子どもが市長を選んだら!?
初めての「選挙」で学んだこと

こども選挙のタイトル

10月、神奈川県茅ヶ崎市の市長選挙にあわせて、こどもたちが実際の候補者に投票する「こども選挙」が行われました。
事前に候補者にインタビューし、投票所の運営から開票までを自分たちで担いました。
子どもたちの姿には、選挙とは何か、改めて考えるヒントがありました。
(山田友明)

本物の選挙のように

10月30日に投票が行われた茅ヶ崎市の市長選挙で、市内に「こども選挙」の投票所も設けられました。
市の選挙管理委員会の協力で、本物の投票箱を使います。
投票所の運営も子どもたちが担いました。投票用紙を渡して、書き方などを説明しました。

こども選挙の投票所

きっかけは父親の思いつき

仕掛け人は、市内で4歳の息子と小学3年生の娘を育てる池田一彦さん(45)です。
もともと子どもが政治や社会に参加する機会をつくりたいと考えていましたが、友人と選挙について話している時に、こども選挙を思いつきました。

子ども選挙仕掛け人の池田さん

「ふと『子どもが市長を選ぶとしたらどんな視点で選ぶのか』疑問が浮かんだんです。子どもたちが自分たちも市民の1人なんだという意識を持って、社会に参加できるようになったら、この茅ヶ崎もすごくすばらしいまちになっていくんじゃないかなって」

親に言われて参加も

ホームページやSNSで、「こども選挙管理委員会」のメンバーを募集すると、市内の小学生15人が集まりました。参加した理由はさまざまでした。

さっちゃん

「ママだけ投票してズルいと思ったから」

メロディちゃん

「8歳だけど10年後のために勉強してみたい」

小学6年生の旺志朗(おうしろう)くんは、両親の勧めで参加しました。
「親に『参加してみたら』って言われたからきました。でも自分も面白いと思ったので」

旺志郎くん

候補者の考えを直接聞きたい

投票先を選ぶために、立候補する人の考えを知りたい。立候補を表明していた3人に動画でインタビューを行うことにしました。
無所属の新人で、元茅ヶ崎市議会議員の藤村優佳理氏(52)、2期目を目指す現職で、自民党と公明党が推薦する佐藤光氏(53)、無所属の新人で、NHK党が推薦する講師の桂秀光氏(66)の3人です。

茅ヶ崎市長選挙の3人の候補

投票1か月前の10月2日、子どもたちが集まって何を質問するか話し合うと、聞きたいことが次々にあがりました。
「どうして市長になりたいと思ったんですか?」
「茅ヶ崎市に住む子どもたちがどんな大人になってほしいですか?」
「学校のICT教育についてどのような取り組みをしようとしていますか?」
「子どもの時の夢はなんだったんですか?」

こどもたちの質問案

旺志朗くんも、自分たちの住むまちがどうなってほしいのか、初めて真剣に考えました。
「こどもが作って欲しそうな建物を作る予定はあるか聞きたいです。理由は、茅ヶ崎にはこどものための建物が少ないからです」

質問は全部で3つに絞ります。それぞれが一生懸命考えた質問です。話し合いでは決着がつかず、最後は多数決になりました。
目をつぶって、自分が一番いいと思った質問に手を上げました。

子どもたちは目をつぶって手を上げる

質問は次の3つに決まりました。
▼「子どもと大人の意見をどのようにして取り入れますか?また、どのようにして実行しますか?」
▼「市長になったら何をがんばりたいですか?その目的はなんですか?」
▼「茅ヶ崎の中で、マンションを増やすことについてどう思いますか?またマンションを建てるメリットがあると思いますか?」

動画で収録し、立候補を予定している3人に届けられました。

候補者への質問を収録

返ってきた回答

3週間がたった告示の日、候補者からの動画が届きました。3つの質問に対し、全員が答えてくれました。

「子どもと大人の意見をどのようにして取り入れますか?また、どのようにして実行しますか?」という質問に対して、それぞれの回答は…

新人で元市議会議員の藤村優佳理氏は「SNSを通じて市長へ意見をする。そういうことに取り組んでいきたい」などと話しました。

藤村氏の回答動画

現職の佐藤光氏が
「多様な意見を聞きながら茅ヶ崎のまちづくりを進めていきたい」などと回答。

佐藤氏の回答動画

新人で講師の桂秀光氏は「みなさんが市の決定が気にくわない、困っている、これをどうにかしていきたい」などと回答しました。

桂氏の回答動画

子どもは選挙運動禁止。だから、意見や感想は交わさずに

動画に真剣に見入る子どもたち。感想や意見は一切言いません。
子どもたちの発言が、公職選挙法が禁じている「未成年の選挙運動」と取られてしまうことを避けるためです。
この場だけでなく、家に帰ってからも、親と候補者の善し悪しについて話さないよう、池田さんたちは繰り返し子どもたちに注意しました。旺志朗くんも候補者が語ったことや、自分が感じたことを黙ってメモに書き取りました。

