コロナ対応
知事たちの胸の内は…

先月、2度目の緊急事態宣言が出された後、NHKは感染対策の先頭に立つ全国47人の知事にアンケートを実施した。
「国・都道府県のどちらに責任があるのか不明瞭だ」
「情報共有や役割分担に混乱がみられた」
知事たちから寄せられた声を元鳥取県知事・元総務大臣の片山善博氏、政治学者で東京大学名誉教授の御厨貴氏と読み解いた。
(政木みき、鵜澤正貴)

47人47様の回答

ほとんどの知事がアンケートにデータ形式で回答するなか、唯一、直筆で回答を寄せたのは宮城県の村井知事だ。
東日本大震災からの10年、国との対応に奔走してきた。

全国のNHK記者が連日、その発言や動向を追いかける各地の知事。
ただ、全国一斉で同じ質問を投げかける機会はそう多くない。
回答用紙を並べると、47人47様の個性がにじむ。

資料を添付して合計26ページもの分厚い回答を寄せたのは学者出身の静岡県の川勝知事。ワクチンに対する静岡県のスタンスに関する資料には、ノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶佑氏やマレーシアのマハティール前首相とやりとりした手紙が添えられていた。

一方で、東京都・小池知事、長野県・阿部知事のように「単純に回答できるものではない」「適切ではない」などとして、質問によって選択肢を選ぶことを控えた知事もいた。

アンケートの詳しい結果はこちら

宣言発出は国と地方、誰がすべきか

アンケートの最初の質問は「国との役割分担は全体として適切に行われているか?」。
緊急事態宣言の発出や一斉休校、飲食店への休業要請、それにGo Toキャンペーンの一時停止など、国と地方の足並みが乱れる局面が続くなか、知事の本音を聞き出したかったからだ。

予想に反して「適切でない」と明確に答えたのは島根県の知事のみ。
「どちらかといえば適切でない」としたのは福島、埼玉、富山、大阪、広島、佐賀の6人の知事だった。

一方「適切だ」と答えたのは和歌山、岡山、山口、徳島、福岡の5人。
「どちらかといえば適切だ」は33人で、あわせると全体の8割に上った。

唯一「適切でない」と回答した島根県の丸山知事は、こう振り返る。

「国と地方が互いに自分に良いように理解して対応した結果、国民・住民の十分な評価が得られておらず、国、地方とも十分に反省すべき。相手方に任せきりにせず、必要な対応を求めていくという積極的な姿勢が不可欠」

「どちらかといえば適切でない」とした知事からは、緊急事態宣言の発出をめぐる権限を見直すべきとの声が聞かれた。

大阪府の吉村知事は、国にこう求めた。

「宣言発出の権限は国にある一方、休業要請の権限は知事にあり、どちらに責任があるのか不明瞭。地域の状況をもっとも把握している都道府県に権限を移し、知事が責任を持って発出できるようにすべき」

政府は2度目の緊急事態宣言で、広島市をいったんは対象地域に準ずる扱いとすることを検討した。しかし結局、見送る判断に至るなかで広島県の湯崎知事は難しい調整を迫られた。

「国と自治体で責任の所在が曖昧で対応の遅れにつながりかねない。権限・役割の見直しや、感染症危機管理における司令塔機能を強化する必要があると考える」

国と都道府県の役割を整理する必要性を強調する知事もいた。

「地域限定の対策は知事、全国的対策は国の権限と整理し、実効性ある対策が必要」(福島・内堀知事)
「緊急事態宣言は全国一律なら国、都道府県対象なら知事が発令するといった見直しも検討すべき」(佐賀・山口知事)

東京大学名誉教授の御厨貴氏は、独自の視点でこう読み解く。

「大阪の知事は維新の会ですからね。地域というか大阪がちゃんと対等にものを言えるようになりたいというのがある。『緊急事態宣言の権限を都道府県に移せ』と遠慮なしに言っているのは、国に対しての自立の意識がすごくある気がする」

