菅の支持率 すかし見たら

「支持率はコロナの感染状況と連動する」

そんな話をよく聞く。果たしてこれは本当なのか。そして政権は、支持率の動向をどのように捉え、最大の焦点である衆議院の解散戦略をどう描くのか。

NHKの世論調査を読み解きながら、探ってみた。
(政木みき、小嶋章史)

支持率はコロナと連動

まずは次のグラフを見ていただこう。
去年9月に菅内閣が発足してからNHKが毎月実施してきた7回の世論調査の結果と新型コロナウイルスの全国の感染者数を重ねたものだ。

第3波の感染者数の高まりにともない自分や家族が感染する不安を感じる人が増えると、反比例するように政府のコロナ対応を評価する人が減り、引きずられて内閣支持率も落ちる。逆に年が明けて感染者数が山を越え不安が頭打ちになると政府の対応を評価する人は上向き、3月には発足以来続いた支持率の下落傾向に歯止めがかかった。ちょうどピーク時の1割前後まで感染者数が減った時期だ。

確かに、支持率と感染状況は連動している。

感染拡大の第1波、第2波のさなかにあった安倍内閣の支持率が感染者の増減と関係なく緩やかに下がり続けていたことと比べても、菅内閣の支持率と感染者数の結びつきは強い。

支持率は支持なし層頼み?

発足から半年、下がり続けた支持率が足踏み状態となり「底を打った」との声も聞かれる。
ここが底なのか。菅内閣の支持基盤から分析した。
2月から3月の内閣支持率の変化で目を引いたのは、特定の支持政党を持たない、いわゆる支持なし層での上昇だ。2月は22%と野党支持層と並ぶ低水準だったが、3月は与党支持層と野党支持層が横ばいを続ける中、28%へと明確に反転し、支持政党別、男女別、年代別で見た中で唯一、有意な変化が見られた。
野党第一党の立憲民主党の支持率が1桁を脱する気配さえ見られない中、菅内閣のもとでは支持なし層が約4割のシェアを保ち続ける。(3月の調査結果はこちら
4割というのは自民支持層と同程度、月によってはやや上回るボリュームだ。安倍内閣以来長らく続くこの有権者の構図が全体支持率における支持なし層の動向に重みを加えている。

“支持なし層頼み”の状況は、安倍内閣との比較からも読みとれる。
菅内閣と第2次以降の安倍内閣(2012年12月~2020年9月)の支持の特徴(安倍内閣の支持率を分析した記事はこちら)を比べると、支持率が比較的高い男性や若年層といった固定支持層がいた安倍内閣と比べ、菅内閣の支持率は男性と女性の差も、年代による差も小さく、目立った特徴がない。言い換えれば与党支持層以外で明らかな固定支持層が見当たらない。

たとえば男女別で見ると、両内閣とも男性が女性より支持率が高い傾向であるが、男女差の平均は安倍内閣が8ポイントであるのに対し菅内閣は5ポイントとやや小さい。安倍内閣は、第2次発足から辞任に至る7年あまりの91回の調査のうち3回に1回は男性の支持率が10ポイント以上女性を上回るという、いわば男性に支えられた内閣だった。背景には外交・安全保障や看板政策アベノミクスに対する評価があるとみられ、コロナ禍で外交や経済政策がままならない菅内閣は異なる状況にいる。

年代別で見ても菅内閣には大きな特徴はない。安倍内閣では長期化するにつれ、30代以下の若者の支持率が比較的高い傾向となり政権の1つの特徴になっていったが、菅内閣では特定の年代からの強い支持は見られない。3月の支持率は30代以下が43%、40代・50代が42%、60歳以上が41%と横並びだ。

頼みの自民支持層の支持も菅内閣は安倍内閣に比べやや弱い。安倍内閣では自民支持層の平均支持率は83%だった。これに対し菅内閣の自民支持層の支持率は、発足当初こそ85%だったが去年12月に支持率が急落して以降は65%程度で推移し、この半年の平均は73%。安倍内閣の平均より10ポイントも低い。一方、支持なし層の平均支持率は安倍内閣が27%だったのに対し菅内閣は33%と低水準ながらやや上回る。
あくまで発足から半年という時点での話ではあるが、安倍内閣との比較からも、強い支持基盤がない菅内閣は支持なし層により左右されていることがうかがえる。

