与野党前職“背水の陣”対決
衆議院 大分2区

投票日が10月31日に迫った衆議院選挙。
各地の注目区のルポ、4回目は与野党候補の一騎打ち。
自民党の大ベテランと、社民党を離党し、立憲民主党に加わった前議員がともに背水の陣で臨む「大分2区」だ。
(志賀祥吾、中野碧)

大分2区は“社民の牙城”

大分2区は、九州北部豪雨で被災した日田市などの山間地域に加えて、豊後水道を望む沿岸地域まで大分県西部から南部に広がる選挙区だ。

ここ大分2区は、長らく「社民の牙城」とされてきた。
中選挙区制度の旧大分1区時代を含め、当時の社会党、そして社民党の国会議員を輩出。
村山富市は、社会党の委員長として、それまで敵対していた自民党、それに新党さきがけと「自社さ連立政権」を組み、ついに第81代総理大臣に就任した。

小選挙区制度になってからは、自民党に敗れることが続き、選挙区での議席獲得は政権交代した2009年の選挙の1度だけ。
社民党の国会議員が減少する中、それでも、比例代表での復活当選で議席を確保してきた。「社民の牙城」というのはこんな経緯だ。

自民の大ベテランvs立民から初立候補 前議員対決

この大分2区に立候補したのが、届け出順に、自民党の前議員で、公明党が推薦する衛藤征士郎(80)、立憲民主党の前議員で、国民民主党県連と社民党県連合が支持する吉川元(55)の2人。

衛藤は地元・玖珠町の町長を2期務めたあと、参議院議員となり、その後、衆議院に鞍替えして、当選を重ねてきた。その当選回数は12回、大ベテランだ。村山内閣では防衛庁長官を、野党時代には衆議院の副議長を務めた。

対する吉川は香川県出身。2012年、元社民党幹事長の重野安正の後継として立候補し、これまでの当選3回はすべて比例復活だ。去年、社民党が事実上分裂した際に離党し、立憲民主党に合流。今回が立憲民主党の前議員として初めての選挙戦となる。

岸田支えた衛藤 総裁選を追い風に

衛藤が選挙に向け本格的に動きだしたのは10月10日。

刷り上がった2連ポスターのパートナーは総理大臣に就任したばかりの岸田文雄だ。
自民党総裁選では、陣営の選対顧問を務め、岸田の勝利を支えた。事務所開きでは集まった支持者にその岸田とのエピソードを披露した。

「岸田さんとは昔から知り合いで、彼が広島で最初に立候補したとき、岸田さんの父親に頼まれ、朝から晩まで一緒に遊説した。3日前にも本人と直接話した。『米価の決定に、国が再び関与すべきだ』と」

コメの価格の下落は県内の農家にも深刻な打撃を与えている。
新型コロナウイルスの感染拡大で、飲食店などの需要が落ち込んでいるのが原因だ。
衛藤は、岸田から支援の言質を取り付けたことをアピールした。政府内では、岸田の指示を受け、対策の検討が進められているという。

徐々に差が…

衛藤に比例代表での復活当選はない。
自民党が比例代表との重複立候補に「73歳の定年制」を設けており、選挙区での勝利を目指すしかない。

ただ、吉川相手に過去3回すべて勝利してきたとは言え、陣営が気にかけるのがその差が徐々に縮まっていることだ。
2012年の選挙で約4万7000票と大差だったのが、前々回は2万6000票余、前回は約1万9000票となった。
さらに、およそ1年前に地元で行われた県議会議員の補欠選挙で息子が敗れ、陣営はいっそうの引き締めを図っているという。

「岸田内閣発足後の支持率は期待したほどは上がらなかった。『追い風』だなんてとんでもない。『逆風』が『無風』になっただけ。今後の状況次第では再び『逆風』となることもあり得る」(衛藤陣営幹部)

今回の衆院選、衛藤にとっては文字どおり「背水の陣」の戦いとなる。

「自民の牙城」切り崩せるか

一方の吉川。
選挙戦が近づいた10月初め、日田市中津江村に姿があった。2002年、ワールドカップ日韓大会でカメルーン代表のキャンプ地として一躍有名になった中津江村。人口こそ、700人程度だが、選挙区内でも有数の保守地盤として知られている。

「軽トラ」で訪れた吉川は、手際よくスピーカーとのぼり旗を準備し、荷台に立って演説を始めた。
狙いは自民党支持層の切り崩しだ。戦後初めて任期満了後に投票が行われることになった今回の衆院選。演説を終えた吉川はアピールする時間は十分あったと胸を張った。

「今回はこれまでよりも準備期間が長いし、焦りはない。選挙区内を広く回ることで、高齢化が進む地方の実情を知ることもできる。前だけを向いて、がむしゃらにやるだけだ」

『立民の吉川』として

ことし7月中旬、村山富市のもとを、立憲民主党代表の枝野幸男が吉川とともに訪れたことがあった。

村山は衆院選での協力を要請する枝野に対し「頑張ってもらいたい」と応じた上で「吉川を頼みます」と頭を下げた。

立憲民主党の前議員として臨む初めての選挙戦。重複立候補した比例名簿には、同じ1位に吉川のほか、21人の名前が並ぶ。社民党の候補者だった前回の選挙では4人だ。
復活当選ということなら、そのハードルはかつてなく高い。ただ、これまでの選挙とは異なる手応えを感じているという。

「野党第1党に移ったことで、地元の声を国に届けてくれるのではないかという支援者からの期待を感じる。衛藤に比べると若く、力もある。今度こそ、衛藤に迫ってきているのではないか」(吉川陣営幹部)

悲願の選挙区での議席獲得に向けて、吉川も「背水の陣」には変わりない。

ついに火蓋が切られる

公示日。大分県内の各地でも朝は10度近くにまで冷え込んだ。肌寒く、ピリッとした空気が包む。

衛藤が第一声の場所に選んだのは、有権者が最も多い佐伯市。政権の継続とともに、地域での暮らしをよくすると訴えた。

「国民の生活、暮らし、その根幹はなにか、それは賃金だ。いかに給料を上げるか、実質賃金を上げるか。若い人たちが地方に住みたい、住みたくなる。地域に足をしっかり根ざしてくれる。そのための政治を目指し頑張るしだいだ」

一方、吉川が選んだのは、佐伯市に隣接し、自らの地盤とする臼杵市だ。政権が変わらなければ、地方は変わることができないと訴え、一歩も引かない構えだ。

「アベノミクスで、豊かさが吸い上げられてきたのがこの9年間。この政治を変えなければ地方は衰退の一途をたどる。若い人たちがふるさとで仕事につき、暮らし、結婚し、子育てが安心してできる地域を政治の力でつくっていかなければならない」

4回目となる両者の選挙戦は折り返しを過ぎた。

衛藤が地盤の強い地域で個人演説会を連日重ねるなど、組織をフル回転させて、従来からの支持層固めを進めるのに対し、吉川は街頭活動をインターネットでライブ配信するなど、SNSも積極的に活用して、いわゆる無党派層への支持拡大を狙う。
果たして、どちらが勝利を手にするのか。投開票日は10月31日に迫っている。
(文中敬称略)

大分局記者
志賀 祥吾
2014年入局。2020年夏から2度目の大分局勤務。県政キャップ。趣味は別府湾での釣り。
大分局記者
中野 碧
2018年入局。警察担当を経て遊軍に。最近の楽しみは、癒やしを求めての星空観察。