“ゼロ票確認ガチ勢”ネットざわつく 参議院選挙 早朝の戦い

零票確認ガチ勢

「そろそろか…」
参議院選挙の1か月前、男はSNSにつぶやいた。
「#ゼロ票確認ガチ勢」「#零票確認」とともに。
(金澤志江)

ゼロ票確認とは何だ!?

ゼロ票確認は、投票箱に既に票が入っている不正がないように、空であることを確認する作業だ。
投票所に1番乗りした有権者が投票箱をのぞいて、この確認作業に立ち会う。
これは法令で定められた作業で、全国、すべての投票所で行われている。

公職選挙法施行令「投票箱の中に何も入っていないことを示さなければならない」
チャンスは期日前投票の初日と、投票日当日の2回。
あなたの近所の投票所でも行われているのだ。

“ゼロ票確認ガチ勢”に迫る

このゼロ票確認を使命と感じ、選挙の度に投票所1番乗りを目指す人たちがいる。
“ゼロ票確認ガチ勢”だ。(読み方は「ゼロひょう かくにん ガチぜい」)

零票確認!共に頑張ろう

全国各地に存在してネット上で情報交換をしているが、その全貌はわかっていない。

冒頭の投稿をしたのは秋田市在住で30代の信玄公さん。
“ゼロ票確認ガチ勢”の1人だ。

信玄公

国政選挙、地方選挙を問わず選挙のたびにゼロ票確認をすることを生きがいとし、自分が選挙権のある選挙の予定はチェックしている。
今回、どんな思いで活動を続けているのか、話を聞くことができた。

(信玄公さん)
「高校の授業でゼロ票確認のことを知って、選挙権を持ったら確認しに行こうと思っていました。最初に立ち会った時は『こんなものかな』とも思ったのですが、1番になるということをモチベーションに今も続けています」

狙うのは期日前投票の初日ではなく、投票日当日だ。“本番は投票日にある”と考えているからだ。
きたる参議院選挙の投票日7月10日に向けて準備に余念が無い。準備は1か月以上前から始まると言う。

(信玄公さん)
「1時間以上前には投票所の前で待機します。本番まであと1か月もないので、寝坊しないように早起きを習慣づけています」

ライバルの目を気にして、正確な待機時間は明かせないと言う。
寝坊をしてしまってはゼロ票確認はできない。最後は自分との戦いということなのだろう。

寒い日や雨の日には、全国各地の“ゼロ票確認ガチ勢”の仲間たちのSNSへの投稿が励みになるという。
“ゼロ票確認ガチ勢”はライバルでもあり、戦友でもあるのだ。

“ガチ勢”迎える自治体は…

ゼロ票確認のことを「空虚確認」と呼ぶ自治体もあるそうだ。
「空虚確認」…
行政用語なのだろうが、何ともむなしい響きだ。
投票の事務を取り仕切る自治体側は“ゼロ票確認ガチ勢”をどのような思いで迎えているのか。

投票箱を開けた様子
まずは千葉市に向かって調べてみた。

千葉市の選挙管理委員会は、ゼロ票の確認を行った有権者に感謝状を渡しているという歓迎ぶりだ。

千葉市選挙管理委員会の感謝状

市議会議員選挙や市長選挙、知事選挙、国政選挙の投票日に158か所の投票所で行っているという。

千葉市選挙管理委員会事務局 清水公嘉 事務局長

(千葉市選挙管理委員会事務局 清水公嘉 事務局長)
「記録が残っていないので詳しいことはわかりませんが、昭和60年3月に行われた千葉県知事選挙が最初で、投票率向上を目的としていたと思います。今になって注目されるのは不思議ですが、盛り上がることで選挙に関心を持ってもらうきっかけになるのであればこの試みを続けてきた意義がようやく出てきます」

