桜に始まりコロナでわる
翻弄された国会の150日

国会は、新型コロナウイルスに翻弄された…
特別措置法や、補正予算、そして3密対策。異例ずくめの150日を経て幕を閉じた国会と、残した課題をふり返る。
(及川佑子、並木幸一)

野党は会期延長を要求も…

会期末の6月17日、野党側は、会期を12月28日までの194日間延長するよう申し入れたが、与党側などの反対多数で否決された。

自民党の森山国会対策委員長は、次のように閉会する理由を語った。
「一番大事なのは、予算成立後、政府にしっかりと執行に向けて頑張ってもらうことだ。国会は開いていると経費もかかる」

政府・与党としては、第2次補正予算が成立したことなどから、給付金の支給など経済対策の実行を急ぎたい考えだ。

これに対し、野党側は、感染の第2波に備えた対策などの議論を続けるべきだとして、会期の大幅な延長を求めていた。

立憲民主党の安住国会対策委員長は、次のように批判した。
「政権の支持率が落ち、逃げるように国会を閉じてしまうのは認められない。『国会を止めるな』と強く求めたい」

150日間の国会で、最後のヤマ場となった。

会期の延長が否決されたあと、自民党と立憲民主党の幹事長らが協議。
閉会後、週に1回、新型コロナウイルス対策に関係する委員会を開催することで合意し、内閣不信任決議案の提出は見送られた。

国会を閉会しても、万全の対応ができるのか。
使いみちが決まっていない10兆円の予備費のチェックは。
多額の事業が一般社団法人に委託された「持続化給付金」の問題。「一般社団法人」という仕組みそのものも問われた。
まさに非常時だからこそ、立法府の果たすべき役割が試されている。

当初は「桜」

国会が召集されたのは1月20日。
夏に、東京都知事選挙や、当時はオリンピック・パラリンピックがあるものと考え、当初から会期の延長はないという見方が大勢だった。政府は、提出法案を、通常国会の会期中に衆議院が解散された場合を除いて、これまでで最も少ない52本に絞り込んだ。

自民党の議員は、「大きな対決法案はない」と話し、前半戦の焦点は、去年相次いだ台風など一連の災害からの復旧・復興の費用などが盛り込まれた補正予算案と、新年度予算案とみられていた。
このころ、野党側が追及のテーマに挙げていたのは、「カジノ」や「桜」などだった。

自民党に所属していた議員が逮捕されたIR=統合型リゾート施設をめぐる汚職事件。
そして、去年の臨時国会から追及が続く総理大臣主催の「桜を見る会」。

衆議院予算委員会の審議で、立憲民主党の議員の質問が終わったあと、安倍総理大臣が「意味のない質問だ」とやじを飛ばし、野党側が反発。謝罪する場面もあった。

コロナで状況一変

永田町では「一寸先は闇」とよく言われるが、まさにその言葉通りだった。何より予想しなかったのは、新型コロナウイルスの感染拡大だ。

このころ、中国では、新型コロナウイルスの感染が広がりを見せていた。
国会召集前には、日本国内でも初めて感染が確認。

中国・湖北省武漢から日本人をどう帰国させるかや、横浜港に入港したクルーズ船への対応など、国会でも、新型コロナウイルス対策が論戦の主要なテーマに変わっていった。

2月27日、安倍は政府の対策本部で関係閣僚に対し、感染の拡大を抑制し、国民生活や経済に及ぼす影響を最小にするため必要な法案を早急に準備するよう指示。政府は、緊急事態宣言を可能にする特別措置法の整備に向けた検討を始めた。

一部の野党から私権の制限に懸念も出る中、3月4日、安倍は法案の早期成立を図るため、野党5党の党首らと個別の会談を行い、協力を呼びかけた。安倍が野党の党首と個別に会談し、協力を要請するのは、熊本地震への対応を協議した2016年4月以来のことだった。
そして3月13日、特別措置法は可決・成立した。

さらに3月17日には、与野党の幹事長や書記局長らが会談。経済対策などを協議するため、政府と与野党の連絡協議会を設置することを決めた。東日本大震災の際にならった枠組みだった。

野党側は、新型コロナウイルス対策では協力し、「提案型」の姿勢を示すことで存在感を高めたい考えだった。一方、ある与党幹部は、「野党側も巻き込むことで、今後、提出される補正予算案の審議に協力が得られる」と、連絡協議会設置の思惑を話した。

国会も3密対策

このころ、国会も感染防止対策という初めての課題に直面していた。
議員や職員は、マスクを着用し、手を消毒。衆議院本会議で質疑が行われる際は、密集した状態にならないよう、半数程度が議場から出ることにした。

また、登院する議員を減らすため、1日に開催する委員会の数も絞り込まれた。
一部では、休会を求める声も上がったが、与野党ともに、「非常時こそ、立法府の果たすべき役割は大きい」などとして、対応を工夫しながら国会審議は続いた。

