去年は最低の1年だった

あすの夜はクリスマスイブか。
華やいだ街を尻目に、今夜も俺は仕事。ま、記者稼業の宿命かな。
そんな夜、スマホが鳴った。
届いたメールには「最低」の2文字。
またなのか…ため息が出た。

政治記者になって10年。年々、ひどくなるばかりだ。どんな手を打っても、うまくいかない。
このままで本当に、俺たちやっていけるのかな…。寒空を見上げた。
(政治部 安藤和馬)

ほんっとに、最低よ!

何が最低かって?

ああ、選挙のことだよ、選挙。12月23日に行われた宮崎県知事選挙は、去年最後に行われた知事選挙だった。メールが知らせてくれた確定投票率は33.90%で、過去「最低」を記録した。投票したのは、3人に1人ということだ。

この1年、政治部の選挙担当として各地の知事選挙の原稿を書いてきた。原稿の最後に、「投票率は過去最低を更新しました」と何回書いたことだろう。もう、「まいどのフレーズ」になってしまった。

よし、ちゃんと数え直してみよう…去年行われた知事選挙は14、そのうち8つで投票率が過去最低だった。そして、県庁所在地の市長選挙は10、そのうち4つがやはり最低となった。

なぜなんだ

去年は盛り上がった選挙もあった。
スキャンダルによる知事の突然の辞任によって行われた6月の新潟県知事選挙。投票率は58.25%だった。

さらに、米軍基地移設などをめぐって民意を問う選挙ともなった9月の沖縄県知事選挙。投票率は63.24%だ。

しかし、50%を超えた知事選挙はこの2つだけなのだ。
下の図を見て欲しい。先ほど、過去最低が8つと書いたが、過去2番目に低いものも3つあった。大半が30%台なのだ。

投票率最下位は、8月の香川県知事選挙。30%をも下回っている。

過去の知事選挙ワースト10を見ると、埼玉県や千葉県などは投票率が低い傾向があるが、その中に飛び込んでワースト9位だ。

県庁所在地の市長選挙を見てみよう。こちらはなんと50%を超えたものが、ひとつもない。

「あいのり」のせいなのか…

低投票率になった選挙には共通点がある。

端的に言えば、▽これといった争点がなくて盛り上がらない、▽やる前から勝負が見えている、という選挙だ。
過去最低となった8つの知事選挙のうち、ほとんどが与野党相乗りして支援する現職と、共産党が支援する新人の争いという構図だった。
しかも愛媛県知事選挙を除く7つが、1対1のいわゆる「一騎打ち」。すべて大差で勝負が付いている。これでは「投票に行っても仕方ないじゃん」という有権者の本音が今にも聞こえてきそうだ。

有権者の投票行動に詳しい慶応義塾大学の小林良彰教授は、この「相乗り」こそが低投票率を招く原因で、政治の側にも責任があると指摘する。

「与野党相乗りで特定の候補を推すと、選挙をやる前から結果が分かってしまう。結果が分かっていれば、行くだけ時間が無駄になると考えてしまう」
「国レベルでは与野党が対立しているように見えるが、地方レベルでは、みんなで相乗りして仲良く与党でいたいという意識をもっている政治家が非常に多い。それは本来の政党政治家の役割を果たしているとは言えない」

一方で、争点と構図さえ明確になれば、投票率は上がるケースもある。
投票率が50%を超えた新潟県知事選挙と沖縄県知事選挙は、与野党対決型の激しい争いだった。
「新潟は原発、沖縄は基地移転の問題がある。そういう争点があると、与野党が対立する構図になりやすく、どちらが勝つか見えにくくなる。そうなると自分が投票に行くことで選挙結果が決まるのではないかという意識が有権者に芽生えてくる」

「一番大事なことは有権者に選択肢を与えることだ。どの自治体であれ、問題がないところはない。政党政治家が政策に基づいて主張し、それを実現する候補を立てることが大前提だと思う」

そして、小林教授は次のように警鐘を鳴らした。
「民主主義というのは基本的に自分たちで自分たちのことを決めるものだ。ただ、3割の人しか投票に行かなければ、残り7割の人は3割の人に任せることになる。一部の人の意向で大事な政治や行政が決まってくる。民主主義の大原則が危機的な状況を迎えている」

「筋肉」でアピールしてもダメ

投票率アップにつなげるにはどうしたらいいか。
各地の選挙管理委員会は、あの手この手で取り組みを進めてきた。

最近トレンドとなっているのがPR動画による呼びかけだ。
11月の福岡市長選挙では、市の選挙管理委員会がつくった奇抜な動画が話題となった。
「投票に行く前に、投票で使う筋肉を鍛えよう」

「みんなの筋肉体操」を世に出したNHKの人間としては、いろいろと微妙な気分になるが、ともかくもSNSで拡散し、再生回数は30万回を超えた。

しかし…投票率は31.42%で、過去最低となった。

「知事選たいそう始まるよー!」
8月の香川県知事選挙でも動画が登場。

地元出身の子役モデルが、ゆるキャラとともに「知事選たいそう」を踊りながら、投票を呼びかけた。
しかし、猛暑の影響もあってか投票率は29.34%で過去最低。先にも書いたように、去年の知事選挙の中でワースト1位だった。

このほか「選挙割」と呼ばれるサービスも広がっている。

投票を済ませた証明書や、投票所の前で撮った写真を地元の店舗で提示すると、割り引きを受けることができるサービスだ。投票所に足を運ぶ動機付けにしようという苦肉の策だ。

さまざまな工夫を凝らしているが、紹介した福岡市も香川県も結局、投票率は過去最低となった。投票率アップには必ずしも結びついていないようだ。

選管によって資金力に差があるのも現実で、投票率を引き上げる特効薬はなかなか見いだせない。

これで「最後」よ…

亥年は、12年に1度、春の統一地方選挙と夏の参議院選挙が重なることから『選挙イヤー』とも呼ばれる。
統一地方選挙では、知事選挙や市町村長選挙、道府県議会や市区町村議会の議員選挙、合わせて1000近くの選挙が行われる見通しだ。

「平成最後の○○」というフレーズが流行した平成30年。地方選挙の投票率では”最低”続きの1年となった。ことしは5月1日に新天皇が即位されるので、直前の4月に行われる統一地方選挙は、本当の意味で「平成最後の選挙」となる。

小林教授はこう強調した。
「12年に一度の統一地方選挙と参議院選挙がある年で、重要な問題が争点になる可能性がある。本当に自分の将来を他人に任せていていいのか、それによって自分が大きな損をすることにならないか、もう一度よく考えて、ぜひ投票に行って欲しい」

平成の最後に、私たちがどんな思いを1票に込めるのか、または棄権するのか。

その判断が問われる。

政治部記者
安藤 和馬
平成16年入局。山口局、仙台局でも勤務。国政選挙や各地の知事選挙などの取材・分析を担当。山梨県出身。富士山には2回登頂。