鈴木福×村木厚子 元事務次官
「未来に希望はあるか」

若者と、政治の世界を知り尽くす大人が本音で語り合う「ガチポリ!」(ポリティクス=政治)
若者の代表は、4月で高校3年生の俳優・鈴木福君。6月には18歳となり、選挙権を手にする。
今回の相手は、元官僚で厚生労働省の事務方トップを務めた村木厚子さんだ。
(文末に動画があります)

【リンク】対談・鈴木福×大島理森 前衆議院議長
【リンク】対談・鈴木福×時田博機 山形県遊佐町長

鈴木福(すずき ふく)
東京都出身。17歳。1歳から芸能活動を始める。民放ドラマ「マルモのおきて」が大ヒット。主題歌の「マル・マル・モリ・モリ!」で大晦日の紅白歌合戦にも出場。ドラマや映画で幅広く活躍するほか、最近は情報番組のコメンテーターもこなす。


村木厚子(むらき あつこ)
高知県出身。66歳。旧労働省に入り、働く女性の労働環境の改善や障害者の自立支援策などに取り組む。郵便の割引制度をめぐる事件で逮捕・起訴されるが、検察側の証拠の改ざんが明るみに出て、裁判で無罪が確定。その後、厚生労働省の事務方トップである事務次官に就任。退官後の現在は、内閣官房孤独・孤立対策担当室の政策参与を務めるほか、大学で教鞭をとる。

若者が抱く不安

将来に不安があったり、希望が持てないとか、そういう若者の意見があったりしますよね。先日大人になる人たちをターゲットにしたラジオ番組に出たとき、「大人になるのが怖い」という意見があって。こういったことはすごく問題だよなと。

私も、たぶん福くんと近い世代、大学1年生の授業を5年くらい受け持っていて、卒業して社会へ出るとか仕事をすることについて、すごい不安を持っているというのを感じるんですね。すごく優秀な学生さんで、大学へも入ったばかりで、本当だったら夢と希望に満ちていていいのに何でだろうと。そう思って、学生に「何で不安なのか」というのを教室で聞いたんですね。
その時に返ってきた答えが面白くて、一つはニュースで、例えばブラック企業とか過労死とか、悪いイメージがいっぱいある。そればかり見ているとすごい不安なのと、もう一つは通勤電車でおじさんの顔が暗いと。

確かに分からなくもない。(笑)

言われて、改めて電車の中を見ると、本当にどんよりしている空気が。だから、今の大人は楽しそうに見えないんだと思って。そんなに本当は悪いことばかりじゃなくて、仕事の楽しいことも良いこともつらいことも全部あると思うけど、
見え方がすごく悪いのではないかと思うのが一つ。

逃げ道があれば救われる

僕は芸能活動をすることを第一に考えていたので、偏差値もそんなに高くない学校に行ったのですが、せっかく入学できたのにそのまま辞めてしまう子とか、その中にうまくはまらないからといって辞めてしまう子をすごく見てきて。
この学校でもっとできることを見つけたり、もちろん今僕が通っている学校を辞めてほかのところに行って良かったこともたくさんあると思うし、そういうふうになってくれていたらいいけど、そうじゃなくダランとしてしまったらもったいないじゃないですか。もっと幅広く社会に目を向けられたらいいのになと思っていて。そういった現状は、どうやったら変えられると思いますか。

私も似たようなことを感じていて、大学に入ってきたばかりの学生と会うと、受験勉強だけしてきたんだなと。ほかのことを全部捨てて受験勉強だけしてきたんだなというのがすごく分かる時があるんですね。

 僕自身、両立しているからこそ、お仕事に学業が生きることも分かるんです。もっと学校以外のことも勉強できたら学校の勉強ももっと頑張ろうと思えるし、ほかにもやりたいことも見つかってくるのではないかと思っていて。

