“東京一極集中”に変化の兆し
人口移動データで読み解く
移住の現場は…

長年、全国から人を吸い上げてきた日本の首都・東京。
しかし、最新の人口データを分析すると“東京一極集中”の潮流に変化の兆しが現れつつあることが見えてきました。
東京に入ってくる人が減り、出て行く人が増えているんです。
(※1月28日公表の最新データに更新しました)

東京 転入超過も人数最少 23区は初の転出超過

総務省が住民基本台帳に基づいてまとめた外国人を含む東京都の人口の動きは、去年1年間で転入者数が42万167人、転出者数が41万4734人となり、転入が転出を5433人上回る「転入超過」となりました。「転入超過」の人数は前の年より2万5692人減り、現在の方法で統計を取り始めた2014年以降、最も少なくなりました。

さらに東京23区でみると、転出者数が転入者数を1万4828人上回り初めて「転出超過」となりました。

転出者 東京からどこへ?

東京から転出した人はどの自治体に移り住んだのか。去年1年間のデータをまとめました。

 道府県別では 上位は東京隣接エリア

最も多かったのは神奈川で9万6446人。次いで埼玉が7万8433人、千葉が5万8485人、大阪が1万8801人、愛知が1万3254人などとなっています。

市町村別では 東京近郊の都市で多い

市町村別で最も多かったのは横浜市で3万5736人でした。次いで川崎市が2万9318人、さいたま市が1万5597人、埼玉県川口市が1万838人、大阪市が9246人などとなっています。

増加率が最も高いのは鳥取県

東京都からそれぞれの道府県に転出した人の数について、新型コロナの感染拡大前の2019年と去年を比べた増加率をみてみます。

増加率が最も高かったのは、鳥取で25.1%でした。次いで、長野が19.6%となったほか、高知が19.2%、山梨が17.7%、徳島が17.4%などとなっています。

“地方移住への関心高まる”

こうじた人口移動が、コロナと直接関係しているかはさらに分析する必要がありますが、コロナ禍が長引く中、地方移住に関心を持つ人は確実に増えているという専門家もいます。

東京・有楽町で、地方移住を希望する人たちの相談に乗っているNPO「ふるさと回帰支援センター」。
去年の相談件数はおよそ5万件と過去最高を更新したということです。

私たちが取材すると、神奈川県から訪れていた20代の女性は「コロナで会社と自宅を行ったり来たりだけの生活になった。暮らしをより“豊か”にしたい。農業にも興味がある」と話してくれました。

別の相談者の50代男性も「父親のふるさとの和歌山に何らか貢献したい。コロナを機に、自分が本当に何をしたいか考えるようになった」と言います。

NPOの高橋公理事長は「自然豊かな土地で暮らしたいなど、幸せのカタチが多様化しているように感じる。20-40代の人たちからの相談が増えている」と話していました。

コロナ禍は、私たちのライフスタイルに大きな影響を与えました。
地方自治体はこの機を捉えて転入者を増やそうと、子育て世帯などを対象にあの手この手の取り組みを打ち出しています。

人々の価値観の変化や自治体の取り組みが、“東京一極集中”の流れを変えうるものになっていくかどうか。
千葉県流山市神奈川県小田原市長野県御代田町北海道東川町鳥取市の各地の移住の現場を取材しました。

若い世代の人口増加続く 千葉 流山

東京・秋葉原からつくばエクスプレスで約25分の千葉県流山市。30代と40代の人口が高齢世代よりも多く、コロナの感染拡大以降も、若い世代の人口増の傾向は続いています。

都内の同じ会社でITエンジニアとして働く妻の内村華奈さんと(26)夫の祐之さん(31)は、新型コロナの影響で完全にリモート勤務になりました。東京・北区の1LDKのマンションで、リビングと寝室にそれぞれ机を置いて仕事をしていましたが、リモート会議の時間が重なると互いの声が聞こえてしまい、支障が出ていたといいます。

