改ざんはなぜ?
1年間の国会議論を振り返る

最強の官庁とも言われる、財務省が国会に示してきた公文書の改ざんが明らかになった。民主主義の根幹を揺るがす前代未聞の事態だ。最も分かりやすい筋書きは「不当な政治的な圧力による不適切な行政手続きを隠すものだった」というところだろう。しかし、真相は今も明らかになっていない。1年余りにわたって続く国会論戦をつぶさに取材してきた取材班で、審議の過程を振り返りつつ、改ざん前と改ざん後の文書を比べ、その狙いや意図を探った。
(政治部予算委員会担当・田村健吾 経済部財務省担当・篠崎夏樹 野口佑輔)

問題の核心は?

キーマンである、財務省の理財局長だった佐川・前国税庁長官に対する証人喚問が行われた3月27日。インターネット上では、ある有名人のツイートが話題に。発信したのは、「森友学園」がある大阪ゆかりの“あの人”だ。

「(財務省は)あーだこーだ言い訳をして」
「(土地を)掘り返せ!」

大阪府知事や大阪市長を務めた橋下徹氏のツイート。刺激的な表現だが、かなり的を射た指摘だとも感じる。それはなぜか?。

問題の核心は、森友学園が小学校建設用地として購入した国有地が政治的な圧力で不当に安く売却されたのではないか?という点だ。

安倍総理大臣の夫人の昭恵氏が一時、この小学校の名誉校長を務めていたことなどから疑惑は深まり、野党側は、安倍総理大臣の関与があったのではないか、払い下げは不適切だったのではないかと1年余りにわたって追及を続けている。

さまざまな疑問点が払拭(ふっしょく)できないまま残っていることに加え、財務省による公文書の改ざんなども発覚し、各種世論調査で内閣支持率は急落した。

これに対し、安倍総理大臣は一貫して関与を否定。政府も土地の売却は適正だったという説明を変えておらず、安倍総理大臣や昭恵氏の関与や土地の売却が不正だったことを示す明確な証拠も明らかになっていない。

橋下氏の指摘は、土地の値引き額が適切だったのか、不適切だったのかを明らかにするには、値引きの根拠となった、ゴミの埋設量を明らかにするのが手っ取り早いというものだ。

確かに値引きが適正なら、公文書改ざんの真相解明は残るものの、政治的な不当な圧力によって不適切な国有地売却の行政手続きが行われたのではないかという疑惑は一定程度、払拭される。ただ政府は、問題の土地を国が買い戻したものの、小学校の建物工事を請け負った業者が占有しているため、すぐに地下の再調査を行うのは困難だとしていて、今のところ実施される見通しはたっていない。

そこで私たちは、ひとつひとつの疑問点を、文書と国会審議を通じて探ることにした。

佐川氏は何を語った?

佐川氏の証人喚問は、最大の焦点である改ざんが、「どういう目的で、誰の指示によって行われたのか?」。その真相の一端が明らかになることが期待された。

しかし、佐川氏は、改ざんや森友学園との取り引きに、安倍総理大臣や昭恵氏、それに総理大臣官邸関係者の指示や関与はなかったと明言する一方、改ざんの経緯などは、刑事訴追を受けるおそれがあるとして証言を拒み続けた。

▲証人喚問での佐川氏の全証言は、こちらをクリック▲

与党側からは、偽証罪に問われるおそれもある証人喚問での佐川氏の証言は重く、安倍総理大臣や昭恵氏らの指示や関与がなかったことが明確になったという意見のほか、佐川氏が証言を拒んだことも、法的に認められた権利だとして理解を示す意見が出ている。

これに対し、野党側は、「むしろ疑惑が深まっており問題の幕引きは許されない」と主張しているほか、立憲民主党の枝野代表は、佐川氏が刑事訴追を受けるおそれを拡大解釈し、証言を拒んだとも指摘している。

ただ佐川氏本人も、証人喚問の終わりに「どういう経緯で誰が具体的に指示をしたかは答えていないので、その点は明らかになっていない」と述べているとおり、証人喚問を経ても、「なぜ」「誰が」改ざんしたのかという、疑問は解消されなかった。

佐川氏が述べたのは、「自分は、政治的な圧力を感じたことはなく、過去の記録からも、不当な政治的な圧力はないと判断できる」。
「安倍総理大臣の『私や妻が関係していたら総理大臣も国会議員も辞める』という国会答弁を受けて、自分は『そんたく』をしたこともない」という趣旨のことを言っているにすぎない。

罪に問われるおそれがある中での証言であり、重みがあるのは間違いないが、ほかの財務省の職員などに対して、「政治的な不当な圧力がなかった」と言い切る根拠としては弱いとも言え、野党側は昭恵氏や佐川氏の前任の理財局長の証人喚問を求めている。

ただ証人喚問を次々と求める野党側の姿勢に対し、同じ野党の日本維新の会からは、「証人喚問は万能ではない」という指摘が出ているほか、政府与党内からは、「証人喚問は人民裁判ではない。政治ショーのようになってはならない」などという意見も出ている。

特例?特殊?