告示後には実際の選挙と同じように、期日前投票を行いました。
市内の学童クラブで、インタビュー動画を上映、子どもたちに投票してもらいました。

こども選挙の期日前投票

公職選挙法で禁じられている「人気投票」の実施にあたらないよう、投票された票は選挙が終わるまで、誰にも見られないように保管しました。

迎えた投票日

10月30日の市長選投票日。多くの市民の協力で、ショッピング施設やカフェ、寺など市内11か所に投票所を開設することができました。

子ども選挙の投票呼びかけ

旺志朗くんたちも投票所の前で親子連れに声をかけ、投票を呼びかけました。

投票所には子どもたちが候補者の主張を聞いてから判断できるよう、インタビュー動画が見られるQRコードや、話した内容をまとめたチラシを設置しました。
子どもたちは次々に投票するとともに、候補者に送りたいメッセージも書き込んでいました。

投票の様子

投票を終えた子どもたちに、どうやって選んだのか聞きました。

さいちゃん
「自分と意見の合った人に投票すればいいんだなって思いました」

また、別の女の子は「自分の一票で決まると思うと、そわそわするけど、本当の選挙に行きたいと思いました」と話していました。

子どもを投票に連れてきた親は「選挙に興味がない人が多いから、こどものうちから一票の大切さを感じられる良い機会だと思います」と話していました。

親に言われてこども選挙に参加したという旺志朗くん。少し考えたあとで教えてくれました。

旺志郎くん

「市民の声をちゃんと聞いてくれそうな人を選びました」
さらに…「こども全員の思いが伝わればもっといい茅ヶ崎になると思う。候補者へのメッセージには、こどもも大人も生活に不平等がない政治をしてほしいと書きました」

旺志朗くんのお母さんは、こども選挙を通じて、息子の成長を実感したといいます。

旺志郎くんとお母さん


「最初はのんびりした様子でしたが、だんだんと真剣になって、選挙ポスターを見つけるなど、いままで見えてたのに見てこなかったものが見えるようになったと思います。今までは、自分のことに精一杯だったのが、茅ヶ崎のことや周りのことを考えるようになって成長したなと思いました」

子どもたちが選んだのは

実際の茅ヶ崎市長選挙では、現職の佐藤氏が大差をつけて当選しました。

こども選挙の開票も、当日行いました。投票数はネットも含めて566票で、目標の1000票には及びませんでした。
子どもたちの手で1票ずつ開票作業を進めました。

開票する子どもたち


開票の結果、佐藤氏264票、藤村氏246票、桂氏53票。
こども選挙でも、トップは佐藤氏でしたが藤村氏とは18票差の僅差でした。

思いを直接届けたい

投票で終わりではありません。
寄せられた候補者へのメッセージや、選挙を通じて感じた思いを届けようと、立候補した3人に面会を申し込みました。

日程の都合がついたのは、落選した藤村さんでした。

子どもたちと話す藤村さん


11月5日、子どもたちはメッセージを手渡して、思いを伝えました。

旺志郎くん

「子どもにもわかりやすいように話してくれてありがとうございました」

こっちゃん
「今回はだめだったけど、子どもの意見をまた取り入れてください」

佐藤市長と桂氏には、郵送で選挙結果とメッセージを送りました。

佐藤市長は取材に対し、
「子どもの頃から、選挙がどのような役割をもつのか、また自分たちの『まち』をどうすべきかなどを一人ひとりがよく考えて投票することの重要性を考えるきっかけになった点については、有意義な取り組みだったと考えます。責任を痛感するとともに、子どもたちの思いを市政運営に反映していきたい」などとコメントしました。

茅ヶ崎が宝物になった

初めて候補者に質問し、投票に臨んだ子どもたち。自分たちの住むまちの未来に関心を持つきっかけになったといいます。

さいちゃん

「選挙は投票して市長を選ぶだけと思ってたけど、こんな意味があって投票するんだって思えるようになりました」

旺志郎くん

「茅ヶ崎市は前は自分が住んでいるところとしか思っていなかったけれど、こども選挙が終わった後は自分の大切なものみたいな感じで、より良くしたいと思いました」

取材を終えて

1か月の間、こども選挙を取材しました。当初は「子どもが誰を選ぶのか」「実際の選挙結果とどう違うのか」が一番に気になっていました。
しかし選挙の準備が進むにつれて、政治や選挙に対しての子どもたちの発言に気づかされる場面が多くありました。
選挙は結果だけでなく、「主権者」として町のことを考えることが大切なんだと思うようになりました。

実際の茅ヶ崎市長選挙の投票率は34.69%と、過去最低になりました。各地の選挙で投票率が低下し、特に若年層の政治離れが指摘されています。

今回の取材で、もっと若い子どもたちでも、選挙に主体的に関わることで、自分たちの町や政治について、自分事として考えられるんだと改めて実感しました。
茅ヶ崎市選挙管理委員会は、こうした取り組みについて「将来有権者になり得る子どもたちに選挙を体験してもらう、よい経験だと考えます」と話しています。

今回のような取り組みが、投票率低下の歯止めになってほしいと思っています。

横浜局記者
山田 友明
2015年入局。長野局を経て横浜局へ。現在は選挙を担当。2歳の子育てに奮闘中。