党を今こそ! これが手本だ

「情けない。福山や枝野にも伝えたんだが」
「新しい党を作ればいいんだよ」

そう語る男、北澤俊美、81歳。

民主党政権で防衛大臣も務めた論客だ。
国政を引退して3年。しかし、その鼻息は荒く、参院選ではなんと長野県独自の政治団体を立ち上げ、野党連携を実現させて勝利へと導いた。

野党が勝つにはどうすべきか、重鎮の手腕と「喝」、味わっていただこう。
(高橋圭太)

野党連携へ…だが「情けない!」

久々に手を握った、立憲民主党・枝野代表と国民民主党・玉木代表。
来る秋の臨時国会を前に、衆・参両院で会派の合流を決めた。にわかに進まなかった野党連携が、ようやく動き始めた。

衆議院の会派「社会保障を立て直す国民会議」も含め、国会対応で足並みをそろえるため、法案の賛否を決める協議の場を設けることにしている。

「『遅きに失した』という感もあるけども、枝野が参議院選挙の結果をよく分析して、今までの路線を転換したっていうことは、政治家として一皮むけたんじゃないかと思うよ」

そう語る男は、秋風が吹き始めた信州・長野にいる。
例年、あと1か月もすれば、高くそびえ立つ山々は雪化粧に。
そんな夏の終わりを前に、とある事務所の一室で熱弁を振るうのが、北澤俊美・元防衛大臣だ。

国政引退から3年。北澤はこの間、地方から、ずっと国政の様子を注視してきた。
それとともに、地方で野党を支えてくれた人たちが離れていく様子も見続けてきた。

「支持率は伸び悩む。全国比例の票も減らす。底辺にある土台が細ってるんだよ」

地方組織が弱体化する中、北澤は進まない国政での野党連携にいらだちを感じていた。

「やっぱり情けないね。情けない。非常に残念だよ。党を作って、代表になったり幹事長になったり国対委員長になったりすると、役職に対するある種の面白さや楽しさが出てきて、こだわりに変わっていっちゃうんだよな。政党って、お互いに独立すると、ほかの党との違いを作りたがるから。だからいっときも早く元に戻さなきゃいかんと」

北澤の言う「元に戻す」とは野党が1つになることだ。
しかし、国民民主党の玉木代表は「単なる『民主党への先祖返り』にならないことが大事だ」と指摘している。

「『民主党への先祖返り』なんていうのは、自民党のけん制球だが、国民の意識も『また旧民主党かい』と、新しいものを求めているところもある。『民主党政権が悪夢だ』とレッテル貼りされたんだから、新しい党を作ればいいんだ。一緒になる方法には2つある。立憲民主党へみんなが寄っていくのも1つだが、国民に対するアピール度は少し薄い。だから枝野をトップに、みんなで新しい党を立ち上げるぐらいな大きな気持ちでやればいいと思う」

「羽田孜元総理大臣とわれわれが自民党を飛び出して、新党運動を何回かやってきたけど、その間に2回政権とってるわけだよな。細川政権と鳩山政権。こういう経験をする中で、どうしたら一般国民が期待をしてくれて、それが支持率につながるかっていうのを見てきた。やっぱりね、『1回政権とらしてみたい』と思わせないと」

北澤がそう語る背景には、れいわ新選組など、新たな勢力の台頭への危機感もある。

「れいわ新選組。やっぱり国民が何を求めてるかっていう部分で、ある意味、玄人の政治家には衝撃を与えたんじゃないかな。
あそこまでやるかと。普通、国会議員というのは国民の声を聞いて歩いて、国会でそれを発言して、それで政策立案に資するわけでしょう。そういう意味では、障害のある人を国会に送り込んで言葉や行動でなくて、体そのもので訴えちゃったわけだから。すごい発想だと思うんだよな。
今回の参院選でね、立憲民主党も国民民主党も、さすがに国民の目が厳しいということは感じたんだよ」

「れいわ新選組の彼らがそんなにこれからもブームを起こすかどうかわからんけども、しかし彼らの存在が薄くなるぐらいの、ドラスチックな動きをしないとだめだ」

北澤の鼻息はますます荒くなっていく。

「原理主義は必ず孤立、行き詰まる」

参議院選挙から1か月余りが経った8月下旬。立憲民主党と国民民主党は、相次いで参議院選挙の総括の案などをまとめた。
「単なる『選挙互助会』的なイメージとして受け止められ、政府・与党に対する明確な対抗イメージを作るには至らなかった」
「野党共闘の中で埋没し、党の独自色を発揮できず理念や政策を幅広く訴求できなかったことは大いに反省しなければならない」
野党連携へのマイナス面を指摘する言葉が並んだ。

