コロナ“第7波” 行動制限はもう必要ない? 対応新局面に

新型コロナの新規感染者数が増え続け、いまだにピークが見えない“第7波”。
かつてないスピードでの感染拡大に伴って、発熱外来は受診しづらくなり、病床使用率も上昇するなど、医療のひっ迫を懸念する声が相次いでいる。
しかし、政府は“第6波”までとは異なり「行動制限は必要ない」というスタンスを崩さない。
もう行動制限は求めないということなのか。政府関係者や有識者の間では、新型コロナへの対応は局面が変わったという認識が広がりつつある。
(阿部有起)

新規感染者数は23万人超 世界最多に

7月28日、新型コロナの新規感染者数は、東京で初めて4万人を超えるなど、18の都道県でこれまでで最も多くなった。全国でも23万人を上回って、2日連続で過去最多を更新した。

これは“第6波”のピークだった2月5日のおよそ10万4000人の2倍余りに及び、感染の急拡大は収まる兆しも見えない。
また、WHO=世界保健機関によれば、7月24日までの1週間あたりの新規感染者数はおよそ97万人と、日本が世界最多となった。
自宅療養者数も61万2000人余り(7月20日時点)と過去最多を更新。確保病床の使用率(7月27日時点)は、19の府県で政府の分科会が示す「対策を強化すべきレベル」の目安にあたる50%以上になった。

感染急拡大でも戻る夏の風物詩

こうした中、政府は「感染症対策と社会経済活動との両立を図る」として、かつてのように、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置といった行動制限を求めていない。

7月に入ってからも、京都の「祇園祭」や福岡の「博多祇園山笠」など、日本を代表する祭りが3年ぶりに新型コロナの感染拡大前とほぼ同じ規模で開催された。
8月6日に開幕する夏の全国高校野球も、3年ぶりに観客数に制限を設けずに開催される予定だ。
新型コロナで失われていた夏の風物詩が戻りつつある。

岸田総理大臣も、同席者に抗原検査キットで陰性を確認してもらった上で、夜の会食を続けている。

重症化しにくいオミクロン株へ

国内では、これまで6度の大きな感染の波を経験し、そのたびに何らかの行動制限が求められてきた。
様子が変わったのは、2022年の年明け直後の“第6波”だった。

感染拡大を招いたオミクロン株は、感染力は強いものの、重症化しにくいとされる。
36の都道府県でまん延防止等重点措置が適用されたものの、緊急事態宣言を発出するには至らなかった。

そして今回の“第7波”。
オミクロン株のうち「BA.5」と呼ばれる系統への置き換わりが進んだ。
感染力はこれまでよりさらに強く、やはり重症化しにくいとされる。
政府は、これまでも“切り札”として活用してきたワクチンの接種をいっそう推進することで、重症化が防げると期待している。

社会経済活動の継続を “新たな行動制限は行わず”

「現時点で新たな行動制限を考えてはいない。社会経済活動の回復に向けた取り組みを段階的に進めていく」

“第7波”の感染急拡大が続いていた7月22日。岸田総理大臣は、経団連の会合で、重症者や死亡者の数は低水準にとどまっているうえ、過去の経験から新型コロナへの対応力も強化されているとして、新たな行動制限は行わない考えを重ねて示した。
一方、医療体制を維持・強化しようと、濃厚接触者に求める待機期間を短縮するとともに、抗原検査キットを無料で配ることを追加的な対策として打ち出した。

医療現場では、感染の急拡大に伴って、感染したり、濃厚接触者となったりする医療従事者が増え、人手不足が深刻な問題となっている。待機期間を短縮することで、医療従事者が早く職場に復帰できるようにすることなどが狙いだ。
また、症状がある人に、抗原検査キットを使って自分で検査してもらうことで、発熱外来が混雑して受診しづらくなっている現状を少しでも緩和しようと考えたのだった。

世論調査 行動制限“必要”が上回る

政府が行動制限に慎重な立場をとる中、国民は行動制限についてどう考えているのか。
NHKは、7月16日から18日にかけて行った世論調査で、新型コロナの感染防止のために国や自治体が、今、行動制限を行う必要があると思うかを尋ねた。

その結果、「必要」または「どちらかといえば必要」と答えた人が56%、「どちらかといえば必要はない」または「必要はない」と答えた人が36%で、「必要」が「必要はない」を上回った。政府の立場とは相反する結果となった。
年代別に見ると、「必要」または「どちらかといえば必要」と答えた人は、70代以上が最も多く73%、次いで60代が61%、50代が54%などと、重症化リスクが高い年代ほど、行動制限が必要だと考えている傾向がうかがえる。

日本医師会 “行動制限の効果は限定的”

日本医師会は、新型コロナへの対応と通常医療の両立を図る必要があるなどとして、これまでは一貫して早めの行動制限を求めてきた。
政府の分科会の委員を務める、日本医師会の釜萢敏常任理事は、今回も医療のひっ迫に懸念を示す。

