“ファーストレディー外交” 総理の妻と大統領の妻を結ぶのは

G7広島サミットを前に4月中旬、アメリカを訪問した岸田総理大臣の妻・裕子夫人。単独デビューとなった“ファーストレディー外交”はどう実現し、得られたものは何だったのか。本人にインタビューし、今後への思いを聞いた。
(西澤文香、清水大志)

訪米直前の爆発物事件

岸田総理大臣の妻・裕子夫人の単独訪米を控えた前日の4月15日。

予期せぬ事態が起きる。和歌山市で選挙演説を始めようとしていた夫のすぐ近くに爆発物が投げ込まれたのだ。

(裕子夫人)
ちょうど私は公邸にいて、最初はお昼のニュースで事件を知りました。その後、すぐ秘書から電話がかかってきて、総理は無事だと聞いて一応、安心したんですけれども、ちょうど選挙中ということもあり、多くの方がいらっしゃった所で起きたことでしたので、けがをされた方がいないようにと願っていましたし、またしてもこのようなことが起きたことに非常に衝撃を受けました

心に大きな衝撃を受けたが、訪米計画は予定どおり、進めることにした。

訪米にあたって、主人からは『リラックスして臨んだらいいよ』とアドバイスをもらいました

訪米のきっかけはお茶のもてなし

裕子夫人は、これまで長い間、そして夫が総理となった今も、ふだんは地元・広島で過ごしていることも多い。「政治家・岸田文雄」の妻として選挙区を守ってきた。

今回の訪米のそもそものきっかけは、2022年5月のバイデン大統領の日本訪問だ。

バイデン大統領は、上院議員に当選直後、自動車事故で前の妻と娘を亡くしている。副大統領時代には当時46歳の息子も亡くしていて、「家族」への思いが非常に強いという話を聞いていた。

裕子夫人は、夕食会に先立って、お茶をたててバイデン大統領をもてなした。茶室では、夫とともにバイデン大統領を迎えた。

同席したある政府関係者は「大統領は岸田ファミリーのもてなしに感激した様子だった」と明かす。

バイデン大統領は帰国後、ジル夫人に、日本での茶室のおもてなしを報告。ジル夫人は「ぜひ、アメリカに来た際はお返しをしたい」と話したという。

2023年1月、夫は訪米したが、この時、ジル夫人は手術で不在だったと聞いていたため、裕子夫人は同行しなかった。

岸田夫人とバイデン夫人

その後、ジル夫人から裕子夫人に手紙が届いた。

ぜひ、アメリカに来てほしい

政府内にはバイデン大統領とジル夫人は非常に仲が良く、なんでも相談しあっているという情報があった。外務省も裕子夫人に「ぜひ、行ってほしい」と要望し、今回の訪米が実現した。

裕子夫人とジル夫人が対面

裕子夫人の訪米日程は4月16日から18日までの3日間。“ファーストレディー外交”の単独デビューとなる。

アメリカで、裕子夫人は真っ先にジル夫人と懇談を行った。

(裕子夫人)
大統領の妻と日本の総理の妻というのは、システム上も違いますし、求められるもの、置かれた立場も違うので一概に比べることはできないと思います。でも、ジル夫人も長く政治家の妻という立場に身を置いてこられたということもあり、共感する部分がありました。家族を大切にし、バイデン大統領のことを心底思いやっていらっしゃる、そういうことはやはり同じだなと思いました

2人は日米両国の友好を記念してホワイトハウスの庭に桜の植樹を行った。

岸田夫人とバイデン大統領夫妻

その後、バイデン大統領とも短時間面会。

バイデン大統領が日本のことを大切に思っていらっしゃって、今、日本とアメリカの関係がいかに大切なものであるかという思いが伝わってきましたし、日本とアメリカは本当にいい関係にあるんだということを主人にも伝えてほしいと、そういうことは伝わってきました

滞在中、ワシントンにある名門ハワード大学で日本語を学ぶ大学生14人とも交流した。

裕子夫人が公費でアメリカを訪問したことを疑問視する声も一部からあがったが、訪問の意義について、裕子夫人はこう述べた。

今回、訪米してジル夫人と私達の個人的な交流を深めることができました。そしてそのことが私たち夫婦とバイデン大統領夫妻との信頼関係を深めることになり、それが国と国とのさらなる関係強化に貢献できたのではないかと思います

G7広島サミットへ

裕子夫人は、今回の単独訪米の経験を、G7広島サミットに生かすつもりだ。
サミットにあわせて行われる、各国首脳の配偶者らが参加する「パートナープログラム」で心からもてなし、国どうしの関係強化にもつなげたいと考えている。

(裕子夫人)
今回の訪米で、パートナーどうしの交流も大変大事なことだと思ったので、G7でも、もし各国首脳の方がご夫妻で広島を訪問された場合には、おもてなしの心を持って充実した時間を過ごしてもらうように努めたい

今回の「パートナープログラム」では、広島の世界遺産・厳島神社がある宮島を訪れることや、地元の大学生と交流する場を設けることが検討されている。

日本の伝統文化や、広島ならではのものをしっかり味わっていただきたい。お互いの国の理解につながり、温かい交流、そして平和につながるようなプログラムを用意して、おもてなししたいと思っています。おみやげも日本の伝統文化や広島に伝わるようなものを用意したいです

最後に今後について聞いてみた。

ー今後も首脳の夫人どうしの外交を進めるつもりか?
個別に会う機会があれば、前向きに取り組んでいきたいと思っています

今後、どういった“ファーストレディー外交”を展開していくのか。
世界の目が集まる広島サミットがその舞台となる。

政治部記者
西澤 文香
民放を経て2019年入局。長野局から政治部。官邸クラブで総理番のほか、危機管理などを担当。
政治部記者
清水 大志
2011年入局。初任地は徳島局。自民党・岸田派の担当などを経て官邸クラブに。