初の緊急事態宣言

しかし4月に入ると、東京都内の1日あたりの感染者数が100人を超えるなど、緊迫感が高まっていった。政府は、4月7日、初めて緊急事態宣言を出した。

宣言は事前に国会に報告することになっており、安倍が衆参両院の議院運営委員会に出席し、各党の質疑が行われた。議院運営委員会は、議長らも出席して本会議の議事日程などを決める委員会で、国会関係者の間では、「格式高い場」とされている。総理大臣が出席して質疑を行うのは珍しく、45年ぶり。安倍が質疑に臨むのは初めてだった。

その後は、西村経済再生担当大臣が出席することになったが、議院運営委員会への報告と質疑は、宣言の拡大や延長、そして、解除のたび、この国会中、あわせて6回にわたって行われることとなった。

異例の補正組み替え

国会では、異例の事態が相次ぐことになる。補正予算案の組み替えもその1つだ。

4月16日、それは急転直下で決まった。当初、補正予算案に盛り込まれていた、収入が減った世帯への30万円の給付について、公明党が「対象が限定され、不評だ」として、10万円の一律給付に変更するよう要求。

自民党との激しい議論の末、緊急事態宣言の全国への拡大とあわせて、見直された。補正予算案の提出を翌週に控えたタイミングでの前代未聞の事態だった。

9年ぶりの休日返上

これによって、補正予算案の審議は1週間ずれ込むことになる。

4月29日は、「昭和の日」だったが、休日返上で審議が行われた。国会では、通常、土日や祝日には、委員会や本会議を開かないことが慣例となっており、休日に国会審議が行われるのは、異例のことだ。

衆参両院の事務局によると、審議が深夜まで及び、日付をまたいだケースを除いて、休日に審議が行われるのは、2011年4月末から5月1日にかけて、東日本大震災の復旧に向けた補正予算案を審議した予算委員会や本会議以来、9年ぶりのことだった。

補正予算は、大半の野党も賛成して、4月30日に成立した。

検察庁法で攻防も

一方で、与野党の激しい攻防も繰り広げられた。検察官の定年延長を可能にする検察庁法の改正案だ。ツイッター上で抗議の投稿が相次ぎ、野党側も徹底抗戦の構えを見せた。

5月18日、安倍は「国民の理解なくして、前に進めていくことはできない」として、この国会での成立を見送る考えを表明した。その後、事態は、東京高等検察庁の検事長の緊急事態宣言中の賭けマージャンによる辞職にまで発展した。

宣言解除、そして2次補正

5月25日には、全国で緊急事態宣言が解除された。

政府は、追加の経済対策を講じるため、今年度に入ってわずか2か月で2度目となる補正予算案を編成。第2次補正予算案は、新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため、事業者の賃料の負担軽減や、雇用調整助成金の拡充などが盛り込まれ、追加の歳出は一般会計の総額で31兆9114億円と、補正予算としては過去最大に。
国会最終盤の6月12日、賛成多数で成立した。

補正予算関連の法案などの追加提出もあり、この国会で政府が提出した法案は59本になった。このうち4本の成立が見送られ、成立率はおよそ93%だった。

国会改革なるか

新型コロナウイルスの感染予防策を講じながら、150日にわたって審議が続けられてきた中で、国会そのものの課題も浮かび上がった。

この会期中、幸いにも議員本人の感染は確認されなかったが、今後もそれが続く保証はない。衆参両院で感染がまん延した場合、どう立法府の役割を果たし続けるのか。

新型コロナウイルスは、各国の議会のあり方に変化をもたらした。イギリスの議会下院では、およそ700年の歴史で初めて、テレビ会議形式による審議が導入され、議員が自宅などから質問。アメリカ議会上院では、公聴会がオンラインで行われるようになっている。日本でも、各自治体の条例で議事のあり方を定めることができる地方議会の委員会を中心に、オンライン化が可能だとして、導入の動きが出ている。

ただ国会では、抜本的な改革が進んでいるとは言いがたい。そもそも議員は、憲法で国会への「出席」が必要とされる。

これが、議員が議場内に実際にいなければならないとされるゆえんだ。
若手議員を中心に、国会でもインターネットを活用して審議や採決を行うべきだという意見が出ているが、ベテラン議員の間では、「議員は出席して審議の様子を聞いた上で、法案の賛否を決めるべきだ」という伝統的な考え方も根強くある。

国会運営の中枢に身を置いた衆議院議院運営委員会の与党側の筆頭理事を務める自民党の岸信夫議員も、感染予防と国会の機能維持の両立の難しさに苦しんだ胸の内を明かした。

「コロナの中でも、国会だけはほとんど毎週やっていた。衆議院本会議にいたっては、およそ500人が1か所に集まる。コロナ対応が非常に難しかったのも国会の実情だ」

新型コロナウイルス対策に翻弄された国会。しかし、これで終わりではない。
ウィズコロナ、アフターコロナと言われる中、求められる新しい国会のあり方。国会の「3密」対策をめぐる議論もまた次の国会に持ち越されることになる。
(文中敬称略)

政治部記者
及川 佑子
2007年入局。金沢局、札幌局、テレビニュース部を経て政治部。現在、与党クラブ国対番。
政治部記者
並木 幸一
2011年入局。山口局を経て政治部。現在、野党クラブ国対番。