えを出せない議員たち

合流新党に行くか、それともとどまるか――
いま岐路に立たされているのが、国民民主党の議員たちだ。野党第1党・立憲民主党との合流協議。代表の玉木が「自分は合流しない」との意向を示す中で、党内は揺れている。葛藤する議員たちの事情と胸の内に迫った。
(宮里拓也、米津絵美、並木幸一)

「私は答えを出せない」

今月19日、国民民主党は、立憲民主党との合流新党の結成方針を決めた。

決定した会合のあと、目に涙をにじませながら記者団に囲まれる議員がいた。
「今、寂しさといろいろな場面が頭に浮かんでいる。国民民主党、国民民主党と言って、旗を立てて演説することがあすからできないと思うと少し混乱しているので、気持ちを整理したい」

徳永エリ(58)。北海道選挙区の参議院議員だ。
選挙区の定員は3人、2期目の当選を果たした前回4年前の選挙では、旧民進党から徳永と元経済産業大臣の鉢呂吉雄の2人が立候補し、ともに当選。野党が2議席を獲得した。

2議席獲得の背景には、有力な労働組合の票の振り分けがうまく行われたことがあるとみられている。

しかしその後、旧民進党は分裂。徳永は国民民主党、鉢呂は立憲民主党に分かれて活動することになった。北海道では、国民民主党を支援する民間企業の従業員などを軸とした「旧同盟系」の組合よりも、立憲民主党を支援する公務員などを中心とした「旧総評系」の組合のほうが、組織力で圧倒的に勝る。このため、国会議員の数は、国民民主党の2人に対し、立憲民主党が10人と大きく上回る。

2年後に改選を控えた徳永にとって、党が2つに分かれた現状のままでは、再選は危うい状況、という見方もある。こうした事情を考えれば、新党への合流を望みそうなものだが、今はそんな気持ちになれないという。

板挟みの議員たち

「安倍一強」とも言われる政治情勢を打開するために、少数の野党が乱立した状態を変え、大きなかたまりをつくる。こうした大義を掲げて進めてきた野党第1党と第2党の合流だった。

暗礁に乗り上げたかに見えた両党の協議が動いたのは、立憲民主党からの譲歩があったからだ。
みずからを存続政党とする、事実上の“吸収合併”を撤回。両党を解党して“対等合併”する方針に軌道修正。党名についても、国民民主党が求める「投票で決める」ことを受け入れた。

着々と進み始めた協議。しかし、合流には加わらないと真っ先に意向を明らかにしたのが、なんと代表の玉木だった。

今月11日の記者会見で、これ以上、協議を長引かせるべきではないなどとして、国民民主党として合流そのものには応じる考えを示した。その一方で、合流への参加を望まない議員もいるとして、参加する議員としない議員とで党を分ける「分党」を提案した。

立憲民主党の譲歩には一定の評価をした上で、消費税や憲法への考え方など政策のすり合わせも求めていたが、この点が折り合えなかったという理由からだった。党内には、原発政策や憲法観などをめぐって立憲民主党とスタンスが異なる議員も一定数いて、こうした実情も見極めての提案だった。

「党として合流すると言っておいて、代表自身が行かないとは一体どういうことか、意味不明だ」
「大きなかたまりを目指すというのに、党を割る行為はおかしい」
戸惑いや不満の声が上がった。逆に、すべての議員が参加する合流は時期尚早だとして、玉木の対応に理解を示す議員もいる。「合流派」と「非合流派」のそれぞれが多数派を形成しようと、綱引きが日ごとに激しくなっているのが現状だ。

少数派でも国民民主党の旗を持って地域を回り続け、支援の輪を広げてきたという自負のある徳永。地元や選挙のことを第一に考えるか、それとも政策に共感している玉木とともに行動するべきか、いま板挟みの状況にある。

「玉木代表が求めてきた党首会談が開かれないなど、こちらの党が軽んじられているような協議経過が納得できない。合流新党に対する有権者の期待感も、私自身は、感じられないし、『ここまで来たのだから参加しよう』という、すっきりした気持ちになれない」

「それでも合流に」決断した議員も

代表の玉木と同じように、合流に不参加を表明したのが、元外務大臣の前原誠司だ。

15日、地元の京都市で開かれた後援会の会合をツイッターなどに投稿し、この中で「合流新党には行かず、国民民主党に残る選択肢をとらせてもらう」と述べた。

民主党や民進党の代表も務めた前原には、彼ならではの人脈がある。

そのうちの一人が、城井崇(47)だ。前原の秘書を経て国政の世界に入った。松下政経塾の後輩にもあたる。

前原は合流新党に不参加の意向を表明したあと、城井の地元・北九州市を訪れて、行動をともにしないかと声をかけた。最終的な判断は、城井の意向を尊重したいと伝えられたが、恩師の誘いは重い。

かつて前原が民進党代表として希望の党への合流を目指した時、城井は、その意をくんで希望の党から衆議院選挙に立候補した。結果は、小選挙区で及ばなかったものの、比例代表で復活当選した。

