首は何が言いたいの?
桑子さんと分析してみた

ここに散りばめられた言葉。
各党の党首が参議院選挙の応援演説で使った言葉です。

党首は党の顔。何を訴えるかは票に直結するので、練りに練って街頭演説に臨みます。
党首演説を見ると選挙全体が見えてくるかも…
今回は、政治マガジン初登場、ニュースウオッチ9の桑子真帆キャスターと一緒に分析してみます。
(安藤和馬)

演説に党首の「色」が!

参院選序盤の7月4日と6日。
各党首が2日間の演説で語った膨大な言葉を、私たちは一言一句逃さず収集しました。
その言葉、実に6万8000字。
それをカラフルに色分けしたのが、この「ワードクラウド」。文字が大きいほど、多く使われた言葉です。

これは安倍さんが先月のG20など外交実績を紹介するくだりで登場します。トランプ大統領と個人的な親密さを強調して、強固な日米同盟をアピールしています。何回もゴルフに行ったエピソードを持ち出し、「ゴルフばかりしていると批判されるが、世界で一番忙しい大統領の時間を独占している」と語っています。

安倍さんは、演説の中で民主党政権時代との比較をよくします。年金の運用益や有効求人倍率などの数字を比べて、今のほうが良くなっているという主張をしています。
「あの民主党政権時代に逆戻りさせるわけにはいかない」というのが決めぜりふ。さらに、「民主党の枝野さん、あ、すいません。立憲民主党でした。毎回毎回党名が変わるから覚えるのが大変だ」と皮肉交じりの言い方をすることもあり、枝野さんは「一種の選挙妨害だ」とあきれ顔です。

枝野さんは「一人一人が豊かさを実感できる社会をつくる」というフレーズを多用します。多様性を重視し、聴衆一人一人に語りかける演説が特徴です。
また、「暮らし」という言葉も多く使われています。老後や子育て、教育など、個人の暮らしへの投資を強化するという党の経済政策の表れです。アベノミクスからの転換を訴えていることがわかります。

国民民主党の玉木さんは、「年金」、「安心」、「運用」と年金問題を中心的に取り上げています。

公明党の山口さんは「声」。「小さな声を、聴く力」というのが党のスローガンになっているんです。大衆の声を政治にくみ上げるという党の姿勢を示しているんです。

共産党の志位さんは、「安倍」。「安倍政治」、「安倍改憲」ということばを使って、安倍政権を批判したり、政治の転換を訴えたりしています。

日本維新の会の松井さんも「年金」とともに「大阪」が目立ちます。大阪で進めた改革を強調しています。

社民党の吉川さんも「年金」。年金問題を真っ正面から取り上げています。

データから見えてきた「争点」

そうなんです。
各党首が、どんなテーマに時間をかけて話しているのか分析したところ、もっとも時間を割いていたのが「年金・社会保障」。次いで「消費税・経済政策」。この2つのテーマで3割から4割を占めていました。

さらに、「年金」という言葉とともに語ったワードを分析したのがこちら。

与党は「年金」とともに「財源」や「運用」。

野党は「年金」にあわせ「安心」や「財源」などとなっています。

安倍さんは「野党は財源に裏打ちされた提案はせずに、不安ばかりをあおっている」と野党批判の文脈で使っています。「負担を増やさずに給付を増やす、そんな打ち出の小槌はない」とも。

野党側も、「財源」に触れているんですね。小さいですが「所得再分配」という言葉にもあるように、高所得者や企業に対する課税の強化や、いっそうの行財政改革などで財源を捻出するとしています。
少子高齢化が進み、まったなしの課題。今、年金を受け取っている世代だけでなく、将来受け取る若い世代の不安も払拭できるような議論を期待したいです。

もう一つの争点「憲法」

そうですね。全体でみると、3番目に多いテーマです。しかし、各党ごとに分析するとおもしろい結果になりました。
自民党は「14.7%」 共産党は「14.8%」 社民党は「18.4%」と、多くの時間を割いています。


これに対し、立憲民主党、国民民主党、公明党、日本維新の会の4党はなんと「0%」でした。

安倍さんは、今回の選挙では「憲法改正を議論する政党を選ぶのか。責任を果たさず、議論をまったくしない政党を選ぶのかの選挙だ」と、二者択一のテーマ設定をしています。

実は安倍さんが、国政選挙で「憲法」をここまで積極的に取り上げるのは今回が初めてです。過去の選挙では、公約には掲げたけれど、演説はアベノミクスなど経済政策が中心でした。国会での憲法論議が進んでいないことから、野党の消極的な姿勢を批判し、違いを際立たせたい考えです。

この2つの党は、憲法改正に反対の立場です。憲法を守り、いかす政治の実現を訴えています。

憲法スルー?

立憲民主党の枝野さんと国民民主党の玉木さんは、「国民の関心が高いのは暮らしや経済であり、憲法への関心は高くない」としています。議論から逃げているわけではなく、憲法は、優先順位が低いので、わざわざ街頭演説では取り上げないという考えなんです。


また、憲法改正を公約に掲げている日本維新の会の松井さんも、街頭演説では、年金など、暮らしの問題や、行財政改革などが訴えの中心です。

公明党は、憲法改正の議論そのものは否定していないけど、自民党が目指す自衛隊明記には慎重な立場です。国民の関心も高まっておらず、十分に議論が深まっていない現状では、積極的に取り上げる必要はないという考えなんです。

いずれの党首も、党首討論会などで質問されれば、明確に主張を述べています。
聴衆に何が一番響くのかを考えて、テーマを選んでいるんだと思います。

そうですね。党によって、かなり温度差があることがわかります。安倍さんは憲法改正の議論を提起していますが、必ずしも、かみ合った議論になっているとは言えないと思います。

演説にも耳を傾けてみよう!

各党の主張や政策を、党首演説から読み解いてきましたが、どうでしたか?

今回分析したのは、選挙戦序盤の2日間の演説です。選挙期間の中で、演説の重点や内容が変わっていくこともあるので、何がどう変わったのか、見ていく必要があります。

政治家は言葉が商売道具。選挙中は、威勢の良い言葉や聞こえの良い言葉が聞こえてきますが、本当に信用できる党首・政党はどこか。実際に演説に耳を傾けてみると見えてくるかもしれません。

政治部記者
安藤 和馬
2004年入局。山口局、仙台局、政治部。選挙担当として参院選の取材・分析をしています。