投票に行くのやめました』
18歳選挙権に何が

高校生も投票できる! 18歳選挙権が導入された2016年。「若い人が政治に関心を持ちやすくなる」「高齢者に重点を置きがちな政治のありようが変わる」 多くの期待が寄せられました。ところが…。去年10月の衆院選。18歳・19歳の投票率の結果に教育関係者は肩を落としました。取材から見えてきたのは、一過性の取り組みでは縮められない「若者と政治の距離感」でした。
(報道局選挙プロジェクト記者 仲秀和)

参院選はうまくいった

2016年に18歳選挙権が導入され、この年の7月に行われた第24回参院選は、10代の若者が国政選挙で初めて投票するとあって、大きな注目を集めました。

「若者の政治離れ」などと言われて久しいですが、どれほどの18歳・19歳が選挙に関心を持ち、投票に行くのか。

専門家や教育関係者から不安の声も聞かれる中、結果は、18歳が51.28%、19歳が42.30%でした。いずれも全体の投票率の54.70%には及ばなかったものの、20代が30%台だったことを考えると、おおむね好意的に受け止められました。

33%の衝撃

参院選から1年余り。2017年10月の第48回衆院選では、18歳・19歳合わせて237万人に選挙権がありました。

先月、世代別の投票率がまとまり、参院選と比べて全体があまり変わらない中、18歳で47.87%(-3.41)、19歳で33.25%(-9.05)と下落しました。

さらに、この下落幅以上に、多くの関係者が注目したポイントがあります。19歳の投票率です。

この19歳の中には、参院選の時に18歳だった人の多くが含まれています。単純に比較してみると、この年代の投票率は、参院選の51%から、わずか1年余りで33%と大きく低下しているのです。

つまり「参院選では投票したけど、衆院選では投票しなかった」という人が、かなりの割合でいたということです。

そもそも、19歳については、大学進学などで1人暮らしを始めている人の割合が増えますが、住民票を実家に残したままにしているケースも多く、投票率は低くなる傾向があるとされています。しかし、「それにしても…。参院選の時の教育効果は全く継続しなかったのか…」

教育現場ではため息がもれました。

低調だった衆院選の背景には何があったのでしょうか。

“ブーム”に

18歳選挙権の導入を受けて、若者を対象とした主権者教育が脚光を浴びました。参院選前には、高校などで選挙講座や模擬投票が積極的に行われ、73万人余りの高校生が受講しています。

主権者教育に熱心に取り組む、東京都立高島高校の大畑方人教諭は、当時をこう振り返ります。

「文部科学省や教育委員会などの指導もあって、各校の先生たちの間に『とにかく主権者教育をやろう』という雰囲気がありました。その結果、選挙に関心を持つ生徒も増えて、手応えを感じていました。主権者教育、そして18歳選挙権がいわゆるブームになっていたのです」

下落の原因 “時間が足りない”

では、衆院選ではどうだったのでしょうか。

「実施できた高校は少なかったのが実情だと思います。参院選は日程がほぼ決まっているため、授業の計画を事前に立てて準備を進めることができました。一方、衆院選は、そもそもいつ選挙になるかわからない上、今回は突然の解散で、計画を変更して授業を組み込むことは難しかったと思います」

さらに、ほかの科目とは違う、主権者教育特有の事情もあるといいます。

「話題になっている政策や時事ネタを扱うことが多いため、過去の教材を使い回すことが難しいのです。意見が分かれるテーマについては、政治的中立性に配慮する必要もあり、負担はかなりのものになります。教員の意識が高くないとなかなかやれないですね」

下落の原因 “ブームの終わり”

18歳の投票率を都道府県ごとに比較すると、新たな事実も見えてきました。衆院選で大きく下がった地域は、都市部に集中しているのです。

こうした点から、参院選の時のブームが終わったことを指摘する声もあります。

都立高校で教えている大畑教諭は。
「東京の高校生は、新しいものに反応してパッと飛びつきますが、見切りをつけるのも早いです。参院選はメディアでとりあげられる機会も多く、東京(の18歳)は全国で最も高い投票率でした。しかし、そのぶん衆院選での落ち方も激しくなりました。ほかの都市部も同じような傾向になっていることから見ても、ブームが終わったと言えるのではないでしょうか」

18歳・19歳は

では、当事者である18歳・19歳の若者はどう感じているのでしょうか。都内の大学で声をかけてみると…。

“51%が33%に…”という衝撃に、ぴったりあてはまる人がいました。「参院選では投票したけど、衆院選では投票しなかった」と話す19歳の女子大学生です。

参院選の時は?

「当時は高校3年生で、母と一緒に初めて投票に行きました。高校では全クラスにポスターが貼られて、授業でも『選挙に行こう』という話をよく耳にしました。友達と話していても『投票に行く? 行った?』など、話題にのぼることが多かったです」

衆院選では?

「投票に行くのやめました。大学生になると『選挙に行こう』と言われることもなかったし、政党や候補者のことを詳しく知らないので、わからないまま投票するのもどうかなって。投票所の雰囲気や手続きは一度経験して知っていたし、参院選ほど注目されていなかったことも理由の一つです」

今後は?

「政治が大事なことだとは思いますが、今は『投票に行こう』という気持ちにはならないと感じています。何かのきっかけで再びブームになるとか、大学の授業などで積極的に教えてもらえれば、興味を持つかもしれません」

同じように衆院選で投票しなかった大学生からは、こんな意見も。

「社会経験の少ない若者には政党や候補者の訴えがわかりにくい」
「勝敗がある程度見えていると投票する意義を感じられない」

一方、投票した大学生にも話を聞いてみました。

「ふだんから駅前でよく見かけるなど、頑張っている候補者がいて応援したかった」 「初めて投票したときさまざまな政策を見比べたことで、地域や日本の課題が身近になった」

その中で、気づいたことがあります。

「家族みんなが投票に行くから、自分も行くことが普通」
「親がよく政治のニュースを見ていて、それについて一緒に話すので関心がある」

参院選で初めて投票したあとも、引き続き投票している人の多くが、その理由として、親や家族の影響を挙げているのです。

大切なことは…

51%から33%という衝撃。

18歳選挙権が導入されて、わずか1年余りの間に突きつけられた課題に、どう対処していけばいいのでしょうか。

長年、主権者教育に携わっている明治大学の藤井剛特任教授に聞きました。

「これまでの主権者教育は、多くが模擬投票など、とにかく選挙に行ってみようという内容になっています。これは、参院選の時のように、投票率を上げるという点では一定の効果がありますが、一時的なもので長続きしないと感じます。今後は、自ら判断する力や行動する力を身につけるための教育に、進歩させていく必要があります」

こうした取り組みは、すでに各地で行われています。例えば、大畑教諭は、政治・経済の授業に、ディベートや体験活動などを取り入れることで、生徒が自らの頭で考えて議論する機会を増やしています。「はじめは自分の意見をなかなか言えなかった生徒でも、1年後には見違えるほど成長しています」とうれしそうに話していました。

一方で、18歳選挙権を発展、浸透させていくためには、学校教育だけで十分とは言えません。投票に行った大学生の多くが挙げていたように、家庭での過ごし方も大きな影響を与えていると思います。

「政治や選挙に関心が持てない」

若者に限った話ではないし、特効薬もありません。日常に根ざした息の長い取り組みが大事だとつくづく感じました。

報道局選挙プロジェクト記者
仲 秀和
平成21年入局。前橋局、首都圏センターを経て、選挙プロジェクトに。太平洋を見て育つ。