ふくらんだワクチンへの期待

3月の支持率回復に話を戻そう。なぜ支持率は下げ止まったのか。ムードチェンジャーになったと目されるのがワクチンだ。


1月に入ると、菅はツイッターのフォロワー数が政界有数の規制改革担当大臣・河野太郎を担当大臣に据え、情報発信に努めた。世論調査の結果を見ると、河野が起用される前の1月調査でワクチンを「接種したい」と言う人は50%だったが、2月は61%、3月は67%と調査をするたびに増えている。

接種意向を支持政党別で見ると、1月時点で「接種したい」という人は与党支持層が57%だったのに対し、野党支持層は40%、支持なし層は47%と違いが見られた。このうち支持なし層は1月時点での接種希望者が半数を下回っていたが、2月になると55%に増え、3月はさらに7ポイント伸びて62%となった。
ワクチンを接種したいかどうかで分けて見ると、内閣支持率は「接種したい」人では45%、「接種したくない」人では33%と差がある。感染者数が減った2月から3月で政府のコロナ対応を評価する人は全体で44%から48%に増えた。当初は半数が接種に慎重だった支持なし層を含め、幅広い層でワクチンへの期待がふくらんだことが政府の対応への評価を高め、支持率の下げ止まりをもたらしたとみられる。

それでは、後半国会を迎える菅政権を取り巻く環境は今後どうなるのか。
そして最大の政治課題となる衆議院の解散総選挙は。

封印した経済

「いったん下げ止まったが、感染者が増えればまた支持率は下がる」(自民党ベテラン議員)
自民党内では今月になって支持率の下落に歯止めがかかったことに安堵する声があるものの、楽観できない状況であることで衆目は一致している。

菅も、3月18日に緊急事態宣言の全面解除を決めた記者会見で「みずからが先頭に立ち、全力で取り組む」と、感染収束に向け手綱を緩めない決意を強調した。

去年秋に総理大臣に就任した菅は感染防止と経済の両立を主張していた。民主党から政権を奪還した第2次安倍政権以降、アベノミクスに象徴される経済重視の政権運営が強みを発揮し、菅もこれを踏襲した形だった。
ところが、年末以降、感染の急拡大を受けて支持率は下落。菅は、「経済を壊してしまったら大変なことになる」と企業の倒産や自殺者の増加を危惧していた。しかし、感染拡大防止を求める世論を受けて軌道修正を図り、「経済」を打ち出すことはなくなった。

以前はホテルで食事をとりながら有識者らと意見交換するのが日課となっていたが、緊急事態宣言を解除した後も再開していない。

一方で、経済への影響は深刻になっているとして、目配りを求める自民党内の動きが徐々に出始めている。
3月24日に開かれた自民党観光立国調査会の会合。幹事長・二階俊博の側近として知られる調査会の会長、林幹雄らは影響を受けている観光業の再生に向けた緊急決議をとりまとめ、観光庁長官の蒲生篤実に手渡した。


緊急決議は、「Go Toトラベル」の再開は当面見送るものの、「ステージⅡ」以下で感染対策や病床が十分に確保されている都道府県については、同じ県内での旅行を国が支援するなど地域経済への配慮を求めるものだった。
2日後には、これに応える形で、観光政策を所管する国土交通大臣の赤羽一嘉が、県境を越えない観光需要の喚起策に対し1人1泊で7000円を上限にした支援を4月から開始すると発表した。


しかし、こうした動きに冷や水を浴びせかねないのが感染の再拡大だ。
東京では新規感染者が前の週より増加傾向が続き、「確実にベクトルが上向きになっている」(厚生労働省関係者)という認識が広がる。都市部だけではなく、宮城や山形、愛媛で感染者が増加し、各地で変異ウイルスの確認も相次いでいる。花見や歓送迎会もあって第4波の入り口にさしかかっているという危機感も出始めた。大阪からは2月に成立した改正特別措置法に基づく「まん防=まん延防止等重点措置」の適用を求める声もあがっている。政府内でも、早期に適用し、地域を限定した形で新たな感染防止の手を打つべきだという声も出ている。
第4波の到来を防ぐことができるのか、当面の最大の課題となる。

命運がかかるワクチン

そして政府が感染対策の決め手と期待するのがワクチンだ。


4月12日からはおよそ3600万人の高齢者への接種が始まる。その後は基礎疾患のある人や高齢者施設で働く人、一般の人へと続く。6月までに少なくとも1億回分(1人2回接種では5000万人分)を確保する見通しを示している。そのうえで「できるだけ量を確保し、前倒しで接種を進める」という方針で臨む。