「福島県は、東日本大震災との関係で地域と国の権限の明確化ということについてかなり具体的な問題意識を持って言っている。震災からの再建・復興、特に原発を含め国との交渉を深くやってきた所だから、コロナが来ても同じように細かい点についていろいろ疑念があったのではないか」

“どちらかといえば”含む「適切だ」8割 秘めた本音は

では、国との役割分担が「適切だ」「どちらかといえば適切だ」と答えた8割の知事たちは、現状に満足しているのか。

鳥取県知事や総務大臣も務めた片山善博氏は「どちらかといえば」と留保付きで答えた知事が33人に上ったことに注目し、回答に隠された知事の“処世術”を読み取る。

「私自身も知事という立場を経験したので苦心のほどが非常によくわかる。実際は『適切だ』と思っていない知事が多いが、国とは今後の付き合いもあるので、現実政治の中ではあまりたてつくことは避けたい。それで『どちらかといえば適切だ』とやわらかい表現を選んだのではないか」

たしかに「どちらかといえば適切だ」と答えた知事からは、財政支援や専門的な知見の提供を評価する声があるものの、改善の必要性を訴える声も相次いだ。決してこのままでいいと思っているわけではなさそうだ。

たとえば国の唐突な方針決定への苦言だ。

 

愛媛県の中村知事は「春の一斉休校など国の重要な施策の実施に際して情報が都道府県側に届かないまま、唐突な対応を求められることも多く、混乱が見られた」、現職で最多の7期目を務める石川県の谷本知事は「国から自治体に対し十分な協議や説明がないまま、突然通知で示されることも多く、対応に苦慮した」と答えた。

休業要請に国との事前協議が必要とされていることへの疑問の声もあがった。

「実情に応じたスピーディーな対応がしづらい」(山形・吉村知事)
「機動性を削ぐ面がありました。協議に時間を要しました」(三重・鈴木知事)

柔軟な対応や現場の裁量の必要性を訴える意見も出された。

「国が細部にわたって運用手法を決定し、地域の実情に即した柔軟な対応を機動的にとることが困難な事例もある」(鳥取・平井知事)
「緊急時は現場の裁量で行うことも必要。中央では把握できないことを現場感覚で臨機応変に対応することも地方の役割」(大分・広瀬知事)

片山氏は、こう指摘する。

「本来は法律に従えば役割分担は明確なはずだが、国が事実上、不明確にしている。そういう現実をもどかしく思っているのだろう。ただ、本当は知事がもっと権限意識を持って国に対して臨めばいいことだとも言える。国がやることは、大枠を決めて励ましてお金の面倒を見る、具体的な対策は都道府県が打っていくというようにはっきりと役割分担すべきだ」

評価が分かれた一斉休校

アンケートでは、国の5つの個別政策についての評価も聞いた。

このうち「緊急包括支援金交付金の創設」や「地方創生臨時交付金の積み増し」という国からの財政支援については、回答を避けた東京と長野の両知事を除く45人全員が「評価する」(どちらかといえばを含む)と答えた。
また「どちらかといえば」を含め、「Go Toキャンペーン」を「評価する」としたのは42人、「現金10万円の一律給付」は38人が「評価する」と答えた。

一方、「2020年春の一斉休校」を「評価する」と答えたのは5人にとどまり「どちらかといえば」を含めても27人だった。

これに対し、茨城、鳥取、佐賀の3県の知事は「評価しない」と明確に回答。「どちらかといえば」をあわせると14人が「評価しない」を選び、意見が割れた。

このうち、「どちらかといえば評価しない」と答えた島根県では政府の一斉休校の要請が出た後、独自の判断が打ち出された。まだ県内で感染が確認されていなかったことなどから、当面は県立高校や松江市・出雲市の小中学校などについて休校としないことが決定されたのだ。

御厨氏は自治体が自立した判断を行ったことを評価する。

「学校は地元のものだという意識が強い。国がきちんと議論をしたかどうかもわからずに突然、休校だと言ったので、反発が大きかったのだろう。自分たちの学校を開くかどうかは自分たちで判断するんだと言ったのは立派だったと思う。これは反乱のようなもので、だから国は2回目の緊急事態宣言では一斉休校をしないということになったのではないか。これは評価したい」

地方分権に逆行!?

