煙室を設置へ 今どきなぜ?

「北海道の恥だ」
地元の医師会長が猛反発する中、北海道議会の自民党会派は、来年1月に完成する議会新庁舎に喫煙室を設置することを決めた。
しかし、改正健康増進法では行政機関内は完全禁煙と規制している。
知事も設置に税金の投入には否定的だ。
なぜ、そんな状況なのに喫煙室を? 実はそこには、法律などをクリアするための「3つの奇策」があったのだ。
(五十嵐圭祐)

わずか10分で決定!

10月4日、北海道議会の会議室で開かれた最大会派・自民党の議員総会。
53人の所属議員全員が出席した。

外で控えていた私たちメディアは、驚くべき決定を聞くことになった。来年1月に完成する道議会新庁舎の議員控え室に、喫煙室を設置することが決まったというのだ。このご時世に、なぜ…

「設置すべきでない」と反発した議員は1人だけ。
わずか10分で、結論が出た。すでに根回しは終わっていたのだ。

自民党会派に所属する藤沢澄雄道議は、設置に最後まで反対した。だが、外堀は埋められていたと振り返る。

「たびたび反対してきたけど、こうして声を上げる人は少数派で、何度言っても意見は通らなかった。気づいたらみんな賛成派に取り込まれていたっていうのが実状だ。法改正もされて世の中として禁煙に向かっている中、会派としてこのような結論になるのは本当に恥ずかしい。地元に帰ったら『絶対反対だ』ってみんなに言われる。批判は避けられない」

会派の佐々木俊雄会長は、設置を決めた理由についてこう語る。

「たばこのない世界が理想だが、吸っている人にすぐにやめろというのは難しい。最終的には禁煙を目指すが、現時点では分煙という決断をした」

医師会、さすがに怒った!

この決定に対し、自民党の支持団体でもある北海道医師会の長瀬清会長は猛反発。
「北海道の恥だ」と切り捨てた。

「率先して道民の健康づくりに取り組んでいくべき道議会議員に良識ある判断を期待していたが、この結果は暴挙に等しく、がっかりしている。道議会庁舎に喫煙室を設置することは健康増進法の趣旨に反する。これからも医療関係者を巻き込んで反対運動を行っていく」

決定後、北海道医師会は看護協会などと共に全面禁煙にするよう求める署名活動を行い、10万3000人余りの署名を集めて道議会に提出した。このほか、札幌市の市民団体や、日本禁煙学会北海道支部、禁煙を推進する医師や歯科医師の団体も反対を表明している。

喫煙室で「自民がまとまる」って!?

猛反発の中、自民党会派が設置を決めた理由は何か。
先の自民党会派の佐々木会長はこう説明した。

「自民党が1つにまとまるために決断した」

自民党会派は、ことし4月に行われた知事選挙の候補者擁立をめぐり、議員同士が激しく対立した経緯があり、今回も賛成派と反対派の亀裂が深刻化すれば、組織が壊れかねないという懸念もあった。

いわば、組織の論理を優先した結論だった。

さらに、設置を後押ししたのは、所属議員を対象にしたアンケートだった。回答した49人のうち、6割にあたる31人が設置に賛成する意見を寄せていた。

奇策①ここなら“治外法権”

道議会では、連携する公明党会派も、立憲民主党、共産党の会派とともに、みずからの控え室に喫煙室を設置しない方針を決めている。

議会事務局の聞き取りでは、喫煙室を設置すると回答したのは自民党だけだ。
新庁舎の公共部分にも喫煙室を設置することは難しい環境にあった。

こうした中、自民党が考えたのが、自らの控え室の中に喫煙室を設置するという奇策。
いわば、治外法権である自ら管理する場所に設置することで、他の会派の批判を封じ込めようとする作戦だった。

これに対し立憲民主党会派の笹田浩幹事長はこう話す。

「うちの会派は喫煙スペースを作らないことを決めているが、ほかの会派に対しては、『作るな』とまでは言わない。『勝手にして』というスタンスだ。自分はたばこをやめる気はないけど、喫煙室がなくなったらこれからどこで吸うか、自民党の喫煙スペースでも借りるかな」

奇策②“行政機関じゃない”=法の対象外

ことし7月から一部施行された改正健康増進法。
中央省庁や自治体といった行政機関の屋内を完全禁煙にすることが義務づけられた。

東京都庁では、敷地内のすべての喫煙所に閉鎖を知らせる貼り紙が貼られ、入り口が閉鎖された。

青森県でも県庁や議会棟が全面禁煙となるなど、全国各地で禁煙の措置が相次いだ。
こうした中で道議会新庁舎に喫煙室が設置できるのか。

考えられた2つめの奇策があった。
「道議会は立法機関で、行政機関ではない」
法律の対象とされた“行政機関”に議会は含まれていないという論理だった。

奇策③税金を使わず設置する

設置決定に先立ち、北海道の鈴木知事は道議会議長に「道民目線で考えれば、税金で喫煙室を設置することは難しい」と伝えていた。

税金を使わずに公共施設に喫煙室を設置する方法があるのか。

会派幹部は、札幌市内のホテルでJT=日本たばこ産業の幹部と極秘裏に面会した。
JT側は「よほど高額にならないかぎり、寄贈という形で喫煙室を設置させてもらいます」と応じたという。

寄贈を受けることで税金を使わずに設置するという第3の奇策。喫煙室を設置する環境が整った。

バックにいたJT 寄贈の理由は

寄贈を申し出た理由、JT北海道支社の大島康志さんは、あくまで分煙環境の整備のためだと強調する。

「我々が目指すのは、タバコを吸う人と吸わない人の双方が共存できる分煙社会づくり。法改正によって受動喫煙の防止が求められている中、さまざまな施設でどのような分煙環境を整備するのか、その手伝いをさせてもらっている」

こうした取り組みをJTでは「分煙コンサルティング」と呼んでいる。
去年末までに、全国で1万2500件以上の喫煙所の設置に協力してきたという。

この中には、徳島県庁や岩手県議会庁舎など、自治体や議会の庁舎での実績も多くある。ただ、今回のケースと違って、法改正の前のことだ。

大島さんは続ける。
「道議会の自民党会派に対してだけの特別な対応ではなく、弊社の通常の活動だ。今後も快適な分煙環境の整備に向けて取り組んでいく」

「理解得られない 業界となれ合いの感じも」

こうした動きを専門家はどう見るのか。
北海学園大学法学部・山本健太郎教授に聞いてみた。

「『道議会は行政機関で無いから設置できる』というのは、法の精神に照らしても有権者の理解を得られるものではない。JTから喫煙室の寄付を受けるのは、法的に食い止めることは難しいだろうが、一企業の寄付で作ることは若干好ましくない。タバコ業界は自民党の古くから支持団体で、ある種のなれ合いも感じる」

“煙に巻かれる”わけには

北海道議会の新庁舎は、来年1月に完成。
6月には運用が始まる予定だ。
それまでに、道議会議長が設置の是非を判断し、道が手続きを進めることになる。

支持団体の医師会や市民団体の反対を押し切って組織の論理を優先した今回の喫煙室設置の結論。
「会派の控え室に設置するかどうかは自分たちの問題で、外からとやかく言われることではない」
そんな思いも透けて見える。

会派幹部は「将来的な禁煙を目指す上での暫定措置だ」と強調しているが、実際に喫煙室が設置されるのか。

身内に甘い対応では道民の目は“煙に巻けない”。
そう思うのは私だけだろうか。

政治部記者
五十嵐 圭祐
2012年入局。横浜局、秋田局を経て、現在、札幌局で北海道政を取材。