HK政治部長が登場、
安倍4選?解散は?取材した

「総理は改造の際『あと1回、改造をやるから』と言っていた」
それはつまり…
「“あと1回”ということは2回はない。つまり4選はないよ」
え、もう決めているのか?と、耳を疑った。内閣改造後の、ある自民党幹部の言葉だ。
さらに、別の政権幹部も「“今”の総理の心中に4選はない」と語った。

安倍総理大臣の自民党総裁4選はない、それは本当か。そして任期中の衆議院の解散は。
その可能性を探ってみた。
(原聖樹)

内閣改造で支持率は上がっている

まず、現在の状況を整理しておこう。
「そんなこと知っている」という読者もおられるだろうが、政治に詳しくない方も含め、多くの方に読んでいただきたいので、しばらくおつきあいいただきたい。

総裁の任期は、残り2年。ことし11月20日には、在任期間が憲政史上、最長となる。
だから、ポスト安倍を意識した発言が出る。一方で4選に期待する声も出ている。

9月11日、第4次安倍第2次改造内閣が発足した。

去年の内閣改造に続き、各派閥の領袖の意見が取り入れられ、いわゆる入閣待機組の議員が多数、初入閣したほか、安倍総理に近い議員が要職に起用されたことから、「在庫一掃、お友達内閣だ」などと揶揄する声もあがった。
しかし、小泉環境大臣の登用の影響か、朝日新聞、毎日新聞、共同通信の世論調査で内閣支持率は軒並み上がっている。
(読売新聞では下落。NHKの世論調査結果は今月中旬の予定)

内閣改造は、時の政権が難局の打破を目指して行うことも少なくないが、効果は一時的なものにとどまることも少なくないほか、新閣僚のスキャンダルや失言などで、内閣支持率の急落を招くこともある。

12年前、安倍総理自身も、参議院選挙に惨敗した直後、内閣改造を断行したものの、閣僚らの「政治とカネ」の問題などが相次ぎ、辞任に追い込まれた。

しかし、今回の改造にあたって、安倍総理は、早々に入閣待機組を積極的に登用する姿勢を示していた。背景には、各種世論調査で内閣支持率が堅調に推移し、不支持率を上回っていたこともあったようだ。

「改造で支持率を上げることは考えていない」周辺からは強気の声も漏れていた。

「入閣を固辞」の懸念払拭されて…

「小泉氏、入閣見送り」
こうしたことも影響してか、改造直前、国民的な知名度が高い小泉氏の入閣が見送りになったという報道が相次いだ。

小泉氏は、以前の自民党総裁選挙で安倍総理とその座を競った石破元幹事長を支持したことがある。

また官房副長官への起用を断った経緯もあることから、安倍総理とは距離があると言われてきた。
このため今回も入閣はないのではないかという見方が強かったのは確かだ。

しかし、安倍総理は、早くから閣僚への起用を検討していた。

一方で、実は入閣を固辞された場合の影響も考慮していた。

そうした中にあって安倍総理の背中を押したのは菅官房長官だった。
「小泉氏は断らない」

安倍総理は、菅氏からの情報を得て入閣打診を最終的に決断。小泉氏も快諾したのだった。

「衆議院の解散の時期が早まるかもしれない」
これを受けて自民党内からは早くも衆議院の解散・総選挙の時期をめぐる声が出始めた。

「魔の3回生」たちからの「期待」

自民党内では、安倍総理のもとで初当選した3回生以下の議員が120人余りに達する。
いわゆる安倍チルドレンだ。
中でも、自民党が政権を奪還した2012年の衆議院選挙で初当選した議員は最大勢力の80人余り。失言やスキャンダルが相次いだこともあって「魔の3回生」とも言われる。

ベテラン議員からは、「有利な状況の選挙しか知らない」などと苦言が呈される。

先の参院選の際も
「災害の被災地に丸腰のボランティアが応援に来るようなモノで現場が混乱している」
などと、党の体力低下を嘆く声まで聞かれた。

これらの議員の多くは選挙基盤が固まっていないこともあり、
「できるだけ有利な状況で選挙を戦いたい」
という心理が強く働く。
それが、早期の衆議院の解散・総選挙を期待する声が出る要因だ。

これらの議員には、もう1つ共通点がある。
安倍総理の下で当選したこともあり安倍政権へのシンパシーが強く、安倍総理の4選への期待感も高い。

安倍長期政権の理由

「1強多弱」「安倍1強」などと言われる政治情勢は、なぜ築けたのか?