最後に、アンケートではコロナ対応の経験を踏まえ、これからの地方分権のあり方について聞いた。

2000年に地方分権改革一括法が施行された翌年から5期20年、知事を務めてきた兵庫県の井戸知事はこう述べた。

「四半世紀近く経過した今も、相変わらず中央集権の体制は変わっていない。むしろ、昨今の効率至上主義が横行するなか中央集権は進んでいるのではないか。ポストコロナ社会では、地方分権改革を一層進めることにより、自立分散型の社会構造の構築に向けて取り組むべき」

東京一極集中は変えられるか

総務省の調べでは、2020年7月から6か月連続で、東京都からの転出が転入を上回る現象が続いている。
地方への人の流れが増えていることを後押しに、各地の知事は、長年の懸案である「東京一極集中」を一気に解決するべきだとの考えを、それぞれの言葉で語った。

「コロナ禍では都市部への人口集中に対する課題も顕在化し、リモートワークやワーケーションという働き方により若い人たちが地方移住に興味を持つようになった。京都の全ての地域に人口流入のチャンスがある」(京都・西脇知事)

「『ポスト東京時代』をひらくべく、国土構造の転換に大胆かつ速やかに取り組む必要がある。首都機能の移転について改めて真剣に検討すべき」(静岡・川勝知事)

「東京に集中しているさまざまな機能を各地域に分散させ、デジタルツールも活用しながら大都市と地方、地方と地方、地方と世界が連携する『多極連携型』の国土形成を図ることがウィズコロナ時代、アフターコロナ時代には重要」(福島・内堀知事)

「九州地方知事会では、国の出先機関としての機能を損なわず、住民ニーズに迅速かつ効果的に対応するため『九州広域行政機構(仮称)』構想の議論を進めていた。『国・都道府県・市町村』という現状の統治機構の枠組みでよいのか議論が必要」(大分・広瀬知事)

「『適切な分散』と『適切な集中』による、多様性・自立性をもつ複数の地域が8〜10程度組み合わさった『地方分権型道州制』の実現を目指していくことが必要不可欠」(広島・湯崎知事)

片山氏も賛同する。

「新型コロナウイルスの感染拡大でみえた課題を踏まえると、大都市に人や機能が密集するような国土構造はよくない。コロナ禍を今の国土構造のあり方を考えるきっかけにしたらいいと思います」

知事たちの覚悟

最後に紹介したいのは、「地方」の責任、覚悟を強調した意見だ。

「非常時は国は地方に対して必要以上に関与するのではなく、専門的な見地から技術的な支援を行うとともに、地方は実情に応じた対策を責任とスピード感を持って行うという適切な役割分担が必要」(香川・浜田知事)

「地方が自らの権限で担うべき事務の判断や基準の明示を国に委ねようとしたり、国が仕切ろうと地方に押し付けたりするようなことはやめて、国・地方がそれぞれの権限に基づき、きちんと責任をもって行政を担っていくべき」(和歌山・仁坂知事)

御厨氏は、地方には攻めの行政が必要だと総括した。

「新型コロナウイルスを1つのてこにして、これまでダメだった国と地方の動きを全面的に変えて、新しいコロナ後のビジョンというものに結びつけていく。これまでの行政が消極的だったとしたら積極的に攻めの行政を都道府県知事はやっていかなくてはならない。うちの地域はこれなんだというのを明確に出していく。地方が真剣なら国も受け止めるはずだ」

知事たちが各地の司令塔となる新型コロナウイルスとの闘いは、まだまだ続く。
ウィズコロナ、ポストコロナの時代に、日本の地方分権の姿はどのように変わっていくのだろうか。

選挙プロジェクト記者
政木 みき
1996年入局。横浜局、首都圏放送センター、放送文化研究所世論調査部を経て現在、政治意識調査を担当。
選挙プロジェクト記者
鵜澤 正貴
2008年入局。秋田・広島・横浜局を経て選挙プロ。秋田や神奈川では県政取材を経験。