死刑執行は
どう決められる?

今月19日、2人の死刑囚に対し、死刑が執行されました。ことしは、7月に続いて2度目の執行となり、2人のうち1人は、犯行当時19歳の少年で、犯行当時少年の死刑囚に死刑が執行されたのは、永山則夫元死刑囚以来でした。
死刑の執行をめぐっては、制度そのものへの賛否も含め、毎回ネット上でも活発な議論が交わされますが、今回は「刑が確定してから執行までの期間が長すぎるのではないか」といった意見も多く見られました。というのも、今回執行された2人は、死刑判決が確定してから、それぞれ、16年、18年が経過していたためです。法務省は、死刑執行の手続きなどについて、「死刑囚の心情の安定」を理由に、詳しい情報公開は行っていませんが、今回は、公表されているデータなどをもとに、法務省、専門家への取材も含め、死刑執行の在り方を改めて考えてみました。
(政治部記者 黒川明紘)

ことし2回目の死刑執行

今月19日に死刑が執行されたのは、関光彦死刑囚(44)と、松井喜代司死刑囚(69)の2人です。

関死刑囚は、平成4年3月、千葉県市川市で、会社役員の一家4人を殺害したとして強盗殺人などの罪に問われ、平成13年に死刑が確定していました。

犯行当時19歳の少年で、犯行当時少年の死刑囚に死刑が執行されたのは、永山則夫元死刑囚以来となります。(注・NHKは、この事件が、凶悪で重大な犯罪で社会の関心が高いことや、死刑が執行され、社会復帰して更生する可能性がなくなったことから、実名で報道しました)

一方、松井死刑囚は、平成6年2月、群馬県安中市で、交際していた女性とその両親の合わせて3人を殺害したとして殺人などの罪に問われ、平成11年に死刑が確定していました。死刑の執行はことし7月以来で、平成24年に第2次安倍政権が発足してからは、12回目、合わせて21人となりました。

死刑は6か月以内に執行?

(東京拘置所)

死刑の執行をめぐっては、制度そのものへの賛否も含め、毎回ネット上でも活発な議論が交わされますが、今回は「刑が確定してから執行までの期間が長すぎるのではないか」といった意見も多く見られました。

実は、刑事訴訟法では、死刑の執行は、判決の確定後、原則として6か月以内に行うよう定められています。
しかし、実際にはどうでしょうか。今回執行された2人は、死刑判決が確定してから、それぞれ、16年、18年が経過していて、法律に明記されている「6か月」と比べると、かなり長い期間です。

確定から執行 平均5年

過去のほかのケースでは、どうなのでしょうか。法務省はかつて死刑の執行そのものを公表していませんでしたが、平成10年11月から、執行した事実と人数の公表を始め、平成19年12月からは、当時の鳩山邦夫法務大臣の意向で、死刑囚の名前、犯罪事実、執行場所を公表するようになりました。

その平成19年からのデータをもとに調べてみると、判決の確定から死刑執行までの期間が最も短かったのは、1年4か月。逆に最も長かったのは、18年5か月でした。

そして、去年までの10年間での平均は、およそ5年という結果でした。
わたしは、法務省に、法律で「判決の確定後、原則6か月以内に執行」とされていることをどう考えているか尋ねてみましたが、「訓示規定であると理解している」という回答でした。
つまり、法律に規定されているものの、必ず守らなければいけないというものではない、という理解でしょうか。

「平均でおよそ5年」という執行までの期間をどう感じるかは人それぞれだと思いますが、結果的に、法律の規定通り6か月以内には執行されていないのが現状です。

死刑執行の順番や時期は?

では、死刑の執行は、具体的にどのように決められるのでしょうか。死刑執行までの省内の手続きがどうなっているか、改めて法務省に聞いたところ、「法務大臣において、関係記録の内容を十分に精査させたうえで、刑の執行停止、再審または非常上告の事由の有無、恩赦を相当とする情状の有無等について慎重に検討し、これらの事由等がないと認めた場合に死刑執行の命令が発せられる」という回答が寄せられました。

つまり、「法務大臣が十分に慎重に検討したうえで、執行の判断をしている」ということで、それ以上の詳細の説明はありませんでした。さらに、死刑執行の順番や時期をどう決めるのか判断の基準をただしましたが、「個別の執行の判断に関わる事項であるため、答えは差し控える」ということでした。

ちなみに、この回答は、法務大臣の会見でも何度も出てきたフレーズで、死刑の詳細について聞くと、決まってこの回答が返ってきます。

法務省は、「死刑囚の心情の安定」を理由に、死刑の手続きについて詳しい情報公開は行っておらず、死刑が執行されるまでの期間や、順番、時期など、わたしの疑問に対し明快な回答はありませんでした。

再審請求めぐり方針に変化も?

一方で、死刑執行をめぐっては変化もみられます。それは、ことし行われた直近2回の死刑執行では、いずれも、再審=裁判のやり直しを請求中の死刑囚も対象となったことです。

これまで、法務省は、再審請求中の死刑囚の執行は避ける傾向があり、ことし7月の執行では、確認できるかぎり、平成11年以来、18年ぶりに再審請求中の死刑囚が対象となりました。

このため、法務省が従来の方針を変え、再審請求の有無にかかわらず執行する姿勢を明確にしてきたという指摘も出ています。再審請求と死刑執行をめぐっては、「死刑執行を引き延ばすだけの、実質的な意味のない再審請求の繰り返しを避けるためにも、再審請求中でも執行すべきだ」という意見がある一方、「死刑が執行された後に再審が認められる可能性も否定できない以上、再審請求中の死刑執行は避けるべきだ」という指摘もあります。

上川法務大臣は記者会見で、「再審請求を行っているから死刑執行はしないという考え方はとっていない」と述べましたが、今後も再審請求中の死刑囚の執行が行われるのかどうか注目していきたいと思います。

識者は

「死刑執行と情報公開」はどうあるべきなのか、死刑制度に詳しい弁護士の小川原優之さんに聞きました。

小川原さんは、死刑制度そのものに反対の立場の方ですが、情報公開の在り方について、裁判員裁判が導入された今の制度の中では、裁判員のことを第一に考え、情報公開をもっと行っていく必要があると指摘しています。

小川原さんは、「裁判員が言い渡した『死刑』が、どういう形で執行されるのか、どういう基準で執行されるのか、もっと明らかにすべきだ。そうした情報を明らかにせず、市民に『言い渡しの責任だけ負わせる』というのは、よくないと思う」と話していました。

最後に

法務省によりますと、今回の死刑執行を受けて、死刑が確定している死刑囚は123人となり、このうち再審請求をしているのは94人だということです。
また、123人のうち、犯行時に少年だった死刑囚の人数については、公表を控えるとしています。

命をもって罪を償うという、今の法律で最も重い刑罰である死刑。とかく、制度に賛成か、反対かの議論になりがちですが、今の制度では、ほとんどの国民に、裁判員として死刑判決を判断する可能性があることも事実で、死刑制度についてより積極的に議論していく必要があるのではないかと、今回の取材を通じて感じました。

政治部記者
黒川 明紘
平成21年入局。津局、沖縄局を経て政治部へ。総理番、野党担当を務め、現在は法務省担当。