北澤はこう言う。
「たぶんある意味の原理主義だな。自分たちが立ち上げた党の純粋性を維持して、そこへ最終的にみんなが集約してくればいいだろうっていう」

「政治の世界っていうのは、そういうふうにやってると必ず孤立する。私の長い政治経験の中でね、それこそ河野洋平さんの新自由クラブからずっと見てきてるけども、原理原則で人を寄せ付けないという姿勢は必ず孤立して行き詰まる」

「それはもう新党運動やってきた中でいろんなことを体験したから。だからもう、福山や枝野には相当言ったんだよ、直接ね。『わかりました、わかりました』って彼らはそれは大先輩だから言うわな。言うけどもなかなか頑なだったな」

北澤がそう語るには理由がある。
北澤は7月の参議院選挙、進まない野党連携にしびれをきらし、独自の政治団体を立ち上げて野党連携を実現、長野選挙区で野党を圧勝に導いた実績があったからだ。

野党が勝つための方法

参議院長野選挙区は、焦点となった32の1人区の1つだった。
野党側の候補者は、党の支持率が伸び悩んでいた国民民主党の羽田雄一郎。

対する自民党は、吉田博美参議院幹事長が引退、後継で元衆議院議員の小松裕が立候補した。

当時、国民民主党は支持率が1%程度。にもかかわらず、羽田は15.6ポイントの差をつけて圧勝した。32の1人区で野党系候補が勝利した10の選挙区のうち、最も自民党候補に大差をつけての勝利だった。

「長野は野党が強い地域だし当たり前だ」
「『羽田王国』の長野県で羽田雄一郎さんが勝つのは当然だ」

長野の実情を知らない人からはそんな声も聞かれるが、内情は全く違った。

「事実上、『千曲会』は崩壊しているに等しいんです」

「千曲会」とは、羽田孜元総理大臣の時代から続く羽田の後援会だ。関係者によると、「千曲会」はいま分裂状態だという。ことし4月の統一地方選挙の前から、羽田の地元の首長選挙への対応をめぐって対立が生じ、「千曲会」の幹部が次々と会を脱会。元幹部の一部は、参議院選挙では自民党を支援していたというのだ。

そうした厳しい状況で、なぜ羽田は圧勝できたのか。
その理由の1つが、北澤たちの周到な準備にあった。

周到なる準備

「みんながそれぞればらけちゃったら、『覆水盆に返らず』になる可能性あるから。何か共通のステージを作っておかないとだめだと」

参議院選挙までまだ1年3か月も前の去年の春。北澤たちはある組織を立ち上げた。「国家主権の政権を目指す信州連絡協議会」、通称「信州連絡協議会」。

2年前の衆議院選挙でばらばらになった野党を、長野県内だけでもまとめていこうという思いから作った組織だった。すでに去年4月に県内の民進党から分裂した各党などが統一地方選挙や参議院選挙に向けて連携していくことを早々に確認。その後、長野県知事選挙で共闘の実績を作り、去年10月に政治団体「新政信州」へと移行させた。


この「新政信州」の代表が北澤だ。
「参議院選挙を視野に入れて選挙戦を戦うには政治団体にしとかないと活動できないから。共通のステージ(信州連絡協議会)は作ったけど、それが憩いの場のままじゃどうにもなんないから政治団体化したんだ」

だが統一選では苦戦

ところが、ことし4月の統一地方選挙で、「新政信州」は思わぬ苦戦を強いられることになる。
推薦した長野県議会議員選挙の8人の候補のうち、当選したのは5人。

上の表でいうと、立憲民主党の1人と、無所属の26人の中の4人だ。
国民民主党公認で立候補した現職2人が落選するという厳しい結果となった。
しかもそのうちの1人は、国民民主党の県連幹事長。
もう1人は、「千曲会」の変化の影響もあったのか、羽田雄一郎の地元の候補だった。

「参議院選挙への影響は必至だ」
一気に危機感が高まった。

国民の候補に、立民の選対本部長が

連合関係者は当時の状況を次のように話す。
「『新政信州』にとって県議選で厳しい結果となったのは、地域の担い手、つまり地方議員がいなかったからだ。『新政信州が推薦している』と言っても、その『新政信州』が地域で浸透していなければ意味がない」

「これは旧民主・民進の時代から同じ課題が続いていて、立憲・国民にばらけてからはより難しくなっている。要は地域に密着できていないという課題が示されたんだ」

一刻も早く野党連携の姿を浸透させなければ。

野党連携の枠組みを作って統一地方選を戦ったことで、参議院選挙への課題が浮き彫りになった。
この時点で参議院選挙では、共産党も候補者を擁立する予定でいたが、候補を一本化するのに時間はかからなかった。野党連携の勢いは加速。国民民主党の羽田の選対本部長に、立憲民主党の杉尾秀哉参議院議員が就いた。