今回の改ざん問題は、3月2日の朝日新聞の報道で発覚した。

1面トップの「森友文書書き換えの疑い」の見出しを目にして大きな衝撃を受け、何度も読み直した。

その日の午前9時から参議院予算委員会の審議を取材する予定だった私たちの頭に残った感想は、大きく分けて2点だった。

書き換えは本当なのか。森友学園の問題が国会で大きな議論になっていたとは言え、財務省がそこまでやるのか。仮に本当なら、理由にかかわらず許されず、国会でも大変な問題になる。

そして、記事には、『特例』などの文言が削られたと書いてあるが、削ることに、どんな意味があるのか。国会審議では、すでに国有地の取り引きの経緯に、特例的な扱いがあったことが明らかになっている。なぜ、改ざんする必要性があったのか。

改ざんが許されないのは議論の余地がない。しかし、去年から国会審議を取材していると、改ざんという「禁じ手」を使ってまで、「特例」などの文言を削る理由が理解できなかった。

少なくとも「特例」の文言はすでに国会審議で問題になっていた。もちろん、改ざんが行われた後に初めて明らかになった事実も多いが、改ざんのリスクと比べて、隠すメリットが大きいとは思えなかったのだ。

朝日新聞の報道から10日後の3月12日、財務省は、決裁文書の改ざんを認め、改ざん前の文書の内容も公開した。改ざんは、14の決裁文書、300か所以上に及んでいた。その中では、朝日新聞が最初に報じたとおり、「特例的な内容となる」「本件の特殊性」という文言が削られていることも確認できた。

「特例」「特殊」の文言が改ざんで削られたことで、野党側は、「特殊な政治案件」、つまり安倍総理大臣や昭恵氏らの影響を隠そうとしたのではないかと追及している。

財務省は、「特例」の文言は、「売却を前提とした貸し付けの期間が通常と比べて長いことなどを指している」と説明している。国有地の売却を前提とした貸し付けは通常「3年」が期限だが、森友学園に対しては、小学校の建設用地だということもあり、特例として「10年」の貸し付けを認めたのだ。その際、財務省理財局長の「特例承認」という手続きを踏んでおり、「特例」などの文言と、政治は無関係だと強調している。このようなやり取りは、去年の国会から繰り返されている。

改ざんには驚がくしたが、「特例」という文言を隠す意味はほとんどなかったのではないかと感じる。

与党内からは、「隠す必要のない事実をなぜ削除したのか」「問題をよけいに複雑にしている」という指摘まで出ている。

加えて、改ざん前の決裁文書を詳しく見ると、直接、交渉を担っていた近畿財務局と財務省理財局の間で、学園側からの長期貸し付けの要請を受けて、平成25年8月の段階で、「売却前提の貸し付けを検討する」との対応方針が決定されていたことがわかる。安倍総理大臣夫人の昭恵氏が森友学園を訪れたことが改ざん前の決裁文書などから確認できるのは、それから8か月後の翌年・平成26年4月だ。つまり特例的な貸し付けを行うことは、昭恵氏が初めて学園を訪問する前の段階で方向性が決まっていたことになる。

ただ、改ざん前の文書からは、国が長期貸し付け検討の対応方針を決める前の段階で、別の政治家の秘書から問い合わせがあったことも書かれていて、そうした政治家への「そんたく」が長期貸し付けの要因になったのではないかという疑惑は残る。

また野党側は、昭恵氏が学園を訪問したあとの平成26年6月に、近畿財務局が森友学園に対し、「売却前提の貸し付けに協力すると回答した」と改ざん前の文書に明記していることから、背景には、昭恵氏の影響があったのではないかと追及している。

さらに問題を複雑化しているのは、国が、当初の売却前提の長期貸し付けから、「新たなゴミが見つかった」などという学園側からの連絡を受けて、ゴミの撤去費用を差し引く形で土地を売却する方針に転換したことだ。

野党側は、この点もとらえて、政治的な不当な圧力や、安倍総理大臣などに対する「そんたく」があったのではないかという点からも追及を強めている。

この問題の複雑さは、まさにここにある。ひとつひとつの疑惑が完全に解消されないまま生煮えで放置され、次々と新たな疑惑に論点が移り、1年余り国会での論戦が続いているのである。

新展開?