狭い世界で同じメンバーでいると、だんだん視野が狭くなってくるし、しかも受験勉強というすごくでっかい目標が前にあると、そこしか目が行かなくなるけど、本当は福くんが言ったみたいに、いろんな大人がいて、いろんな生き方があって、大人になって振り返ると学生時代のことがこう見えるんだとか、子どものとき、ああしておけばよかったとか、そういう話を聞けると良いよね。
私は政府の孤独・孤立対策の政策参与をやらせてもらっていて、引きこもりとか一人暮らしの高齢者の方は孤立していると、外から見ても分かるけど、若い人で内面にいろいろ抱えているという人に手が届くって、すごく難しいなという議論をよくしているんですね。若い人にとって何があれば本当につらい状況まで行かずに、これからどうする?と道を探るのに手助けになるかな?

 一つ言えるのは、学校で嫌だったことを仕事で発散できて、仕事で嫌だったり大変だったりしたことを学校で楽しく過ごせる、そうやってバランスが取れていたことが僕の中でベストだったかなと。
部活もやっていたから出来た部分があったと思うので、みんなももっとほかに逃げ道を作ってあげたら、そういうつらさも無くなるんじゃないかなと。何か学校で楽しいことを見つけることができるだろうし、僕は友達が一番楽しいし、部活も楽しかったので、もちろん部活で怒られたり、学校でも怒られたり、嫌なことは無くはなかったですけど、周りのみんなが好きだったし、野球も好きだったし、いい逃げ道になっていたのではないかなと。
逃げているつもりはないですが、ただ結果的に、うまく受け流すことができる方法として、その3つがあったからなのかなと。芸能活動で楽しいこともいっぱいあるし、両立しているからこそ難しさを感じるときもありますが、そうやってたくさんの場所に自分の足を置くことによって、良いところを見つけられるだろうし。

「失敗してもいい」という気持ちに

授業のゲストに呼んだ人が転職した話をした時、学生がすごく喜んだんです。なぜかというと、1回目の職業選択は失敗してもいいんだと。
最初に就いた職業が自分の永遠の職業にならなくてもそれはただの失敗ではなく、次の職場へ行った時にそれが生きたという話をしてくれたので、ゲストから「失敗というのは全部駄目なわけじゃない、次につながるんだ」と聞いて学生がすごく喜んだんです。それを見ながら私は「こんなに失敗が怖いんだ」と思ったわけ。だからチャレンジしないってなったり、失敗したからもう駄目だと思ったりというふうになりがちじゃないですか。
難しいだろうけど、失敗してもいいという気持ちになるためには、何があるといいと思いますか。

それしかいけないという選択肢の絞られ方をするのではなくて、100個のうちから1個を選べるくらいたくさん選択肢を見たうえで、学校の選択もそうだけど、「ここに行きたいけど、もしここが駄目だったらここにしよう、ここが駄目だったらここにしようと、駄目だったら来年頑張ればいいじゃん」と言ってくれる周りの方が大事かなと。僕たちがどうするという部分ももちろん大事だけど、そこまで至らせてくれる大人の方々の存在が、僕は周りにたくさん良い大人がいっぱいいるからこそ、そこは重要だなとすごく思います。

聞いてもらえれば伝えられる

「将来を担う子どもたち」という言われ方をするわりには、僕たちのための制度が、すごくたくさんあるわけじゃないじゃないですか。子どもたちに向けてという政治はどうなっていくんですか。

大人の側は何が足りないか、何を求められているかがあまり分かっていないんだろうと思う。言ってもらわないと分からないというところはすごくあると思うんです。どこかで声を出してもらってニーズを吸収して制度にしていくのが行政の仕事だったり政治の仕事なので、ニーズが見えないと制度の作りようがないところがある今までは、教育のニーズは誰に聞いていたかというと、学校の先生とかに聞いていた。もうちょっとダイレクトに、その世代の人が今何を考えていて何を思っているかをもっと聞かなければいけない、そこのチャンネルを使わなければいけないところへ来ているのかな。
私なんか、性格上、こぶしを振り上げて主張するみたいなのはちょっと苦手だけど、声に出して言ってみるということをしてもらわないと、分からないんじゃないかなという気がしているんですね。


