安倍3選は難しい?
「ポスト安倍」たちはいま
 

「難しいだろう。もう信頼がなくなってきた」
小泉純一郎・元総理大臣が、秋の自民党総裁選挙での安倍晋三総理大臣の3選について見通しを問われた際の発言です。

森友学園への国有地売却をめぐる財務省の改ざん問題発覚後、国会は、まさに「一寸先は闇」の言葉通りの展開で、自民党総裁選挙の行方も、不透明感を増しています。安倍総理大臣が3選を果たすのか、それとも、新たな総理・総裁が誕生するのか。総裁選挙の行方を展望します。
(政治部 自民党キャップ・吉川衛)

支持率下落、潮目変わった

「安倍総理、総裁選3選の可否焦点」
ことしの元日、私たちが、ことしの政局について発信したニュースです。
自民党内で、安倍総理大臣に対抗する動きに広がりが見られず、9月の総裁選挙で、安倍総理大臣が3選され、総理大臣として歴代最長の在任期間も視野に入れながら、長期政権を築けるかどうかが焦点だと伝えました。

ところが、森友学園への国有地売却問題に加計学園の獣医学部新設をめぐる問題、さらに、自衛隊のイラク派遣の日報問題や、官僚幹部の不祥事。連日続く、野党側の追及に、これまで40%半ばで推移していた内閣支持率は、今月、38%に下落。不支持が支持を半年ぶりに上回る事態となっています。(4月6日~8日調査)

党運営の要、二階俊博幹事長もいらだちを隠せません。
「明けても暮れても、このようなことに終始するのは、国民も、うんざりしていると思うし、われわれも実際うんざりしている」(4月10日記者会見)

ある重鎮議員も、「支持率が上向くのは厳しいだろうな。国民の厳しい評価が固まってきている」と漏らします。党内では、2012年に政権復帰して以降、最も厳しい局面を迎えていると危機感が強まっています。

安倍3選戦略に狂い

これまで、「安倍総理大臣3選」という見方が支配的だった自民党内。
去年10月の衆議院選挙で大勝。さらに、アメリカのトランプ大統領や、ロシアのプーチン大統領など、各国の首脳とも人脈を築き、北朝鮮問題や日米の経済問題などを乗り切るには、安倍総理大臣しかいないという声もあります。
さらに、麻生太郎副総理兼財務大臣や二階幹事長らが、安倍総理大臣を支持する考えを明らかにしています。出身派閥で党内最大の細田派(94人)、第2派閥の麻生派(59人)、第5派閥・二階派(44人)が支持に回る見通しで、国会議員票では優位な情勢です。

6年前の総裁選挙で、安倍総理大臣は、党員票で、石破元幹事長に2倍近い差を付けられました。それだけに、今回の総裁選挙では、党員票でも、他の候補を圧倒し、1回目の投票で当選を決める。安倍総理大臣に近い議員は、そうした戦略を練っていました。

ただ、一連の問題を受け、中堅議員は、地元での街頭演説で、政権に対する厳しい声を浴びせられると言います。また、ある閣僚経験者は、「支持率が30%を切り、国会でも、最重要法案と位置づける働き方改革関連法案などを成立させられないと、3選を目指すのも難しくなるのではないか」と指摘します。
安倍総理大臣の3選戦略に、狂いが生じているのは間違いありません。

「ポスト安倍」の動きは?

「安倍1強」と言われる情勢が変化を見せる中、9月に予定されている自民党総裁選挙。
私たちは、日々、「ポスト安倍」を目指す人たちの一挙手一投足を追っています。
総裁選挙に向けた動きはどうなっているのでしょうか。

石破茂氏 劣勢も「地方」に活路

「支持率は変わり、お天気予報ではないので、あれこれ論評しても仕方がない。安倍政権を作ったのは我々だから、政権が続く限り支えるのは、自民党員が国家国民に負うべき責任だ。しかし、未来永ごう続く政権なんて絶対にないので、次に誰が何をするかを考えるのも、自民党が果たすべき責任だ。今の政権を支えることと、次に備えること。両方とも、我が自民党が、国家国民に果たすべき責任だ」(4月11日 講演)

みずからの立場を、こう説明した石破元幹事長。立候補への強い意欲をにじませています。石破派の中からは、「こうした状況になっても、党内に”石破待望論”が出てない以上、風なんか吹いてない」という声もこぼれていますが、側近議員は、石破氏の実直さや、政治をただす姿勢をアピールしていきたいと戦略を立てます。

ただ、石破派は、みずからを含め20人。国会議員票では、劣勢が否めないため、6年前にも過半数を獲得した党員票に活路を見いだしたいとして、地方行脚に力を入れています。

岸田文雄氏 「主戦論」か「禅譲路線」か

「不祥事や、あってはならないことが次々と起こっており、これから先について、予断をもって申し上げることはできない。今の段階で、総裁選に向けた自分自身の対応は何も決まっていない」(4月14日 記者団に)

第2次安倍政権発足以降、外務大臣、政務調査会長と、一貫して安倍総理大臣を支えてきた岸田政調会長。安倍総理大臣の後継への意欲を、にじませながらも、総裁選挙への対応は明言を避けています。

こうしたなか、3月19日には、これまであまり接点のなかった公明党の井上義久幹事長からの誘いで会食。岸田氏周辺は、公明党も「ポスト安倍」を見据え、関係の構築を図ろうとしているのではないかと分析します。

足元の岸田派(47人)は、「立候補しなければ存在感が薄れる」とする「主戦論」と、「安倍総理大臣との良好な関係を維持し、”禅譲路線”をとるべきだ」という「自重論」に分かれます。4月16日には、安倍総理大臣と2人で会談した岸田氏。常々、「戦うときは勝たないといけない」と口にしていて、「ポスト安倍」の座への戦略は、安倍総理大臣の動向を見極めながらの判断になるものとみられます。

