婚ひとり親
税金「差別」との戦い

「夢のようだ」
長年の懸案が解決し、喜ぶシングルマザー。
税制改正で、「未婚」のひとり親にも、配偶者と「死別」や「離婚」したひとり親と同様に、所得税や住民税の軽減措置が適用されることになった。
ようやく破られた壁。その舞台裏に迫った。
(古垣弘人)

「差別しないで」

「未婚のひとり親を差別しないでください!」
「子どもたちを差別しないでください!」

税制改正をめぐる議論が大詰めを迎えていた去年12月10日。自民党本部の9階に、シングルマザーたちの声が響いていた。

自民党税制調査会の小委員会が開かれる部屋の前。彼女たちの表情は、切実そのものだった。

税金で「差別」

プラカードを掲げていた1人、大谷利恵さん(37)。

東京都内に住む大谷さんは、小学6年生の1人娘を持つ未婚のひとり親だ。

妊娠6か月のころ、当時、結婚予定だった男性の態度が変わったという。
結局、結婚はせず、25歳でひとり親となった。

以来、女手一つで、11年余り子育てをしてきた大谷さん。
「未婚」を理由に、「区別」や「差別」を感じてきたという。
「未婚と未婚じゃないかで全然違うんだなって。やっぱり税金がなんだって高い。住民税は本当に高いですし、所得税も違います」

配偶者と「死別」や「離婚」したひとり親には、所得税や住民税が軽減される「寡婦控除」が適用される。

しかし、「未婚」のひとり親は、その対象外。
所得税が軽減されないため、所得などを基準に支給される児童扶養手当の額や、比較的家賃の安い公営住宅への入居などでも、不利になるケースがあるという。

大谷さんは、手取りの給与所得が、年間およそ230万円。

娘と2人、1DKで暮らす生活は、決して楽ではないという。

「かなり厳しいですね。かつかつです。離婚してひとり親になっている人は、都営住宅に入ったりして、家賃も全然違う。ずっと歯を食いしばる思いで」

「子どもからすれば、親に結婚歴がある、ないというのは、本当に関係ない。平等にしてほしいとずっと思っていました」

自民党保守派の壁

この差を放置していていいのか。

自民・公明両党の間では、数年来、激しい議論が展開されてきた。

未婚のひとり親にも「寡婦控除」を適用するよう求め続けてきた公明党。

しかし、自民党は慎重だった。いわゆる保守派を中心に、「未婚のひとり親にも軽減措置を講じれば、結婚しない親が増え、伝統的な家族観の崩壊につながりかねない」といった意見が根強かったのだ。

実際、おととしの税制改正の議論でも、最後まで調整が難航したのが、未婚のひとり親への支援策だった。自民党税制調査会の幹部からも、「家族のあり方に関わる」などとして、税制上の措置をとることには慎重な意見が出された。

今回の議論でも、また結論は見送られるのだろう。

永田町では、そんな見方が大勢だった。しかし、今回は様子が違った。

「基本的な家族観を壊さず、ひとり親の公平感も確保したい」

新たに自民党の税制調査会長に就任した甘利明元経済再生担当大臣は、11月20日、記者団に、未婚のひとり親に対する所得税の軽減措置について、前向きに検討していく考えを示したのだ。

当初は「児童扶養手当」の受給者ならと…

当初の案は、未婚のひとり親に対し、「寡婦控除」そのものを適用するのではなく、「租税特別措置」と呼ばれる税制上の特別な措置を設けるというものだった。

子どもの貧困対策という目標を達成するための「特例」という位置づけなら、家族観を重視する保守派にも説明がつくと考えたという。

そして、対象については、未婚かどうかを容易に確認できるよう、ひとり親の生活安定のために支給される「児童扶養手当」の受給者に限定する方針だった。

それには反対!?

果たして、この案で、保守派の理解は得られるのか。

そんな矢先、異を唱えたのは、稲田朋美幹事長代行たちだった。
保守派で知られる稲田氏だが、それは、いわゆる「反対意見」ではなかった。

甘利氏が記者団に意向を示す2日前の11月18日。

稲田氏は、自民党の女性議員たちで作る議員連盟「女性議員飛躍の会」のメンバーとともに、甘利氏と会談。
未婚のひとり親にも等しく「寡婦控除」を適用するよう要望していた。

稲田氏たちの主張は、対象を児童扶養手当を受けている親に限れば、むしろ「死別」や「離婚」した親と、所得制限で差が出るとして、完全に平等にすべきだというものだった。

実際、児童扶養手当を受けている親に限定すれば、子ども1人の場合、年間の所得が原則230万円未満の親に限られる。

このため、年間の所得が500万円以下の親まで対象となる「寡婦控除」と差が生じてしまうのだ。

稲田氏は、当時の状況を次のように振り返った。

「大反対だった。そこで区切りを打てば、また新たな壁をつくり、差別を生み出す。本来、税って分かりやすくて、公平で、平等であるべきなのに、理由のないところで差別をしている。絶対おかしい」

