統一地方選 徳島県知事選挙
混迷極まる“保守分裂”

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徳島県の政界が大きく揺れている。
ことし4月9日の徳島県知事選挙に向けて、自民党の国会議員が相次いで立候補を表明。
一方、5期目の現職は態度を明らかにしていない。
激しさを増す駆け引き。そして保守陣営の分裂に次ぐ分裂。
混迷極まる情勢の背景に迫った。
(有水崇 安藤麻那 花岡伸行 桜田拓哉)

“保守分裂”

「後藤田も三木も出る。県政がぐちゃぐちゃで、もう1つにはまとまらない」
去年10月、徳島県知事選挙に向けた水面下の動きが本格化する中で、ある自民党関係者がそう口にした。

自民党の後藤田正純(53)と三木亨(55)。
徳島県出身の国会議員で共闘関係を築いてきた2人がたもとを分かつことを予見していた。

その1か月後の11月、予見は現実となった。
参議院議員の三木が、NHKの取材に立候補を明言。
翌月、記者会見を開き、正式に立候補を表明した。

立候補表明する三木亨元参議院議員

三木は県議会議員出身で、父の申三は徳島県知事を3期務めた。

「今の徳島は県民の力を十分引き出せていないのが現状で、以前より大きく活気が失われている。これまでの経験、知見、培った人脈を生かして、県や県議会、そして 何よりも県民の皆さんとワンチームとなって徳島に活気を取り戻したい」

国とのパイプを生かして経済対策を進めると訴えた三木は県議会との関係を「ワンチーム」と強調した。

そして、後藤田も12月に立候補の意向を固める。
年明けの1月に、8期目となっていた衆議院議員を辞職し、翌日の記者会見で知事選への立候補を正式に表明した。

立候補表明する後藤田

「22年培ってきた経験、人脈、そのすべてを私のルーツである徳島県にささげたい。県政を刷新するのが大きなテーマだ。地方の衰退は危機的状況にある。
徳島の魅力を最大化し全国に注目される県、県民に開かれた県政にしていきたい」

政党には推薦を求めず、政策本位で県議会と緊張感ある議論をしたいという後藤田。観光の振興や中心市街地の活性化などを訴えた会見は実に3時間に及んだ。

かつては共闘していた後藤田と三木

ともに国会議員の経験や人脈をアピールした2人には、共通点がある。
後藤田の大叔父で、副総理や官房長官を歴任した後藤田正晴は吉野川市出身で市内には先祖代々の墓がある。
その吉野川市は三木の地元でもあり、後藤田と三木には共通の支援者が多い。
おととし・2021年の衆議院選挙では、立候補した後藤田のそばで応援演説を行う三木の姿があった。

2人の亀裂のきっかけは

しかし、くしくも、この衆院選が2人のたもとを分かつ源流となった。

実は5期目の知事、飯泉嘉門(62)は後藤田の選挙区である徳島1区から立候補する準備を進めていた。

このとき、後藤田の支援者の間では飯泉が知事を辞職した場合、次の知事に三木を推す声が広がった。
知事選に意欲を示す三木への支援が衆院選での共闘につながると期待してのことだった。

結局、飯泉は衆院選に立候補しなかったものの、三木にとって知事選への立候補は当時から既定路線だった。

そして去年の秋、2人の関係に決定的な亀裂が入る。
後藤田が突如、報道陣に対し、知事選の立候補に含みを持たせた発言を行ったのだ。

「徳島のさまざまな点で発展していない状況や県庁の空気も含めて、一回窓を開けて空気を入れ替える必要がある」

この発言に、長年、2人を支えてきた支援者は「本当に知らなかった。怒っている人もいた」と打ち明けた。

これに対し、三木は「協調してきた後藤田さんが立候補するからといって、立候補を取りやめることはない。誰が出てくるとしても考えは変えない」と強くけん制した。
関係者によると、2人の話し合いの場が設けられたが平行線に終わったという。

三木は特定枠をめぐって県連と距離

周囲の困惑をよそに、立候補へと突き進む後藤田と三木。しかし障壁もあった。

まず三木が立候補を表明する上で問題となったのが「特定枠」だ。
4年前の2019年の参議院選挙で徳島県と高知県が合区の選挙区となり、選挙区から比例代表に回った三木は政党が決めた順位で優先的に当選者が決まる「特定枠」で当選していた。

自民党徳島県連にとっては、国政に送り出した三木が辞職すれば、徳島や高知と関わりのない議員が繰り上げ当選することになり、「特定枠」を設けた趣旨にも反する。三木に立候補しないよう申し入れまで行った。

