参院選初挑戦
「ごぼうの党」が目指したものとは

ポップな音楽と若者たちのダンス。天狗の面をつけて演説する代表の奥野卓志。
参議院選挙の1か月前に突如現れた、ごぼうの党の選挙運動だ。
芸能人も巻き込んで若者にターゲットを絞ったというごぼうの党の戦略は功を奏したのか。
ネット上でも、一時は既成政党をも上回る関心を集めたこの団体の正体を追った。
(高杉北斗)

なぜ、ごぼう?

「君のごぼうになりたくて~ 君の笑顔守りたくて~ ごぼう、ごぼう…」

街頭での選挙運動のことを彼らは「公演」と呼ぶ。
参議院選挙の終盤、東京 原宿の会場に行くと、耳に残るポップな音楽に合わせて、ざっと100人くらいのはっぴ姿の若者たちが鳴子を手に踊っていた。

気になって振り向く人や、中には足を止めてスマートフォンで動画や写真を撮る通行人も。
この「ごぼうダンサーズ」と呼ばれる若者たちがそろった振り付けのダンスを終えると、選挙カーの上に乗っていた天狗の面をした男性が話し始め、党名の由来を明かした。

「ごぼうは、食べるところが1メートルあります。深いところまで実がある。深いところまで意味がある。そして、根が深い。ふざけているんじゃないですよ。そういうことをアピールさせていただいています」

ごぼうの党とは? ターゲットは若者

この政治団体、ごぼうの党の存在が明らかになったのは参議院選挙投開票日の1か月前、6月8日だった。
突如、ごぼうの党のTwitterのアカウントが投稿を始めたのだ。

nayuta(ナユタ)というアバターが党首を名乗り、ホームページで主張を訴えている。

nayutaは脳に難病がある実在する男性がモデルで、応援の意味を込めて起用したという。極めて大きな数の単位の「那由他」とも同じ読みで、支援を拡散させたい意味もあるという。

ごぼうの党が掲げる政策の柱は、若者のための政治だ。高齢者のために負担を増やすのではなく、奨学金制度の充実や、文化芸能への支援を行い、若者が幸せになる社会を目指すとしている。

しかし、団体自身「投票率の低い若者の味方をしたら選挙では必ず負けると言われている」と自虐的に語っている。
それを覆すためにも、若者の政治参加が欠かせないと呼びかけているのだ。

ごぼうの党は、政党要件を満たす5人を当選させるため、600万票以上の得票を目指して若者たちに支持を訴える選挙戦を展開した。
そのため、今回の参議院選挙の比例代表に会社経営者ら11人が立候補した。
供託金だけでも1人600万円、計6600万円用意しなければならない。
選挙運動の費用は、会社を経営する代表の自己資金と、友人からの個人献金を充てるという。

著名人を巻き込んだネット戦略

ごぼうの党は、賛同を求めてSNSへの投稿を呼びかけ、選挙期間中「#ごぼうチャレンジ」というハッシュタグがTwitterのトレンドになった。
また、俳優の山田孝之やロックバンド「ONE OK ROCK」のTakaなど、著名人が自身のSNSにごぼうの画像とともに投稿して話題になった。

(写真):Takaと奥野代表

ごぼうの党は、YouTubeでも代表の奥野とTakaの対談を載せるなどネット発信に力を入れ、既存の政党と差別化を図る戦略を描いていた。

街頭演説にも著名人が駆けつけ、ごぼうダンサーズの若者たちがダンスを披露する。
演説では必ず、SNSでの投稿を呼びかける。
こうした様子をインスタライブで生中継することで、情報の拡散を狙っていた。

既成政党を上回る人気度の日も

検索エンジンのグーグルで人気度の動向を調べると、ごぼうの党の存在が公になった6月8日から上がり始め、格闘家のボブ・サップと新宿で街頭演説を行った公示日の6月22日に急上昇している。

政見放送と都内での演説が重なった6月28日や6月30日にも数値が上昇している。
こうした日には自民党や立憲民主党をも上回っていて、パフォーマンスがネット上で関心を集めたことがうかがえる。

仕掛け人は代表 奥野卓志

こうした戦略を描いたのは代表の奥野卓志(48)だ。天狗の面をつけて演説していたあの男性で、会社経営者だ。
奥野は演説でこう訴えた。

「私たちは、若者、学生、子供たちの味方。これからの日本の未来を支える子供、学生、若者のために戦います。政治をおじいちゃん、おばあちゃんに任せていたら、3年後、5年後に負担が来るのは若者たちです」

奥野は何を考えて今回の選挙戦に臨んだのか。疑問に思ったことを直接聞いてみた。

Q)なぜ会社経営者という立場でありながら政治の世界へ進出しようと考えたのか?

この3年間で何かをしないとさらに日本が手遅れの状況になっていると、ものすごく危機感を感じているから。日本は成長するか、しないかと言ったら100%衰退する。僕は残りの人生を子どもたちの未来のために捧げることにした。
若い人が参加し出したら、どの政党も若者に対して約束をし始める。誰かが口火を切らないとダメで、誰かがはじめの一歩を踏み出さないとダメだ。そのはじめの一歩を僕らがやる。

Q)顔を知ってもらおうとするのではなく、なぜ天狗の面をかぶって選挙運動をしているのか?

僕がこの顔をさらしてもいいが、有名人でもないし、選挙のポスターや、テレビに出ても名前が知られている人には勝てない。だから、お茶の間に浸透していて、幅広く親しまれているキャラクターの方が印象に残るかなと思っている。初めはふざけていると叩かれるかもしれないが、支持してくれる人が急激に増えたら投票日までに間に合うかもしれない。

Q)支援を表明している著名人たちとはどのようなつながりなのか?

前からものすごく深いつながりだから支援してくれている。全く仕事の関係ではなく、利害関係もない。友達より上級な「同志」と呼んでいる。空中戦ではなく、面識のある知り合いから応援してもらっている。僕は、LINEだけでも2500~3000人の友達がいるので、協力してくれた人と残りの人生を助け合って歩んでいこうと思っている。

Q)準備期間も1か月と短く、厳しい選挙戦になるのではないか?

日本は投票率が低く、約5000万人が選挙に行かない。逆に言えば、その人たちが選挙に行けば5000万票取れる可能性がある。現実的には無理でも、かなりの票を動かせるかもしれない。

Q)今回の参議院選挙の後はどうするか。議席を取れなかったら撤退するのか?

7月10日まで集中して、結果を出させてもらえば、政治家として働く。どんな事業も石の上にも3年で、1000日かかるので、今回、当選したら次の選挙まで一生懸命頑張る。
3年間は諦めない。執着と言われるかも知れないし、損切りしろと言われるかも知れないが、3年やらずに諦めるのは早いと思う。

結果はいかに

総務省によると、去年の衆議院選挙での10代の投票率は43.21%、20代は36.5%と、全世代の48.80%を下回っている。
18歳選挙権も導入され、若者の政治参加が期待されているのは間違いない。
今回、ごぼうの党はその受け皿となることを目指したが、議席の獲得には至らなかった。
(文中敬称略)

【リンク】開票結果は参議院選挙特設サイトで

ネットワーク報道部記者
高杉 北斗
2014年入局。盛岡局、函館局を経て現職。趣味はボルダリング。