民主党政権の失敗、経済の好転、さらにはどちらかと言えばリベラル色の濃い政策の取り込みなど、さまざまな要因はあげられるが、要は安倍総理大臣が選挙に毎年、勝ち抜いてきたからだ。

「解散権の乱用だ」という批判も野党側などから出るが、2012年に自民党総裁に返り咲いて以来、安倍総理は毎年欠かさず、進退を決する国政選挙、あるいは自民党総裁選挙に臨み、“勝利”を重ねてきた。

唯一の例外とも言える2015年の総裁選挙も、選挙に持ち込ませなかったという意味で権力闘争に勝ち抜いたと言える。

「総理大臣を辞めさせるのは、容易なことではない」

総理大臣が毎年、交代していた当時、与党の幹部から、こんな言葉をたびたび聞いたことがある。

民主党政権に限ったことではなく、それ以前の自民党政権も含めてのことだ。重要政策の行き詰り、求心力や支持率の低下など、さまざまな要因で総理大臣を代える必要性が高まっても、総理大臣みずからが決断しないかぎり、辞任させることは難しい。

裏を返せば、選挙に毎年勝利していれば、権力基盤は強くなる。「1強多弱」「安倍1強」の政治情勢は選挙で“勝利”を重ねることで、強化されてきたといえる。

解散への期待の裏に「景気の先行き」

米中の貿易摩擦の激化、イギリスのEUからの強硬離脱、イラン情勢の緊迫化、世界経済の先行きは、さまざまな要因でかつてなく不透明感が増している。

加えて、今月、消費税率が10%に引き上げられた。

さらに東京オリンピック・パラリンピックに伴うインフラ需要も、開幕が近づけば近づくほど減っていく。

「そうなると景気の先行きは必ずしも明るくない」

安倍総理は、景気の動向次第で躊躇(ちゅうちょ)なく経済対策を講じる考えを強調しているが、与党内でも景気が後退局面に入るのではないかという警戒感が漂う。

「ならば、景気が悪くならないうちに解散総選挙をして欲しい」

これが自民党内で、早期解散・総選挙への期待感が高まるひとつの理由だ。

「与党は低投票率でも勝てない」と野党が

もうひとつは野党の動向だ。ここは彼しかいない。与党側も動向に関心を寄せる重鎮を訪ねた。

「次の衆議院選挙で政権交代だ」

野党勢力の結集に尽力したある野党幹部は参議院選挙後、こう語った。

「埼玉の知事選を見ても、国民は政権交代に期待している」

ことし8月の埼玉県知事選挙は、与党系と野党系の候補が激突。
当初、与党系が優位とみられたが、野党側が逆転した。

この幹部は、投票率が30%余りだったことに触れながら、
「この投票率なら、本来なら与党の勝利だ。
しかし、与党は、低投票率でも勝てない状況になりつつある」
と強調した。

NHKの出口調査で無党派層の投票行動を見てみても、与党系より野党系に流れていた。

先の参院選で、立憲民主党、国民民主党、共産党などは、前回に続いて勝敗の行方を左右する32の1人区で候補者を一本化した。その結果、前回の11には及ばなかったものの10の選挙区で勝利した。

野党側にとっては、期待ほどの効果があったとは言えないかもしれないが、与党側から見れば、競り負けた選挙区が増えたのも事実だ。立憲民主党など野党側は、次の衆議院選挙を見据えて統一会派を結成し、連携強化を進めている。

これが自民党内で、早期の解散・総選挙への期待が高まっているもう一つの要因だ。選挙基盤が弱い自民党の議員にとっては、1人しか当選できない小選挙区制のもとで、野党側の議員と1対1の勝負はできるだけ避けたいのが本音だ。

4選へのハードル

自民党の党則では、総裁任期について長年、「1期3年、連続2期まで」とされてきたが、二階幹事長の主導で2017年「連続3期まで」と改められた。

これを受けて安倍総理の総裁としての任期は再来年2021年9月までとなった。衆議院議員の任期満了は、その翌月の10月だ。

しかし、4選を実現し、安倍総理が再来年9月以降も政権運営を担うには、党則を改め、自民党総裁選挙、衆議院選挙双方に勝たなければならない。

極めて高いハードルと言える。

「ここできれいに辞めたほうが」

つてをたどって、政権幹部から話を聞く機会を得た。

「経済を好転させ、有効求人倍率も高水準。そして憲政史上、最長の長期政権。『ここできれいに辞められたら影響力も残せる』これが“今の”安倍総理の本音だ」

確かに安倍総理自身、4選の可能性を否定している。

今回の内閣改造でも、総裁候補と目される議員を要職に就け、競わせる体制を整えた。安倍総理は、やはり4選は目指さず、辞め時を探っているのだろうか。

しかし、この政権幹部は続けてこう語った。
「長期政権を築いた佐藤栄作も小泉純一郎も、最後の2年はこれという仕事をしなかった」

「しかし、今の時代、そんなことで政権を維持できるのだろうか?『任期一杯やって、あとは任せる』というのも新総裁には酷な話だ」
そして、この幹部は、早期の衆議院の解散・総選挙を排除すべきではないと指摘した。

安倍総理が任期一杯、総理大臣を務めれば、自民党は、総裁選挙を行ったうえで衆議院選挙に臨むことになる。

このため総裁選挙は、衆議院選挙の看板選びの様相を呈することが予想され、とりわけ当選回数の若い議員は、派閥の領袖などの意向より国民的な人気を優先する。

一方、総裁選挙に先立って衆議院選挙で勝利すれば、4選への期待も高まり、党則改正の「てこ」になり得る。さらに仮に4選を目指さなくても、政権のレームダック化は避けられる。

この政権幹部の発言からは、こうした計算も読み取れる。

解散の時期は?