このため、広い部屋を求めて引っ越しを決意し、たどり着いたのが流山市です。

流山おおたかの森駅に2人が初めて降り立ったときの第一印象は「なんて子どもが多いんだ!」だったそうです。
「母になるなら、流山市。」をキャッチコピーに子育て世帯の移住促進に取り組む流山市は、平日も休日も、ベビーカーをひく家族連れの姿をあちこちで見ることができます。駅前にはショッピングモールがあり、建設中の建物も多く、2人は街の勢いを感じて移住を決意し、2020年の秋に引っ越しました。華奈さんはことし4月に出産を控えています。

(内村華奈さん)
「駅前がすごくきれいで散歩しやすく、公園もたくさんあるので、子どもが生まれても遊びに行きやすそうだなと感じています。流山市はお母さんが多いと思うので、出産してから交流したいです」

(内村祐之さん)
「自分の子どもが泣きだしたとしても、たくさん子どもがいるので冷たい視線もなく、うろたえずにすみそうだなと思います」

流山市の井崎義治市長は、子育て政策に力を入れてきたことを強調します。

(流山市 井崎義治市長)
「流山市は、共働き世帯が仕事をしながら子育てができる環境として、例えば『送迎保育ステーション』を駅前に設け、保護者が通勤途中に子どもを預けて専門のスタッフが保育園まで送り届ける仕組みをつくったり、夏休み中の子どもの居場所づくりなどに取り組んだりしてきました。こうした環境が、子育て中の若い世代に選ばれていると考えています」

移住後は生活費が減少 神奈川 小田原

自然豊かで、新幹線なら都心部までわずか30分という利便性のよさが売りの神奈川県小田原市。
コロナの感染拡大以降、市内に入ってきた人が、出ていった人を大幅に上回っています。

小木曽一馬さん(31)と、妻のなつめさん(32)は、去年10月、東京・台東区から移り住んできました。
以前から自然に囲まれた生活を送ってみたいと考えていましたが、2人とも新宿に本社があるIT関連の企業に勤めているため、毎日の通勤を考えると都心部に住む選択肢しかなかったと言います。

しかし、コロナをきっかけに、テレワークが本格的に導入され、出勤する日が減ったほか、会社が、去年、働く場所を社員が選択できるようにすると打ち出したことで、移住を決断しました。

(小木曽一馬さん)
「コロナ後、出勤前提の働き方に戻ってしまったらどうしようという不安がありました。しかし会社が一人一人の働き方に合わせて好きな場所で働けることを打ち出してくれた ので、安心して移住に踏み切れました」

小木曽さん夫婦が移住先を小田原市に決めた理由は、徒歩で海や山に足を運べることに加えて、職場の新宿まで1時間半ほどで到着できるアクセスの良さでした。

移住後、生活費も大きく減りました。
台東区に住んでいた時は月々の家賃が1DKで15万円台でしたが、今は3DKで8万円台。
夫婦そろってテレワークをしても部屋を分けられるようになり、互いの声は気になりません。

小田原ゆかりの工芸品にも囲まれ、仕事と生活の質が大きく向上したという小木曽さん夫婦。
こうした魅力を伝えるWEBサイトもみずから立ち上げ発信しています。

(小木曽さん夫婦)
「自宅で癒やしとか、集中できる環境も作れるため、仕事の生産性も上がっている。移住する人が増えて街が活気づくよう自分たちも貢献したい」

テレワークと新幹線通勤を組み合わせ 長野 御代田町

東京から北陸新幹線で1時間余り。浅間山を臨む長野県御代田町は、避暑地として知られる軽井沢の西隣に位置します。

滝本謙一さん(50)は、ここに、おととし7月、妻と移住してきました。
東京・港区の狭い賃貸マンションでの生活にストレスを感じていたと
いいます。
御代田町に移住する決め手となったのは、東京へのアクセスのよさに加え、自然環境と買い物や病院などの利便性のバランスがとれた、生活するのに“ちょうどいい”環境でした。

