菅内閣で支持率どうなる

自民党の菅総裁は第99代の総理大臣に選ばれた。
安倍内閣の継承を打ち出し、総裁選挙で圧倒的勝利を収めて発足する菅内閣。初めての支持率に注目が集まっている。その数字が衆議院の解散のタイミングの判断に、大きく影響するという見方が広がっているからだ。
菅内閣初の支持率を、歴代内閣の支持率から考えてみた。
(政木みき)

新内閣への“ご祝儀”

まずは過去の内閣発足時の支持率はどうだったのか、1998年4月から実施しているNHKの世論調査で振り返った。
こちらの表を見ていただきたい。歴代内閣の「発足時支持率」と「最終支持率」の一覧で、右端に発足時支持率が前内閣の最終支持率を何ポイント上回ったかを示した。

表の左側、各政権末期の「最終支持率」で、最も低かったのが森内閣の7%。50%を確保したのは2006年の小泉内閣だけで、その他の内閣は高くても30%台半ばと、おしなべて低い。

それが右側の「発足時支持率」になると、数字がガラリと変わる。2000年以前に発足した小渕・森両内閣は30%台にとどまったものの、2001年以降に発足したほとんどの内閣が6割近くから8割という高い水準だ。“国民的人気”を誇った小泉内閣では81%に達した。

発足時支持率と前の内閣の最終支持率との差を示す「上昇ポイント」を見ると、どの内閣も例外なく支持率を上げている。最も大きく伸ばしたのは2001年に発足した小泉内閣で、前内閣の最終支持率が7%と低かったこともあるが、74ポイントも上昇した。その他の内閣も、森内閣が4ポイントだった以外は、どの内閣も10ポイントを超える上昇となっていて、平均の上昇ポイントは34ポイントに上った。実績が未知数でも、新内閣への期待が上乗せされる、いわゆる”ご祝儀相場“という現象だ。

では菅内閣にも、歴代内閣と同様、ご祝儀はあるのか。

NHKの世論調査で安倍内閣の支持率は、辞意表明(8月28日)の17日前(11日)に公表した34%が最後となった。

コロナウイルスの政府の対応に対する評価の低迷などが響き、8年近くに及ぶ第2次安倍内閣のなかで、最も低い水準だった。奇しくも2006年~2007年の第1次安倍内閣の最後の支持率と同じ水準だ。
過去の傾向どおりご祝儀があるとすれば、菅内閣の初の支持率はここからどこまで積み上げられるかとなる。

1点留意したいのは、安倍前総理大臣の辞意表明後に行われた報道各社の世論調査で、政権末期の安倍内閣の支持率が大きく上昇するという、異例の現象が起きていたことである。

NHKは調査をしていないため、辞意表明後の安倍内閣の支持率が回復していたかどうかはわからない。仮に支持率が回復していたら、菅内閣にとってご祝儀が明確に出る数字になるのか――。

比較政治学が専門の学習院大学の野中尚人教授は、こう見る。
「『政権末期に、首相が病気でやめる』という場合に内閣支持率があれほど上がるのは珍しいこと」

「良くも悪くも党派性を強く持ち、政治的判断をするときに政党が重い意味を持つアメリカなど他国と比べ、日本では政党が果たす役割が希薄で、政権や首相に対する評価に、政策的評価よりも人間関係の延長線上のような評価、人間に対する感情が反映されやすい。だから支持率が常に上下にふれ、ご祝儀のようなことも起こりやすい」

賞味期限が短いご祝儀相場

しかし仮にご祝儀相場の恩恵にあずかったとしても、有権者との蜜月は長くは続かないことを過去のデータは示している。

顕著だったのは2009年~2012年の民主党政権時代。毎年総理大臣が交代するたびに、内閣支持率は60%台から70%台まで跳ね上がったが、1年もたたないうちに20%前後に急落するという状況を繰り返した。

自民党の内閣も例外ではないと野中教授は見る。
「小泉総理大臣後の自民党の3人の総理大臣も、最初だけ支持率はよかったがあっという間に落ち、1年でバタバタとだめになっているわけです。実はその後の民主党政権の総理大臣とほとんど何も変わらず、自民党でも盤石ではない。その意味では何が起きるかわからない」

支持率と解散時期

菅内閣の最初の⽀持率が注目されるのは、解散時期に影響するという見方があるからだ。

引き合いに出されるのは、2008年9月に発足した麻生内閣。発足の時点で衆議院議員の任期があと1年となり、発足直後から解散・総選挙の判断が迫られるなど共通点は多い。

麻生内閣は支持率が高いうちに衆議院を解散することを模索していた。しかし2008年9月にリーマンショックが起き、株価が急落する。当時、自民党の選挙対策副委員長だった菅は、早期解散に慎重論を唱えたとされる。

結局、解散は先送りされ、2009年8月の衆院選で自民党は歴史的大敗を喫し、政権交代を許した。

自らの経験を念頭においたのか、麻生は9月13日にこう発言している。
「1年以内に衆議院選挙は確実に行われる。下手したらすぐかもしれない」

これに対し、菅は14日の自民党総裁の就任会見でも「新型コロナウイルス問題を収束してほしいということと、経済を再生させてほしいというのが国民の大きな声だ。せっかく総裁に就任した。仕事をしたいので、収束も徹底して行っていきたい。収束したらすぐやるかというとそんなことでもない。全体を見ながら判断したい」と述べるなど、解散について慎重な姿勢だ。

安倍内閣は、衆議院の解散・総選挙を支持率の回復につなげてきた。2014年と2017年の衆議院選挙は、いずれも支持率が落ちかけたタイミングで解散を打ち、勝利することで内閣を浮揚させた。菅内閣はどんな戦略をとることが考えられるか。野中教授はこう見る。
「衆議院議員の残り任期があと1年という点で麻生内閣と菅内閣の状況は似ているが、麻生内閣の時は自民党が深刻な地盤沈下を起こし、何十年かの政権運営がだめになって、本当に下野するのではないかとみんなが感じ始めていた時だった。これに対し今の自民党は政党支持率が圧倒的に高く、安定した地盤の上にいる」

「特に選挙の場合は、相対的な力関係の計算を必ずするので、野党が組織力、結束力を強めていた麻生内閣時代と、野党の合流新党が立ち上がったばかりの今の状況も異なる。
一定程度支持率が出ることを前提に考えると、早期に打って出るという可能性はある。ただし経済や社会情勢、コロナなどの条件はあるので、両にらみだとは思う」

間もなく出てくる内閣支持率。その数字を受け、新政権はどう動くのかが注目される。
(文中敬称略)

※NHKの電話世論調査
現在は18歳以上を対象にRDD方式で固定電話と携帯電話に対し行っているが、2004年と2017年の2度調査方法を変更した。調査方法が異なる場合、単純な数字の比較はできないが大まかな傾向を比較する。

選挙プロジェクト記者
政木 みき
1996年入局。横浜局、首都圏放送センター、放送文化研究所世論調査部を経て現在、政治意識調査を担当。