参院選 思惑が当たり、圧勝

そして迎えた参議院選挙。北澤は野党連携は次第に広がりを見せていったと語る。

「全国的に言うと、立憲民主党と国民民主党に分かれて、バラバラでわずかな支持率で共闘してみても、なかなか有権者の期待感を作ることはできない。そういうことを見越して『新政信州』を作り、ほかの野党も、市民の人たちも、市民運動家の人たちも一緒に行動する機運を作ってきた」

「そういう相乗効果で、無党派層の人たちの期待も引き付けたんじゃないかなと、そんな気がするね」

北澤の指摘通り、NHKの出口調査では、羽田は無党派層の60%余りの支持を獲得。一方の小松は無党派の支持はおよそ30%だった。野党の組織も固め、羽田は圧勝。

早くから準備を進めてきた北澤の思惑は見事にはまった。
北澤は衆議院選挙に向けてさらに態勢を強化する考えだ。

「今回の参議院選挙は、長野県全体の大枠でうまくいっただけじゃなくて、県内の5つの衆議院の選挙区で、市民と野党共闘が機能して、全部で得票をうちが上回った。だからこの態勢をしっかり伸ばしていくという意味で、衆議院選挙では、立憲民主党や国民民主党だけが候補者を出すのではなくて、他の党にも選挙区を譲る気持ちでいかないとだめだ。そういうことを全国的にやらないとだめだね」

政策の一致こそ重要 特に「原発」

今後の野党連携は進むのか。
国政では、立憲民主党や国民民主党などは会派の合流後も、政策の立案などはそれぞれで行うとしている。
立憲民主党の両院議員総会では、出席者から、「立憲民主党が掲げてきた原子力政策などが玉虫色にならないよう対応して欲しい」などといった意見が出され、執行部は「会派をともにしても党は異なるので、政策を変更することも、相手と協議をすることもない」と説明したという。

しかし、北澤は政策の一致こそ重要だと指摘する。
「いま立憲民主党と国民民主党の間で一番難しいのは原発」

「だけど原発できちんとした折り合いつけないといけない。第1段階として衆参で国会活動を一緒にやると、おのずと同じベクトルに行くようになるが、たぶん、原発のところでハレーションが起きると思う。ここでぶれて中途半端な答えにしたら、また失望感を醸成しちゃうんじゃないかな。これからの政治の課題である社会保障や安全保障でも、各党が別々に政策を作って国会で会派を組んでも意味ない。まずは会派の中で、共通政策にしていかないと」

「枝野は西郷さんになれ」

政策の一致があってこそ、真の野党連携だと主張する北澤。そしてその先に「政権奪取」という目的をしっかり見据えているかどうか、その覚悟こそが大事だと指摘する。

「今の国会議員の連中が本当にこの国のために二大政党制にして政権交代ができるような国作りをするという強い意志を持たなきゃだめだね。選挙に勝つためだけの連携じゃだめ。今のトップにいる幹部の連中が、国の将来を考えてまとめ上げていくという強い意志、やっぱり人間的に人の信頼を勝ちうるような努力をする必要があるよね。
人がついてこないような人じゃだめだよな。だから枝野はね、西郷さんになればいいのよ。西郷隆盛」

え?枝野さんが西郷さん??それは長州とも手を結んだときのような、国のためにっていうことですか?

「そう。西郷隆盛は最後は自分の子飼いの国侍に情で押し流されちゃったけどな。ただ、政治的エネルギーにあふれているように見えないと国民はくっついてこない。やっぱり数を増やしてその中から能力の高い議員がそれぞれの分野で頑張るってこと。
まず第一は立憲民主党と国民民主党が新しい党を作る。ここが主導して野党連携を図っていく。国民にとっては、最後の砦(とりで)は野党。政府じゃないんだよ」

「政府が切り捨てたものを野党が吸い上げて、それを法のもとに平等に近づけていかなきゃいけないわけだから。そうするとあの党が嫌だとか、あの人は嫌いだなんていうことは言っていられなくなるんだよ」
「そこをしっかり守っていけば政権に近づく。頑張ってほしいよな」

重鎮の「喝」は届くのか。
そして枝野は西郷隆盛になるのか。
野党連携の今後に注目したい。

(※文中敬称略)

長野局記者
高橋 圭太
2012年入局。高知局を経て長野局で行政キャップ。趣味は釣り(海とワカサギ)