新たに迎え入れた2匹の犬と、自然の中を散歩するのもリフレッシュになっています。一番の困りごとは、お気に入りの美容室がみつからないことだとか。

東京の企業に勤める滝本さんは、テレワークと週に何度かの新幹線での通勤を組み合わせています。
長距離通勤は負担になっているかと思いきや、 そうではないといいます。

(滝本謙一さん)
「東京での家賃に比べると、今こちらで払っている家のローンや新幹線代を足しても、計算上は安くなっているんです。
新幹線は座れるので仕事もできますし、満員電車で1時間揺られるよりは、多少の金銭負担があったとしても、こちらの方が豊かに生活できて、効率もいいと思っています」

新型コロナについては「密になる環境が圧倒的に東京より少ないので、感染リスクが少ない安心感を感じる時はあります」と話していました。

キャッチコピーは“適疎” 北海道 東川町

コロナ禍で“疎”をPRして、移住者を増やしている自治体があります。

人口8300人余りの北海道東川町は、これまで外国人留学生の誘致に力を入れてきましたが、新型コロナの感染拡大が影響し、留学生は減少に転じています。

こうした中、町は、過密でもなく、過疎でもない、ほどよい疎という意味の“適疎”(てきそ)をキャッチコピーに、国内からの移住者を呼び込みに力を入れています。
無料のWi-Fiを整備したコワーキングスペースも作りました。
町役場が政策の司令塔とするのは「適疎推進課」です。

東京都のデザイン会社で働く遠又圭佑さん(32)は、町の“適疎”な環境を決め手に、去年6月、東川町に移住しました。

(遠又圭佑さん)
「テレワークが浸透し、東京で生活する必要性がなくなったことが、自分らしいライフスタイルとは何かを考えるきっかけになりました。雄大な自然の中で遊ぶことで感性を磨き、それを仕事にフィードバックするというサイクルができていて、幸せを感じています」

一方で、コロナ禍で移住者と地元の住民が交流する機会が減っていることが課題となっていて、「適疎推進課」はコミュニティー形成を支援していくということです。

移住の先輩に相談相次ぐ 鳥取

5年前に妻と生まれたばかりの子どもとともに、都内から鳥取市にUターンした吉井秀三さんは、移住によって念願の一軒家に住むことができました。
自然が豊かな山あいの地域に地元のNPOの支援を受け、タイミングよく空き家を借りることができたことも移住を決断した理由のひとつになっています。

移住後は、フリーランスで企業のマーケティング支援などのリモートワークを請け負い、今は、都内の企業に在籍して仕事を続けています。

家の敷地や、近くに借りた畑で家庭菜園も始めるなど、生活スタイルにも変化が生じています。
コロナ禍の前に鳥取市に住み始めた吉井さんのもとには、今、SNSなどを通じて移住の相談が相次いで寄せられているということです。

(吉井秀三さん)
「仕事は50%くらい。残りの25%が地域のイベントなどへの活動。さらに25%が農作業など新しいことにチャレンジする自分の時間です。SNSや県外の知人との雑談で、『私も移住したくて』と話を切り出されるなど、相談が増えました。コロナをきっかけに移住に関心を持つ人が増えていると感じます」

コミュニティーに給与…移住のハードルは 鳥取

東京都内の情報サービス大手に務める鹿田拓也さん(31)は、仕事がコロナ禍でリモートワークに切り替わり、同じ会社に勤める妻と1歳になる子どもと共に鳥取市にUターンしました。

都内では子どもの預け先を探す「保活」に苦労しましたが、鳥取では保育園探しも、市の相談員に助けられ、スムーズに進んだということです。

その一方で移住には、大きなハードルもあると感じています。

妻は、鳥取は初めての地。コミュニティーの形成が課題となっています。

(鹿田拓也さん)
「家族しか知り合いがいない中で、コミュニティーを作っていくのはなかなか難しい。これからどんどん自分達からも動いていかないと、コミュニティーができないというのは悩ましいところです」

