戦!新潟知事選挙
明暗分けた“大移動”とは

突然の知事辞任。予期せぬ形で戦いのゴングが鳴った新潟県知事選挙。
折しも、森友学園や加計学園をめぐる問題などで、国会は緊張感に包まれていた。
内閣支持率が低迷し、信頼回復の糸口をつかみたい政府・与党。
「安倍一強」に風穴を開け、切り崩しを図りたい野党。
終盤国会、秋の自民党総裁選挙、さらには来年の参院選をも見据えた「天王山」。加えて新潟は、2年前の知事選挙で野党候補が勝利。全国有数の与野党拮抗(きっこう)の地だ。両者激突の構図の中で、与党はなぜ勝利し、野党はなぜ敗れたのか。激戦の結果を徹底検証する。
(報道局選挙プロジェクト 久保隆/新潟局 守島靖之)

「読めない!」

予測の難しい選挙だった。
日々入ってくる情報、様々な調査結果。どちらが有利なのか、答えが見えかけたと思った翌日、答えが変わった。デスク、記者の間で議論は白熱した。
投票率の読みは外れた。花角、池田両陣営とも、「選挙戦はあまり盛り上がっていない」として、前回の53.05%までは届かないという見方が支配的だった。私たちもそう見ていた。そして「投票率が上がれば、無党派層に強い池田氏有利」、これも関係者の共通した見立てだった。
ところが…

投票率は前回を上回る58.25%。それにもかかわらず、花角氏が当選。いったい、選挙戦の裏側で何が起きていたのか。

原発の“争点化”を回避

新潟県政で大きな課題となっているのが、東京電力・柏崎刈羽原子力発電所の再稼働問題。出口調査の結果を、2年前と今回で比べてみる。

再稼働について、賛否の割合は全く同じ。
ただ、「反対」と答えた人の投票先は微妙に変化。前回は、6割以上の人が野党候補の米山氏へ。

一方、今回は、野党候補である池田氏への投票は6割を切った。与党候補の花角氏が健闘したとも言える。花角陣営は、再稼働問題の扱いに最も神経をとがらせていた。前回、与党候補が、この問題への対応を誤り、敗北につながったとみていたからだ。

ある選対関係者が証言する。
「原発政策については、相手候補との違いを極力なくしていこう、と考えた。臨機応変に対応してかまわないと、花角氏に”フリーハンド”を与えた」

実際、告示直前に、池田氏が再稼働の是非を確認する方法として「県民投票も」と言及すると、すかさず花角氏は「再稼働問題については職を賭して信を問う覚悟だ」と述べ、任期途中の出直し知事選挙の可能性に踏み込んだ。

「大きな争点にしない」花角陣営の戦略が一定の効果をあげていた。
これに対し池田陣営は、「2人の候補の原発政策は、本質的に全く違う。花角氏の“争点隠し”は、ごまかし以外の何ものでもない」と悔しがった。

現役世代の「大移動」

前回と今回の比較で、興味深いのは、世代別の投票行動の変化だ。
下の図表は、世代別に優勢だった側を◎で表している。

前回は、ほとんどの世代で、野党候補である米山氏へ投票した人が多数派となった。ところが今回、池田氏が上回ったのは、60代と70代だけ。50代以下のいわゆる「現役世代」の投票行動が大きく変化しているのだ。

なぜ今回は、このような世代間格差が起きたのか。ヒントは、今回、新しい知事に期待する政策について聞いた結果にありそうだ。世代別に、最も多かった項目を黄色、2番目に多かった項目を灰色で示している。注目したいのは、「景気雇用」と「原発の安全対策」の世代別の変化だ。

「景気雇用」は、30代を除き、10代から50代までトップとなった。30代のトップは、「教育子育て」。いわゆる現役世代が、生活に身近なテーマにより期待していることがうかがえる。一方、「原発の安全対策」は60代でトップ。70代でも、若い世代に比べると高い割合となっている。

「原発か経済か」。そこまで大きな対立があったとは思わないが、世代間の意識の違いが、投票行動に微妙に影響した可能性は高いとみられる。
取材の中で、有権者からは、「北陸新幹線の開通で活気づく石川や富山に比べて、外国人観光客などの取り込みに遅れをとった」「中心歓楽街の賑わいがすっかり寂しくなった」など、景気のテコ入れ策を求める声をよく聞いた。上向かない経済に加え、今年5月には、統計を取り始めて以来初めて、年間の人口減少が2万人を超えた。

選挙戦終盤、花角氏側は、県民の関心は地域経済の活性化と人口減少への対応にあると読み、野党各党が花角氏を「中央の官僚出身だ」と批判する中、あえて中央省庁での経験を積極的に打ち出すようになった。

与党ではなく“県民党”その実態は

一方で、花角氏がアピールに努めたのが、党派色を前面に出さない「県民党」の姿勢だった。
自民党の幹部は、新潟入りしても、街頭演説には全く立たず、「隠密作戦」を徹底した。例えば、竹下総務会長は、島根の実家が造り酒屋ということもあり、新潟県内の酒蔵を回った。

また、岸田政務調査会長は、地元・広島に本社を置く運送会社のつてを使い、縁のある企業を訪ねた。
それと並行して、田中角栄元総理大臣を生んだ歴史ある業界団体がこれまでになく活発に動いた。特に、公共事業の抑制に悩む建設業界は、インフラ整備を担当する国土交通省出身の花角氏への期待が高く、選挙事務所の立ち上げから中心となって動いた。各社から、国政選挙を何度も経験した「腕利き」が集まり、各地で行われた街頭演説や個人演説会などへの「動員」に大きく関与した。
「これまで選挙と距離を置いていた業者も続々と支援に入ってきた(選対関係者)」という。

また、公明党の動きも強力だった。自民党県連との連携が軌道に乗らず、一時は自主投票とも報じられたが、「支持」が決まってからは、一気に組織をあげた戦いを展開。県外からも多くの応援部隊が入って票を掘り起こしていった。出口調査で、公明党支持層は、自民党支持層を10ポイント近く上回る80%台半ばが、花角氏に投票したと答え、結束の強さを見せつけた。

野党 “連携”にこそ課題が

一方、敗れた野党側。候補を一本化し、5党の党首がそろって街頭演説を行うなど、連携して巨大与党に立ち向かう姿勢を見せた。「もともと米山前知事の不祥事で始まった選挙。最後まで競り合いに持ち込めたのは大きな財産」として、今後の連携にも意欲的だ。

しかし、ある選対幹部の一人は、こう打ち明ける。「各党の考え方は異なるので、連携には限界がある。池田候補に対しても、いろんなところから、『あれを言ってくれ』『これを言われては困る』と横やりがすごく入った。内向きの対応に力を使ってしまった」

明快な「勝利」を求め

今回の与党側の勝利は、秋に自民党総裁選挙を控える安倍総理大臣にとっても、3選に向けた追い風になるという見方が出ている。ただ、今回の選挙結果も決して大差がついたとは言いがたい。
「組織を固め、無党派層を取り込む」。言いかえれば、単純明快な必勝パターンを引き寄せようと、与野党の攻防は今後も続く。

報道局 選挙プロジェクト記者
久保 隆
平成15年入局。奈良・富山・大阪局を経て選挙プロジェクトへ。出口調査など担当。ラーメンをこよなく愛する。
新潟局記者
守島 靖之
平成13年入局。宮崎局、社会部などを経て、2年前から新潟局で県政を担当。泉田・米山・花角の歴代知事を取材。