若い世代もそうですが、Twitterでも、それぞれみんな意見をもっているじゃないですか。だけど、匿名で出すことはできるけど、自分自身の意見として出すことは、やっぱりハードルが高いんだろうなというのはすごく感じていて。僕たちが声を上げる努力はできると思いますが、する人は限られる。聞いていただければ一気にそのハードルが下がるんじゃないかな。

ぐっと分母が増えるといいですね。ただでさえ若い人は人口が少ないから、声の大きい人だけの声を拾うというのは何か違うなと私もずっと思っていたので、そういった部分で工夫がいりますね。考えてもらうための材料もたくさん提供しながら、ということかな。

聞いていただいたら、それに対して答えなければいけないので勉強するだろうし、もっとこうして欲しいという意欲がわいてくる。そうなってくると選挙の投票にもつながる部分がきっとあるでしょうし。

「若い人はきっと関心がないんだろう」とか、あるいは、ネット上で見えている、発信する人だけを見て「きっと若い人はこう思っているんだ」と言うのではなくて、普通にダイレクトに聞いてみるところから始めるということですかね。

僕はそれをすごく思います。聞いてくれないんじゃないかって思うと思考が止まっちゃうと思うんです。そうなってくると僕がこうして欲しいですと言ったことも、いや、無理ですよと言われるんじゃないかな、じゃあ、やめておこうとなるじゃないですか。だけど、「どう?」と聞かれたら言えると思うので。

 聞いてくれるんだ、聞く気があるんだというのをまず見せることですね。

そうしてくれるとすごくうれしいなと思いますね。

どっぷりそこに浸かっていない人の意見のほうが、結局、新しいことや大きな改革を進めるときはそういう人の意見からスタートするのは私も自分の仕事ですごい経験したので、みんなにとっていいことが起きますね。

パワーゲームの現実の中で

 意地の悪い質問になりますが、そういうふうに聞いてくださると言いながらも、官僚の皆さんと政治家の皆さんとの間には大人の世界があるわけじゃないですか。そうなった時に、しっかりと僕たちの声が届くことは可能ですか。

私は可能だと思っていて、そんな単純な答えじゃないかもしれないけど。行政官の仕事は、対策が必要なことを見つけて、それに対する対応策の設計図を書いて、それを実行に移していくんですね。そうすると、何が必要かという最初のスタートのところは当事者の人に聞かなければ絶対分からないので、もともと何かをしようと思ったら聞くしかないはずなんです。基本的に聞く耳というのはあるはず。
もう一つ難しいのが、いろんな意見がある時、いろんな人がいる時、財源が限られている、その中でじゃあどこに財源を付けますか、誰の意見を聞きますか、そこの勝負だと思います。悪口で言うわけじゃなくて率直にいうと政治家の人は1人1票、どれだけたくさんの票をもらうかなので、ターゲットが多いほうがいいわけですね、政策としてやるのは。そういう構図の中で、投票で選ばれる政治家の人と、政策を作る技術屋さんとしての設計士さんの役人がいて、国民、投票をする人がいるので、いつもそのパワーゲームはなくなりはしないと思うんです。
一種、(政治家への)説得が必要で、今、ここの政策をちゃんとやることが、結局すごく将来のためにいいとか、この政策をやらなければ状況がひどくなってもっと悪いことが起こるとか、そこの理論武装をしていかなければいけないと思います。
でも第一は声を上げることで、その声を拾って、政策にこうやったぞと言えるのは政治家の人にとっても喜びなんです。だから声を上げて何に困っているかをきっちり知ってもらって彼らを動かす、プレッシャーをかけていくしかない。
あとは、パワーゲームのところをどうするかは、それなりの力を出していかなければ小さい声では届かない。そこは勉強して、どう声を大きくするか、拡大して聞かせるかは、一人一人、国民の人も少し汗をかいてもらわなければいけないところかなと思います。