ただ、不安要素もつきまとう。供給と安全性、有効性の課題だ。
「EUがワクチンの輸出規制をしているが、日本への供給は大丈夫なのか?」
「変異ウイルスに対して効果があるのか?」
「16歳以上を接種の対象としているが、16歳未満の子どもはどうするのか?」

国会では連日のように質問が飛ぶ。政府は、各国からの情報収集に努め、未知のウイルスに関して誠意を持った答弁をしていくと理解を求めている。

そんな折、担当大臣の河野がとったある行動が政界関係者を驚かせた。


自民党の各派閥の領袖のもとを個別に訪問。今後、本格化するワクチンの配送や接種に向け、各自治体で不都合があれば派閥の所属議員を通じて直接、伝えてほしいと頭を下げた。事前の調整が得意ではないという評価もある河野の訪問を受けたある派閥領袖は「ここまでするというのは、ワクチン接種がうまくいかなければ我々与党にまで跳ね返ってくるほどの問題という認識の表れだ」とその成否に命運をかける政権の意気込みを解説した。

では、永田町の最大の関心事である解散は。

新年度予算が成立した後、衆議院の解散・総選挙について問われた菅はこう答えた。

「いつあってもおかしくないとは思っていない。コロナ対策、やるべきことをしっかりやる必要があると思っている」

解散めぐる神経戦激しく

菅の発言とは裏腹に永田町では、解散をめぐる神経戦が激しくなっている。

感染再拡大に対する危機感の高まりを受け、立憲民主党代表の枝野幸男は、政府の対応を批判し、こう語気を強めた。
「このままだと何度も同じことを繰り返す。政権を代える以外に危機を乗り越えることはできない」

そして、国会対策委員長の安住淳は、「政権にわれわれの考えを伝える重要な方法の1つ」として、内閣不信任決議案の提出に言及した。

これに自民党幹事長・二階俊博が激しく反応した。不信任決議案の提出が、解散の大義になり得るという認識を示し、幹事長として「ただちに解散で立ち向かうべきだと菅総理大臣に進言する」と明言した。


そして、こう続けた。「解散を望むなら、われわれは受けて立つ。与党は解散に打って出る覚悟を持っているということだから、『いつでもどうぞ』ということだ」

永田町で解散の時期として、取り沙汰されてきたのは、おおむね以下の4つのパターンだった。
▼菅の訪米やデジタル改革関連法案の成立などの成果をもとに「4月か5月解散」▼公明党が反対しているものの「6月解散で東京都議会議員選挙と同日」▼「東京オリンピック・パラリンピック後、自民党総裁任期前の9月末まで」▼「オリ・パラ後、自民党総裁選挙後の10月まで」だ。

仮に、不信任決議案の提出をきっかけに解散に至れば、オリンピック前ということになる。党内では、二階の発言について「野党側の支持が伸び悩んでいる、今なら勝てるという思いの表れだ」という見る向きもある。

一方で、党幹部は「野党への牽制の域は出ない」と指摘する。党内でも「感染を抑え込み経済の回復を図ってからの方がよい」と当面は感染収束に専念すべきだという声が根強い。また、「選挙をしようにもワクチンの集団接種の会場が投票所とかぶり迷惑をかけることになる」などと、現実的な課題もある。

野党側からも、「感染者が増えていく状況では解散できない」という声が漏れる。やはり、衆議院の解散も、感染状況抜きには語れない。閣僚の1人は「任期満了だから選挙をさせてくれと国民にお願いするしかない」と10月の選挙になるのではないかという見通しを示す。

安倍政権に比べ、特に強い支持層を持たず、支持なし層に影響されやすい菅内閣の特徴は先に書いた。支持なし層の関心は、今はコロナの問題に重心を置いているが、経済や外交、それに総務省の接待問題などの不祥事に広がる展開もあり得る。菅は衆議院議員の任期満了まで7か月を切る中で、コロナの感染状況をにらみながら、自らにとって最良の解散・総選挙の時期を探ることになる。
(文中敬称略)

※NHKの電話世論調査
現在は18歳以上を対象にRDD方式で固定電話と携帯電話に対し行っているが、2004年と2017年の2度調査方法を変更した。調査方法が異なる場合、単純な数字の比較はできないが大まかな傾向を比較している。

選挙プロジェクト記者
政木 みき
1996年入局。横浜局、首都圏放送センター、放送文化研究所世論調査部を経て現在 政治意識調査を担当。
政治部記者
小嶋 章史
2002年入局。津局を経て政治部。自民党、外務省、東京都庁などを取材。新潟局デスクも。現在与党サブキャップ。