分かりました。

さらに、11の市や町では、これまで避難所として使っていなかったスポーツ施設や公民館などを新たに活用し、避難者の分散を図ることを検討しています。

このうち、県内で最も多い375万人が暮らす横浜市では、被害の状況に応じて避難所の数を最大でこれまでのおよそ1.4倍に増やすということです。

一方で、多くの自治体から、新型コロナウイルスの影響で毎年この時期に行っていた避難時の手順を確認する訓練をできないとか、避難所に配置する保健師のほか、除菌スプレーや体温計の確保が難しいといった声が出ていて、避難者の密集を避けるために避難所の数を増やしても、運営面に課題が残されています。

今月大雨 伊勢原市の対応

神奈川県伊勢原市は、新型コロナウイルスの感染が拡大するさなかの今月18日の大雨で、市内の一部の地域に避難準備情報を出しました。

避難所を開設し高齢者などに避難を始めるようメールで呼びかける一方、「新型コロナウイルス感染症のおそれがあるため、自宅にとどまれる人は無理に避難しないように」とも求めました。

すると、市民から「どうしたらよいのか」という問い合わせが複数寄せられ、感染防止と災害から命を守ることを両立させる難しさに直面したといいます。

伊勢原市は、避難所の学校では体育館に加えて教室まで開けることや、新たに地域の自治会館も避難所として活用することで少しでもスペースを増やし、「3密」を避ける検討を進めています。

そうした中、頭を悩ませているのが避難所運営の課題です。

避難所で感染が広がらないよう手や指を消毒するスプレーやマスクは備蓄していますが、肌に触れずに熱を測る体温計は確保のめどが立たず、体調については避難した人の自己申告に頼らざるをえない状況です。

危機管理を担当する大山剛部長は「『3密』を避けるためには避難所の面積を増やすことに尽きると思うが、配置できる保健師や職員にも限界がある。ゲリラ豪雨など予測が難しい大雨もあり、住民が迷わない避難呼びかけの文言も今回の対応が正解だったか分からないが、たとえ空振りになったとしても早め早めに避難情報を出して住民が考えられる時間を取れるようにしていきたい。出水期まであまり時間はないが、住民と一致団結して災害に対応したい」と話しています。

専門家「体調管理を工夫 早めに情報を」

避難所の衛生管理に詳しい日本赤十字北海道看護大学の根本昌宏教授は「自治体は避難所を増やすだけでなく運用について早めに想定し、入り口で発熱がないかを聞き取って、記録するなど体調管理の工夫が必要だ。避難所での感染をおそれて避難の呼びかけに二の足を踏むのではなく、むしろ早めに情報を出すことが求められている」と指摘しています。

一方、避難する住民側については「住民も自治体からの情報を正しく受け取る力が必要で、出水期前の今こそハザードマップを見てリスクを知ることが重要だ。避難所で感染を防ぐ対策を続けるため、マスクと消毒液、体温計に加えて断水も想定して、使い捨てのビニール手袋を事前に避難袋に準備しておいてほしい」と求めています。

そのうえで、根本教授は自治体と住民双方に向けて「新型コロナウイルスが流行していても、逃げなければいけない災害で避難をちゅうちょすることは絶対にあってはならない。情報共有がしにくいなど課題はあるが、できることを今のうちに一つでも増やして臨むことが大切になる」と指摘しています。