日本は158
変わるか国会の「男社会」

世界で日本は158位。何の順位か知っていますか?。
日本の下院(衆議院)での女性議員の割合です。
国会では今月、「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」が全会一致で成立しました。
国政選挙などで男女の候補者の数が、できる限り「均等」になることを目指すもので、女性議員を増やすことを目的とした日本では初めての法律です。
「男社会」とも言われる日本の政治の現場は、果たして変わるのでしょうか?
(政治部記者・相澤祐子)

女性は“1割”

法律が成立した今月16日。
法整備を後押ししてきた超党派の議員連盟が会合を開きました。
会長を務める無所属の中川正春・元文部科学大臣は、「女性議員を増やすため、各党が何をやらなければならないのか、これからが本番だ」と訴えました。
女性の衆議院議員は現在47人で、全体の1割にとどまっています。

世界各国の議会で作るIPU=列国議会同盟によりますと、日本の下院(衆議院)での女性議員の割合は、193か国の中で158位(今年4月1日現在)。
OECD=経済協力開発機構の35の加盟国では最下位です。
地方では、女性が1人もいない市町村議会が全体の2割に上ります。

政府は、2010年の第3次男女共同参画基本計画で、国政選挙の女性の候補者の比率を2020年までに30%にするという目標を掲げましたが、去年・2017年の衆議院選挙で各党が擁立した女性の候補者の割合はつぎの通りでした。(グラフは女性候補者と男性候補者の数)

法律の実効性は?

今回、成立した法律は、男女の候補者の数ができる限り「均等」になることを目指すとしており、画期的だという評価の一方、実効性に乏しいという指摘もあります。
法律には、強制力はなく、男女の候補者の割合などの目標設定は、政党や政治団体の努力義務にとどまっているからです。

与野党の第1党に、それぞれ話を聞きました。

自民党の女性局長を務める太田房江・参議院議員です。
「自民党から出たいという女性は、しっかり後押ししたいのですが、現場では、『なぜ女だけなんだ』といった不満が出てきます。例えば、参議院選挙の比例代表の候補者は、3割を女性にするなどの目標を作るやり方はありますが、党執行部の壁は厚い」

自民党では、政治に関心のある女性を対象に「女性未来塾」と題したイベントを始めています。4月の初回の未来塾には、およそ100人の女性が参加し、講師に招かれた小泉進次郎氏が、地元での政治活動では、子連れの女性も参加できるような工夫をしていることなどを紹介しました。女性候補者の掘り起こしと育成を目指していて、参加した女性の中には、来年の統一地方選挙への立候補を目指している人もいたということです。

意思伝わるか

立憲民主党のジェンダー平等推進本部長を務める西村智奈美・衆議院議員です。
「どうすれば、女性の候補者を増やし、当選させられるのか、党の選挙対策本部と具体的な議論を始めています。例えば、民間団体などと連携した候補者の発掘などを考えていますが、候補者を見つけるのは楽ではないです」

立憲民主党では、自治体の女性議員のインタビューを「彼女の肖像」という記事にまとめて、党のホームページで公開しています。女性議員が、政治を志した理由や議員活動について、自分の言葉で語ることによって、政治を身近に感じてもらい、女性候補者の発掘につなげる狙いがあるといいます。
西村氏は、「読んでもらえれば、あなた自身も政治に参加できるし、むしろ『やってほしい』という党の意思をわかってもらえるのではないかと思う」と話しています。

なぜ、女性議員?

世界110か国の国会議員を対象に272人から回答を得たアンケート調査では、積極的に取り組む政策課題に男女で違いがあることがわかったといいます(IPU・2008年)。
男性が、外交や経済、教育などの課題に積極的だったのに対し、女性は、性の平等や地域社会、家族などの課題により重点を置く傾向がありました。

日本の国会でも、働く女性の保育の場の確保について初めて質問したのは、72年前に誕生した初の女性議員で、男性の育休も38年前に女性議員が初めて取り上げました。
女性の視点がより多く政治に反映されるようになれば、男性では見落としがちな課題をめぐる議論が活発になる可能性を示唆しています。

一方、取材を進めると、「男性に比べ、女性の候補者を見つけるのは難しい」という課題が見えてきました。

アメリカでは

「男性と同等の学歴や職歴でも女性は立候補したがらない」という傾向を明らかにしたアメリカの研究結果があります。(アメリカン大学のジェニファー・ローレス教授ら、2005年)
背景には、女性の方が、候補者としてのサポートを得にくく、家庭の仕事を要求されることに加えて、親が息子よりも娘には政治の話をあまりしない傾向があるなど、女性が「政治的野心」を持ちにくい環境に置かれていることなどが指摘されています。

アメリカでは、政治を目指す女性のためのさまざまなプログラムがあり、女性の政治参画に関する研究で知られるラトガーズ大学では、27年前から、学生や一般の女性を対象に実践的なワークショップを提供しています。
「選挙トレーニング」では、自信を付けるための研修や、選挙資金の獲得、効果的なメッセージの発信方法などが組み込まれており、18年間で2500人が受講し、選挙に立候補した受講生のうち7割以上が当選したということです。

アメリカの民主党系の団体では、女性の候補者探しだけでなく、立候補するよう説得し、当選に至るまでサポートしているほか、シングルマザーなどが政治家になった事例を紹介するといったセミナーも開催しています。
こうした活動も通じて、下院の女性議員の割合は、共和党が10%なのに対し、民主党は32%となっています。

日本でも取り組みが

政治家を目指す女性を増やそうという取り組みは日本でも始まっています。
女性が政治家を目指すスキルを学ぶための団体を立ち上げた1人、上智大学の三浦まり教授に話を聞きました。
「学問的な知見に裏付けられた形で、プログラムを作り、政策づくりに必要なノウハウやスピーチの仕方など、実践的なトレーニングを行うことを目指しています。最近のセクハラ報道などを見て、『意思決定の場に女性がいないとだめだ』ということは広く理解されたのではないかと思うし、法律ができたことは、本当に歴史的な大きな一歩です」

来年の参院選、地方選は

「選挙や議会活動は、体力があり、24時間、仕事に没頭できる人でなければ、やりにくいという現状はある。しかし、そういう人たちだけの議会では、本当に社会のニーズを反映した政策の実現は期待できない」
今回の取材で印象に残った国会議員の言葉です。
女性議員を増やすためには、アメリカのような対策とともに、子育てや介護などと両立できる議会活動の模索が必要ではないかと思います。
その結果、男女を問わず、政治の現場が働きやすくなり、政治家を目指す人たちの意欲を後押しすることにもつながるのではないでしょうか。
来年・2019年は、統一地方選挙と参議院選挙が控えており、各党の候補者選定は、水面下の動きも含め、すでに始まっています。
今回、成立した法律の理念を実現するため、政党の”本気度”が問われる試金石にもなるだけに、しっかり注目したいと思います。

 

政治部記者
相澤 祐子
平成14年入局。長野局を経て政治部へ。現在、野党担当。