一方、改ざんが明らかになる過程で、内容自体に驚かされた文書も新たに見つかった。
それは財務省が改ざんを認めたあと、1週間遅れで国会に提出された1枚の文書だった。
そこには、これまでの国会審議でも出ていない、新たな事実が記述されていた。

まず国会で取り上げられた事実を整理する。

・国有地を所有していたのは、国土交通省の大阪航空局。

・そして、学園が小学校の開校を目指していた平成29年4月のおよそ1年前の平成28年3月に事態が急展開。学園側が、「土地の地中から新たなゴミが見つかった」として国側にゴミの撤去を求めたのが理由だ。

・国側は、学園側の要求を受けて、小学校の開校が迫る中、売却前提の貸し付けから、ゴミの撤去費用を差し引いて土地を売却することに方針を転換した。

・撤去費用の見積もりについても、近畿財務局は、通常、民間の業者に頼むのに、大阪航空局に依頼する異例の手続きを取った。

・「新たなゴミの発見」から「売却」までの手続きについて、財務省は、「開校が迫っている学園側から損害賠償が請求されるおそれがあり、大変切迫していた」と説明している。

・学園側は、この過程で、昭恵氏などの名前もちらつかせて、国側に対応を求めていた。

・大阪航空局の見積もりに基づき、国有地が8億円あまり値引きされて売却された。

・のちに、こうした経緯について、会計検査院は、「値引き額の算定方法には十分な根拠が確認できない」などと指摘した。

新たに出てきた文書の、何に驚かされたのか。
ひと言で言うと、大阪航空局の「主体性」が明記されている点だ。
「大阪航空局としては、売却価格からの控除を提案することで事案の収束を図りたい」
文書では、大阪航空局は、「新たに見つかったゴミを撤去せざるをえない」と判断した。
しかし、「早急な予算措置は困難(早急に費用を確保できない)」として、「売却価格から撤去費用を差し引くことを提案して事案を収束させたい」との意向を近畿財務局に示した。
近畿財務局も、この提案を受け入れ、作業を進めた。

記述が事実だとすれば、大阪航空局が、ゴミの撤去費用を差し引いてでも早く土地を売って話を終わらせたいと考えていたと受け取れる。

政府は、利用されていない国有地は有効活用する方針を打ち出しており、売却を急ぐこと自体は不自然ではない。ただ「早期の売却で事態の収拾」という意向を持つ大阪航空局が、適正にゴミの量を見積もれたのか?見積もりにもとづいて決めた8億円余りの値引きは妥当だったのか?という疑問が浮上する。

ただ国土交通省の幹部は取材に対し、「財務省とは認識に相違がある」として、買い取りへの方針転換は、国土交通省が主導したものではないという考えをにじませていて、どのように意思決定が行われたのか、新たな疑問が浮上する結果となっている

昭恵氏は?

「『安倍昭恵総理夫人を現地に案内し、夫人からは「いい土地ですから前に進めてください」とのお言葉をいただいた』との発言あり」(学園側の発言として記述)

今回の改ざんでは、この昭恵氏に関する「前に進めてください」という記述の削除が特に注目された。去年2月に安倍総理大臣が国会で、「私や妻が関係していたら、総理大臣も国会議員も辞める」と答弁したことが大きな要因と言える。

記述について、大阪拘置所で勾留されている籠池・前理事長は、接見した野党議員に「確かにそういうふうにおっしゃっていた。間違いない」と述べたという。

一方の安倍総理大臣は、「籠池氏が言っていることにすぎず、真意のほどは違うのではないか。妻は明確に『そんなことは言っていない』と言っている」と強く反論。主張は真っ向から対立している。

昭恵氏に関する記述の内容は、確かに、安倍総理大臣が言うように学園側の発言の紹介であり、昭恵氏の関与を直接、裏付ける内容とは言えない。また佐川氏も、証人喚問で、みずからの答弁などに影響は与えていないとの認識を示した。

しかし、財務省の太田理財局長は、「総理夫人だから記述した」と説明。さらに安倍総理大臣の答弁をめぐっても、太田局長は、「総理大臣なり大臣なり、政府の答弁は気にしていないという風に言えるほどの材料は持ち合わせていない」と答弁している。

与党側は、佐川氏が昭恵氏の影響を明確に否定したことから、「関与がないことが裏付けられた」としているが、野党側は、「改ざんは、昭恵氏の名前があったからにほかならない」と追及を続けている。

では、ここで昭恵氏が「前に進めてください」と学園側に言っていたことが事実だったと仮定して、どのような問題が生じるのか考えてみたい。

昭恵氏が、財務省や近畿財務局に「前に進めろ」と伝えていれば、不当な圧力と評価されてもしかたないが、発言は籠池氏に対するものだ。

野党側が注目するのは、安倍総理大臣の「関与していれば、総理大臣も国会議員も辞める」という発言から、昭恵氏の発言が裏付けられれば、進退問題に直結すると考えているからだと見られる。安倍総理大臣が強く否定するのも、そうした事態を意識してのことだろう。ただ、仮に発言が裏付けられても、学園側へのそのひと言をもってして、「政治的な不当な圧力によって行政がねじ曲げられた」と言うことはできるだろうか?