「急激に大変になっているのは外来だ。今後は、重症化リスクがある人の入院を中心とする医療を確保できるかが大きな課題になる。通常医療も同じで、少なくとも大都市では、医療機関にアクセスしにくい状況が顕著に見られる」

ただ今回は、これまでとは違って、行動制限は必要ないという立場だ。
「BA.5」は感染力が非常に強く、感染が拡大するスピードも速いことから、行動制限を行ったとしても、その効果は限定的にならざるを得ないと指摘する。

「これだけまん延し、非常に感染スピードが速いとなると、行動を制限したとしても、感染者がすぐに減るかと言えばなかなか結びつかない。どこでうつっているのかわからないという可能性もあり、特に飲食店の営業時間短縮などを求めにくい」

社会経済的コストにも着目

一方、行動制限によって失われる社会経済的なコストという観点から、行動制限に否定的な見解をいち早く示してきたのが、同じく政府の分科会の委員を務める、大阪大学の大竹文雄特任教授だ。
行動経済学が専門の大竹特任教授は、ことし2月に開かれた政府の分科会でも“第6波”に伴うまん延防止等重点措置の延長に強く反対した。

「飲食店の営業を制限すると経済的に困るというのは分かりやすい。コミュニケーションが減ることで、結婚が減って、生まれてくる子どもが減る。あるいは孤独になってメンタルヘルスを悪化させ、自殺するという影響もある。行動制限で失うものは見えにくいが、中国と日本以外のほとんどの国は、そうしたデメリットを理解し行動制限を撤廃している」

また、大竹特任教授は、オミクロン株への変異で重症化しにくくなったにも関わらず、新型コロナを過度に恐れ、すべての感染者に報告を求め、隔離し、医療費も公費で負担するような当初からの医療の仕組みを維持し続けていることが、かえって医療のひっ迫を招いていると指摘する。

「感染力が強く、重症度が低い病気というのは、季節性インフルエンザに近い。人にうつしてもさほど大きな影響を与えない病気であるにも関わらず、検査し、陽性であれば隔離しなければならず、医療機関にとって対応が非常に困難なままになっている。インフルエンザで医療崩壊は起きていない」

感染症法上の扱いの変更求める声も

そして、7月28日に奈良市で開かれた全国知事会議。
出席した知事からは、医療のひっ迫を防ぐためには、新型コロナの感染症法上の扱いを季節性インフルエンザと同じ扱いに見直すことも含め、これまでの対策を転換すべきだという意見が相次いだ。

「オミクロン株では99%が軽症・無症状であることを踏まえ、議論を進めていくことが重要だ」(北海道・鈴木直道知事)

「いつまでも結核と同じような『2類相当』の扱いをすることによって、社会の経済活動が止まろうとしている」(神奈川県・黒岩祐治知事)

同じ日、与党内からも、医療費の公費負担のあり方や治療薬の普及策と合わせて、季節性のインフルエンザなどと同じ扱いに見直すか検討すべきだという声が上がった。

「社会経済活動を維持して感染を防ぎ、医療提供が十分になされることが大きな目標だ。柔軟で効果的な対応を検討してもらいたい」(公明党・山口代表)

政治決断は?

かつての安倍総理大臣による全国一斉休校や東京オリンピック・パラリンピックの1年延期。そして、菅総理大臣による東京オリンピック・パラリンピックの無観客開催。
これまでを振り返れば、行動制限のあり方などをめぐり、その節目で、大きな政治決断が求められてきた。

今回取材した釜萢常任理事や大竹特任教授も、1人の有識者として、医療面のエビデンスや経済面での考え方を示すことはできるものの、感染症対策と社会経済活動のバランスを決めるのは「政治決断だ」と口をそろえた。

政府は「現時点で、新たな行動制限は必要ない」という立場を続けているが、政府内からは「このまま乗り切れるかは未知数だ」、「今後の状況に応じて、当然、行動制限というカードは残しておく」といった声も聞かれる。

今後も新規感染者数が増え続け、命に関わる状況でも医療が受けられないような事態が生じれば、国民の不安は一気に高まる。
とはいえ、今の新型コロナの扱いを今後も維持し続けるというのは、医療現場の負担や経済・財政への影響を考えても容易ではない。
行動制限はもう必要はないのか。新型コロナをめぐる、当初からの医療の仕組みをどこまで維持するのか。
国内で感染者が確認されてから、2年半。
ウイルスの特性が変化していく中で、岸田総理大臣の政治決断が求められる場面が来るのだろうか。

政治部記者
阿部 有起
2015年入局。鹿児島局、福岡局を経て2021年から政治部。4月からは厚生労働省担当。コロナ禍で失われた出会いを求め、活動中。