リーダーが、とてもつらい

NHKの世論調査で「支持率0.4%」
それが野党第2党、国民民主党の現状だ。
その政党が、結党後初めての代表選挙を行った。立候補したのは玉木雄一郎氏と津村啓介氏、ともに40代で衆議院議員としては若い。
事実上、総理大臣を決める選挙となる自民党の総裁選挙を前に行われた代表選挙、結果は5月の結党時から共同代表を務めてきた玉木氏が大差で新代表に選出された。
党勢が上向かず「消滅危惧政党」という発言まで出た、野党第2党。リーダーを選ぶ選挙からは、その苦悩がかいま見えた。
(野党クラブ 及川佑子 鈴木壮一郎 清水阿喜子)

分裂の歴史

「9月の自民党総裁選挙に埋没する訳にはいかない」
今回の代表選挙、告示日を8月下旬に前倒しした。ただ、党内では必ずしも選挙戦になることを歓迎する声は多くなかった。
「選挙を行えば、党内に亀裂が入り、分裂の引き金になりかねない」という懸念が拭えなかったためだ。

ことし5月に結党した国民民主党のルーツは、民主党とその後の民進党。その代表選挙が、党内対立の火種となった歴史があるからだ。

ちょうど1年前、民進党の代表選挙を勝ち抜いた前原 元外務大臣は、わずか1か月後に、希望の党への合流を決めて、党は分裂。

前原氏と代表選挙を戦った枝野 元官房長官は、立憲民主党を立ち上げ、野党の再編へとつながっていった。

1人崩れて、てんてこまい

結党以来、党の支持率は上向かず、NHKの世論調査でも0%台だが、共同代表を務めてきた玉木氏は、引き続き、党を率いていく意欲に変わりはなかった。

これに対し、強い危機感を抱き、名乗りを上げたのが津村氏だった。

しかし、津村氏の立候補までの道のりは平たんではなかった。

「今夜、1人崩れて、てんてこまい」
告示日の前夜、津村氏の陣営の議員からこんな情報が伝えられた。代表選挙に立候補するには、少なくとも10人の国会議員の推薦人が必要だ。記者会見を開き、立候補表明を済ませていた津村氏だったが、推薦人に見込んだ議員の1人が土壇場で辞退したのだ。

その背景には、津村氏が立候補し、選挙戦になれば、再び党内に亀裂が入るのではないかというトラウマもあったようだ。

津村氏から協力を求められた議員は「立候補は構わないが、路線対立はやめてくれ。それができないなら、推薦できない」と伝えたことを明らかにしてくれた。

最終的に津村氏が推薦人を確保したのは、告示日の朝9時過ぎ。
立候補の受け付け開始まで1時間を切っていた。

一方、告示日当日に、衆議院議員1人が離党届を提出し、党が「重大な反党行為だ」として、除籍処分とする一幕もあった。

対決?解決? 修正されたキャッチフレーズ

代表選挙は、結党からおよそ4か月間、党を率いてきた玉木氏に、執行部の刷新を求める津村氏が挑む構図となった。

この間、玉木氏は、野党の中で存在感を発揮するため、「対決より解決」を掲げて、先の通常国会に臨んだ。
国会で、審議拒否をしたり、採決を妨害したりするのではなく、巨大与党に押し切られながらも、何とか実を取ろうという戦略だ。

一方、「対決より解決」の路線は、政権与党に徹底抗戦する、ほかの野党との溝も生むことにもなった。
来年の参議院選挙に向けて、野党共闘実現への本気度を前面に打ち出した津村氏は「対決より解決」路線を厳しく批判した。

しかし玉木氏は「政権への対決の力が弱まるかのような誤解を与えた」と、すかさず釈明し、キャッチフレーズを「対決も解決も」に修正した。

玉木氏「選挙と国会は、できる限り、野党が一枚岩でやっていく。選挙では、協力できる政党や会派と『共同選対』を組み、国会では統一会派を目指して積極的に働きかける」

津村氏「安倍総理大臣を退陣に追い込めるかどうかが、この1年間の野党の勝負だ。『合同選対』がいいのか、水面下の交渉がいいのか、名前や器はどうでもいい。自民党が一番怖がる野党のスクラムを組むことに尽きる」

論戦を重ねるごとに、2人の主張に明確な違いはなくなっていった。

必ずしも一枚岩では…

一方、津村氏の陣営は、ある事情を抱えていた。

ギリギリまで推薦人の確保に苦しんだこともあり、「野党連携を強く打ち出すべきだ」と主張する議員と、「党が分裂する恐れがある路線対立を明確にするべきではない」と主張する議員が混在していたのだ。

加えて、「選挙戦に持ち込んだのは、今の執行部を刷新させるためだ」と明かす議員もいるなど、陣営内の路線をめぐる考え方は、必ずしも一枚岩ではなく、津村氏も、主張を抑えるようになっていったと感じた。

党は割らない!

