LGBTとは何ですか
ある議員と語った新宿の夜

「LGBT」。同性愛者や性同一性障害の人など、性的マイノリティーの人たちを指す時などに使うこの言葉、ここ数年でかなり浸透してきたように感じます。自治体や企業などで、LGBTを踏まえた制度を推進する動きが出ているほか、永田町でも、LGBTの差別解消を目指す動きが始まっています。
でも、正直に告白すると、取材でこの言葉に接するまでは、積極的に知ろうとはしてきませんでした。そんな私ですが、ある国会議員に、この際、疑問をぶつけてみることにしました。
(政治部記者・霜越透)

夜のゴールデン街で

その人は、尾辻かな子さん(43歳)、立憲民主党の衆議院議員です。去年初当選した尾辻さんは、大阪府議会議員を務めていた平成17年に、同性愛者であることをカミングアウトしました。

この日、尾辻さんと待ち合わせたのは、新宿・ゴールデン街にあるバー。店員でゲイのピンキーさん(32歳)も交え、2時間近く、本音を語ってくれました。

まず、思い切って恥ずかしい質問をしました。
基本的なことで恐縮なんですが、LGBTとは何ですか?
「性的マイノリティーの人たちを全部は総称できていないけど、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字をあわせた言葉です。最近では、『どの性別を好きになるか』という『性的指向=セクシュアルオリエンテーション(Sexual Orientation )』と、『自分自身の生きたいと思う性別』という『性自認=ジェンダーアイデンティティー(Gender Identity)』の頭文字をあわせた『SOGI(ソジ)』という言葉は、国連の文書などにも出てきます。LGBTより、包括的にしようということですね」

“自分へ”のカミングアウト

自覚したのは、いつからですか?
「自分自身を『そうかも知れない』と思って受け入れるまでには、かなり時間がかかって。これを『自分自身へのカミングアウト』と言うんですけど、私は、22歳か23歳のときですね。18歳くらいから、『そうかも』というのはあったんですけど、向き合えなかったというのがあって」

「人にカミングアウトする前に、『自分自身が違う』ということに、ある日、気付くんですよね。私なんかも、ボーイッシュだったから、レズビアンじゃないかと小学校や中学校では、いじめられてきました。だから、自分自身に気付いて受け入れるまで、ある程度、時間がかかったり、自分の中にある、社会の内面化している『同性愛嫌悪』に向き合わなければ、なかなか次に進めない。私は受け入れるのに5年くらいかかりました」。

「組合員」と呼び合う仲

「みんな、隠しているんですよ。どうして、隠して生きていかないといけないのか。どうして、自分を受け入れるまでにも、こんなに時間がかかるのか。当事者って、この社会で生きていっていいのか分からないぐらい、ポジティブなメッセージを受け取れないんですよ。『あなたは、あなたのままでいい』とか、全然ないので」

「私は、大学生のときに、自分以外の同性愛者と会って、話が出来るようになって。そこで思ったのは、みんな、本名を言わないんですよ。ニックネームなんです。本当の自分になれるのは、例えば、クラブのイベントなどに行ったときだけ。一歩出ると、『業界の人』と言ったり、『組合員』とか言ったりね」。

ピンキーさん「『組合』って、よく言いますよね」

「周りで誰が聞いているかわからないですから。自分が安心して喋ることができる場所と、それ以外の場所は、はっきり分かれていて、二重生活をするわけですよ。ゲイカップルで、コンビニに絶対2人で入らない人がいるんですよ。『2人で入っているところを見られたら、付き合ってると見られるかもしれない』というぐらい、リスクヘッジして、生きていかないといけない人たちもいる」

同性同士でコンビニに入っても、別に構わないのでは?
「そうでしょ。皆さんの中では、そうなんですけど、当事者の中では、それもリスクになるかもしれないと考えるんです」

「レズビアンなんです」

なぜ、政治家を目指したんですか?
「なぜ、『隠れる』、『自分自身を受け入れられない』となってしまうのかと考えたとき、この社会が問題なのではないか、社会をどうやったら変えられるのだろうかと思ったんです。たまたま、大学で、政治のインターンシップの募集があって、『レズビアンなんです』とカミングアウトをして、議員のところに行ったんです。若い女性の議員で、市議会で、性的マイノリティーの児童・生徒について、質問をしてくれたんです。それにすごく感動して」

「平成12年のことで、当時、議会で取り上げるのは、かなり勇気のいる話だったんですが、議員が質問することで、少しでも何らか動いていくわけです。議員は、『社会が変わるわけではない。変えようと思う人たちの行動の結果、変わるんだ』と話していて、『私も社会を変えるプレイヤーになりたい、政治家になりたい』と思いました」

見えない問題は、課題にならない

政治家になって、なぜ、カミングアウトを?
「大阪府議会議員として、私にしか出来ないことは何だろうかと思うと、カミングアウトすることで、政治課題として認識してもらうこと。体の性別が女性の人が男性として生きていくなら、服が違うとか分かるけど、どの性別を好きなのかは、目には見えない訳です。カミングアウトしなくても生きていける分、見えない問題は、いつまでも社会の課題にはならない。だから『可視化』しないといけない。可視化していかないと政治の課題にならないので、私は、それをしたかった」

永田町では、LGBTの差別解消や多様性を受け入れる社会の実現を目指す動きが始まっています。尾辻さんが所属する立憲民主党は、党の基本政策にLGBTの差別解消に向けた法律の制定を盛り込んでいるほか、自民党は、去年の衆議院選挙で、LGBTへの広く正しい理解を深めるための法律の制定を目指すことを公約に掲げました。

国会議員として、何をしたいですか?
「2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに、LGBTの差別解消法を作ること。同性カップルが、婚姻と同じような権利を持つ『同性パートナーシップ』の法制化も目指したい。それに、地域の教育もやりたい。18歳、20歳を超えると、みんな、東京などに移動できるけど、それまでは逃げられない。そこの教育をしっかりやらないと、最初の部分でつまずくんじゃないかと。先生がカミングアウトできないのに、どうやって、子どもがカミングアウト出来るんですか?というあたりで、やっていきたい」

どこかで人は、マイノリティー

「LGBTだけでなく、人は、どこかでマイノリティーなんです。例えば、親の介護を抱えていたり、うつの家族がいたりして、しんどいとか。みんな、どこかで、いろんなマイノリティー性を抱えている。でも、いろんな違いがあって、その違いがアイデアを生んで、社会の変革になっていく。多様性は社会の強さです。違いを排除する社会ではなく、その違いこそが、社会によい変化を生み、誰もが自分らしく生きることができる社会になると思っている」

衆議院議員としては新人の尾辻さん、「結局、世論の後押しがないと出来ない部分がある」とも指摘していました。

「人は、どこかでマイノリティーなんです」
今回の取材で、一番心に残った言葉です。LGBTだけでなく、この世には多くの声なき苦しみがあって、それは私たち誰もがどこかで抱えている。それが「見える」ようにならなければ、社会は課題にさえしてくれない。私がそうであったように、積極的に知ろうとしなかった意識をちょっとずつ変えていくことが、多様性があり、誰もが生きやすい社会を築く第一歩になるのかも知れない。尾辻さんの話を聞いて、そう思いました。
永田町でのLGBTについての取り組みは、まだまだ始まったばかりです。

政治部記者
霜越 透
平成20年入局。旭川局、稚内報道室、札幌局を経て、政治部に。趣味は筋トレ。