投票箱の秘密を探る

なぜ“ゼロ票確認ガチ勢”はこれほど投票箱の確認に魅了されるのか。

答えは投票箱にあると思い、その歴史を調べてみた。

第1回衆議院議員選挙の投票箱
投票できるのは「直接国税15円以上納税の満25歳以上の日本国民男性」という教科書で習った時代の選挙、明治23年に行われた第1回の衆議院議員選挙では各地で木製の投票箱が使用された。
どこで使われたか地名も書かれていて、この投票箱は黒く重厚感がある作りだ。

それから130年余り、今の投票箱はどうなっているのか。調べると、法令に投票箱の規定があった。

公職選挙法施行令「投票箱は堅固な構造で二以上の錠を設ける」
何でもいいという訳ではないようだ。大手選挙用品メーカーの担当者に話を聞いてみた。

このメーカー、昭和24年に自治体から「木製の投票箱が不便なので適当なものを考案してほしい」という依頼を受けて、アルミ製の投票箱を作製したという。今は、組み立て式と、元から箱の状態の固定式の投票箱の2種類を製造している。

(日本選挙センター 担当者)
「何でもよいということはなく、きちんと公職選挙法の施行令などにのっとっていなくてはいけません。いずれも鍵が2つ以上あり、頑丈であるということを前提とした作りになっています。素材の指定はありませんが、持ち運びに便利なものにしています」

中心となっている商品は4000票が入る3万7400円の組み立て式のものだという。

投票箱はどのように管理されるのか

次に向かったのは、東京の中で有権者数が最も多い世田谷区。

倉庫に折りたたんで保管される投票箱
投票箱は倉庫に折りたたんで保管されていた。選挙が行われるまではここで静かに眠っている。

世田谷区が所有する投票箱の数は752個。1度に5つの選挙が行われても対応できるようにと、この数がそろえられた。

投票箱

このうち今回の参議院選挙で使われるのは294個。残りは次の選挙に備えることになる。使われるのは全体の半分以下と、意外と投票箱の登板確率は低いようだ。
期日前投票が29か所、投票日が114か所のあわせて143か所の投票所でゼロ票確認が行われる見通しだ。

ゼロ票確認された後の投票箱は?

ゼロ票確認はあくまでスタートの作業。その後、投票箱の管理はどうしているのか。

投票箱の内鍵と外鍵

世田谷区で使用している投票箱は、側面のふたを閉じるための外鍵2つと、票を入れる口のふたにつける内鍵が1つの計3つの鍵が付いている。

ゼロ票確認のあと、担当者が2つの外鍵をかけて封筒に入れる。投票に不正がないことを見守る立会人2人と投票管理者のはんこをそれぞれ押して封印がされる。厳重な管理の中、私たちが投票を行っているという訳だ。

封印された封筒
投票が終わったあとは票を入れる口にふたがされて3つめとなる内鍵がかけられ、鍵は封筒に入れられ封印される。
期日前投票の期間中は、外鍵は封印されたままだが、内鍵の方は毎日封を破って鍵を開けて投票が行われる。
投票箱は原則建物から出さず投票場所となっている部屋や、鍵のかかるロッカーなどで保管されている。

専門家「公平性保つため必要不可欠」

自治体へ選挙事務のアドバイスを行っている選挙制度実務研究会の小島勇人代表理事は投票箱とゼロ票確認の重要性を強調する。

選挙制度実務研究会 小島勇人 代表理事

(選挙制度実務研究会 小島勇人 代表理事)
「投票箱は有権者の民意の1票を受け止める非常に重要なものです。受け止める以上、それが改ざんされたり、抜き取られたり、投票者ではない人の票が入ったりということはあってはならない。そういう意味で投票前に中身が空であることを有権者に見せたうえで鍵をかけて厳重に保管するというのは公平性を保つために必要不可欠です」

“ゼロ票確認ガチ勢”は民主主義を支える重要な役割を果たしていることがわかった。
参議院選挙の投票日は7月10日。
全国の“ゼロ票確認ガチ勢”は入場券を手に我先にと早朝の投票所に向かい、SNS上には関連するハッシュタグが飛び交うことだろう。

ネットワーク報道部 記者
金澤 志江
2011年入局。仙台局や政治部などを経てネットワーク報道部へ。気になるテーマを幅広く取材中。