「教会の指示で選挙手伝った」元信者証言 旧統一教会と政治家

安倍晋三元総理大臣が銃で撃たれて死亡した事件から8月8日で1か月が経った。
逮捕された山上徹也容疑者は、母親が多額の献金をしていた「世界平和統一家庭連合」=旧統一教会への恨みを募らせた末に事件を起こしたとみられている。
旧統一教会をめぐっては、信者に対する高額な献金の強要や、不安をあおって高額な物品を売りつける“霊感商法”がかつて社会問題となった。
その教団と、政治との具体的な関係が当事者らの証言から明らかになった。

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元信者の“宗教2世”「選挙活動手伝った」

取材に応じたのは、容疑者と同じ“宗教2世”で、元信者の30代の男性。現在、東京都内に住んでいる。
両親は旧統一教会の合同結婚式に参加して出会ったという。
男性自身も以前は教会で活動し、若い世代をまとめる立場に就いていた。
国会議員や地元の地方議員の選挙活動を手伝ったこともあり、政治家との関係を深めることは教会の活動にもメリットがあったという。

「教会の指示で、ビラ配りや演説会場の設営などを行っていました。投票呼びかけの連絡を回していたほか、信者ではない友人に投票をお願いしたりもしていました。布教活動を行う際に『政治家も私たちを応援してくれているから安心してほしい』などと外部に向けて発信している人もいました」

続く献金「経済的に苦しいのは教会のせい」

一方、男性の両親は収入が安定しない中でも献金を続けていた。
経済的に厳しい環境で育った男性は高校卒業後、専門学校に進み、奨学金とアルバイトで学費や生活費をまかなっていた。
ところが、両親は学費に充てるお金も献金などで使い果たしてしまったという。
男性はその後、なんとか学校を卒業して就職したが、社会に出てからは両親に代わって、きょうだいの学費を支払っていたという。数年前から両親や教会と距離を置くようにした。

「経済的に苦しいのは教会のせいだとずっと思っていましたし、両親には強い憤りを感じていました。両親は一般社会で仕事ができていたので、本来なら経済的に苦しむこともなかったと思います。もうこのような環境に身を置き続けることは難しいと思いました。家族とも離れることを決意しました」

事件に差別や偏見の懸念も

今回の事件には大きなショックを受け、容疑者と同じ“宗教2世”の人たちが差別や偏見を受けかねないという懸念も感じているという。

「ニュースで宗教団体と出たときには、旧統一教会であってほしくないと願っていました。自分も関わりを持っていたことで、迫害を受けかねないと思っていたので、恐怖心や悲しい気持ちがありました。“宗教2世”の問題が注目されている今、2世が置かれている現状に多くの人に目を向けてほしいです」

今も続く被害の相談

旧統一教会の元信者や、その家族などが運営している民間の団体「統一教会被害者家族の会」によると、今回の事件のあと、信者の家族などからの相談が急増していて、7月の相談は94件と、6月の8件からおよそ12倍になった。
妻や夫、親が信者だという人からの相談が54件と最も多く、次いで信仰をやめた人からの相談が12件などとなっている。
相談の多くが献金などによる金銭トラブルに関するもので、相談を受けた金額の合計は7月1か月で8億円に上るという。
一方、「全国霊感商法対策弁護士連絡会」にも相談が相次いでいて、事件の直後は、1日に20件から30件の相談が来る日もあったという。

支援を受けた政治家は

一方の政治家。
長野県出身で自民党の元参議院議員・宮島喜文氏は、旧統一教会の友好団体から選挙で支援を受けていたことが議員事務所の元職員への取材でわかった。
宮島氏の議員事務所の元職員が、本人の代理として取材に応じて明らかにした。

宮島氏は、長野県立の病院の副院長などを経て、日本臨床衛生検査技師会の会長を務めている。2016年の参議院選挙で、自民党から比例代表で立候補し、12万票余りを獲得して初当選。政府の財務政務官も務めた。

元職員によると、この選挙で旧統一教会の友好団体「世界平和連合」の支援を受けたという。

別の国会議員から紹介受け協力を依頼

宮島氏は、別の国会議員から、選挙で支援してもらえる団体として紹介を受け、協力を依頼したという。
このときの経緯について、元職員はこう話した。
「選挙や政界について全くの素人ばかりでどうしたものかと思案していたので、非常に心強かったことを覚えている」

この団体の支援による得票数は把握していないとしているが、当選後、定期的に連絡が来るようになり、宮島氏は、旧統一教会の関係者が集まるイベントやセミナーに参加してあいさつをしたり、祝電を送ったりしたという。

一方、元職員によると、宮島氏は、ことしの参議院選挙で再選を目指していたが、所属していた自民党の派閥幹部から前回のような選挙協力は難しいと言われたことや、支持基盤の技師会が新型コロナの対応に追われていたことなどから、自民党の公認を辞退し立候補を断念したという。

岸田首相 関係点検と見直しを指示

旧統一教会と自民党議員との関係が相次いで明らかになる中、岸田総理大臣は事件から1か月の8月8日、党所属議員に対し、国民に疑念を持たれることがないよう、それぞれ関係を点検し、見直すよう指示した。

「社会的に問題が指摘されている団体との関係は、十分に注意しなければならない。わが党の所属議員には、国民に疑念を持たれることのないよう政治家としての責任において、当該団体との関係を点検し、適正に見直してもらいたい」

教団と政治の関係には国民の厳しい目が向けられている。
教団、政治家の双方ともに十分な説明責任を果たし、政治家は反社会的な団体とは決別しなければならない。