野田聖子氏 「掟はない」異例の挑戦

「総裁選挙は、安倍総理大臣を倒すことが目的ではなく、自民党の中で、3年に1度、候補者が、政策を戦わせる、国民とつながる場だ。よき習慣をなくしてはならず、次も必ず出る」(8月3日 記者団に)

去年8月の初閣議の後で、総裁選挙への立候補を明言した野田総務大臣。閣内から戦いを挑むのは異例ですが、「大臣に就任したら、総裁選挙に出てはいけないという掟(おきて)はない」と突っぱねます。

みずからがライフワークとして取り組む「女性活躍」の旗を掲げ、独自色を打ち出すとともに、政治塾を立ち上げるなど、動きを活発化させています。しかし、派閥に所属しない野田氏にとって、立候補に必要な推薦人20人の確保は簡単なことではありません。3年前も集められずに、立候補を断念しました。
4月4日には、無派閥の議員の会合に、久しぶりに顔を見せた野田氏。こうしたつながりを通じて、派閥を超えた結集を図りたい考えです。

河野太郎氏 「公務優先」貫く

かねて「総理大臣を目指す」としている、河野外務大臣。
党をとりまく情勢が厳しさを増す中、中堅議員らからは、発信力の高さや、改革に取り組む姿勢などから、「ポスト安倍」に期待する声があがっています。

主要閣僚を務めていることに加え、党内では、安倍政権支持を明確に打ち出している麻生副総理兼財務大臣が率いる派閥に所属していることもあり、現時点では、総裁選挙をめぐる動きには距離を置いています。外務大臣就任から8か月余りで、34の国と地域を訪問(4月18日現在)するなど、公務を最優先する姿勢を貫いています。

直ちに交代迫る動きはなし

「ポスト安倍」を目指す議員や周辺を取材すると、現在のところ、党内では、安倍総理大臣に対し、直ちに交代を迫るような動きは出ていません。
「弱っている時に、後ろから鉄砲を打つのは自民党はノーだ」(中堅議員)
「問題の連鎖で、安倍政権が倒れたら、次の政権も間違いなく、すぐに倒れる。第1次安倍政権の時と同じ状況になり、政権交代が起こる」(閣僚経験者)

まずは結束して難局を乗り切る必要があるという空気感が強まっていて、「ポスト安倍」を目指す人たちも、様子見の状況です。

動き始めた大物OBたち

気になる動きもあります。
いったん、第一線を退いた人たちの言動が活発になっているのです。

山崎拓元副総裁は、3月14日、石破派の勉強会に出席し、「総裁選挙に立候補する人がいなくて、安倍総理大臣の3選を、ただ追認するようでは、党の活性化が阻まれる」と、石破氏に立候補を促しました。

山崎氏は、翌15日には、今も、参議院に影響力を残すとされる、青木幹雄元参議院議員会長らと会食。

青木氏は、党内第3派閥・額賀派の会長ポスト交代劇にも、深く関与したと言われていて、4月19日に竹下派に衣替えした後も、一定の影響力を及ぼすものとみられます。青木氏は、山崎氏らに「国会が終わらないと」と、状況を見極める考えを示したということです。

さらに、古賀誠元幹事長も、派閥を継いだ岸田氏の慎重な言動に歯がゆさを感じているようです。

「党内が結束するのと総裁選挙は別だ。自分の考えをバチッと言った方がいい」(4月9日 民放BS番組で)

そして、冒頭紹介した、小泉純一郎元総理大臣の発言。
「(安倍総理大臣の3選は)難しいだろう。もう信頼がなくなってきた。何を言っても、言い逃れや言い訳に聞こえる」(4月14日 記者団に)

これまで「脱原発」以外では、政治的な発言は少なかった小泉氏。
みずからの政権で、安倍総理大臣を、党幹事長や官房長官などに抜てきし、後継として育ててきただけに、この発言のインパクトは大きいと言えます。

カギを握る男、それは…

党内で、大きなカギを握ると見られているのが、小泉進次郎筆頭副幹事長です。

父の純一郎氏譲りの歯切れのよい物言いで発信力は高く、人気も集めています。若手議員が「若手は間違いなく、その動きになびく」と分析するほか、党幹部の1人も「今の進次郎は、誰だって取りたい」と評価します。小泉氏が、誰を支持するのか。党員票だけでなく、国会議員票にも、影響を及ぼすと見られています。

6年前の総裁選挙では、投票終了後、石破氏に投票したことを明らかにした小泉氏。「重い1票であり、じっくり考える」(3月25日 党大会後、記者団に)と述べるにとどめていますが、今回、投票前に対応を明らかにするのか、その動向に注目が集まります。

次期総裁は「ポスト平成」の舵取り役に

今回の総裁選挙の当選者の任期は2021年9月末まで。当選者のもとで、来年の天皇陛下の退位、皇太子殿下の即位を迎えることになります。つまり、今回の総裁選挙は、「ポスト平成」の舵取りを誰に委ねるのかを、決めることにもなります。

政界の一寸先は闇。この後も、何が起きるか分かりません。永田町では、「解散?」、「総裁選挙前倒し?」など、さまざまな噂も飛び交っています。総裁選挙の情勢も、めまぐるしく変わることも予想されます。今後も片時も目を離さず、お伝えしていきたいと思います。

※注:額賀派は4月19日から竹下派に

政治部記者
吉川 衛
平成8年入局。鳥取局から政治部。福岡局デスクなど経て、現在、政治部自民党キャップ。