県連から申し入れを受ける三木

しかし三木の意向は変わらず、立候補表明の会見では「県民の利益のために設けられた特定枠の制度だが、最終的に県民に判断いただく」と話している。

県連との溝が広がる後藤田

一方、後藤田も県連と埋めがたい溝が広がっている。

前回・4年前の知事選で、自民党県連は5選を目指す飯泉を推薦したのに対し、後藤田は多選を批判し、新人で当時自民党に所属していた元県議会議員の岸本泰治を支援したのだ。

自民党県連の間にできた溝は、さらにおととしの衆院選で決定的となる。
SNSで飯泉県政を批判した後藤田に対し、自民党の県議会議員が「同志として認められない」などと反発。

声に押された県連は後藤田を自民党の公認候補にしないよう党本部に申し入れる事態にまで発展した。

最終的に、党本部から公認を得たものの、県連から十分な支援を得られなかった後藤田は、選挙区での当選を逃し比例代表四国ブロックでの復活当選を余儀なくされた。

2021年衆院選で比例四国ブロックで当選した後藤田

後藤田は今回の立候補表明の中で、「当時私が県政について批判した際に支援者から『県政改革や地方創生を頼む』という声をいただき、そうした声に応えたいと思った」と述べ、衆院選から2、3か月たったころから立候補を考えるようになったと明かした。

決別の会見

ともに自民党県連から距離を置きながら、知事のいすを争うことになった後藤田と三木。

立候補表明の会見で互いについて問われると「県民の皆さんからすると選択肢が多い方がいい。どなたが出てもいい。ただ政策を議論しましょう」と話す後藤田。

一方、三木は後藤田について、
「どんな障害でもはねのけて自分の政治を確立する力強さはあるが、障害を全て取り込んで政治を構築していくかというと必ずしもそうではない」と評し、共闘関係が終わりを告げたことを印象づけた。

さらなる分裂

新たに“保守分裂”が加速する事態が起きた。

前回の知事選で後藤田の支援を受けた元県議会議員の岸本泰治(65)が立候補を表明したのだ。

立候補表明する岸本

前回、飯泉の多選批判を展開した岸本は12万2000票あまりを獲得し飯泉をおよそ3万6000票差まで追い上げた。
政治活動からの引退を表明し自民党を離れたが、再び政治への思いが強まったという。

「利害利権が見え隠れすることがあったら公正公平な政治ができない。一党一派に属さず、利害や利権と決別する。今回は後援会の申し込みのはがきは作らず県民一人一人と理念や気持ちでつながる選挙を実現したい」

そう話す岸本は4期以上の多選の禁止や、公正で透明性のある県政運営の実現を訴える。

沈黙を続ける現職

選挙戦の構図をさらに変える可能性を持つのが、現職の知事である飯泉の動向だ。

5期20年を務める飯泉は、これまで11月の定例県議会で知事選への立候補を表明することを慣例としてきたが、今回はいまだ立候補するかどうかを明らかにしていない。
今は物価高騰や新型コロナへの対策に全力で取り組む時期だというのが理由だ。

徳島県飯泉知事

飯泉を支えてきた県議会の自民党会派の混乱も影響している。
20年にわたる飯泉の県政運営を評価する声がある一方で多選に異を唱える議員の中には新人の擁立を模索する動きも出ている。
県のある幹部は「多選に反対する県議たちとの我慢比べだ」と語っている。

こうした中、飯泉は告示までおよそ2か月という1月20日の記者会見で、ようやく「知事選に出馬することを選ぶのか、この機会に政治家を引退するか。この2つしかない」と述べ、初めて立候補の可能性に言及した。
このほか、共産党が候補者の擁立に向けて調整を進めている。

混迷極まる知事選を「県内の政治対立の総決算」と呼ぶ関係者もいる。
相次ぐ立候補表明が、活発な論戦を喚起し県民の関心を高めるのか。
それが分かるのはこれからだ。
(文中敬称略)

※追記
現職の飯泉は2月4日、徳島市内で記者会見し、6期目を目指して無所属で立候補することを表明した。
これまで立候補するかどうかを明らかにしていなかったが、新型コロナとインフルエンザの感染が縮小傾向にあることや、新年度の当初予算案を発表したことを受けて立候補の表明を決めたとしている。

徳島局有水記者
徳島局記者
有水 崇
2017年入局。札幌局と旭川局で事件や漁業などの取材を担当。現在県政キャップ。
徳島局安藤記者
徳島局記者
安藤 麻那
2021年入局。愛知県出身。徳島局初任地。警察担当を経て、現在は県政や教育を取材。
政治部記者
花岡 伸行
2006年入局。憲法審取材キャップ。毎週水曜夜のお酒は「3合目」程度に控えている。
政治部 桜田記者
政治部記者
桜田 拓弥
2012年入局。自民党茂木派担当。