城井は当選3回だが、その間の浪人生活も長い。今回は、誘いを振り切ってでも合流新党に行った方が選挙に有利になる可能性も高いのではないか。そう感じていた。

「2017年に国政に戻る前、私は5年間の厳しい浪人生活があった。合流新党で野党候補の一本化を模索した方が選挙には勝ちやすいだろう。一方で、前原先輩とは、議員になる前から、数え切れないくらいの縁や恩がある。今回のことは、本当に身を引き裂かれる思いだ」

合流に参加して、自身が支持してきた国民民主党の党運営などが尊重されるのかという不安も根強い。
「合流新党に対して、いわゆる追及や批判に偏りすぎるとか、理念や理想に固執しすぎるというイメージを持っている有権者も多いと考えている。これまで国民民主党がやってきた、現実を見据えた『政策提案型』のスタイルができるかどうかも踏まえて判断しなければいけない」

合流方針が決定されたあと初めての週末。
城井は、地元・北九州市の50人ほどの支持者と向き合っていた。
「合流新党に参加したい」

悩み抜いた末のみずからの決断を伝えた。
「前原先輩は、信念を貫き政治活動をしてきた立派な政治家だ。しかし、今の自分の状況を見た時に、まず、私が国会議員として仕事をするには、選挙で勝ち残らなければならない。今回の選択が、前原先輩と重ならなかったことは残念だが、ここは自分自身で歯を食いしばって乗り越えていくしかない」

支持組織との間で…

立憲民主党と国民民主党の共通の支持基盤である連合。その影響は大きい。連合はこの状況下で、すべての議員が合流新党に加わるべきだと呼びかけている。

ただ、連合傘下の労働組合にはそれぞれの意向があり、決断に苦しむ議員がいる。

参議院議員の川合孝典(56)は、連合傘下にある6つの産業別労働組合の1つ、UAゼンセンの出身だ。ふだんの政治活動でも、組合との連携が欠かせない。

支援を受ける6つの産業別労働組合は、立憲民主党が掲げる原発政策などに慎重な姿勢をとってきた。川合も同じ意向で、これまでツイッターなどで、基本政策や理念の一致が合流の前提条件だと繰り返し発信してきている。

一方、川合は、全国を選挙区とする参議院比例代表の選出だ。政党の規模が集票に影響しやすいとされ、よりスケールメリットが得られると見られる合流新党に加わった方がいいという判断もある。

迷う川合。党の合流方針が決まった日も、「地方や支援者の意見を踏まえて検討する」と態度を明確にしなかったが、取材すると、こう本音を語った。
「議員は落選しては活動ができない。組織に大きく支えられている立場としては、自分の次の選挙という目先の損得勘定で言えば、それは大きな政党に行った方がいいのは明らかだ」

そして、こう言葉をつないだ。
「でも政治家としての主張や立ち位置はやっぱり大切だ。そもそも今回の合流は、両党が過去のさまざまな経緯でできた“しこり”を水に流して、力を合わせようという協議だったはずだ。そのためには、お互い譲り、折り合うことが必要だった。実際の協議の過程を振り返ると、政党にとって肝心の政策や理念の部分の譲り合いが見られず、密室で決められてしまった。こちらの言い分は十分聞き入れられず、玉木代表も外された形になってしまったように映る…おかしいと思うし、いまの状況で、やすやすと合流する気にはなりにくい」

川合はさらに、複雑な立場をにじませた。出身母体の団体を含めた産業別労働組合は、新党の綱領案に国民民主党が掲げる「改革中道」の路線が反映されていないなどとして修正を求めてきた。これを受けて、連合と党側との調整が、いまも続けられている。

「自分の出身母体や、支援を受けるその上部組織と党側との調整が続く中で、自分の思いだけで、軽々に明言できないのも現実。『ちょっと待ってほしい』と言われているので、いまは、その動向、成り行きを見守るしかない」

決断の先にあるものは

冒頭に登場した徳永エリにも、地元の党組織からの合流参加の働きかけが、日増しに強まっているという。

「国民民主党を支援する労働組合も合流新党に参加するとなれば、私だけ意地を張り続けるわけにもいかなくなるので動向を見守っていて、答えを出せずにいる」

「このような選択ではなく、玉木代表とともに合流新党に参加して、国民民主党が掲げてきた『改革中道』路線を合流新党の中で広げられないかと思って、いま、玉木代表の説得も続けている」

思いと現実の間で、なお揺れ動いていた。

大きなかたまりを目指したはずの合流への過程で、分裂の危機に直面する国民民主党の議員たち。ある政界関係者は言った。
「どちらを選んだ議員にとっても、後味はいいものではなく、禍根は残るだろう」

今月24日には、立憲民主党と国民民主党、それに2つの無所属議員グループが、合流して新党を結成することに基本合意。代表選挙など結党に向けた具体的な日程について協議を進めていくことになった。

来る衆議院選挙を見据え、与党と対峙(たいじ)できる野党勢力が築かれるのか。
その行方は、苦悩する議員たちの、決断の先にある。
(文中敬称略)

 

 

政治部記者
宮里 拓也
2006年入局。さいたま局から政治部。旧民主党などを取材し、国民民主党を担当。
政治部記者
米津 絵美
2013年入局。長野局から政治部。国民民主党を担当。
政治部記者
並木 幸一
2011年入局。山口局を経て政治部。現在は野党クラブで国会対策を中心に取材。