振りいてほしい、どうしても

これは一方的な“片思い”なのか。

振り向いてほしくて、自分の至らないところは改めてきた。
思いが真剣であることを伝えようと、すべてをさらけ出すこともした。
できることは、全部やってきた。

なのに、君は振り向いてくれない。
これ以上、いったいどうしたらいいんだ。
(ネットワーク報道部 鮎合真介)

そこは北海道

これは、恋に悩む青春真っ盛りの青年の話、ではない。
物語は北海道のある町の議会から始まる。

「これから議運(=議会運営委員会)がありますけど見ますか?撮影してもいいですよ。うちは全部オープンですから」

ことし2月、北海道東部・十勝地方にある芽室町。到着したばかりの私に、議会事務局長が爽やかに声をかけてくれた。初めて会う記者にも余裕のある対応だ。

案内されるがままに委員会室に行くと、部屋のドアは開け放たれていた。出入り口にはインターネット中継用のカメラが見える。

委員会メンバーの議員7人の手元にはタブレット端末。慣れた手つきで資料に目を通していた。

そう、芽室町議会は原則として「ペーパーレス」なのだ。
永田町にある国会と比べても、はるかに進んでいる。

何気ない委員会の光景。だが、その中に私は彼らの自負をかいま見た思いがした。
“議会改革”の先進地である、という自負を。

議会改革のデパート

北海道芽室町は人口1万8000人余りの小さな町だ。

とうもろこしや小麦、じゃがいもなどの生産が盛んなほか、ゲートボール発祥の地としても知られ、大相撲・芝田山親方(=元横綱大乃国)の故郷でもある。

そんな町の議会が、全国から注目されている。

早稲田大学マニフェスト研究所が毎年、全国の地方議会の改革の取り組み状況を調査し、数値化したうえでランキング形式で公表している「議会改革度調査」。

その調査で、芽室町議会は4年連続(平成26年度~平成29年度)で全国1位に輝いたのだ。驚かされるのが、改革のオンパレードぶりだ。

これらは、ほんの一部。とにかく、やれることは何でもやっているとして、「議会改革のデパート」と呼ぶ専門家までいるほどだ。

なり手不足や質の低下など、さまざまな課題を抱える地方議会だが、少しでも改善しようと、改革に乗り出す議会も少なくない。

各地で模索が続く中、芽室町議会には全国から視察が相次ぎ、さながら「時の人」ならぬ「時の議会」となっていた。

あれ、下がってる?

ただ、何ごとも“順風満帆”とはいかないのが世の常か。
ふと目に留まったのは、選挙の投票率だった。

よく見ると、回を追うごとに町議会議員選挙の投票率が下がっている。かつては80%を超えていたが、平成23年には60%台にまで落ち込み、今も下がり続けている。

投票率は、住民の関心の高さを推し量る重要なバロメーター。全国ナンバーワンになるほどの改革をしていれば数字は上がりそうなものだ。いったい、どういうことなのか。

埋まらない”ギャップ”

「ミスマッチしているのは明らか。投票率としっかり連動しないと、自分たちのやっていることが住民に理解されていないということになる」

議会改革で長年、中心的な役割を果たしてきた前議長の広瀬重雄さんは、そう吐露する。

「自分たちのまちの議会は何をしなければいけないか」
「町長が示す議案をただ、議決するだけで役割を果たしていると言えるのか」
そんな思いからこの20年、「議会改革」に取り組んだ。

議会と住民の意識のギャップを埋めようという試みも繰り返し、住民の意見をより反映させようと、議会と住民が定期的に意見を交わす場も作った。

ところが当初、返ってきたのは、「議会が何をしているのか分からない」という予期せぬものだった。

「議員の仕事が分からないから『いてもいなくてもいいよ』という意識の人が多数いた。地方自治のあり方や行政に対する関心=議会に対する関心が、そもそも昔の先輩の時代に比べると、どんどん希薄になってきている」

住民の理解を得る努力を続けているが、ギャップはなかなか埋まらないという。

「改革では『住民参加』をメインに据えて、あらゆる情報をフルオープンにした。でも、『住民参加』は最も難しいままだ。『参加してください』と呼びかけて、『はい、参加します』と、そんな簡単な話ではない。例えば『住民向けの研修会をやります』となったときに、全戸のチラシ配布やネットでの情報発信などいろいろな方法で周知しても、なかなか足を運んでもらえない」

確かにそのとおりのことが起きていた。

参加したのは…。

広瀬さんへのインタビューと同じ日に、町議会主催のフォーラムが町内で開かれていた。

若い世代に町づくりについて考えるきっかけにしてほしいと、4年前に始まったこのフォーラム。

今回は高校生を主な対象として、外部から講師を招いたうえで、グループに分かれて意見を交わすことになっていた。会場を見渡すと用意した席はほぼ埋まり、若い人の顔もちらほらと見受けられる。

だが…。

参加した高校生は、わずか1人だった。議会事務局によると、この日の参加者は、これまでもよく来てくれている人や町職員、隣接する自治体の議員などが多かったという。

会場にいた、ある女性に話を聞いてみた。

「議会は頑張っているかもしれないが、町民に伝わっていないのでは。私の周りは子育て世代なので行政や議会への関心はある方だが、同世代は忙しいし、フォーラムへの参加は時間的に難しい。来ないなら、議会側から学校現場などに踏み込んで行くぐらいがちょうどいいと思う」

町議会としても、それはすでに自覚していた。

「議会として学校に入っていって、議会や行政の重要性、住民参加はこれだけ重要だと、学校の先生からではなくて我々から伝えて理解してもらう」(前議長・広瀬重雄さん)

いざ出前授業へ

将来の有権者となる多くの若い世代を巻き込むにはどうしたらいいのか。

導き出したのが、高校の授業に「先生」として飛び込むことだった。町議会は、町内にある2つの高校のうち1校と初めて協定を結んだ。フォーラムから数日後、議員たちは1年生の4クラス・社会科(公民)の授業に参加することになった。

テーマは『学校の隣に巨大なごみ処理場が建設されることになったらどうするか』

生徒たちは6、7人のグループに分かれ、賛成・反対の立場で意見を出し合う。そこに議員が加わり、各グループにアドバイスなどを行った。

「大人になったときに急に、議会や行政の仕組みなどを教えられるのではなく、当たり前のように学生のころから理解されるようになると、社会に出たときに投票行動や参加に結びつく。僕はそれがキーワードだと思っている」(広瀬さん)

町議会は今後、もう1つの高校にも連携を呼びかけていくという。

改革の「第2ステージ」

今回の統一地方選挙では芽室町議会議員選挙も行われた。
気になる投票率は・・・。

61.08%。
過去最低を再び更新し、町議会に厳しい現実を突きつけた。

できることはすべてやっているのに、振り向いてくれないもどかしさ。
これ以上どうすれば住民の意識を変えられるのか、取材した私も皆目、分からないままだ。

それでも広瀬さんは、前に進むしかないと言う。

「改革をするのは簡単。今までダメだったところを変えるだけ。問題はそれをどうやって恒常化し、最終的に住民の福祉向上に役立てるか。だから、改革はやり続けないといけない。改革は変えるのが目的ではなく、成果を出すことが目的。そうして初めて、住民も『議会も頑張っているね』となると思う。『これだけ改革をやったから満足』という議会があるわけがない」

芽室町議会の「第2ステージ」は始まったばかりだ。

ネットワーク報道部記者
鮎合 真介
平成20年入局。佐賀局、沖縄局、横浜局、国際部を経て現所属。趣味はランニング、琉球古典音楽(三線)。