玉木氏、津村氏とも、今回の代表選挙については、党の認知度を向上させる機会として位置づけていた。野党連携を進めるため、執行部の刷新を訴えた津村氏も、選挙戦では、次のように述べた。

「『党を割ってでも、野党共闘を進めたい』という強い意見をお持ちの方が、おそらく、いらっしゃるんだと思う。しかし、私は、そういう方々に推薦人の依頼をしなかった。推薦人を集めるのは大変だったが、それはやってはならない考え方だ」

一方、玉木氏は、野党の現状を次のように嘆いた。

「自民党が立派だと思うことは1つある。自民党は、10のうち1個でも一致したら、その1個の一致でまとまる。野党は、10のうち、9つまで一致するが、最後の1つが違うことをめぐって、一生懸命争う。これだといつまでたってもまとまらない」

代表選挙をきっかけに、対立と分裂を繰り返していた負の歴史を断ち切りたい。
第3子以降に1000万円を支給する「コドモノミクス」や「尊厳死」の法制化など、それぞれ独自政策を掲げ、政権担当能力を訴えた2人だが、一方で、対立と分裂の過去を乗り越えようという悲壮感すら感じられた。

冷ややかな…

代表選挙は、実に14日間にわたって行われた。
「政策論争が出来てよかった」「選挙戦が報道されて党の知名度が上がった」という声も聞かれたが、国民の関心は必ずしも十分には集まらなかった。

全国16か所で行われた街頭演説では、足を止める人は少なく、党勢拡大への道のりの厳しさが突きつけられた。

さらに党内でも冷めたムードが広がっていた。
投票権を持つ全国の党員・サポーターの投票率は31%にとどまった。

新代表に選出された玉木氏は、来年の参議院選挙に向けた野党連携の必要性を強調し、新たな執行部も、選挙対策を重視した布陣にしたいと宣言した。

「国民から見て、わかりやすい構図が大切なので、選挙と国会対応は一枚岩でやる。参議院選挙のいわゆる1人区は、1人に絞り込まないと勝てず、呼び方は別にして、調整のメカニズムを呼びかけていきたい。共産党も含めた調整を実現しなければならない」

これに対し、かつての「身内」で、野党第1党の立憲民主党は冷ややかだ。
「何の感想もない」と言い切る議員もいた。

立憲民主党の福山幹事長は「いわゆる1人区では、野党6党派で候補者を一本化して戦うことが、われわれの原則なので、野党が共闘するのは当然だが、『共同選対』は、異なる政党なので、今のところは現実的だと思わない」と指摘した。

局面は打開できるのか

「代表選挙をその後の分裂につなげる訳にはいかない」
玉木氏、津村氏の強い思いがあった中、国会議員の投票では2票の無効票が出た。
「離党予備軍だな」
さっそく、そんな声も聞かれた。

今回の代表選挙では、巨大与党に対峙(たいじ)する以前に、分裂の歴史に終止符を打ち、党内融和に腐心する2人の姿が浮かび上がった。

引き続き、野党第2党を率いる玉木新代表は、挙党態勢を構築し、党の存在感を高めて、支持率を向上させ、野党連携を構築する一翼を担うことができるのか。

去年の野党再編から1年。
様々な解が求められる方程式を解くための妙手は、まだ見つかっていない。

政治部記者
及川 佑子
平成19年入局。金沢局、札幌局、テレビニュース部を経て政治部。現在、野党クラブ担当。
政治部記者
鈴木 壮一郎
平成20年入局。津局、神戸局を経て政治部。現在、野党クラブ担当。神奈川県平塚市出身、湘南ベルマーレのファン。
政治部記者
清水 阿喜子
平成23年入局。札幌局、北見局を経て政治部へ。現在、野党クラブ担当。