では衆議院を解散するとして、そのタイミングはいつだろうか。衆議院の解散は、これまで国会開会中にしか行われたことがなく、解散を断行するために臨時国会が召集された例もある。

ここで今後の政治日程を見てみたい。



今後の政治日程を眺めると、解散の時期はかなり絞られてくる。

これ以外にも、ことしの年末にかけては、APEC・アジア太平洋経済協力会議の首脳会議など、安倍総理の出席が予定される重要な国際会議が相次ぐ。

さらに天皇陛下が内外に即位を宣言される「即位礼正殿の儀」には、世界各国の首脳クラスが日本を訪れる。この合間に衆議院の解散・総選挙を行うのは容易ではない。

来年に目を転じれば、7月24日から9月6日までは、東京オリンピック・パラリンピックがある。「世界の祭典」が国内で開催される直前などに、総選挙をぶつけるのはいくらなんでも理解が得られない。

一方、再来年には、連立を組む公明党がとりわけ重視する東京都議会議員選挙が控える。東京都議会議員選挙に万全を期すため、公明党は、この近辺で総選挙を行うことを嫌うはずだ。
実際、ある公明党の関係者は、
「できれば半年程度はあけてほしい。期間は離れていれば離れているほどありがたい」
と語っていた。

つまり解散は3つのタイミングに絞られる!

政権は、任期満了が近づけば近づくほど、新たな政策課題に取り組む体力を失い、レームダックに陥る。自民党内の関心も次の総裁選びに移り、安倍総理自身の求心力も低下することは避けられない。

また在任期間が残りわずかとなる中での衆議院の解散・総選挙は、国民ばかりか与党内の理解を得るのも難しいはずだ。

そう考えると、解散・総選挙を打つタイミングは、

▼来年の通常国会冒頭

▼東京オリンピック・パラリンピックのあとの臨時国会

▼再来年の通常国会冒頭

このあたりに絞られてくるのだ。

では、解散の大義は

しかし、解散・総選挙を行うには、「国民に信を問う大義」も必要になる。

「消費税率の引き上げ延期」など、国民にとってわかりやすい大義が用意できるのかも、選挙に勝つうえでは重要だ。

安倍総理は、先の参議院選挙では憲法改正を前面に掲げたほか、改造後の記者会見でも、憲法改正は自民党立党以来の悲願だとして実現に向けた決意を重ねて表明した。

とはいえ、先の参議院選挙で、公明党も含めた改憲勢力は、憲法改正の発議に必要な3分の2の勢力を失った。

公明党は、早期改憲には慎重な姿勢なのに加え、選挙戦の最中、改憲論議に前向きな姿勢を見せていた国民民主党も、慎重な立憲民主党との統一会派結成に踏み出し、改憲論議の先行きは見通せない状況に変わりはない。

ただ、改憲論議が進み憲法改正の国民投票が実施される運びとなれば、それに合わせて衆議院の解散・総選挙を行うという選択肢は当然のことながら浮上してくる。

そして、4選はあるのか

安倍総理など、5人の候補者が立候補し、決選投票までもつれ込んだ2012年の自民党総裁選挙。

ギリギリの局面で、安倍陣営では、
「あくまでも総理・総裁を目指すべきだ」
という主戦論と、
「ほかの陣営と連携し、幹事長を狙うのも選択肢だ」
という主張がぶつかり合ったという。

第2次安倍内閣発足後も、靖国神社参拝、消費税率引き上げ延期などをめぐって、安倍総理周辺では激しい議論が交わされ、その都度、安倍総理が最終的な判断を下してきた。

安倍総理は、4選も視野に残り任期で衆議院の解散・総選挙に打って出るのか。あるいはこのまま任期満了を迎えるのか?

先日のニューヨークでの記者会見で、安倍総理大臣は、衆議院の解散・総選挙について、
「私の頭の片隅にも、もちろん真ん中にもない」
と改めて述べた。

しかし、周辺からは次のような声も漏れている。
「北方領土交渉、あるいは北朝鮮の拉致問題が仮に動き始めたら、世論はどうなると思いますか?」
「来年11月にはアメリカの大統領選挙もある。仮にトランプ大統領が再選された場合、党内の声はどうなるでしょうか?」

なるほど、その場合には、つまり…

(文中敬称略)

政治部長
原 聖樹
1990年入局。大津局、大阪局を経て政治部。7年弱、官邸キャップを務め、現職に。