池と自民のディスタンス

小池百合子知事の圧勝に終わった東京都知事選挙。実は同日、「知事選より面白い」と各党が注目する選挙があった。小池が立ち上げた地域政党・都民ファーストの会と自民党が直接対決。もつれ、ねじれた小池と自民党の関係はどこへ向かうのか。
(久保隆、鵜澤正貴、桜田拓弥、内藤貴浩)

対立か融和か

舞台は東京・北区。東京都議会議員の補欠選挙だ。
わずか1議席の争いがなぜ注目されたのか。簡単に背景を説明しよう。

3年前の都議会議員選挙(定員127)。都民ファーストの会は一躍、第一党となり、自民党は大敗した。

今回の知事選にあたり、小池と対立する自民党都連は独自候補の擁立に強いこだわりを見せたが、党本部の二階幹事長は支援の旗を振った。

結局、擁立は見送られ、対決の構図とはならなかった。因縁浅からぬ両者は今回の知事選をきっかけに融和へと向かうのか。

そんな憶測も生む中で、北区の補欠選挙では、都民ファーストの会と自民党が激突することになったのだ。

頼りは小池人気

現在、小池が特別顧問を務める都民ファーストの会の天風いぶき(35)。

宝塚歌劇団の男役として11年間活動し、退団後は5年半にわたって小池の秘書を務めた。
出陣式では、公務に専念するとして、自らの選挙でも街頭での運動を控えていた知事から、こんなビデオメッセージが届いた。

「私の事務所で長年にわたって大きな役割を果たしてくれた私の娘みたいな存在です。今回は自らが政治の舞台のど真ん中に立って主役を務めるという戦い。悔いのないよう挑んでいただきたい」

身にまとうのは、東京に一大旋風を巻き起こしてきたグリーンカラーだ。
「百合子グリーンとよく言われている緑色で、小池知事が近くについてくれていると感じています」

”埋没”に危機感

天風の立候補表明は、投票日のわずか1か月前。地縁が薄い中で「空中戦」を展開した。

元タカラジェンヌの同期や後輩なども連日、続々と応援に入り、選挙カーの壇上を華やかに飾る。本人の演説も、男役で磨いた低く伸びる声。ただこんな悩みも…

「宝塚で歌っていた時のマイクの持ち方の癖が直らないんです」

そんな中、応援演説に立つ都議からは次々に自民党への批判が飛び出した。

「都の大切な予算案に2年続けて反対したのが自民党なんです」
「自民党は小池知事と連携しているかのように抱きついていますが、だまされてはいけません。小池知事と自民党との連携はあり得ません」

小池と自民党の距離の遠さを強調する言葉の裏には、都民ファーストの会の危機感が見てとれる。新型コロナ対策で小池の露出が劇的に増えた一方で、都民ファーストの存在感は見えにくい。陣営の1人はため息まじりにつぶやいた。
「『小池さんに投票してきたよ!』と声はかけてもらえるんだけど、都議補選の投票先を聞くと、自民党ばかり。『小池さんと自民党ってうまくやってるんじゃないの?』という声を嫌と言うほど耳にする。知事を支えてきたのは都民ファーストだということをもっと浸透させないとまずい」

絶対に議席奪還

3年前の都議選では、定員3の北区選挙区で議席を失った自民党。奪還を目指して擁立したのが、山田加奈子(49)。

小学生の男の子を育てる一児の母だ。身体障害がある父は区議会議員を目指したが、5回の選挙でことごとく落選。その思いを継いだ。

北区の区議会議員を4期務め、議長も経験した。地元の電器店に生まれ、地域の課題や住民の要望を知り尽くしていると胸を張る。都議会でも即戦力になれると訴えた。

当初、自民党内には「都民ファーストは補欠選挙に候補者を立てないのではないか」と期待する見方もあった。知事選で自民党が独自候補を立てない見返りというわけだ。

しかし、両党激突となった展開に日頃、小池への不信感を口にしてきた都連関係者は気合いを込めた。
「これで面白くなってきた」

新型コロナ対策を担当する西村経済再生担当大臣は、小池と是々非々の立場を強調した。
「知事がいい方向に進んでいる時は、一緒に協力して、一緒に取り組むのが都議会だ。しかし、変な方向に行く時には、それをチェックするのが都議会の役割だ」

公明党が全力支援

注目されたのが、都議会では小池と協調してきた公明党の対応だった。

今回の選挙では、国政での自民党との関係を重視し、山田を推薦した。

「公明党としては、山田加奈子を何が何でも勝たせなくてはいけない。全面的に推薦をし、全面的に応援をし、必ず勝つという戦いを展開する」(太田昭宏 前公明党代表・衆議院東京12区選出)