さらに仕事の面でも。
鹿田さんは、会社の制度を活用し、都内に住んでいた時と同じ給与水準でリモートワークが可能になったことで“転職なき移住”ができました。

移住に際して、転職が必要だったり、今と同じ水準の収入が確保できなかったりすれば、決断は、難しいだろうと考えています。

(鹿田拓也さん)
「環境が整っていないとか、出社が原則であるという人は、なかなか地方に移住することは決断しづらいと思います。場合によっては、兼業や副業といった多様な働き方も求められるのではないか」

 

こうした移住について、専門家はどのように見ているのでしょうか。2人に聞きました。

専門家「東京“圏”一極集中へ」

ニッセイ基礎研究所の天野馨南子人口動態シニアリサーチャーは最近では、群馬、茨城、山梨などにも移住先の範囲が広がっていると言います。

(天野馨南子氏)
「コロナ禍でテレワークの導入が進んだり、新型コロナの感染を避けたりするため、子育て世帯や高齢者、それに単身の男性などが東京から神奈川、千葉、埼玉に移り住んでいる。最近では、群馬、茨城、山梨などにも移住先の範囲が広がっている。いわば『東京“圏”一極集中』だ。

東京から全国各地にどんどん人が移り住んでいるという話ではない。コロナ禍で地元の大学や企業に就職したいわゆる“出控え”という側面も大きく、コロナが収束すれば東京に出てくる人が増えると考えている。また、地方には女性が働きやすい就職先が少なく、女性による東京進出の流れは根強い。しっかりとした労働市場が地方で構築できなければ、人の移動は根本的に変わらない」

専門家「“転職なき移住”の始まり」

みずほリサーチ&テクノロジーズの岡田豊上席主任研究員は“転職なき移住”の始まりだと指摘し、自治体にとってはチャンスでもあり、競争も生まれるとしています。

(岡田豊氏)
「コロナ禍で企業の中には全国どこに住んでも社員として認める動きが出始めている。この流れが加速すれば会社のある地域と住む場所は一致しなくてよくなる。この動きは相当大きなゲームチェンジにつながると思うし、『転職なき移住』の始まりを意味している。今回の動きを一過性とみる向きもあるが、小さな変化が大きな時代の潮流を作る可能性があるため、日本全体に影響を及ぼす変革の波を見逃してはならない。

全国どこでも勤務ができるようになれば定住という考え方がなくなり、好きな地域を選んで転々とすることもできるようになるかもしれない。これは、地方自治体にとって大きなチャンスだが、競争の始まりとも言える。移り住んできた人がビジネスをしやすかったり、地域のコミュニティーに入りやすかったりする環境整備などをできるかが問われている」

NHKは、こうした人口や移住に関するニュースを放送でもお伝えしていきます。主な放送予定は以下の通りです。
【1月26日(水)】
午後5時~「ニュース シブ5時」
【1月28日(金)】
午後7時~「NHKニュース7」
午後9時~「ニュースウオッチ9」
【1月31日(月)】
午前7時台「NHK NEWS おはよう日本」

経済部記者
峯田 知幸
2009年入局。富山局、名古屋局を経て現職。企業取材や金融・財政取材を担当。幼少期から転勤族。都会も地方も良さがある。
政治部記者
桜田 拓弥
2012年入局。佐賀局、福島局、選挙プロジェクトを経て、政治部で総務省担当。全国の城めぐりが趣味。
千葉局東葛支局記者
杉山 加奈
2018年入局。事件・司法担当を経て、今は支局でコロナ、福祉、ジェンダーを取材。休日は東葛地域のまち歩き。
社会部記者
老久保 勇太
2012年入局。盛岡局、鹿児島局を経て現在社会部で災害担当。住む場所の近くに欲しいのは広い公園。
ネットワーク報道部記者
芋野 達郎
2015年入局。釧路局、旭川局を経て、現職。旭川局では東川町の移住政策を取材。趣味は読書。
札幌局記者
吉村 啓
2013年入局。奈良局、旭川局を経て、現在は札幌局で北海道庁を担当。大阪府出身で、プログラミングに興味あり。