一方、籠池氏の発言を財務省側が重く受け止め、「官僚のそんたく」によって行政手続きがねじ曲げられていたとすれば、安倍総理大臣や昭恵氏の関与があったことにはならないが、結果的に取り引きに影響を与えたという意味で、政治的な責任が議論になるのは避けられない。

もちろん安倍総理大臣は、国会答弁で、「昭恵氏はそうした発言はしていない」と明言しているので、仮に発言があれば、その答弁の責任も問われることになる。

事前の価格交渉は?

「近畿財務局が森友学園を訪問し、国の貸付料の概算額を伝える」

財務省は、去年、「学園側と事前の価格交渉は一切していない」と答弁。その後、財務省と佐川氏は、「価格とは予定価格のことだ」などとして、貸し付けや売却をめぐって、金額が話題に上ったことは認めつつ、事前に伝えてはいけない情報は伝えていないという立場を崩していない。

一方、野党側は、書き換え前の決裁文書の「概算額を伝える」などの文言をもとに、事前に価格交渉をしていたのではないかと追及を強めている。

ただ、ここでも「言った」「言わない」の議論になっていて、野党側の追及でも、政府側の説明を突き崩すには至っていないのが実情だ。

“詳しすぎる”決裁文書

改ざん前の近畿財務局の決裁文書には、「本省理財局に相談」「本省担当課から承認の内諾を得ている」などと、本省とのやり取りも数多く記述されていた。

多くのキャリア官僚が「こんなに詳しい決裁文書は異例だ」と口をそろえる。それでは、異例とも言える詳細な記述をなぜ行ったのか?

籠池氏が、国有地の購入を有利な形で実現するために、さまざまな政治家に仲介を依頼し、現職の総理大臣夫人の名前を挙げながら、繰り返し働きかけをしていたのは政府・与党、野党の共通認識だろう。霞が関では、改ざんの背景には、こうした苦労を本省に伝え、記録にも残すため、出先機関である近畿財務局がここまで詳しい決裁文書を作成したのではないかという見方が出ている。

また、そうした事実を把握した財務省本省で後々、「なぜ、これほど誤解を招きかねない記述を残したのか」などという意見が出たことが、改ざんにつながったのではないかという指摘も出ている。

うみ出し切れる?

今回の問題では、3年前にも決裁文書に添付していたメモが削除されていたことも明らかになり、野党側は、「改ざんが常態化していたのではないか」と指摘している。

これに対し、財務省も、「今の段階で『ない』と言っても信じてもらえないのは重々承知している」としていて、今回の問題の調査終了後に、理財局以外でも同じような改ざんがないかを確認する方針だ。

「うみを出し切る」安倍総理大臣は、佐川氏の証人喚問の翌日、改ざん問題の全容解明への決意を示した。ただ発覚から1年以上経過しても、まだ新事実が明らかになるこの問題。憲法が「国権の最高機関」とする国会に改ざんされた文書が提出されたのは、民主主義の根幹を揺るがしかねない事態だ。

また、この問題は政府のガバナンスの問題でもある。安倍総理大臣の関与がなかったとしても、時の総理大臣などに対する「そんたく」によって行政がゆがめられるようなことはあってはならないし、公文書の改ざんなどは論外だ。

なぜ改ざんが行われたのか?そして、それに先立つ土地の売却はどう進められたのか?

2つの疑問を解消するためにも、今こそ、橋下徹氏が指摘するように、土地を掘り返すぐらいの覚悟が求められる局面ではないか。

一方、以前から指摘されてきたことだが、国会論戦のもととなる資料や答弁の作成で、霞が関の官僚は、国会が始まると昼に夜を継いで職務に当たっている。

今回の問題をきっかけに、公文書の取り扱いはもとより、時の政権に対する疑惑が生じた場合の国会審議のあり方も含めて、きちんと見直す必要があるのではないだろうか。

ただ国会論戦は、言った言わないの水掛け論に陥っている感がある。与野党双方からは、原発事故調のような第三者機関による調査を求める声も出ている。国民が何よりも期待している疑惑の真相解明に向けて、行政は当然のこととして、国会や司法の対応が問われている。

報道する私たちも、冷静な目で取材を進めて事実に迫り、核心を探っていきたい。

政治部記者
田村 健吾
平成14年入局。高知局、名古屋局を経て政治部へ。現在、官邸担当。 
経済部記者
篠崎 夏樹
平成11年入局。山形局を経て経済部。現在、財務省や内閣府を担当。
経済部記者
野口 佑輔
平成23年入局。高知局を経て経済部。現在、財務省を担当。