この対応には地域事情が関係している。北区を含む衆議院東京12区は、都内で唯一、公明党が議席を守る小選挙区だ。自公の選挙協力を維持し、来たるべき衆院選に備える、そんな思惑が見える。

都民ファーストとの違いとは

山田は、自民党らしさをこう説明した。

「パフォーマンスではない、地に足のついた取り組みを行っていく。これまでも都議会自民党がやってきたことだが、私も同じところを目指したい」

補欠選挙の当選者の任期は1年。来年夏には都議選本番が控える。陣営の幹部が解説した。
「この1議席を獲得できるかは来年に向けてとても重要だし、都民ファーストの会がどれくらい票を取れるかというのはこの先どうなるかを占うことにもなる」

野党共闘で迫る

都民ファーストの会と自民党の戦いに割って入ったのが、立憲民主党の斉藤里恵(36)だ。共産党、社民党も支援した。

斉藤は耳に障害がある。文字を読み書きして接客する「筆談ホステス」として注目された後、娘と暮らす北区の区議会議員を1期務めた。

1歳の時に病気で聴力を失ったが、練習を重ね、言葉を発することができる。しかし、初めて聞く人には聞き取りにくいため、自身の訴えの後に支援者が同じ内容をくり返す「リスピーク」で政策を訴えた。

「なかなか政治に届きにくい、小さな、小さな声を、政治がしっかりと聞きに行く。耳が聞こえない私だからこそ聞こえる声があります」
斉藤は手話や筆談も交えて、市民とのコミュニケーションを図る。

こんな場面があった。耳に障害がある女性が手話で斉藤に“話しかけた”。その後、女性は手にしていたタブレット端末にペンで「がんばって」と書き込み、示した。斉藤は手話で「ありがとう」と応じ、笑顔を交わした。

大阪の勢いを東京に

日本維新の会の佐藤古都(32)。補欠選挙の対象となった議席のかつての主、音喜多駿・参議院議員の後継者だ。

佐藤が政治に目を向けたきっかけは出産前に行った保育園を探す活動、“保活”だ。根本的な原因は政治にあるのではないかと思い、音喜多の政治塾に参加。選挙を手伝う中で、立候補への意志を固めていった。

選挙を手伝うのは議員やボランティア。本拠地、大阪での追い風を受けようと、車、ポスター、チラシ、のぼり…大阪府の吉村知事の顔写真が目立つ。

「東京の維新」は組織が脆弱だ。しかし、それは「あたらしい政治」の実現を訴えられる強みと表裏一体でもある。各地で、こう訴えた。

「しがらみだらけの政治、古い政治をもう終わりにして、令和の新しい時代に皆さんの声をしっかりと聞き、必要なことをやれる、そんな政治家を都政に送り出していただきたい」

開票結果、今後の行方は?

多様な経歴の女性たちが戦った結果、自民党の山田が当選。都民ファーストの会の天風は4位に終わった。期日前投票者を対象にした出口調査を分析すると、天風の敗因が見えてくる。

今回、無党派層で天風に投票したのは18%。一方、3年前の都議選では、50%が都民ファーストの会の候補者に投票していた。無党派層の「都民ファースト離れ」が起きていたのだ。

自民候補にダブルスコア以上の差をつけられた都民ファーストの会。
「選挙の準備期間が短かったのもあるが、やはり小池知事が来られなかったのが痛かった」
都議の1人はこう漏らし、“小池頼み”から抜けられない現状に肩を落とした。

一方で、自民党は北区を含め補欠選挙が行われた4つの選挙区すべてで、議席を獲得。都議会で公明党を上回り、都民ファーストの会に次ぐ、第2党となった。

自民党内には都議会を中心になお小池への不信感が根強い一方、東京都連の鴨下会長は、知事選の結果を踏まえ、「小池知事の都政にできるだけ協力していく節目になった」と述べ、対立から融和への転換を主張した。

圧勝で2期目を迎える小池だが、都民ファーストの会が勢いを失っているのは大きな懸念材料だ。1年後には都議選が予定され、来年10月までには衆院選も行われる。

自民党に接近し、協調路線を前面に打ち出すのか。対立構図の中から局面打開のチャンスをうかがうのか。今後の出方に注目だ。
(文中敬称略)

報道局選挙プロジェクト記者
久保 隆
2003年入局。奈良・富山・大阪局を経て選挙プロジェクトへ。出口調査など担当。
報道局選挙プロジェクト記者
鵜澤 正貴
2008年入局。秋田局、広島局、横浜局を経て18年から選挙プロジェクト。
報道局選挙プロジェクト記者
桜田 拓弥
2012年入局。佐賀局、福島局を経て 19年から選挙プロジェクト
報道局選挙プロジェクト記者
内藤 貴浩
2012年入局。松江局、千葉局を経て19年から選挙プロジェクト。