稲田氏は、女性議連のメンバーとともに、菅官房長官や、伊吹元衆議院議長らと連日のように面会し、根回しに奔走した。

しかし、なぜ保守派の議員グループの会長も務める稲田氏が動いたのか。
党内外から、少なからず驚かれている面がある。

「おととし、この問題で、『自民党が認めなかった』という記事を見て、それはすごくおかしいなと思っていたことがベースにあった。『女性議員飛躍の会』で、未婚のひとり親の方にお会いする機会があって、彼女たちが言っていることが正しいと思った。絶対変えるべきだと考えた」

そして、稲田氏は、保守派にあるとされる慎重論に反論した。

「伝統的な家族観を壊すとか、事実婚を奨励するとか、法律婚を破壊するとか、全くそういう問題とは違う次元の話だ。伝統的家族って、一体、何なのか。理想的な家族はあると思うが、その理想から外れているから間違っているのかと言えば、そうではないと思う。『伝統的家族以外は認めない』というのは、ちょっと違うのではないか」

「『保守』と『平等』は両立する。『保守』だから、不平等にしていいとか、差別していいとかじゃない。多様性を認めることができるのが『保守』だ」

増える賛同者

しかし、甘利税制調査会長は、その後も、児童扶養手当の受給者に対象を絞ることにこだわる姿勢を見せ続けた。

その理由について、甘利氏は、記者団に対し、「未婚のひとり親を確認する手段が児童扶養手当だ。それ以上やろうとすれば、人員などが必要になる」などと説明していた。

それでも稲田氏らは「寡婦控除」の適用を求め続けた。
12月4日に開かれた自民党税制調査会の小委員会では、10人ほどの女性議員が、次々と声をあげた。

そして、税制改正大綱のとりまとめを2日後に控えた12月10日。
稲田氏らは、部屋の前に集まったひとり親の声援を受け、最後の訴えを行った。

さらに、集めた「賛同国会議員名簿」を提出。名簿には、自民党の所属議員のおよそ3分の1にあたる130人余りの名前が記載されていた。

「涙が出るほど嬉しい」

その2日後に決定された税制改正大綱。

そこには、未婚のひとり親にも「寡婦控除」を適用することが盛り込まれていた。
この1報をインターネットの記事で知った、未婚のひとり親の大谷さん。思わず、歓喜の声を上げたという。

「『わー!』って叫びました。『もう諦めるしかないかな』と半分思っていたところもあったので、純粋に涙が出るほど嬉しかった。私も児童扶養手当はぎりぎりもらっているけれど、あと少し給与が上がれば、対象から外れるかもしれないくらいなので、そこのラインもすごく大事だと思っていました。やっと認められたんだ。やっと同じスタートラインに立てたのかなと。『救われたな』っていう気持ちです」

決定打は

財務省の矢野康治主税局長は、こう振り返る。

「私たちは、夏から密かにじっくり検討し、児童扶養手当の対象者について、租税特別措置法で手当てするというのが、現実的かつ合理的な出口だと考えていた。それしかないと思い込んでいた」

その上で、女性議員たちの取り組みがなければ、今回の改正は、実現しなかったと指摘する。
「家族観にこだわりそうな人たちが、『伝統的な家族観とは別次元の問題だ』と断言し、女性議員が異口同音に未婚差別の排除を強調したことは決定的だった」

「未婚と、死別・離婚を同列化するのはおかしいだろうという人は今なお根強くいるが、そういう声が表に出られないほどかき消した。子どもの貧困対策にとどまらず、未婚のひとり親への差別解消という、より大きな課題として整理された」

自民党に「変化」起きるか

稲田氏は、今後も女性議員でまとまって行動していくことに意欲を示した。

「自民党の女性議員は少ないけど、団結してやって、自民党の聖域と言われる税制調査会のインナーの考えを変えた。私たちからすれば100点満点の結果を得ることができた。1つの成功体験になった。次は何をやろうかと。これをやろう、あれをやろうといろんな考えが出てきている」

まだまだ女性議員が少なく、女性からの支持も高いとは言えない自民党。稲田氏の今回の行動の背景には、そうした状況への意識もかいま見える。

一方で、自民党内には、依然として、未婚のひとり親への支援に慎重な意見もある。

実際、「あれだけ多くの女性議員たちが動くと、表だっては反対しにくかったが、家族観を壊しかねないというサイレントマジョリティーはいる」という声も聞かれる。

しかし、社会が変化する中、今回の動きが、多様性を認める一歩となったのは間違いないと思う。

女性の声を政策に反映させ、支持を広げていけるのか。
今後も、自民党内で、「変化」が起きるのか、注目していきたい。

政治部記者
古垣 弘人
2010年入局。京都局を経て15年に政治部へ。18年秋から、自民党の細田派担当に。3人の娘の父親。学生時代は野球部。