「変えられないかな」が第一歩

最後に、若者の政治参加率が低いのが問題になっていると思いますが、今後僕たちはどうすれば良いと思いますか。投票率が低いと言われながらも僕たちができることは、たぶんこれを見てくださった方とか、一部の人が投票する、それしかできないじゃないですか。

私は今66歳ですけど、ずっと行政にいて、声を上げる人がいれば、制度とかいろんなものは変わってきたなと思っているんです。
だから、私たち大人も、「制度とか現状は変えられるよ」というのを若い人に発信しなければいけないし、若い人も「これって嫌だ」と思ったとき、「昔からこうだったのかな」とか、「誰が決めているんだろう」とか、「誰に言えば変わるだろう」とか、「どう変えたい」というのを考えてほしいと思います。そうすると、「学校が決めているのか、じゃあ学校に言おう」とか、「僕たちで変えられるなら勝手に変えよう」とか、国の政治しかないと思えば「どうやったら政治家に声が届くかな」とか、そういうアクションにつながっていくじゃないですか。「これって変えられないかな」と思ってもらえたら、それが一番大きな第一歩かなと思います。

 そういった発想に至る努力を僕たちもするべきですか。

うん。年をいった大人は「こうやって変わってきた」とか、「こうやったらこれが変えられた」という今までの経験とか、そういうものを皆さんに伝えることですね。

ありがとうございました。

2人に感想を書いてもらいました。


「1つに絞れなくて2つ書きました」と語った村木さんの言葉は、「たくさんの足場を提供する コミュニケーションのパイプを作る」。その思いは?

「私たちはけっこうダイバーシティとか、いろんなことを言ってきたけど、子どもとか若い人にとってのダイバーシティは考えたことがなかった。自分にとって選択肢がたくさんある、逃げ場もある、足場もあるという状況を作ることで、若い人のつらさみたいなものが軽減できるんだというのはすごく大きな気づきでした」

「たくさん知る」と書いた福君。その思いは?

「話を聞いてくださった時に、ここをこうしてくださいませんかと言えたら面白いじゃないですか。そういうふうに言えるように勉強しなきゃと思いますね。社会人と学生のあいだにいる特殊なタイプだと自覚しているので、だからこそ気づける部分を気づいて、みんなの声を大きくできる拡声器になれたらと思いますね」


若者と政治のキーパーソンが本音トークを通じて、ガチで政治を考える番組「ガチポリ!若者×政治10min.」。
“政治って自分とは関係なくない?” “政治って縁遠いし、政治を考えたところで何も変わらないでしょ?” …
そんな「若者の政治離れ」に一石を投じようという新たな政治番組。世代や立場を超えた2人が語らう姿を見るうちに、思わぬところで政治が身近にあることに気づき、日頃の悩みやモヤモヤも解消されるかも!?

政経・国際番組部(政治番組)ディレクター
大藪 謙介
平成20年入局。名古屋局を経て政経・国際番組部へ。主に政治番組の企画・制作を担当。最近よく聞く若者言葉は「エモい」「○○み(「わかりみ」など)」→常に周回遅れです。
選挙プロジェクト記者
杉田 淳
平成5年入局。視覚障害があり、音声ソフトを使いながら、この原稿を書いています。最近聞いた若者の言葉は「Vtuber」。U(you)の次はVが来ているんですね。
政経・国際番組部(政治番組)チーフ・プロデューサー
北畠 原平
平成10年入局。ニュースウオッチ9、おはよう日本などを経て政治番組へ。「リムる」?「やりらふぃー」?若者を知る前に若者言葉が分かりません!